がんばり屋の森本くん

しお子

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五がんばり目~ヤンデレ君にご注意~

第57話 すれ違い

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森本が目を覚ます。

いつもと違う様子に気付き、部屋から飛び出した。

自分の体は何にも縛られておらず、衣服も整えられ完全に自由の身となっていたのだ。

「…涼真くん?」

真っ先に小野寺を探しにリビングへ来たが姿が見えない。

耳を澄ますと水が流れる音が聞こえてくる。
どうやら浴室でシャワーを使用しているようだった。

しかし今まで小野寺が無防備にシャワーを浴びているところなど見たことがなく、森本は恐る恐る浴室をノックした。

しかし反応はない。

もう一度ノックする。

やはり返事がなく、心配になりそっとドアを開けた。

「っ!?」

赤々しい液体が目に飛び込んでくる。
それは降り注ぐ水と共に排水口へと流れていた。

「………涼真くん!!!」

壁にもたれてうなだれている小野寺のそばへ駆け寄る森本。
床に転がる果物ナイフ。
手首からはまだ血が流れているように見えた。

「なんで…っ」

とにかく血を止めなければ、と自分のシャツを脱いで力いっぱい腕を縛りながら呟いた。

その後森本は急いで浴室から引っ張り出そうとするが、長身かつ意識のない人間を運ぶのは容易では無い。

「っ!………そうだ、救急車!」

小野寺をそっと寝かせ、スマホを探しにリビングへ向かうところで見知らぬ男が玄関から入ってきた。

「っ!?」

あまりにも理解を超えることが多く森本は目眩を覚える。

「あれ、森本空汰くんじゃん。
 涼真から解放されたんだ」

当の本人はへらへらとあまり感情の分からないテンションで話しかけてくる。

しかしよく見るとこの男に見覚えがあった。
初めてここに連れられた時のことが思い出され、とにかく不審者ではないだろうと森本はすがりついた。

「助けて!!涼真くんが死んじゃう!!」





浴室へ連れられ状況を察した颯人は、動揺や心配というより呆れた様子で頭を抱えていた。


ーったく…こんなことしたって何も変わらないのに


水を浴びて冷えた小野寺を起こして、暖めるよう抱きかかえる森本。
あまりの必死な姿にため息をつきながら颯人はスマホを手にした。
 
小野寺家のコネで使える病院に連絡し、小野寺はそこへ運ばれていった。





「命に別状はないってさ。
 ただ出血量が多くて貧血みたいなの起こしてるらしい」

病室のベッドで静かに眠っている小野寺のそばで立ち尽くす森本に、主治医から説明を受け戻ってきた颯人が言葉をかけた。

「………」

命に別状はないと言うが、それで良かったと思えない。

ガラッ

「涼ちゃん!!」

病室のドアが勢いよく開き、森本を押し退けて小野寺の元へ駆け寄る女性。

小野寺の母親だ。

「…あなた、何てことしてくれたの!?」

ヒステリックな声と、頬を叩く音が室内に響く。

「なんで止めてくれなかったの!?
 なんでこんなことになったの!!」

「………ごめんなさい」

「謝ってすむ問題じゃないでしょお!!」

森本が小さく謝罪をこぼすも、気が収まらない母親は森本の肩を強く掴み揺さぶって責める。

「やめて、母さん」

いつの間に目を覚ました小野寺の落ち着いた、しかし諌めるような声に母親の動きが止まる。

「涼ちゃん…!」

「空汰くんから手を離して」

「な、でも…あなたをこんな目に合わせたのは」

「離して。
 彼は僕の大切な友達だ」

初めて見る凛とした表情に気圧される母親。

「おばさん、一旦落ち着こう?」

颯人に肩を抱かれ、母親はやっと手を離した。
そしてそのまま病室から出ていく二人。



再び室内に静けさが戻る。



森本は俯きながら、口を開いた。

「…守ってくれてありがとう………君のこと守れなくて、ごめんね」

そんなセリフに小野寺は自分が森本の心を深く傷つける行為をしてしまったと気付き、やるせない感情に涙が溢れ出ていた。

「なんで…なんで空汰くんが謝るの?君は何も悪いことしていないのに!
 なんで君がお礼を言うの?………僕は、君に酷いことしかしていないのに…」

「そんなこと、ない」

拭っても拭っても、ボロボロと子供のように泣いてしまう小野寺を見て森本は困ったように笑う。

「それに、俺も涼真くんのこと騙してたんだ…」

そうして自分が小野寺に近付いた本当の理由を話す森本。

「…涼真くんを利用しようとした上に、結果的に君を一番傷つけて
 本当にごめん」

「そ、そんなのどうだっていいよ!
 だって理由がなんであれ君と一緒に居た時間、心の底から幸せだって感じてたんだ、きっとそれは嘘じゃないって分かるよ!」

「………ありがとう」

森本自身も自分のせいで小野寺を追い詰めてしまった自責の念でいっぱいだった。
それ故にそんな風に言ってくれる小野寺がとても純粋に感じて胸がつまる。

ガラッ

「…そろそろ、いい?」

病室のドアを開けたのは颯人だった。
本来であれば身内が優先されるべきところに時間を与えてくれたことに感謝しながら、森本は病室のドアへ向かう。

「空汰くん、僕…会いに行くよ。
 今度はちゃんと学校に」

「………うん。
 楽しみにしてる!」

森本は振り返って精一杯の笑顔を見せた。

たぶんもう会えない、
母親が許してくれないだろう。

転校だってありえる。

だからきっとこれが最後だ。









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