傭兵少女のクロニクル

なう

文字の大きさ
34 / 150

第34話 ドラゴン・プレッシャー

しおりを挟む
 私は自分を転がしたのは何かとうしろを振り返る。
 でも、見えるのは青々とした草むらのみ……。

「ナビー、大丈夫か!?」
「怪我はないか!?」
「どれ、見せてみろ!!」

 私を心配して参謀班の3人が駆けつけてくれる。

「うーん、大丈夫、心配しないで……」

 と、私は乱れた長い金髪を手で整える。

「本当か? 立てるか?」
「挫いたりしてないか?」
「膝擦りむいてないか? どれ、見せてみろ」

 みんなが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

「もう、過保護なんだから……、大丈夫だってば……、ほら!」

 と、私は元気よく立ち上がり、パッと体操選手みたいに両腕を開く。

「大丈夫そうだな、よかった……」
「それにしても、何につまずいたんだ? 何もないはずなんだが……」
「わかんない、あの辺でつまずいたぁ」

 と、私はつまずいた辺りの草むらを指差しながら言う。

「この辺か……?」
「何かあるのか?」
「探してみよう」

 参謀班の3人が雑草を足でかき分けながら辺りを捜索する。

「人見、これだ、見てくれ」

 青山が何か見つけたみたい。

「お、でかしたぞ、ナビー、ビンゴだぜ」
「これか、あの魔力の正体は……」
「うーん? なぁに?」

 と、私も背伸びをして、彼らのうしろからそれを覗き込む。
 それは金と銅の中間みたいな色をした丸い棒。
 それが斜めに突き刺さって地面から伸びている。
 杖? そう見えた、先端にシルバーで、天使のような彫刻が施されていたから。

「どうしたの、ナビー?」
「何かあったのか?」
「あ、うん、それにつまずいて転んじゃった」

 と、騒ぎを聞きつけて来てくれた夏目と和泉に事情を説明する。

「なんなのこれ? 彰吾たちが探していた物ってこれ?」

 人見に尋ねてみる。

「ああ、これだ……、不明な、微弱な魔力反応があったものでね……」
「へぇ……」
「だが、たいした代物ではない、場所も特定できないような微弱な魔力反応だったからな……、ただ、その魔力を帯びた物が刃物類であった場合は話が別だ、東園寺のバーサーカー・イン・ザ・ブレードや鷹丸のファルケン・シュベルトの切れ味は知っているだろ? 魔力を帯びるとあれほどの切れ味になる……、もし、それと気付かず踏みつけてしまったら大変だ、怪我じゃ済まない……」

 確かにね、魔力が込められていなくても、剥き出しの刃物がその辺の草むらに落ちているだけでも大惨事になるよ。

「じゃぁ、さっさと処分するか……」
「おーけー、やっちまおう」

 と、青山と南条が、その杖みたいな棒に手をかける。

「せーの、で、いくぜ?」
「おう」
「せーの」

 そのかけ声で杖のような棒をひっぱる。

「おう?」
「な、なんだ?」

 二人の手が止まる。

「どうした?」

 人見が怪訝そうな表情で尋ねる。

「い、いや、なんか、おかしい……、びくともしない……」
「ここ、地面だよな、土だよな? なんで、びくともしないんだ、まるでコンクリートにでも突き刺さっているみたいだ……」
「あ、いや、これ、でかいんだ」
「ああ、そういう事か……」

 と、彼らが何度も棒をひっぱりながら話す。

「船体の一部か?」
「そうかもしない、人見……」
「そうか……、なら、撤去は無理だな……、一応、本当に船体の一部か確かめよう、掘るぞ」
「おーけー、人見、シャベルだな」
「了解」

 と、彼ら3人がシャベルを取りに行く。

「それにしても、綺麗な細工だよね……」
「そうだね、材質はなんだろう?」

 参謀班がシャベルを取りに行っている間に夏目と和泉がその棒に近づいて彫刻部分を観察する。
 私も何気なくそれを見ようと近づく。
 濃い金色の棒と、その先についた銀色の天使の飾り……。

「うーん……」

 よく見えん……。
 私は顔を傾けて、その天使の飾りと角度を合わせる。

「うーん……、うーん……」

 そして、その棒を掴んでさらに顔を傾ける……。

「うーん……」

 顔を精一杯傾けるけど、あっちも逃げるように傾いていくぞぉ? 

「あっ!」
「な、ナビー!?」

 そのまま、トテン、と、身体ごと横に倒れた……。
 な、なぜ……。

「えっ、倒れた?」
「な、なんだ、これ、剣……?」

 と、夏目たちが言っている。

「うーん……?」

 半身を起こしてそれを見る……。
 私のお尻の下には濃い金色の棒がある、ちょうど私が跨る感じ、そう、魔女スタイルだ……。
 そして、私の後方には……。
 大きな、それは大きな刀身があった……。
 刃渡り1メートルは優に超える大きな刀身……。
 それは分厚く片刃、みねの部分には白いガードが付いていて、それに見た事もない青い文字がびっしりと書き込まれている。

「ど、どうした、ナビー!?」
「ぬ、抜けたのか!?」

 と、人見たちも駆けつける。

「なんか、倒れたら、出てきた……」
「倒れた?」
「あんなにがっちり埋まっていたのに?」
「ナビー、ちょっと、どいてくれ」
「うん……」

 と、私は棒を跨いで立ち上がる。

「で、でかいな……」
「なんだ、これ……」

 あらためて見ると、ホント大きい……、たぶん、棒、柄の部分を合わせると、私の身長より少し大きい、150センチくらい、いや、もっとあるかも……。
 しかも威圧感も凄い。

「まぁいい、掘り起こす手間が省けた……」

 と、人見が柄を握る。

「な、に……?」

 持ち上げようとするけど、ぴくりとも動かない。

「な、南条、青山、ちょっと、手伝ってくれ」
「おーけー、人見」
「重いのか?」

 と、今度は3人がかりで持ち上げようとする。

「う、うそだろ……」
「え……?」

 またぴくともしない……。

「い、和泉も頼む……」
「お、おう……」

 4人でも動かない……。

「な、夏目さん、あと、ナビーも……」

 最後はみんなで持ち上げる事になった。
 なんで、私まで……、と、思いつつ柄の部分を握る。

「いくぞ、せーの!」

 と、簡単に持ち上げられた。
 しかも、超軽いよ。
 なに、もしかして、今までのお芝居だったの? 騙された……。
 と、私は手を離す。

「ぎゃぁあああ!?」
「うわああああ!!」
「おげああああ!!」

 私が手を離した途端、みんなが支えきれずに剣はそのまま倒れた。

「な、なんで……」
「び、びっくりした……」
「こ、腰が折れるとかと思った……」

 な、なんで、超軽かったよ……。
 私はもう一度剣の柄を握ってみる……。
 そして、力を入れる事もなく、すっと剣は持ち上がる……。

「なぁんだ、やっぱり軽いじゃん」

 と、私は垂直に剣を立てて、その美しい刀身を見上げる。

「な、なんで……?」
「うそだろ……?」
「し、信じられん……」
「ちょ、ちょっと、ナビー、貸してみて……?」
「うん、はい、ハル」

 と、私は和泉に剣を手渡そうとする……。

「うっ」

 うん? 
 あ、駄目だ、僅かに力を抜いて渡そうとした瞬間、和泉がバランスを崩した。
 私はとっさに両手に持ち替えて、剣のウェイトが彼に行かないようにする。
 あぶない、あぶない……、このまま渡していたら、和泉の指とか手首が折れてたよ……。

「あつっ……」

 それでも、和泉が手首を押さえて痛そうに顔をしかめる。

「こ、これって、ナビーしか持てないの……?」
「み、みたいだね……」

 うーん、なんだろ、いったい……。

「優れた剣は持ち主を選ぶと言うが……」
「じゃ、じゃぁ、ナビーは選ばれたって事……?」
「ああ、おそらく……」

 選ばれちゃったのかぁ……。
 と、また剣をかざして、綺麗な刀身を見上げる。
 でも、選ばれた感じもするんだよね、この剣を持っていると身体が熱くなるの、なんか、不思議な力が働いている感じ。
 それにしても熱い、身体が熱いというより、胸の辺りが焼けるように熱い……。
 と、私は胸の辺りを手でまさぐる……。
 あっちっぃいいい!? 
 ネックレスが超熱くなってる!! 
 と、私は慌てて、剣を地面に突き刺して、両手でネックレスを外そうとする。

「あ、あれ……?」

 熱くない……。
 手の平に乗せて、指先でトントンとしてみる。
 うん、常温。

「これは、ナビー専用だな」
「うん、やっぱりね、ナビーって特別だったんだよ」
「いいなぁ、ナビー」

 うーん……? 
 胸に手をあてながら、剣の柄を握ってみる……。
 そして、力を入れて、引き抜いた瞬間……。
 あっちっぃいいい!?
 と、ネックレスが高温を発する。
 剣から手を離すとすぐに冷たくなる……。
 ははーん……。
 わかった……。
 このネックレスは、魔力を込めたアミュレット、それは、ここヒンデンブルク広場にあったもの……。
 効力は身を少し軽くしてくれるというもの……。
 でも、効果はほとんど実感できなかった。
 それもそのはず、これは身を軽くするものではなく、この剣を軽くするアイテムだったのだから……。
 この剣とこのネックレスはセットだ。
 ふふふっ……。
 みんなには黙ってよっと。

「それはキミの剣だ、名前を付けてくれ」
「名前?」

 と、人見が言ってくるので聞き返す。

「ああ、そうだ、その剣の名前だ。今のままでは放出魔力が微弱すぎて感知できない。だから、名前で紐付けして感知しやすくするんだ」

 ああ、だから、みんな武器に変な名前を付けてるんだ、東園寺のバーサーカー・イン・ザ・ブレードとか人見のミスティック・オーバーロードとか。

「なんでもいいぞ、好きな名前を付けてくれ、それで関連付ける」

 うーん……。

「うーん……、うーん……」

 悩むなぁ……。
 私はまた剣を空にかざして刀身を見上げる。
 太陽の光が飛行船の骨組みに反射し、複雑な光がこの大剣に届く……。
 なんか、光の加減か、ツバ、ガードの部分が竜の横顔のように見える……。
 ドラゴンねぇ……。
 そして、この分厚いブレードの重厚な威圧感……。
 うん、そうだね、決めた。
 思いっきり腕を伸ばして天に掲げる。

「ドラゴン・プレッシャー」

 そう、この大剣の名前はドラゴン・プレッシャーだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

処理中です...