傭兵少女のクロニクル

なう

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第63話 双炎

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 強戦士、メイラスの巨体が東園寺に迫る。
 その動きは速く、一瞬で間合い詰め、最後の踏み込みで砂煙を巻き上げる。

「き、公彦!?」

 それでも、東園寺は動かない。
 視線をシェイカー・グリウムに向けたまま。

「うおおおおおお!!」

 メイラスの巨大なメイスが東園寺の頭上に振り下ろされる。
 その瞬間、風がふわりと舞う。
 東園寺が左手を上げた瞬間に風が舞った。
 勢いよく振り下ろされたメイスのヘッドを手の平で受け、平然とそれを掴む。

「なんだ、もう始まっていたのか?」

 東園寺が初めてメイラスに視線を向けて言う。

「ぐお、ぐお、動かん!?」

 メイラスが必死にメイスを押したり引いたりけど、ぴくりともしない。

「ぐお、ぐおおお!?」
「なんだ、放してほしいのか?」

 と、東園寺が押すようにして、掴んでいたメイスを放す。

「うお、うおおお!?」

 すると、メイラスがメイスを振り上げた状態になり、そのまま後方に数歩よろける。

「く、くそ、少しはやるようだな」

 と、メイラスが構えなおす。

「くそ、くそ……」

 棒立ちの東園寺相手にメイラスがじりじりと半円を描きながら横に移動し隙をうかがう。

「くそ、くそ……」

 今度はなかなか動かない、時間だけが過ぎていく。

「どうした、メイラス、帝国強戦士の名が泣くぞ!?」

 シェイカー・グリウムの怒声が響く。

「くっ、うかっ……、うがああああああ!!」

 ついにメイラスが動いた。
 一歩、二歩、と間合いを詰め、同時にその巨大なメイスを振り上げる。
 そして、三歩目、最後の踏み込み、それと同時に東園寺が一歩目を踏み出す。
 姿勢は低く、腰に帯びた剣、バーサーカー・イン・ザ・ブレードの柄に手をかける。

「うおおおおおおお!!」

 雄叫びとともに、巨大なメイスが振り下ろされる。
 バーサーカー・イン・ザ・ブレードの刀身が見えた瞬間きらりと瞬く。
 振り下ろされたメイスの数倍の速度で東園寺の剣が下から払いあげられる。
 インパクト。
 炸裂する火花と、その直後の鼓膜を貫く甲高い金属音、それと同時に真っ二つに割れたメイスのヘッドが空高く舞う。
 二人の関係が逆転する。
 東園寺が剣を振り上げた状態で上になり、メイラスがメイスを振り下ろした状態で下になる。

「かっ……」

 メイラスが見上げる。
 でも、もう空を見る事は出来なかっただろう。
 東園寺がバーサーカー・イン・ザ・ブレードを両手に持ち替え、そのまま振り下ろしたからだ。
 剣が肩口から入り、フルプレートアーマーがひしゃげ、凄まじいスピードでメイラスの身体が頭から地面に叩きつけられる。
 そして僅かな時差のあとに放射状に衝撃波が走り、直後に砂煙が舞い上がる。
 さらに少しすると、細かな金属片がぱらぱらと空から降ってくる……。
 それはメイラスが着用していたフルプレートアーマーの破片だった。

「心配するな、峰打ちだ」

 と、東園寺がバーサーカー・イン・ザ・ブレードを鞘に収めながら、動かなくなったメイラスを見下ろす。

「さっすが、公彦さん!」
「強ぇ、公彦さん!」
「かっけぇ!」
「まぁ、東園寺ならあのくらいやるだろう」

 みんなが歓声を上げて東園寺に駆け寄る。

「やったぁ、公彦、すごーい!」

 私は両手を広げて彼のもとに走っていく。

「すまんな、みんな、ちょっと、かっこつけすぎたか?」

 と、東園寺が口の端で笑う。

「あの棒立ちは演出だったのかぁ!」

 心配したんだぞ! 
 と、彼の首に抱き着く。

「やめろ、やめろ、ナビーフィユリナ」

 首にぶらさがって、ぶらんぶらんする。

「やだ、やめない」

 もう目一杯ぶらんぶらんする! 

「ははは、こら、こら……」

 と、彼が私の背中に手をまわしてぶらんぶらんするのを止めさせる。

「しっかし、すげぇな……」
「なんつう巨体だ、佐野よりでかいんじゃいのか?」
「鎧もなんかな……」

 と、久保田がメイラスの脇腹あたりをコツン、コツンと軽く蹴る。

「きっさまらぁ! 神聖な一対一の決闘に手を出すとは何事かぁ!?」

 なんか、シェイカー・グリウムが顔を真っ赤にして騒ぎ出したぞ? 

「な、なんな?」
「なんて言ってるんだ、ナビー?」

 言葉の意味がわからないみんなが私に聞いてくる。

「え、えっと、決闘の邪魔をしたとかどうとか……」

 もう、勝負はついているのに、何を言っているんだ、あいつは? 

「許せん、騎士団、抜刀!!」
「「「おお!!」」」

 と、シェイカー・グリウムをはじめとした騎馬軍団が武器を引き抜き、天にかざして叫ぶ。

「な、なんだ!?」
「あいつら、武器を抜いたぞ!?」
「決闘に勝ったら、見逃してくれるんじゃなかったのかよ!?」

 みんなが武器に手をかけながら口々に叫ぶ。

「まっ、こうなるよな、最初から約束を守る気なんてなかったんだよ、あいつらは……」

 と、和泉が顔を伏せて、騎馬軍団に向かって歩きだす。

「エンベラドラス、殉教者の軍勢、死の絶望が汝を燃え上がらせる……」

 魔法の詠唱? 
 そして、剣の柄に手をかけ、音もなく引き抜く。

「炎を纏え、双炎爆裂エゼルキアス

 和泉の魔法詠唱が終わった瞬間、何かが爆発した。

「うくっ」

 私は熱風を感じて、顔を両腕で庇う。

「とりあえず、全員死んどくか、俺は今機嫌が悪いんだ……」

 和泉の声が聞こえる……。
 おろる、おそる、腕をどけて彼のほうを見る。

「なんだ、あれは……」

 細身の剣が真っ赤に燃えている……。
 燃えているんだけど、それ以上に火柱が異様……。
 刀身から優に10メートル以上は火柱が立ち昇っている……。

「これが何かわかるか?」

 と、和泉が軽く炎の剣を振る。
 すると、空高く伸びた炎が剣先を追い、鞭のようにしなりながら地面を叩き、その叩かれた地面が勢いよく燃え上がる。

「な、化け物!?」
「ど、どう、どう!!」
「騎士長、騎士長、退却の許可を!!」
「に、人間じゃねぇ、に、逃げろ、殺されるぞ!!」

 それを見た騎馬軍団が一気に恐慌状態になる。
 私から見ても、これはぞっとする……。

「た、退却だ! 退け、退け、退避、退避!!」

 と、シェイカー・グリウムが血相を変えて馬に飛び乗る。

「和泉、やめろ、こちらも一旦下がるぞ」
「ちっ、東園寺……」

 私たちは10メートルほど後方に下がり、あの倒れている強戦士メイラスを救助する時間をやつらに与える。

「は、早くしろ、殺されるぞ!?」
「そんなやつは置いていけ、帝国の恥さらしが!!」
「置いて帰れるものか、仲間だぞ!?」

 と、それでも、メイラスを数人がかりで担いで馬に乗せる。
 それにしても、彼らの慌てぶりを見ると、よっぽど魔法が怖かったんだね。

「公彦……」
「ああ、わかっている、心配するな、ナビーフィユリナ」

 和泉のあの炎の柱、そして、人見の魔法のネックレス、その二つはすぐに結び付けらてしまうだろう。
 東園寺は魔法の存在を悟らせずにうまく立ち回っていたんだけどね、ぶち壊しだよ……。

「あいつら、攻めてくるかな……」

 小さくつぶやく。

「おい、小娘、もう怒ったからな、必ず俺様の嫁にして毎日ヒーヒー言わしてやるからな、朝晩問わずだ、覚悟しておけ!!」

 と、最後の捨て台詞のようにシェイカー・グリウムが私に向かって叫ぶ。
 ……。
 何がヒーヒーだ……。
 と、私は足元に転がっていた彼のヘムルを足でリフティングして手に取る。

「ふはははは、楽しみだなぁ!!」

 高笑いしながらやつは走り去っていく。

「忘れ物だ、馬鹿」

 と、私は助走をつけて、渾身の力でやつ目掛けてヘルムを投げつける。

「げべっ!?」

 見事にやつの後頭部にヒット。

「あへっ……」

 そして、シェイカー・グリウムが馬から転がり落ちる……。

「あ……」

 やばい、やり過ぎちゃった……。

「き。騎士長!?」
「だ、大丈夫ですか、騎士長!?」

 と、副官がシェイカー・グリウムを抱え上げ自分の馬に乗せる。

「くそぉ、このままでは済まさんからな、化け物どもめぇ!!」
「騎士長の敵は必ず討つからなぁ!!」

 と、今度こそ、彼らはそんな捨て台詞を残して走り去っていく。

「こっちも退却だ、帰るぞ」
「ういっす」
「おーけー、東園寺さん」

 と、みんなが急いで帰り支度を始める。

「ナビー、ぷーん?」

 うん? 

「ナビー、ぷーん……」

 なんか、エシュリンが泣きそうな顔をしている。

「ほら、エシュリン、いこ!」

 と、手を出す。

「ナビー、ぷーん!」

 と、彼女は大喜びで私の手を握る。

「いこ!」
「はい、ぷーん!」

 と、二人でみんなのところに走っていく。
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