傭兵少女のクロニクル

なう

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第26話 奇策

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「ひゃう」

 まずは頭からお湯をかけられる。

「シャンプーからね」

 その声を聞いて、私はぎゅっと目を瞑る。

「ひう」

 誰かの手が私の頭に触れるのを感じてびくっとなった。
 そして、うなじのあたりから髪を引き上げられる感じもする……。
 もう背筋がぞくぞくする……。

「じゃぁ、一緒に身体も洗っちゃおうか」

 と、スポンジを身体にあてられた。

「えっ、まっ、きゃっ!」

 目を開けちゃった。

「いたい、いたい、いたい! 目に入ったぁ!」

 シャンプーが目には入ったぁ! 
 私は目をこすろうとする。

「駄目よ、余計痛くなるから、ほら、目を閉じて」

 と、手首を捕まれて下ろされた……。
 しょうがないので、両手をふとももの上に乗せて、ぎゅっと強く握る。

「シャンプーハットも作っておけばよかったね」
「さすがに、ナビーもそんな歳じゃ……」
「でも、きっと、かわいいよ、黄色いやつね」

 などと言って笑っている……。

「あう、きゃうっ、きゃぅ!」

 駄目、目を閉じてると、触られただけで反応しちゃう。

「ほうら、ここも……」
「手を出して、ナビー」
「う、う……、ひっ! きゃっ!」

 身体中を泡だらけにされているのを感じる。

「しかし、なんで、ナビーってこんな反応するの?」
「ね、すごくかわいいよね」
「なれてないのかなぁ、ナビーは、こういうのぉ?」
「ううー、ううー……」

 と、片目だけ少し開けてみる。
 でも、お湯なのか涙なのかよくわからないけど、それでよく見えない。
 湯気の中にかすかにみんなが見える……。
 みんなが楽しそうに笑っている感じがする……。

「お湯かけるよ、ナビー」
「うん」

 と、私はまた目を固く閉じる。
 ざぶーん、とシャワーじゃなくて桶かなんかでかけられる。

「気持ちいいでしょ、ナビー?」
「うん!」
「お、ナビーの機嫌が戻ってきた」
「じゃ、トリートメントね、もっと綺麗になるからね」
「うん!」

 気持ちいいなぁ……、頭をマッサージされている感じ。
 ついでに、身体の泡も流してくれている……。

「ふん、ふん、ふふん、へへん……」

 もう上機嫌! 

「こんなものかな……」

 と、タオルで顔を拭いてくれる。
 私はそれにあわせて顔をローリングさせる。

「よし、おっけ! 湯船に浸かっていいよ、ナビー」
「髪はどうする? タオルで巻く?」
「いらない!」

 と、やっと解放された私は大急ぎで湯船に向かう。
 そして、湯船の縁に座って、片足を入れて温度を確かめる……。
 くるくるかき回す……。
 うーん……。
 両足入れてみよう……。
 ぱしゃぱしゃ……。
 よーし、頭から飛び込んじゃおう! 
 そのまま倒れるようにばしゃあーんって行く。

「ぶくぶくぶくぶく……」

 ぶくぶくしながら潜水して真ん中まで行く。
 そして、浮いてきたら今度はくるっと回転して背泳ぎのような姿勢になる。
 手は使わないで足だけで泳ぐ。
 お湯の中を広がる長い髪と一緒に両手を大きく広げる。

「ああ……、星が綺麗……」

 湯気と、その間に見え隠れする煌く星々……。

「星に手が届きそう……」

 両手を空にかざす。

「えい、えい!」

 と、星を掴もうとする。

「あはっ」

 掴めるわけないか。

「ああ、幸せ……」

 私はそっと目を閉じる……。
 そういえば、男子がお風呂を覗きに来るんだよね? 
 もしかして、もう覗いているのかな? 
 と、足でお湯をかきながら考える。
 でも、外の綾原たちが騒いでないからまだかなぁ……。
 早く来ないかなぁ、覗いていたら、真空飛び膝蹴り行くのに……。

「きゃう!」

 目をつむって泳いでいたら、湯船の縁に頭をごつんとしちゃった。

「あうぅ、頭ぶつけたぁ……」

 と、足をついて頭を押さえる。

「ナビー、大丈夫?」
「私たちも入るよ」

 と、福井たちが身体を洗い終わったのか、こっちにやってくる。

「でも、覗くとしたら、どこから覗くのかな?」
「うーん、囲いの高さは二メートル近くあるし、肩車してかな?」
「それだったら、外のみんなに邪魔されて覗けないよ、タックルありとか言ってたし」
「そうだよね、やっぱり、本気で覗く気じゃないんだよ」

 生活班のみんなが、そんな事を話し合いながら湯船に入ってくる。
 私はとりあえず、お鼻のちょっと下までお湯に浸かってぶくぶくをはじめる。

「でもさ、やっぱり、覗かされそうになった時のために、何か考えていたほうがいいよ」
「そうね……、ナビーに言わせると、ブービートラップは古いらしいから……」
「あれね、バンジスステーク、にくだけ、ぎょく、ね……?」

 ぶくぶくぶく……。

「バンジステークかぁ、ということは、あれだよね?」
「うん、にくだけ、ってことは、あれよね?」
「そう、そう、ぎょく、と、言えば、あれしかないよね?」

 ぶくぶくぶくぶく……。
 なんの話しをしてるんだろ、この人たち。

「ところで、いつまで入ってればいいの?」
「訓練が終わるまで?」
「のぼせちゃう……」

 ぶくぶくぶくぶくぶく……。

「あつーい!」

 と、私は我慢しきれなくなって、立ち上がる。

「お外見てくる」

 そして、湯船から上がり、踏み台を使って囲いにかけてあるバスタオルをとる。

「風邪引かないようにねぇ」

 福井がそう言うので、私は軽くバスタオルで身体を拭いて、それからそれを身体に巻く。

「それじゃ、私たちは罠を仕掛けておきましょうか……」
「そうね、バンジステーク、にくだけ、ぎょく、をね……」

 彼女たちも湯船から上がってくる。
 私はそのまま、バスタオルを一枚だけ巻いて露天風呂をあとにした。
 ドアを開けると、すぐに涼しげな風が私の頬を撫でる……。
 それと同時に汗ばんだ身体を優しく冷やしてくれる……。
 それでも暑いから、バスタオルを開いたり閉じたりしてパタパタしてやるんだけどね。

「ねぇ、まだ来ないの?」

 と、パタパタしながら、防衛隊のみんなのところに歩いていく。

「うん、まだ……」
「スタートからもう20分、ちょっと遅いわね……」

 と、笹雪と綾原が答えてくれる。

「ふぅん……」

 露天風呂の周りにはいくつものかがり火が設置されていて明るく、また、ロッジに続くに道沿いにもところどころ設置されていて石畳の道を照らしてくれていた。

「静かだなぁ……」

 ぼんやりとつぶやく……。

「それにしても遅いね、どうなってるんだろ……」
「中止って事はないと思うけど、なんか、おかしいよね……」

 みんなが不審を口にする。

「防衛陣には何もひっかからない、少なくてもこの、ラグナロク広場に男子たちはいない……」
「魔法もルビコン川付近で観測して以来それっきり」

 と、綾原と海老名が話している。

「森には入っちゃ駄目って言ってたから、正面から来ると思うんだけどなぁ」

 そう、森に入るなって、東園寺が言っていたよね。

「森かぁ……」

 なんか、いつもより静かなんだよね……。
 いつもだったら、近くで鳥の鳴き声とかするのに……。
 小動物の動き、鳥の鳴き声、風に揺らされる枝葉の音、それらすべてが敵の接近を教えてくれる……。
 騙された、東園寺のあの言葉、森に入るなって言葉はフェイクだ、もう、そこから戦いははじまっていたんだ。 

「あいつら森の中を行軍しているのよ!!」

 私は大声で叫ぶ。

「ええ!?」
「だ、だって、森の中は立ち入り禁止じゃなかったの!?」
「どうして、そんなことを!?」
「ま、まさか、そこまでする……?」

 みんなが聞き返してくる。

「待って、ナビーの言う通りよ……、有り得ない話じゃないわ……」

 と、綾原が顎に手をあてて考え込む。

「と、なると、彼らの狙いは正面突破ではない……、真の狙いは……」
「私たちの背後、露天風呂のうしろ、ボイラー室よ、そこから覗く気なんだよ!!」

 私は綾原の言葉を遮るように叫び、ボイラー室に向かって走りだす。

「ナビー待って、危ないから!」

 夏目がそう言うけど待ってられない。
 やられた、あいつら、そこまで本気だったとは……。
 そんなに女風呂を覗きたかったのか、あいつらの欲望を見誤っていた。
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