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1章
14.ゲーム&罰ゲーム ◆
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「いらっしゃい」
「お邪魔します」
お昼を過ぎて、なおも力に満ちた日差しの散乱が、開いた玄関扉から入ってきた。
美詠が準備を終えた直後の、予想よりもずいぶん早い時間だ。
美詠は扉に鍵をかけて下駄箱に手をついた。体がかがんで、自分より少し背の高い拓斗の顔を見上げる格好になった。
「スリッパ使う?」
「いや、いいよ。暑いから」
「はい」
美詠が頭を上げようとした時、トスンと物の当たる音がした。
廊下の奥のほうからだ。「なんだ?」と拓斗も振り向いている。
「カラスかも。たまに屋根にのっかってるの」
「へえ。うちでは聞いたことないな。みよみちゃんの家が好きなのか」
家にあがろうとした拓斗の首から石鹸の香りがこぼれた。
髪か、首筋か、シャツのえり元か、香りの元を美詠は目で追いかける。彼のハーフパンツは昨日と同じ紺だが、今日のシャツは陽を浴びた果実の甘酸っぱさを感じさせるオレンジ色だ。
爽やかだが生命力を感じる後ろ姿。まっさらだった家の中の熱気が彼によって塗り替わっていく。
「なに? どうしたの」
「んーん、たっくんが来たって思って」
「来たよ。みよみちゃんの家ってなんか気持ちいいよな」
「そう? ありがとう」
「それに今日も服が可愛いな」
花模様の薄ピンク色のTシャツを見ながら拓斗は言った。去年買ってもらった美詠のお気に入りの一着だ。
それに合わせた下はチェックのライトグレーのスカート。色もデザインもシャツの可愛さを引き立てる組み合わせ。
そのさらさら揺れるプリーツにそそられた手が、スカートの縁をとった。
「きゃっ」
服を褒められて、お礼を言いかけていた美詠は声をあげた。
「今びっくりしたね」と目の前の顔が笑っている。
「いきなりスカート触るから」
「シャツもこれも可愛いからさ。触り心地いいな」
「そう、ありが――」
スカートがめくられた。
反射的に美詠は手を下ろすが間に合わない。ショーツを見られた。
「パンツも可愛い。今日も白だ」
「やあん、もう、いきなり」
拓斗は美詠の下ろした手をつかんで体の脇へやると、スカートをもう一度めくりあげた。
「隠そうとしちゃってさ。昨日はいきなり自分でめくって見せたじゃん」
「もうそんなことしないもん」
「そういや、そうだぞ。もう俺以外に見せるなよ」
「うん。たっくんだけにしか見せないよ」
「えらい、えらい」
拓斗はスカートをめくったままお尻をなでた。
「やー、もー」
美詠は太ももをすり合わせる。
やりたい放題の顔が笑った。
「今度から俺は見たくなったらみよみちゃんのパンツ見るから、みよみちゃんはガードしちゃダメだよ」
「ええー他の人に見られたらどうするの」
「誰もいないときだよ。二人でいたら、みよみちゃんはスカートめくられるかもって、いつも覚悟しといて」
言いながら拓斗は迫った。
お尻に手を置かれたまま、ショーツも見られっぱなしで、美詠はまた太ももをすり合わせた。
彼のものになるとはこういうことだ。
「……うん、わかった」とひかえめにうなずくと、「よし」と返事があった。
「で、今日はどこで遊ぶの?」
「広いから昨日のお部屋だよ。テーブルにお菓子置いたから」
「おー、いいじゃん。行こう行こう」
お尻を抱く手が肩に移って、美詠はスカートをようやく元に戻してもらえた。
――――――――――――
客間は昨日と様子を少し違えていた。座椅子は背もたれが上がって向きも変わっている。
おしゃれな気品をただよわせていたガラスのローテーブルは、中央の平皿に色とりどりのお菓子を盛りあげられて楽しげだ。
お菓子以外にもいろいろなものが上にのっている。乳白色のポットにグラスが二つ、おしぼりも二つ。ウェットティッシュにゴミ箱。プレイを中断してほっぽったような携帯ゲーム機。座布団はテーブルをはさんで一つずつ。
「イイじゃん、イイじゃん、すげーイイじゃん」
拓斗は座布団を横並びに変えてくっつけた。「昨日みたいに隣がいいよ」と機嫌よく言って、「みよみちゃんも、ほら、座ろーぜ」と手招いた。
「う、うん」
まるで招かれた客のように美詠は座って小さくなった。
拓斗はさっそくおしぼりで手をふいている。
「みよみちゃん、会ってからずっと緊張してない? 昨日と全然違うじゃん」
「……してるかも」
「だよなー。飲み物もらうよ」
言うが早いか拓斗はポットの中身をグラスに注いで、二人の前に順に置いた。
しまった、と顔をあげた美詠に彼は軽く目配せして一口飲み、冷えた麦茶の風味を楽しんだ口で、間髪入れずに話しはじめた。
「俺さ、今朝、夢見たんだよ。みよみちゃんと泳ぐ夢」
「へえ?」
興味を示した美詠にまっすぐ向き直ってあぐらを組んだ彼は、「夢で海の中にいるんだ、広い海」と腕を大きく広げてみせた。
「俺たち手を握って一緒に泳いでんだよ。海の中はこの部屋みたいに明るくて、遠くのほうまで見えてんの。水っていう感じがなくて空飛んでるみたいに泳いでるんだ」
まるでこの客間で泳ぐかのように腕を動かしている。
「海の底を見たらプールよりずっと深いんだよ。体育館の天井から床を見たよりももっと深いんだ。底には海藻とか生えてて魚とか泳いでて――」
「うんうん」美詠はグラスを口に運んだ。自由に泳ぐ彼の姿が目に浮かぶ。
「でさ、海底のちょっと深くなったとこに何か光るものが見えるんだよ。何だろうって思うじゃん。だからそこまで潜って確かめたんだ」
「へえー、なんだったの?」
「白い宝石だった」
冒険譚の語り手は平皿からホワイトチョコレートをひとつ取って包み紙を剥いた。「ちょうどこのくらいの大きさで丸いやつ」と、つまんだチョコレートのボールを見せて続ける。
「これ持って帰りたいけど、しまう場所がなくてさ。みよみちゃんの水着ん中に入れちゃおうと思って――」
美詠の首もとにチョコレートが近づいた。
反射的に引きそうになった体を美詠はおさえて動かさなかった。
「けどやっぱりやめて、みよみちゃんの口の中に入れちゃったんだ。そっちのが落とさないと思って。……みよみちゃん、口開けて。はい、あーん」
「あーん」
「それ食べて」
「うん、おいしい~」
「よかったなー。でさ、帰ろうと思って上を見たら海面が遠いんだよ。そろそろ息やべーって思った」
「苦しかったの?」
「いや苦しくはないけど、夢だし、けどやべーって思ったんだよ。あせって俺、みよみちゃんの手を引っ張って泳いだんだ」
美詠は手をとられた。「うんうん」とうなずくと、拓斗は目線を上へ向け、美詠の手も少し持ち上げて、情熱的な語り口で続きを進めた。
「けど海面やっぱ遠いの。途中で、あ、これ死にそうだなって思って、必死になって泳いだ」
「うんうん!」
「そしたら速くなったんだよ、スピードが。すげー速さで海面が近づいて」
「近づいて!」
「俺たち海から飛び出した!」
「やった~!」
バンザイ!
握りあう手が大きく上がる。
「そしたらさ、海の外は暗くて……夜だったんだよ。海ん中は明るかったのに。……そういや、みよみちゃんは昨日の夜、空見た? 天の川が出てたよ。ああいう空でさー」
握手を解いて、拓斗は両手をキラキラとひらめかせた。
「昨日は見てないけどわかるよー! きれいだよねっ」
目の上できらめく手に美詠はうなずく。魔法のように天の川が見える。
「そうそう、きれいなんだよ。で、途中で泳ぐの速くなったじゃん? 海から飛び出した時に俺、自分の足を見たんだ。そしたら足が魚のヒレになってた」
「魚のヒレ? ……あ、人魚!?」
美詠は目を輝かせ、手を合わせた。
「えー、すごい! たっくん人魚になったんだ!」
「いや、金魚だった」
金魚。
「俺……金魚になってた……」
話に聞き惚れていた目が点になった。
点はやがて、じんわりと大きな円に広がって、ぐにゃりとゆがんで我に返った。
「~~~っっ!?!?」
必死に海面を目指す金魚。
彼女の手を引っ張る金魚。
天の川にきらめく金魚。
美詠は手で顔を隠してテーブルに伏せた。
お腹も同時に押さえた。しかし持たない。
「き、金魚ーーー! たっくんが金魚ーーー!」
「おかしいよな……海なのに金魚って」
拓斗は語る、曇った新月の晩のように暗い声で。
「ううん、そこじゃない、そこじゃないよ、たっくん……あはははははは」
「苦しそうじゃん、みよみちゃん」
「苦しい~……あははは……息が……はう」
「死ぬなよ。金魚になってまで助けてやったんだから。生きろ」
「や、やめ……やめて~~、死んじゃうから」
こみ上がるうねりはしばらくやまなかった。ようやくおさまって美詠は起きた。涙をふいた。
「おかえり」
「ただいまぁ」
「言っとくけど本当に見た話だからな」
念を押しながら拓斗はグラスを傾ける。
美詠もグラスをとって傾けた。
「んふっ。でもなんで自分が金魚ってわかったの」
「足がリュウキンの尾っぽだったんだよ。リュウキンわかる?」
「わかるー。きれいだよね」
「ああ、きれいだなー……、昔飼ってたよ。で、みよみちゃん、緊張は? もうしてない?」
「あ、してない」
「よかったなー」
「ありがとう」
「いいよ。みよみちゃんが緊張してると俺もするし」
拓斗はチョコレートを一枚取って口にいれた。ミルクチョコレートだ。
美詠はティッシュで鼻をふいてゴミ箱に入れた。
「でもたっくんは金魚じゃなくて、やっぱり人魚だったと思う」
「なんで?」
「かっこいいもん。尾っぽがきれいな人魚だったんだよ」
「そうかー、ありがとう。よし、もう一個チョコをあげよう。はい、あーん」
「あーん」
美詠は指ごとぱくりといった。ほおばりながら、舌を踊らせて笑う。
「んふふふふ」
「こら離せ」
「はっふんおゆひ、あめはう」
「やめろー、くすぐったい」
べろべろに舐められた指を回収して、拓斗はジト目を送りながらウェットティッシュでふきあげた。
ゴミ箱にそれを投げ込んだついでに彼はポケットからゴムボールを取り出してテーブルにのせる。シャツの色よりも濃いオレンジ色のボールだ。あぐらを組んだせいで、これが太ももを圧迫して、先ほどから気になっていたものだ。
「なぁにそれ?」
「じいちゃんに返し忘れたボールだなー。これ握ると手の健康にいいってさ。握っとく?」
「ううん、いらない。たっくん麦茶もっと飲む?」
「飲む」
今度は自分の番と美詠はポットから二人のグラスに継ぎ直した。
それを半分まで飲んで拓斗はテーブル端の携帯ゲーム機に興味を移した。
「ジョイキャッチじゃん。いいなあ」
「あなたをキャッチ。ジョイキャッチ」のCMで知られる人気機種だ。コントローラーが二つに分割するので、一台あれば二人で遊ぶこともできる。
「たっくんが来るまでやってたの。たっくんもゲームってやる?」
「やるよ。好きだよ。ジョイキャッチは持ってないけど」
「じゃあちょっとそれで遊ぶ?」
「うん、やろう」
美詠は体を伸ばしてゲーム機を取った。
腰を曲げて突き出たお尻を拓斗は取った。
「やあん。なんでー」
「お尻が可愛いから」
「手どかしてくれないと座れないよ」
「畳に寝転がってやってよ。俺は後ろから見るから」
「もう。そんなにお尻さわりたいの?」
「うん」
テーブルから離れて美詠はうつ伏せになる。すぐさまスカートに拓斗の手がもぐりこんだ。両手でショーツごとお尻をつかまれた。
「えええ、たっくん」
美詠はお尻をきゅっと締める。
するとスカートをまくられ、平手でぺちんと叩かれた。
「ああん」
「力ぬいて。やらかいのがいい」
「わかったからスカートもどしてえ」
「OK」
スカートの中で拓斗は手をもぞもぞと動かしている。親指をお尻の割れ目に置いて、おモチのかたまりをつかむかのように両手で双丘をこねくりまわしている。
食いこんでいくショーツから美詠はにぶい刺激を受けた。揉む手がショーツを何度も引っ張るものだから、お尻から離れた前のほうまで刺激が届いてしまっている。
美詠は動きそうになる腰をとどめることで精いっぱいになった。
するとお尻をすべった親指がきわどいところに入りこんで、美詠は腰を震わせた。お尻がビクンと持ち上がった。
それを境に拓斗の手は今までにも増して双丘を揉みこんだ。ショーツの脚ぐりに当てた親指を中に差しこんで、お尻の肌を直接さわった。その指でショーツを上に引っ張った。食いこみが割れ目に鋭く食いこんだ。
「画面ぜんぜん次にいかないじゃん」
「たっくんがお尻もんでるんだもん……」
「もむところ変えてあげるから」
スカートの中でお尻から腰へ手が移った。指はさらにお腹のほうまで行こうとしている。
しかし美詠はささやかに抵抗。腰骨を畳にぴったりくっつけた。
入りこむ余地を失って、指は腰を右往左往している。
「みよみちゃん、早くゲーム進めてよ」
「じゃあ手とめてー」
「とめないよ。進めなかったら、お尻の穴をさわるよ」
腰から引きあげた手が、腹いせのようにお尻の割れ目に指をもぐらせた。指の先端が少しずつ深みに入ってゆく。
「やぁん、わかったあ。わかったからそこはさわっちゃダメぇ」
美詠はお尻を締めようとしたが、また叩かれるので指の侵入を受けながらジョイキャッチの画面を切り替えた。
中断していたゲームが再生された。女の子と怪獣、そして南の島らしき場所の絵。のどかな雰囲気がただよう画面だ。
「おもしろそうじゃん。それやってたの?」
指は侵攻をやめて、お尻の割れ目から抜けて出た。手がふたたび腰をとる。
「うん、今このゲームね、イベント中なの。でも今日が九日目だからあきらめちゃった。明日で終わり」
「なにをあきらめたの?」
「欲しかったアバター。取れないの」
「ああ、イベント限定のやつ?」
ありがちな設定だ。事情を呑みこんだ拓斗は腰をなでまわすのをやめて、太ももの間に手を侵入させた。内側から外へ向かって圧をかける。
美詠は少しずつ脚を開かされながら「うん」と返事した。
「そのアバターってどうやって取るの?」
太ももがくさび形に開いて、ショーツの食いこみ部分が無防備にさらされた。
しかし拓斗の手はそこには触れず、太ももの内側を中心に脚の肌をなでている。
「6万ジュエル貯めるんだけど、8千足りないから買えなくて」
拓斗の手を気にしないふりを続けながら美詠は答えた。だがときどき脚が反応してピクッと力が入ってしまうのは避けられない。彼の目がそれを見逃すはずはない。当然楽しんでいるだろうと思われた。
「8千って大変なの?」
「今日がんばっても3千くらいだもん。でも二人ならもうちょっと稼げるから、たっくんが今やってくれたら次のイベントは楽かも」
「ふうん。次のイベントでそのアバター買えるの?」
「いつも違うの出てくるから買えないと思う」
脚の間に火照りを抱えつつ、美詠はちょっとためらいながらも拓斗を誘った。
「コレやらない?」
「やろうか。やりかた教えて」
拓斗はスカートから手を引き抜いた。自分の座布団を抱えて隣に寝そべる。
「ありがとー」
美詠は肩を寄せて二人の真ん中に画面を置いた。「イベントのミニゲームは簡単だからすぐできるよ。一番おもしろいのにするね」と言いながらコントローラーを操り、ミニゲームの一覧をスライドさせて、お気に入りのタイトルでカーソルを止めた。
『ミンちゃんのフルーツパーラー』
あなたはフルーツパーラーの店員さんです。
お客さんにたくさん売りましょう!
「おもしろそうじゃん」
「うん。私がミンちゃんやるから、たっくんは怪獣の店員さんやって。やり方はやればわかるから」
「わかった」
試しに二人で一回プレイした。
お客さんが注文した商品を、店員がレシピどおりに材料を組み合わせて作るゲームだ。ただし盛り付けが下手だと評価が下がる。制限時間内に二人で稼いだスコアがジュエルに変わる仕組みだ。
「だいたいわかった。でもこれってずっとやってれば8,000いけそうじゃん」
「一日に10回までしかできないの」
「そういうことか。今日はあと何回?」
「あと8回」
「二人でやったのに今ので500ジュエルか。たしかにきついなー」
「でしょ。だから気にしないでやろ」
「OK」
もう一度プレイしてみた。
店員は二人いるが、お互いが自分たちのお客さんの注文をこなす内容で、プレイ中に協力しあう要素は薄い。
またプレイ中はスコアの数字がわからないようになっている。ヒントになるのは二人のスコアの比率を示す棒グラフだけ。
ゲームが終わると結果画面に数字が表示される。今回のスコア比は美詠64%に対して拓斗36%だ。
合計スコアは560。だから今回の稼ぎも560ジュエル。
「みよみちゃん、ときどき客がハートマーク出してるけど、あれってなに?」
「えー……なんとなく? よくあるよ」
普段のゲーム内でもときどきキャラクターがハートのエモーションを出すが、それはゲーム内容とは無関係だ。それと同じハートがこのミニゲームにも出てくる。
「関係ないってこと?」
「うん。たぶん……」
「ふうん」
本筋ではないミニゲームにしてはよくできている。しかし操作自体は数パターンの作業を繰り返す単純な内容だ。
「次から二人で勝負しようか。スコアが高いほうが勝ちで」
提案、というよりは決定の口ぶりで拓斗は言った。
「別にいいけど、たっくん勝てないでしょ?」
結果の見えている勝負だ。単純作業のゲームとはいえ、今のスコアを安定して出せるようになるまで美詠は十回以上プレイしている。
「俺は今日初めてやるもんなー」
「うん」
「だから、みよみちゃんが俺に負けたら罰ゲーム」
「えっ、なにするの?」
にやりと現れた白い歯。口の端が上がっている。
「みよみちゃんの服を脱がすよ。罰ゲームのたびに一枚ずつ脱がして、お立たせさせて、身体を見るよ」
「ええーっ」
「みよみちゃん今日はキャミ着てないみたいだし、シャツとスカートとパンツで三回負けたら裸んぼうだから頑張って」
「ええ……なんで着てないのわかるの」
「さっき玄関で見えたから」
美詠はえり元を手でおさえた。下駄箱でかがんだときだ。
しかし拓斗の笑いかたでわかってはいたが、案の定“そういうこと”を彼はたくらんでいた。
ただ今回ばかりは美詠は彼をかわいそうに思った。向こうの思いどおりにはならないのだから。彼もそこはわかっているはずなのに、それでも勝負を吹っ掛けてくるのは、ひょっとすると何か理由があるのかもしれない。
美詠は少し慎重になって「私が勝ったときも何かほしい」とダメもとで保険をかけにいってみた。
うんうん、それはそうだと言わんばかりにうなずく拓斗の顔に勇気をもらい、「服着れるとか、勝った分で罰ゲームをなしにできるとか」と指を立てて提案。
却下された。
「服を着るのもガードするのもダメ。みよみちゃんは一回脱いだら俺が帰るまで着ちゃダメだから」
「ああん、ひどい」
「そのかわり、みよみちゃんが勝ったら俺に抱きついて顔にキスしていいよ」
「それ……たっくんがされたいだけじゃないの……」
「したくないなら何もなし。どうする? 何もしないか、俺に抱きついてキスするか」
「何もないのやだー。じゃあ私が勝ったら、たっくんに……抱きついて……」
キスするから……と、だんだん小さくなる声で美詠は答えた。
「よし、決まり。それから、みよみちゃんは裸んぼうになった後に負けたらもっと恥ずかしい罰ゲームね」
「えー、何するの?」
美詠はその内容を拓斗からヒソヒソ声で耳に告げられた。顔が一気に熱くなった。
「やだぁ……そんなの……」
「俺に勝てばいいだけだから大丈夫だよ。初めてこのゲームやる俺に負けるわけないじゃん、みよみちゃんが」
「そうだけど……」
「だから俺に負けたら恥ずかしいよね? 男子も女子も関係ないし、このゲーム」
「んっ、わかった!」
そこまで言われたら彼に同情的な気持ちも吹っ飛ぶというもの。
美詠の意地に火がついた。
「よし、やろう」
「うん」
二人の勝負が始まった。
「お邪魔します」
お昼を過ぎて、なおも力に満ちた日差しの散乱が、開いた玄関扉から入ってきた。
美詠が準備を終えた直後の、予想よりもずいぶん早い時間だ。
美詠は扉に鍵をかけて下駄箱に手をついた。体がかがんで、自分より少し背の高い拓斗の顔を見上げる格好になった。
「スリッパ使う?」
「いや、いいよ。暑いから」
「はい」
美詠が頭を上げようとした時、トスンと物の当たる音がした。
廊下の奥のほうからだ。「なんだ?」と拓斗も振り向いている。
「カラスかも。たまに屋根にのっかってるの」
「へえ。うちでは聞いたことないな。みよみちゃんの家が好きなのか」
家にあがろうとした拓斗の首から石鹸の香りがこぼれた。
髪か、首筋か、シャツのえり元か、香りの元を美詠は目で追いかける。彼のハーフパンツは昨日と同じ紺だが、今日のシャツは陽を浴びた果実の甘酸っぱさを感じさせるオレンジ色だ。
爽やかだが生命力を感じる後ろ姿。まっさらだった家の中の熱気が彼によって塗り替わっていく。
「なに? どうしたの」
「んーん、たっくんが来たって思って」
「来たよ。みよみちゃんの家ってなんか気持ちいいよな」
「そう? ありがとう」
「それに今日も服が可愛いな」
花模様の薄ピンク色のTシャツを見ながら拓斗は言った。去年買ってもらった美詠のお気に入りの一着だ。
それに合わせた下はチェックのライトグレーのスカート。色もデザインもシャツの可愛さを引き立てる組み合わせ。
そのさらさら揺れるプリーツにそそられた手が、スカートの縁をとった。
「きゃっ」
服を褒められて、お礼を言いかけていた美詠は声をあげた。
「今びっくりしたね」と目の前の顔が笑っている。
「いきなりスカート触るから」
「シャツもこれも可愛いからさ。触り心地いいな」
「そう、ありが――」
スカートがめくられた。
反射的に美詠は手を下ろすが間に合わない。ショーツを見られた。
「パンツも可愛い。今日も白だ」
「やあん、もう、いきなり」
拓斗は美詠の下ろした手をつかんで体の脇へやると、スカートをもう一度めくりあげた。
「隠そうとしちゃってさ。昨日はいきなり自分でめくって見せたじゃん」
「もうそんなことしないもん」
「そういや、そうだぞ。もう俺以外に見せるなよ」
「うん。たっくんだけにしか見せないよ」
「えらい、えらい」
拓斗はスカートをめくったままお尻をなでた。
「やー、もー」
美詠は太ももをすり合わせる。
やりたい放題の顔が笑った。
「今度から俺は見たくなったらみよみちゃんのパンツ見るから、みよみちゃんはガードしちゃダメだよ」
「ええー他の人に見られたらどうするの」
「誰もいないときだよ。二人でいたら、みよみちゃんはスカートめくられるかもって、いつも覚悟しといて」
言いながら拓斗は迫った。
お尻に手を置かれたまま、ショーツも見られっぱなしで、美詠はまた太ももをすり合わせた。
彼のものになるとはこういうことだ。
「……うん、わかった」とひかえめにうなずくと、「よし」と返事があった。
「で、今日はどこで遊ぶの?」
「広いから昨日のお部屋だよ。テーブルにお菓子置いたから」
「おー、いいじゃん。行こう行こう」
お尻を抱く手が肩に移って、美詠はスカートをようやく元に戻してもらえた。
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客間は昨日と様子を少し違えていた。座椅子は背もたれが上がって向きも変わっている。
おしゃれな気品をただよわせていたガラスのローテーブルは、中央の平皿に色とりどりのお菓子を盛りあげられて楽しげだ。
お菓子以外にもいろいろなものが上にのっている。乳白色のポットにグラスが二つ、おしぼりも二つ。ウェットティッシュにゴミ箱。プレイを中断してほっぽったような携帯ゲーム機。座布団はテーブルをはさんで一つずつ。
「イイじゃん、イイじゃん、すげーイイじゃん」
拓斗は座布団を横並びに変えてくっつけた。「昨日みたいに隣がいいよ」と機嫌よく言って、「みよみちゃんも、ほら、座ろーぜ」と手招いた。
「う、うん」
まるで招かれた客のように美詠は座って小さくなった。
拓斗はさっそくおしぼりで手をふいている。
「みよみちゃん、会ってからずっと緊張してない? 昨日と全然違うじゃん」
「……してるかも」
「だよなー。飲み物もらうよ」
言うが早いか拓斗はポットの中身をグラスに注いで、二人の前に順に置いた。
しまった、と顔をあげた美詠に彼は軽く目配せして一口飲み、冷えた麦茶の風味を楽しんだ口で、間髪入れずに話しはじめた。
「俺さ、今朝、夢見たんだよ。みよみちゃんと泳ぐ夢」
「へえ?」
興味を示した美詠にまっすぐ向き直ってあぐらを組んだ彼は、「夢で海の中にいるんだ、広い海」と腕を大きく広げてみせた。
「俺たち手を握って一緒に泳いでんだよ。海の中はこの部屋みたいに明るくて、遠くのほうまで見えてんの。水っていう感じがなくて空飛んでるみたいに泳いでるんだ」
まるでこの客間で泳ぐかのように腕を動かしている。
「海の底を見たらプールよりずっと深いんだよ。体育館の天井から床を見たよりももっと深いんだ。底には海藻とか生えてて魚とか泳いでて――」
「うんうん」美詠はグラスを口に運んだ。自由に泳ぐ彼の姿が目に浮かぶ。
「でさ、海底のちょっと深くなったとこに何か光るものが見えるんだよ。何だろうって思うじゃん。だからそこまで潜って確かめたんだ」
「へえー、なんだったの?」
「白い宝石だった」
冒険譚の語り手は平皿からホワイトチョコレートをひとつ取って包み紙を剥いた。「ちょうどこのくらいの大きさで丸いやつ」と、つまんだチョコレートのボールを見せて続ける。
「これ持って帰りたいけど、しまう場所がなくてさ。みよみちゃんの水着ん中に入れちゃおうと思って――」
美詠の首もとにチョコレートが近づいた。
反射的に引きそうになった体を美詠はおさえて動かさなかった。
「けどやっぱりやめて、みよみちゃんの口の中に入れちゃったんだ。そっちのが落とさないと思って。……みよみちゃん、口開けて。はい、あーん」
「あーん」
「それ食べて」
「うん、おいしい~」
「よかったなー。でさ、帰ろうと思って上を見たら海面が遠いんだよ。そろそろ息やべーって思った」
「苦しかったの?」
「いや苦しくはないけど、夢だし、けどやべーって思ったんだよ。あせって俺、みよみちゃんの手を引っ張って泳いだんだ」
美詠は手をとられた。「うんうん」とうなずくと、拓斗は目線を上へ向け、美詠の手も少し持ち上げて、情熱的な語り口で続きを進めた。
「けど海面やっぱ遠いの。途中で、あ、これ死にそうだなって思って、必死になって泳いだ」
「うんうん!」
「そしたら速くなったんだよ、スピードが。すげー速さで海面が近づいて」
「近づいて!」
「俺たち海から飛び出した!」
「やった~!」
バンザイ!
握りあう手が大きく上がる。
「そしたらさ、海の外は暗くて……夜だったんだよ。海ん中は明るかったのに。……そういや、みよみちゃんは昨日の夜、空見た? 天の川が出てたよ。ああいう空でさー」
握手を解いて、拓斗は両手をキラキラとひらめかせた。
「昨日は見てないけどわかるよー! きれいだよねっ」
目の上できらめく手に美詠はうなずく。魔法のように天の川が見える。
「そうそう、きれいなんだよ。で、途中で泳ぐの速くなったじゃん? 海から飛び出した時に俺、自分の足を見たんだ。そしたら足が魚のヒレになってた」
「魚のヒレ? ……あ、人魚!?」
美詠は目を輝かせ、手を合わせた。
「えー、すごい! たっくん人魚になったんだ!」
「いや、金魚だった」
金魚。
「俺……金魚になってた……」
話に聞き惚れていた目が点になった。
点はやがて、じんわりと大きな円に広がって、ぐにゃりとゆがんで我に返った。
「~~~っっ!?!?」
必死に海面を目指す金魚。
彼女の手を引っ張る金魚。
天の川にきらめく金魚。
美詠は手で顔を隠してテーブルに伏せた。
お腹も同時に押さえた。しかし持たない。
「き、金魚ーーー! たっくんが金魚ーーー!」
「おかしいよな……海なのに金魚って」
拓斗は語る、曇った新月の晩のように暗い声で。
「ううん、そこじゃない、そこじゃないよ、たっくん……あはははははは」
「苦しそうじゃん、みよみちゃん」
「苦しい~……あははは……息が……はう」
「死ぬなよ。金魚になってまで助けてやったんだから。生きろ」
「や、やめ……やめて~~、死んじゃうから」
こみ上がるうねりはしばらくやまなかった。ようやくおさまって美詠は起きた。涙をふいた。
「おかえり」
「ただいまぁ」
「言っとくけど本当に見た話だからな」
念を押しながら拓斗はグラスを傾ける。
美詠もグラスをとって傾けた。
「んふっ。でもなんで自分が金魚ってわかったの」
「足がリュウキンの尾っぽだったんだよ。リュウキンわかる?」
「わかるー。きれいだよね」
「ああ、きれいだなー……、昔飼ってたよ。で、みよみちゃん、緊張は? もうしてない?」
「あ、してない」
「よかったなー」
「ありがとう」
「いいよ。みよみちゃんが緊張してると俺もするし」
拓斗はチョコレートを一枚取って口にいれた。ミルクチョコレートだ。
美詠はティッシュで鼻をふいてゴミ箱に入れた。
「でもたっくんは金魚じゃなくて、やっぱり人魚だったと思う」
「なんで?」
「かっこいいもん。尾っぽがきれいな人魚だったんだよ」
「そうかー、ありがとう。よし、もう一個チョコをあげよう。はい、あーん」
「あーん」
美詠は指ごとぱくりといった。ほおばりながら、舌を踊らせて笑う。
「んふふふふ」
「こら離せ」
「はっふんおゆひ、あめはう」
「やめろー、くすぐったい」
べろべろに舐められた指を回収して、拓斗はジト目を送りながらウェットティッシュでふきあげた。
ゴミ箱にそれを投げ込んだついでに彼はポケットからゴムボールを取り出してテーブルにのせる。シャツの色よりも濃いオレンジ色のボールだ。あぐらを組んだせいで、これが太ももを圧迫して、先ほどから気になっていたものだ。
「なぁにそれ?」
「じいちゃんに返し忘れたボールだなー。これ握ると手の健康にいいってさ。握っとく?」
「ううん、いらない。たっくん麦茶もっと飲む?」
「飲む」
今度は自分の番と美詠はポットから二人のグラスに継ぎ直した。
それを半分まで飲んで拓斗はテーブル端の携帯ゲーム機に興味を移した。
「ジョイキャッチじゃん。いいなあ」
「あなたをキャッチ。ジョイキャッチ」のCMで知られる人気機種だ。コントローラーが二つに分割するので、一台あれば二人で遊ぶこともできる。
「たっくんが来るまでやってたの。たっくんもゲームってやる?」
「やるよ。好きだよ。ジョイキャッチは持ってないけど」
「じゃあちょっとそれで遊ぶ?」
「うん、やろう」
美詠は体を伸ばしてゲーム機を取った。
腰を曲げて突き出たお尻を拓斗は取った。
「やあん。なんでー」
「お尻が可愛いから」
「手どかしてくれないと座れないよ」
「畳に寝転がってやってよ。俺は後ろから見るから」
「もう。そんなにお尻さわりたいの?」
「うん」
テーブルから離れて美詠はうつ伏せになる。すぐさまスカートに拓斗の手がもぐりこんだ。両手でショーツごとお尻をつかまれた。
「えええ、たっくん」
美詠はお尻をきゅっと締める。
するとスカートをまくられ、平手でぺちんと叩かれた。
「ああん」
「力ぬいて。やらかいのがいい」
「わかったからスカートもどしてえ」
「OK」
スカートの中で拓斗は手をもぞもぞと動かしている。親指をお尻の割れ目に置いて、おモチのかたまりをつかむかのように両手で双丘をこねくりまわしている。
食いこんでいくショーツから美詠はにぶい刺激を受けた。揉む手がショーツを何度も引っ張るものだから、お尻から離れた前のほうまで刺激が届いてしまっている。
美詠は動きそうになる腰をとどめることで精いっぱいになった。
するとお尻をすべった親指がきわどいところに入りこんで、美詠は腰を震わせた。お尻がビクンと持ち上がった。
それを境に拓斗の手は今までにも増して双丘を揉みこんだ。ショーツの脚ぐりに当てた親指を中に差しこんで、お尻の肌を直接さわった。その指でショーツを上に引っ張った。食いこみが割れ目に鋭く食いこんだ。
「画面ぜんぜん次にいかないじゃん」
「たっくんがお尻もんでるんだもん……」
「もむところ変えてあげるから」
スカートの中でお尻から腰へ手が移った。指はさらにお腹のほうまで行こうとしている。
しかし美詠はささやかに抵抗。腰骨を畳にぴったりくっつけた。
入りこむ余地を失って、指は腰を右往左往している。
「みよみちゃん、早くゲーム進めてよ」
「じゃあ手とめてー」
「とめないよ。進めなかったら、お尻の穴をさわるよ」
腰から引きあげた手が、腹いせのようにお尻の割れ目に指をもぐらせた。指の先端が少しずつ深みに入ってゆく。
「やぁん、わかったあ。わかったからそこはさわっちゃダメぇ」
美詠はお尻を締めようとしたが、また叩かれるので指の侵入を受けながらジョイキャッチの画面を切り替えた。
中断していたゲームが再生された。女の子と怪獣、そして南の島らしき場所の絵。のどかな雰囲気がただよう画面だ。
「おもしろそうじゃん。それやってたの?」
指は侵攻をやめて、お尻の割れ目から抜けて出た。手がふたたび腰をとる。
「うん、今このゲームね、イベント中なの。でも今日が九日目だからあきらめちゃった。明日で終わり」
「なにをあきらめたの?」
「欲しかったアバター。取れないの」
「ああ、イベント限定のやつ?」
ありがちな設定だ。事情を呑みこんだ拓斗は腰をなでまわすのをやめて、太ももの間に手を侵入させた。内側から外へ向かって圧をかける。
美詠は少しずつ脚を開かされながら「うん」と返事した。
「そのアバターってどうやって取るの?」
太ももがくさび形に開いて、ショーツの食いこみ部分が無防備にさらされた。
しかし拓斗の手はそこには触れず、太ももの内側を中心に脚の肌をなでている。
「6万ジュエル貯めるんだけど、8千足りないから買えなくて」
拓斗の手を気にしないふりを続けながら美詠は答えた。だがときどき脚が反応してピクッと力が入ってしまうのは避けられない。彼の目がそれを見逃すはずはない。当然楽しんでいるだろうと思われた。
「8千って大変なの?」
「今日がんばっても3千くらいだもん。でも二人ならもうちょっと稼げるから、たっくんが今やってくれたら次のイベントは楽かも」
「ふうん。次のイベントでそのアバター買えるの?」
「いつも違うの出てくるから買えないと思う」
脚の間に火照りを抱えつつ、美詠はちょっとためらいながらも拓斗を誘った。
「コレやらない?」
「やろうか。やりかた教えて」
拓斗はスカートから手を引き抜いた。自分の座布団を抱えて隣に寝そべる。
「ありがとー」
美詠は肩を寄せて二人の真ん中に画面を置いた。「イベントのミニゲームは簡単だからすぐできるよ。一番おもしろいのにするね」と言いながらコントローラーを操り、ミニゲームの一覧をスライドさせて、お気に入りのタイトルでカーソルを止めた。
『ミンちゃんのフルーツパーラー』
あなたはフルーツパーラーの店員さんです。
お客さんにたくさん売りましょう!
「おもしろそうじゃん」
「うん。私がミンちゃんやるから、たっくんは怪獣の店員さんやって。やり方はやればわかるから」
「わかった」
試しに二人で一回プレイした。
お客さんが注文した商品を、店員がレシピどおりに材料を組み合わせて作るゲームだ。ただし盛り付けが下手だと評価が下がる。制限時間内に二人で稼いだスコアがジュエルに変わる仕組みだ。
「だいたいわかった。でもこれってずっとやってれば8,000いけそうじゃん」
「一日に10回までしかできないの」
「そういうことか。今日はあと何回?」
「あと8回」
「二人でやったのに今ので500ジュエルか。たしかにきついなー」
「でしょ。だから気にしないでやろ」
「OK」
もう一度プレイしてみた。
店員は二人いるが、お互いが自分たちのお客さんの注文をこなす内容で、プレイ中に協力しあう要素は薄い。
またプレイ中はスコアの数字がわからないようになっている。ヒントになるのは二人のスコアの比率を示す棒グラフだけ。
ゲームが終わると結果画面に数字が表示される。今回のスコア比は美詠64%に対して拓斗36%だ。
合計スコアは560。だから今回の稼ぎも560ジュエル。
「みよみちゃん、ときどき客がハートマーク出してるけど、あれってなに?」
「えー……なんとなく? よくあるよ」
普段のゲーム内でもときどきキャラクターがハートのエモーションを出すが、それはゲーム内容とは無関係だ。それと同じハートがこのミニゲームにも出てくる。
「関係ないってこと?」
「うん。たぶん……」
「ふうん」
本筋ではないミニゲームにしてはよくできている。しかし操作自体は数パターンの作業を繰り返す単純な内容だ。
「次から二人で勝負しようか。スコアが高いほうが勝ちで」
提案、というよりは決定の口ぶりで拓斗は言った。
「別にいいけど、たっくん勝てないでしょ?」
結果の見えている勝負だ。単純作業のゲームとはいえ、今のスコアを安定して出せるようになるまで美詠は十回以上プレイしている。
「俺は今日初めてやるもんなー」
「うん」
「だから、みよみちゃんが俺に負けたら罰ゲーム」
「えっ、なにするの?」
にやりと現れた白い歯。口の端が上がっている。
「みよみちゃんの服を脱がすよ。罰ゲームのたびに一枚ずつ脱がして、お立たせさせて、身体を見るよ」
「ええーっ」
「みよみちゃん今日はキャミ着てないみたいだし、シャツとスカートとパンツで三回負けたら裸んぼうだから頑張って」
「ええ……なんで着てないのわかるの」
「さっき玄関で見えたから」
美詠はえり元を手でおさえた。下駄箱でかがんだときだ。
しかし拓斗の笑いかたでわかってはいたが、案の定“そういうこと”を彼はたくらんでいた。
ただ今回ばかりは美詠は彼をかわいそうに思った。向こうの思いどおりにはならないのだから。彼もそこはわかっているはずなのに、それでも勝負を吹っ掛けてくるのは、ひょっとすると何か理由があるのかもしれない。
美詠は少し慎重になって「私が勝ったときも何かほしい」とダメもとで保険をかけにいってみた。
うんうん、それはそうだと言わんばかりにうなずく拓斗の顔に勇気をもらい、「服着れるとか、勝った分で罰ゲームをなしにできるとか」と指を立てて提案。
却下された。
「服を着るのもガードするのもダメ。みよみちゃんは一回脱いだら俺が帰るまで着ちゃダメだから」
「ああん、ひどい」
「そのかわり、みよみちゃんが勝ったら俺に抱きついて顔にキスしていいよ」
「それ……たっくんがされたいだけじゃないの……」
「したくないなら何もなし。どうする? 何もしないか、俺に抱きついてキスするか」
「何もないのやだー。じゃあ私が勝ったら、たっくんに……抱きついて……」
キスするから……と、だんだん小さくなる声で美詠は答えた。
「よし、決まり。それから、みよみちゃんは裸んぼうになった後に負けたらもっと恥ずかしい罰ゲームね」
「えー、何するの?」
美詠はその内容を拓斗からヒソヒソ声で耳に告げられた。顔が一気に熱くなった。
「やだぁ……そんなの……」
「俺に勝てばいいだけだから大丈夫だよ。初めてこのゲームやる俺に負けるわけないじゃん、みよみちゃんが」
「そうだけど……」
「だから俺に負けたら恥ずかしいよね? 男子も女子も関係ないし、このゲーム」
「んっ、わかった!」
そこまで言われたら彼に同情的な気持ちも吹っ飛ぶというもの。
美詠の意地に火がついた。
「よし、やろう」
「うん」
二人の勝負が始まった。
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