33 / 150
第33話 ヒンデンブルク広場にて
しおりを挟む
道は狭く歩きにくい。
道幅はどうだろう、おそらく2メートルもないだろう。
また、両側に広がる広葉樹の森がその枝を使って空を覆い隠し、道を薄暗くし、歩き辛い道をさらに歩き辛くしていた。
ルビコン川に向かう道と比べたら雲泥の差がある。
あちらは水路も通っている事もあって、道幅は広く、舗装はされていないものの人通りも多く、道は堅く踏み固められている。
でも、こっち、ヒンデンブルク広場に向かう道は酷いものだった……。
はっきり言って泥道、雨か湧き水の影響かはわからないけど、あちこちに泥の水溜りができている。
私たちはそれらの水溜りを避けながらヒンデンブルク広場に向かう。
「めぇ……」
「我慢してね、シウス……」
私に抱っこされたシウスにそう声をかける。
「めぇえ!」
「よし、よし、大人しくしてね、チャフ」
隣にはチャフを抱っこした夏目翼もいる。
「どう、どう! ウェルロット!」
そして、先頭を歩くのは、ウェルロットを引いた和泉春月。
ウェルロットの首には布で作った首輪がはめられている。
一人で勝手に森の中に入らないようにするためだ。
シウスとチャフを抱っこしているのも同じ理由。
別に逃げ出すのを心配しているわけではない、彼らは私が呼べばすぐに戻ってくる。
でも、森の中に入ってしまったら、そこは危険がいっぱい、何か得体の知れない肉食獣がいて食べられてしまうかもしれない……、それを危惧しての処置だ。
「ナビー、ヒンデブルク、あぇい、るって、ぷーん?」
「うん、もうすぐだよ、エシュリン」
亜麻色の髪の少女、エシュリンもうしろからついてきている。
ちなみに、今ヒンデンブルク広場に向かっているのは、私と夏目と和泉とエシュリンの4人。
その目的はもちろんウェルロットたちを放牧するためだ。
そして、私たちは彼らを見守りながら草刈をする。
午後いっぱいそんな感じで過ごす予定。
「ナビー、るって、光? ぷーん」
エシュリンが道の出口を指して言う。
彼女がラグナロクに来てから三日、言葉はまだまだ不自由だけど、それでも簡単な単語も覚え、最低限の意思疎通はできるようになってきていた。
たぶん、私が現地の言葉を覚えるより、彼女に日本語を学んでもらって、それで通訳になってもらったほうが早いと思う。
「ついたぁ!」
と、私は少し駆け足になって、ヒンデンブルク広場のほうに走っていく。
距離にして1キロくらいだけど、シウスを抱いてぬかるむ道を歩いてきたせいで時間がかかってしまった。
たぶん、30分くらい。
暗いところから出てきたから光り輝くヒンデンブルク広場の草花が凄くまぶしい……。
私はまぶしすぎて、目を固くつむって顔をそむける。
そして、ゆっくりと瞼を開きながら明るさに目を慣らしていく。
「おう、ナビー、来たか! 相変わらずかわいいな!」
「大きくなったら、俺と結婚しような!」
と、広場の真ん中のほうからそんな大きな声が聞えてくる。
「大河! 悠生!」
そう、広場の真ん中で大きく手を振っていたのは、参謀班の南条大河と青山悠生だった。
その彼らの後ろにはくんくんもいる。
くんくんは私と目が合うと微かに笑い、そして、すぐさま視線を下に戻して作業を再開する。
彼ら参謀班は暇さえあればヒンデンブルク広場に来て発掘作業を行っていた。
その彼らが今いる場所は、あの大破した飛行船の中、外壁のほとんどが崩れ落ち、中が丸見えになっていたので、その作業風景がよく見える。
また、骨組みだけが残っているせいか、正面から見ると、ものすごく大きなクモの巣に見えて、なんとも不気味な印象だった。
「めぇ!」
と、シウスが身をよじる。
「あ、ごめんね、シウス」
私は急いで牧柵のほうへ向かう。
最初のイメージではヒンデンブルク広場全体を放牧地にすると思っていたけど、この広場全体を柵で覆うのはさすがに無理だったらしく、結局出来上がったのは直径30メートルくらいの小さな放牧場のみ。
まっ、それでも管理班が三日がかりで作ってくれたものだから感謝しないといけないけどね。
おかげで、ラグナロク広場の牧柵にピップたちを放し飼いにしておけるよ。
「そぉれ、行ってこい、ウェルロット!」
と、和泉がウェルロットの首輪を外して放牧場に解き放つ。
「ぷるるぅ!」
ウェルロットが嬉しそうに放牧場を走り回る。
「チャフも行っておいでぇ」
「シウスも行っておいでぇ」
と、仔ヤギ二頭も放牧場に放す。
「めぇ!」
「めぇえ!」
彼らも大喜びで走り回ってウェルロットのあとを追う。
天気の良い日、気持ち良い風のそよぐ草原をウェルロットたちが元気に走り回る……。
「ああ……、いい日だなぁ……、こんな日がいつまでも続くといいなぁ……」
心からそう思う。
「それじゃ、私たちも仕事に取り掛かりましょうか」
「そうだね」
「おう!」
と、夏目に言葉に和泉と私が返事をする。
「じゃぁ、エシュリンはシウスとチャフが、きゅー、ぷーん、したら、わっぱ、ぷーん、ね! あとウェルロットが柵を飛び越えないか見ててね!」
「るって、わっぱ、ぷーん」
私の言葉にエシュリンが手を振りながら笑顔で答えてくれる。
「よーし、やるぞぉ!」
と、半袖だけど、腕をまくる仕草をしながら、草刈の準備をしている二人の元へ歩いていく。
「はい、夏目さん」
「ありがとう、和泉くん」
「はい、ナビーも」
「ありがとう、ハル!」
和泉が草刈道具を渡してくれる。
「よーし、今日はどこを攻めようかなぁ……」
と、私はカマではなくナタをぶら下げながらヒンデンブルク広場内の草の多そうなところを値踏みしてまわる。
「ここもあらかた探しつくしたか?」
南条の声が聞こえる。
「ああ、見えるところはな……」
「となると、土の中か、人見?」
「その可能性が高い……」
「くそっ、草が邪魔だな!」
と、南条が雑草を蹴り飛ばす。
ははーん。
参謀班、また悪巧みしてるなぁ……?
しょうがない、私が手伝ってやろう。
「はぁい、はぁい!」
と、私はナタを振り回しながら、彼らのところに走っていく。
「ひぃえぇ!? なんか来たぁ!!」
「ちっちゃい殺人鬼来た!!」
「ふっ、さすがの我々もあれには敵わんかもしれんな……」
飛行船の焼け焦げた骨組みを避けながら走っていく。
「ナビー、気をつけろよ、もしかすると、まだ刃物類が落ちているかもしれないからなぁ!」
と、南条が忠告するも……。
「あっ!?」
「な、ナビー!?」
私は何かにつまずいて盛大に転倒してしまう。
「ひっ!?」
「ぎゃっ!?」
転んだ拍子に手にしたナタがすっぽ抜けて彼らのほうに勢いよく飛んでいった。
「な、なんで!?」
「よ、よけろ!!」
「おわっ!?」
と、彼らが大袈裟に避ける。
そして、ナタは飛行船の骨組みにあたって不快な音を立てながら地面に落ちる。
「きゅー、きゅー」
いたーい、何よ、もう……。
と、私は髪についた枯れ草などを顔をぷるぷるして払う。
道幅はどうだろう、おそらく2メートルもないだろう。
また、両側に広がる広葉樹の森がその枝を使って空を覆い隠し、道を薄暗くし、歩き辛い道をさらに歩き辛くしていた。
ルビコン川に向かう道と比べたら雲泥の差がある。
あちらは水路も通っている事もあって、道幅は広く、舗装はされていないものの人通りも多く、道は堅く踏み固められている。
でも、こっち、ヒンデンブルク広場に向かう道は酷いものだった……。
はっきり言って泥道、雨か湧き水の影響かはわからないけど、あちこちに泥の水溜りができている。
私たちはそれらの水溜りを避けながらヒンデンブルク広場に向かう。
「めぇ……」
「我慢してね、シウス……」
私に抱っこされたシウスにそう声をかける。
「めぇえ!」
「よし、よし、大人しくしてね、チャフ」
隣にはチャフを抱っこした夏目翼もいる。
「どう、どう! ウェルロット!」
そして、先頭を歩くのは、ウェルロットを引いた和泉春月。
ウェルロットの首には布で作った首輪がはめられている。
一人で勝手に森の中に入らないようにするためだ。
シウスとチャフを抱っこしているのも同じ理由。
別に逃げ出すのを心配しているわけではない、彼らは私が呼べばすぐに戻ってくる。
でも、森の中に入ってしまったら、そこは危険がいっぱい、何か得体の知れない肉食獣がいて食べられてしまうかもしれない……、それを危惧しての処置だ。
「ナビー、ヒンデブルク、あぇい、るって、ぷーん?」
「うん、もうすぐだよ、エシュリン」
亜麻色の髪の少女、エシュリンもうしろからついてきている。
ちなみに、今ヒンデンブルク広場に向かっているのは、私と夏目と和泉とエシュリンの4人。
その目的はもちろんウェルロットたちを放牧するためだ。
そして、私たちは彼らを見守りながら草刈をする。
午後いっぱいそんな感じで過ごす予定。
「ナビー、るって、光? ぷーん」
エシュリンが道の出口を指して言う。
彼女がラグナロクに来てから三日、言葉はまだまだ不自由だけど、それでも簡単な単語も覚え、最低限の意思疎通はできるようになってきていた。
たぶん、私が現地の言葉を覚えるより、彼女に日本語を学んでもらって、それで通訳になってもらったほうが早いと思う。
「ついたぁ!」
と、私は少し駆け足になって、ヒンデンブルク広場のほうに走っていく。
距離にして1キロくらいだけど、シウスを抱いてぬかるむ道を歩いてきたせいで時間がかかってしまった。
たぶん、30分くらい。
暗いところから出てきたから光り輝くヒンデンブルク広場の草花が凄くまぶしい……。
私はまぶしすぎて、目を固くつむって顔をそむける。
そして、ゆっくりと瞼を開きながら明るさに目を慣らしていく。
「おう、ナビー、来たか! 相変わらずかわいいな!」
「大きくなったら、俺と結婚しような!」
と、広場の真ん中のほうからそんな大きな声が聞えてくる。
「大河! 悠生!」
そう、広場の真ん中で大きく手を振っていたのは、参謀班の南条大河と青山悠生だった。
その彼らの後ろにはくんくんもいる。
くんくんは私と目が合うと微かに笑い、そして、すぐさま視線を下に戻して作業を再開する。
彼ら参謀班は暇さえあればヒンデンブルク広場に来て発掘作業を行っていた。
その彼らが今いる場所は、あの大破した飛行船の中、外壁のほとんどが崩れ落ち、中が丸見えになっていたので、その作業風景がよく見える。
また、骨組みだけが残っているせいか、正面から見ると、ものすごく大きなクモの巣に見えて、なんとも不気味な印象だった。
「めぇ!」
と、シウスが身をよじる。
「あ、ごめんね、シウス」
私は急いで牧柵のほうへ向かう。
最初のイメージではヒンデンブルク広場全体を放牧地にすると思っていたけど、この広場全体を柵で覆うのはさすがに無理だったらしく、結局出来上がったのは直径30メートルくらいの小さな放牧場のみ。
まっ、それでも管理班が三日がかりで作ってくれたものだから感謝しないといけないけどね。
おかげで、ラグナロク広場の牧柵にピップたちを放し飼いにしておけるよ。
「そぉれ、行ってこい、ウェルロット!」
と、和泉がウェルロットの首輪を外して放牧場に解き放つ。
「ぷるるぅ!」
ウェルロットが嬉しそうに放牧場を走り回る。
「チャフも行っておいでぇ」
「シウスも行っておいでぇ」
と、仔ヤギ二頭も放牧場に放す。
「めぇ!」
「めぇえ!」
彼らも大喜びで走り回ってウェルロットのあとを追う。
天気の良い日、気持ち良い風のそよぐ草原をウェルロットたちが元気に走り回る……。
「ああ……、いい日だなぁ……、こんな日がいつまでも続くといいなぁ……」
心からそう思う。
「それじゃ、私たちも仕事に取り掛かりましょうか」
「そうだね」
「おう!」
と、夏目に言葉に和泉と私が返事をする。
「じゃぁ、エシュリンはシウスとチャフが、きゅー、ぷーん、したら、わっぱ、ぷーん、ね! あとウェルロットが柵を飛び越えないか見ててね!」
「るって、わっぱ、ぷーん」
私の言葉にエシュリンが手を振りながら笑顔で答えてくれる。
「よーし、やるぞぉ!」
と、半袖だけど、腕をまくる仕草をしながら、草刈の準備をしている二人の元へ歩いていく。
「はい、夏目さん」
「ありがとう、和泉くん」
「はい、ナビーも」
「ありがとう、ハル!」
和泉が草刈道具を渡してくれる。
「よーし、今日はどこを攻めようかなぁ……」
と、私はカマではなくナタをぶら下げながらヒンデンブルク広場内の草の多そうなところを値踏みしてまわる。
「ここもあらかた探しつくしたか?」
南条の声が聞こえる。
「ああ、見えるところはな……」
「となると、土の中か、人見?」
「その可能性が高い……」
「くそっ、草が邪魔だな!」
と、南条が雑草を蹴り飛ばす。
ははーん。
参謀班、また悪巧みしてるなぁ……?
しょうがない、私が手伝ってやろう。
「はぁい、はぁい!」
と、私はナタを振り回しながら、彼らのところに走っていく。
「ひぃえぇ!? なんか来たぁ!!」
「ちっちゃい殺人鬼来た!!」
「ふっ、さすがの我々もあれには敵わんかもしれんな……」
飛行船の焼け焦げた骨組みを避けながら走っていく。
「ナビー、気をつけろよ、もしかすると、まだ刃物類が落ちているかもしれないからなぁ!」
と、南条が忠告するも……。
「あっ!?」
「な、ナビー!?」
私は何かにつまずいて盛大に転倒してしまう。
「ひっ!?」
「ぎゃっ!?」
転んだ拍子に手にしたナタがすっぽ抜けて彼らのほうに勢いよく飛んでいった。
「な、なんで!?」
「よ、よけろ!!」
「おわっ!?」
と、彼らが大袈裟に避ける。
そして、ナタは飛行船の骨組みにあたって不快な音を立てながら地面に落ちる。
「きゅー、きゅー」
いたーい、何よ、もう……。
と、私は髪についた枯れ草などを顔をぷるぷるして払う。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
115
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる