願う

maekawa_kumu

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大学には学食というものがある。高校にはそういうものはなく弁当持参が常だった。広いキャンパスや講義の長さなどからも大学生活を十分に感じることができるが、学食の存在というのも俺にとってはそれを感じさせるに十分だった。流石の母も大学生の俺にもう弁当は作らない。「もうこれ以上はギブです。買って食べるか自分で作って持ってくかにしてください!」と言われたことを思い出した。
食堂の広さも申し分ない。ものすごい数の人がここを利用するが、その数を上回るテーブルと椅子が用意されているのであまり窮屈さを感じない。皆一人座っている俺をうまいこと避けて着席してくれた。知らない奴と顔を合わせずに食事ができて快適だ。
でもこんな俺でもふと思う。一匹狼というかなんというか、俺には協調性や可愛げがまるでないのだ。大学生になって早一ヶ月。同性同士の恋愛以前に友達さえできない始末。しかもその事実を心から寂しく感じないのも問題だ。一人でいい。一人がいい。自分が孤独なことに焦りを感じている訳ではなかった。ただ、一生このままでいいのか?と考えるようになった。

「あ、高崎だ」
頭上から声が降ってきた。顔をあげるとそこには俺を覗き込む春田の姿があった。学食のお盆を持っている。
「春田」
「お前一人?一緒に食べてもいい?」
「…まあ、いいけど」
「おう、じゃあ隣失礼します」
許可を得た春田は早々と俺の隣に座った。拍子抜けするくらいリズミカルな会話だと思った。ゆらりと猫みたいな奴だ。俺がはっとした時には既に一緒に食事をしているんだから。

「てかさあ」
「何、」
「春也でいいよって言ったじゃん。名前で呼んでよ」
「…はあ」
「お前だって秋でいいよって言ってたよな?もう面倒くさいから名前で呼び合おうよ。決まりね」
「…はあ」
どう呼んだって面倒くさくないと思うけど。そう言いたかったが口には出さなかった。名前で呼んでもいいか、と思ってしまったから。名前で呼ばれてみたい気持ちもなくはなかったし。なんて、一人言い訳を考えて馬鹿みたいだと我に返る。
春也は横でラーメンをすすっている。横目で盗み見をする自分に呆れつつ春也の横顔を見た。長めの髪が麺に入らないように押さえながら食べている。腕にはゴツめの腕時計をつけていてそれにより腕のか細さがより際立っていた。
やっぱり整った顔立ちだと思った。正直に言うと好みで、こんなことを考えている自分が不憫で死にたくなる。高校時代にも見た目だけでときめいたりしたことはあった。でもそいつから聞こえてくるのは彼女がどうだの性事情がどうだのって話ばかりで、俺とどうにかなる可能性など微塵もなかった。俺には恋なんて無駄なんだ。これといった恋愛経験はないけど、それでも分かる。俺は自分で自分を絶望させる行動をとることにした。

「なんで俺に声かけたんだ」
「ん?なんでって、いつもは一人で飯食ってるんだけど今日はたまたま秋が視界に入ったから。そっちも一人だったし声かけた」
「ふうん。てかいつも一人で食べてるんだ。意外だな」
「飯食うのに毎回一緒って友達はいないよ。彼女じゃあるまいし」

きた。こちらからふろうと思っていた話題だ。たまたまだけどあちらから出してきた。俺は男は女が好きという当たり前な事実を再確認して自滅しようと思っている。というかこんなかっこいいんだし彼女くらいいて当然だろうと思う。このまま話に便乗することにした。

「そういや春也は彼女、いるの?」
「彼女?」
「うん」
「……あー」
ごく普通の会話なのに変な間が生まれた。なんかしくじったかと思ったがそんなことはない。こんなのは他愛もない会話の一部なんだ。相手が俺がゲイだと思っている可能性もないんだから。
「俺彼女、いたことないんだよね」
「っはあ?!」
「うるさ!何?」
予想外の返答だった。こいつ何なの?どれだけ理想が高いんだ。これだけかっこよくて女が寄ってこないことなんてないってことくらい俺にだって分かる。なんとなく腹立たしい。
「お前どんだけ理想高いんだよ…」
「何で秋が怒ってるのか全く理解できないんだけど」
「怒ってねえよ馬鹿」
「ええ…?いや怒ってるよ声が」
「うるせえな」
「意味わかんねー!」
春也があはっと笑った。笑うと切れ長の目が更に細くなって可愛い。盗み見をする余裕がないくらい可愛くてまじまじ見つめてしまった。幸いなことにあちらは気づいていなかった。なんか、結局失敗したかも。なんでこの大学にしたのかとか、もっと無難な話題にしておけばよかった。結局今春也に彼女がいてもいなくても同じなんだ。俺に可能性は1%もない。

「秋は彼女いるの?」
「いないよそんなの」
「ふーん」
「好きな人は?」
「…いないよそんなの」
「ふーん。じゃあお互い寂しい同士だな!」
ラーメンを食べ終わった春也はなにやらバッグをごそごそとやりだした。スマホを取り出し俺に向ける。
「ライン教えてよ。これから寂しい時は慰め合おうぜ」
「…はあ」
「俺でよければ相手してあげるよ」
「…………」
なんだか調子が狂う。でも春也は大学で初めて出来た友達だ。これからも交流ができるなら嬉しくないはずはなく。もちろん変な期待はせず、友達として。自分の心の距離を保てばどうってことはない。慣れてるしそれが当たり前だと思ってこれまで生きてきたんだ。
無言のままおずおずとスマホを差し出すとあっというまに連絡先交換は終了した。

「ありがとう、何かあったら連絡するから」
「…うん」

何気ない。本当に何気ないとあるお昼のお話。




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