39 / 61
第四章
第10話 決定事項
しおりを挟む笑みを浮かべたまま話した国王は、ギルの右の翼は自室に飾っていると続けた。忠誠心を確かめるために右の翼を切り落とすなんて、正直おかしいと思った。そんなことで、忠誠心を本当に確かめることができるのか。
鳥人族は翼が生えているけれど、鳥のように空を飛ぶことはできない。翼が邪魔だと言っている者も街にはいるくらいなのだ。もしかすると、ギルにもそういう考えがあったのかもしれない。
けれど、ギルは忠誠心を見せたのだろうということがわかる。翼を切り落とすことで忠誠心を確かめられるのなら、大人しく切り落とされただろう。
「ギルにとって私の言葉は絶対だから、私の言葉に反対することはないんだよ」
それはどういうことなのか。もしかすると、という思いはあるのだけれど国王騎士という職業だ。国王に忠誠を誓い、国王の言うことに従う。そういうことなのかもしれない。
国王の言うことには、否定することはない。ただ従うだけなのかもしれない。それに、ギルは忠誠を誓い翼を切り落とされた。他の国王騎士よりも忠誠心が強いのかもしれない。
「でも、従えないと思うことだってあるでしょう?」
「ない」
力強く言った言葉に私だけではなく、スワンさんも驚いたようだ。彼女はギルの右の翼が何故ないのかを知らなかったようで、国王の話しを聞いてから驚きで何も言えずにいた。
驚きながらも何かを考えているように見えたスワンさんは、力強く否定した国王の言葉にゆっくりと息を吐いて目を閉じた。また何かを考えているようだけれど、私にはわからない。
「どうして、そう言えるんですか?」
「ギルは、私の言葉に従わなかったことが一度もない」
記憶違いではないのか。絶対に従う者がいるのか。もしもいるのなら、何か弱みでも握られているのではないのか。
この国王のことだから、弱みを握っていてもおかしくないように思える。
「それと、私は君の本当の両親を知っているよ」
どうしてそのことを知っているのか。国王だから知っている可能性もあるけれど、私の両親を知っているのなら、私のことをずっと前から知っていたのではないだろうか。
「君は責任をとらなくてはいけない」
「責任?」
「そう。君の父親が私の両親を殺した責任」
馭者をしていたようだから、もしかすると私のことを知っていいたのかもしれない。それなら当時血縁者だと知っていて見逃したのだろうか。
でもどうして見逃したのか。子供だからなのか。それに、私のことを知っているのなら母様も血縁者だと知っていたのではないのか。そのことを問いかけたとしても、答えてはくれないだろうことはわかる。
「さて、ギルが私の言葉に従うというのは……今からわかるよ」
「え?」
どういう意味なのか。問い返そうと思ったとき、私の後ろにある扉がノックされた。
何も言うことなく国王はスワンさんを見た。それは、スワンさんに扉を開けろという無言の指示だったのだろう。スワンさんはゆっくりと頷くと扉へと向かって行った。
扉の前に誰がいるのかが、話しの流れからわかっていた。きっと、国王は呼んでいたのだろう。この時間に彼がこの部屋に訪れるようにと。
スワンさんが扉を開くと、そこにいたのはギルだった。ギルは私を見て驚いているようだった。どうしてここにいるのかと言いたげな顔をして私を見ていたが、部屋へと入ると私の横に並んだ。。
扉の閉まる音が聞こえ、スワンさんが国王の横に並んだ。それを確認すると、国王は笑みを浮かべてギルに言った。
「ギル。私は明日、ロベリアさんと結婚することになったよ」
「そ、れは……。おめでとうございます」
ギルの言葉を聞いて、私は何も言うことはできなかった。どうしてと聞くのかと思っていた。けれど、それもない。
国王の言葉だから、私に本当に結婚するのかと聞くこともなかったのかもしれない。きっとこれが、ギルが国王の言葉に従うということなのかもしれない。
ギルが国王に従う理由が他にもあるのかもしれない。忠誠心を示すために、右の翼を切り落としたけれど、それ以外にも従っている理由があるのかもしれない。
だから、ギルは私に尋ねることをしなかったのかもしれない。
それから何を話したのかは覚えていない。けれど私が明日、国王と結婚するのは決定事項となったようだ。家族のため。そして、ギルがこの国から追い出されないために私は結婚するのだ。
スワンさんに客室へと案内してもらったことは朧気ながらに覚えている。ベッドに座り何も反応をしない私に、スワンさんは「大丈夫。ロベリア様、貴方にとって明日はとてもいい日になりますから」と言って部屋を出て行った。
私にとって明日がいい日になるはずがない。国王と結婚したくないのに、しなくてはいけないのだから。スワンさんは、国王と結婚するからいい日になると言ったのだろうか。
今の私には、どのような考えでそう言ったのかがわからなかった。結局、ギルからあのときの返答を聞くことはできないのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。
虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる