融合

雛田

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融合

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少し前までの日本は、和のものにあふれていた。
今はどうだろうか。少しずつ他の国のもの、洋のものが溶け込んできている。写真屋で働いている僕と、新たなる可能性を模索しといる彼との服が繋いだちょっとしたお話。

「今日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
目の前にいる整った顔立ちのこの男。名を中町恭介という。
彼は今、巷で話題の「でざいなー」というやつらしい。簡単に言ってしまえば服を作る人だ。写真屋で働く僕がなぜここにいるかというと。
「インタビューしてくれるんだろう。早速だが依頼が入ったんだ」
「いんたびゅー」最近の世の中は難しいな。海の外側の世界の言葉が使われ始めたのだ。「いんたびゅー」もわかりやすくいうとするならば聞き込みだ。いろいろなことを聞いて彼の素性を露わにさせるのが僕の任務なのだ。変化し続ける世の中に適応できるように写真を撮るのに加えて進化した仕事を模索中だ。
実のところを言うと僕にこの仕事は向いていないと思う。
人と話すのが苦手な僕が向いているはずがないのだ。父さんに言われたから仕方なく一度くらいは引き受けてみるけれどこの件が終わったら写真撮りに専念するつもりである。
早く終わらないかななんて考えているうちにいつの間にか依頼者の家についていた。
「ごめんください」
恭介がそう言うと中から一人の女性が出てきた。この家の奥さん…というわけではなさそうだ。立派な門から薄々感じていたが、使用人を雇うことのできるほどの財産を持っているようだった。それもそうである。
ただでなくても高価な和と洋の入り混じった中町恭介の服。それを特注するのとんでもない金持ちにしかできない選択だった。
使用人に通された部屋には七つになりそうな女児が座っていた。
「澄様に似合う服を作ってもらいたく、この度依頼させていただいたそうです」
「なるほど。ご依頼ありがとうございます。澄様とお話してもよろしいでしょうか」
使用人は了承の意を示し、部屋から出ていった。
「初めまして。我が名は中町恭介と申す。澄様とお呼びしてもよいでしょうか」
「お澄。お澄って呼んでちょうだい。恭介」
「わかりました。お澄さんは好きな色などはありますか?」
「青が好き」
「ほかに好きなものとかはありますか?」
「別に言わなくてもよくない?
冷たく返した澄。
「好きな食べ物でもいいのでありませんか?」
「だからなんでそんな初めて会った男に言わなきゃいけないの」
これ以上話しても無駄だと判断した恭介は
「変なこと聞いてすみませんでした。今日のところは失礼します」
と言って僕たちは澄の家を後にしたのだった。

そのあと何回か澄の家に足を運んでみたが澄は全く口を開いてくれなかった。
頭を悩ませる恭介。
いつの日か何気なく澄の家で撮っていた写真を現像して恭介の前に差し出す。
「実はお澄さんの家で何枚か写真撮ってたんですよね」
「坂下くん。見せてくれ」
「は、はい!」
僕は恭介に言われ、一緒に写真を覗き込む。
「ここも。ここも。ここも!」
指差しをして『何か』があることを確認する。そして僕の方を見てにやりと言う。
「できた」

「お澄さん。お久しぶりです」
「恭介。久しぶりだわね」
「今日は原案を持ってくるのね」
「今回は自信作です」
理由わからないが自信ありげな恭介。いくつかの案を広げる。
「これ…」
息を飲んだような発する澄。目線の先にあるのは青を基調とし、たくさんの花が描かれている生地を使用している服。
「お澄さん。お花お好きですよね?」
「なんでわかったの?」
この人は超能力が使えるのか?と言いたげな澄の眼差し。
「これですよ。これ」
恭介は部屋の各地に置かれている花を指さす。
「好きな物を頑なに教えていただけなかったので苦労しましたが、やっと答えにたどり着くことが出来ました」
澄は少女のような。というか澄は少女なのだが。きらきらした目で恭介に訴えかける。早くこの服が着たいと。
数日の猶予をもらい服作りに取り掛かった。

「まずは何からやるんですか?」
一応仕事なのでいんたびゅあーの真似事をする。集中している恭介は歩く速度と表情で黙ってついてこいと言った。この質問の答え合わせは恭介の行動でしようと思う。
自分の店に戻り、いくつかの生地を取り出してくる。あぁでもない。こうでもない。と生地を重ね合わせながらにらめっこする恭介。納得のいくイメージが固まったのだろう。どんどん切り始める。切って。切って。切って。
次は繋ぎ合わせる。図案の通りに。いやもっとすごいのではなかろうか。平面から立体に。命が吹き込まれるように。ただの生地だったものが生き生きし始める。
「とりあえずはこんなものかな」
恭介がそういって作業を止める。八割?九割?程完成していた。「とりあえずは」ということはまだ何か手を加えるつもりなのだろう。これだけでもすごいのにまだ進化する可能性を秘めているのか。
「今日はもう遅いし帰ってくれて構わないぞ」
「あ。わかりました」
また明日ここに来る約束を取り付けて帰路についた。

「おはようございま…」
挨拶をしかけた僕の目に飛び込んできたのは死体…。
「恭介さん!」
大声を出すと生き返ったゾンビのように起き上がる恭介。
「あぁ。もう朝か」
「てっきり死んでるかと思っちゃいましたよ」
「昨日の続きをしていたらつい夢中になってしまってな」
恭介が指さす方を見ると昨日の面影はあるが、成長した親戚の子のような服が目に飛び込んできた。
「これ一日で…?」
「うむ」
「すごい…!写真撮ってもいいですか?」
うなづいた姿が見えたのでカメラに目の前の景色を収める。
「今からお澄さんの家に行こうと思うのだがついてきてくれるか?」
「もちろんです」
と返事をした僕と疲労がたまっている恭介。命が吹き込まれた服はみんな揃って澄の家に向かうことになった。

「ごめんください。恭介です」
「恭介!」
今までとはうって変わり、年相応の表情を浮かべた澄が出迎えてくれる。
「もうできたの?」
わくわくが抑えられない澄のお尻にはしっぽが見えているようだった。微笑みを向けながら恭介は完成した服を澄に見せた。
「わぁ!恭介!本当にこの服もらっていいの!」
「えぇ。お澄さんのために作ったのですから。気に入っていただけると嬉しいのですが」
「気に入るに決まってるじゃない!毎日着るわ!」
依頼主の笑顔や感謝の言葉を直接受け取れるなんてこの仕事はとても素敵だな。澄と恭介を見ながら僕は心の中でそう思った。

「恭介さん。お久しぶりです」
「坂下くん。見たよあれ」
恭介の仕事に密着したいんたびゅー記事は町中で有名になったのだった。
「お澄さんにぴったりな服を作れたのも、今オーダーメイドの注文が急増しているのもすべて坂下くんのおかげだ」
「いえ。僕は何もしていませんよ」
「お礼ということでこれを受けとってくれないか」
差し出されたのはカメラを保護する袋だった。
「カメラケースを作ったのは初めてなのだが、私なりに君に合うデザインで作ってみたんだ」
「こんなの受け取れませんよ」
「気にいらなかったか?」
「むしろ気に入りすぎて受け取るのがもったいないです」
「気に入ってくれたのなら、それを示すためにも受け取ってくれないか?」
半ば強引に渡されたそれを首から下げることにした。茶色の皮に金色の糸で名前が刻まれている。
「坂下くんはこれからもこの仕事続けるのか?」
「実は今回の一回のみの仕事にしようと思っていて」
「そうか…」
落胆の表情を見せた恭介にもう一文告げる。
「けど恭介さんの仕事を見ていたらこの仕事も案外悪くないなと思い始めまして。もう少しだけ続けてみようと思います」

少しずつ他の国のもの、洋のものが溶け込んできている今の日本。写真屋で働いている僕と、新たなる可能性を模索しといる彼との服が繋いだちょっとした物語。
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