【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 収穫祭、領主家は早朝から忙しい。

 クラウスさんはエールを受け取りに向かい、マーサさんとフィーネとレンは、カブやポテトのグリルといった簡単な料理を大量に作る。
 僕は会場の準備をするために、教会で長テーブルやベンチを借りて広場に並べた。

 兄上たちが座る貴賓席や、エールと料理の配膳場所を作ったら、石組みのかまどで大鍋を火にかけ、干し肉やポテトなどを入れて煮る。
 東北各地で見た芋煮会みたいだ。

 やがて広場に村人が集まると、注目の中、兄上のエスコートでマリアが壇上に立った。澄み切った秋の空に鈴を鳴らしたような声が響く。

「シュガー村の皆さん、おはようございます。まずは今年の豊穣の喜びに、慈悲深き六柱の女神様たちへ感謝の祈りを捧げましょう」

 マリアが胸の前で手を組んで静かに祈りを捧げると、みんなも目を瞑り頭を下げた。

「ありがとうございます。本日こうして収穫祭を迎えられたのも、皆さんのお陰です。一年間の感謝の印として、心ばかりではありますがお酒とお料理を用意しました。大切な家族や友人と大いに飲んで食べて楽しんでください」

 祭りの始まりはマリアの挨拶から。
 村人から拍手と歓声が上がる。

「「「うおー、マリアンヌ様ー!」」」
「「「マリアンヌ様ー!」」」

 うおー! 練習通り完璧に言えたー!
 みんなから拍手喝采を受ける勇姿を僕はこの目に焼き付けた。さすが自慢の妹マリア、初めての大役よく頑張った、感動した。

 感涙する僕はエールと焼き芋を配る係。
 次々に差し出される村人持参のマイカップにエールを注ぎ、壺焼きでじっくり焼いたサツマイモの焼き芋を配る。一見すると地味な裏方の雑用に見えるが、まあその通り。
 一方、フィーネたちはーー。

「ねぇフィーネちゃん、これはなあに?」
「初めて見る野菜だな」

「こちらはハルト様が丹精込めて作られた、サツマイモといいます。甘くて美味しい焼き芋をぜひ召し上がってみてください。
 それでもしよかったら、来年からハルト様の農業改革にご協力ください。頑張り屋さんのハルト様を、どうかよろしくお願いします」

 選挙期間中に堂々と賄賂を渡す運動員みたいだ。なんだかすごく罪悪感を感じる。

「レンちゃん、スープちょーだい」
「あたしもあたしもー」
「うん、待ってて。大盛りにしてあげるから、来年からハルト様の言うこと聞いてね」

 その言い方は僕がすごく嫌な奴にならない?
 選挙戦略で子供を使う人はいたけどさ。

 村の人気者のフィーネとレンには、この機会に新しい農作物をアピールしてもらって、来年の生産者募集に繋げようと思ったのに。なぜか僕の好感度が下がりまくってる気がする。

 昨夜の話し合いで、領都への出店は再来年の夏頃を予定していると聞いた。
 アルヌの双壁のボルドさんたちに料理を教えるという交換条件で、シュガー村の食材を店で使ってもらって宣伝するんだ。
 販売と宣伝で一挙両得。

 飲食店に野菜を直接卸せるとなれば、問題となるコストは輸送費ぐらいで、それさえクリアできれば一定の利益を見込めるはず。あとは営業を頑張って取引先を増やしていけばいい。

 ただし、飲食店へ安定して野菜を出荷するとなると、村の農作物の生産量を増やすための農業改革が必要で、来年が勝負の年になる。

 それにはまず、村のみんなに美味しいサツマイモやポテトを味わってもらって、僕の教えるやり方に興味を持ってもらうこと。いずれは積極的に協力してもらうことが重要だと思うんだけどね。
 今のところ不安しかないや、あはは。

 村人たちが広場に入れ替わり立ち替わりする中、無心で働く僕たちに休みはない。
 用意したエールは、ほとんど午前中に飲み干しちゃって空の樽が積み上がってる。
 みんなどれだけ飲むの?
 シュガー村の貧しさの一端は、このイベントにあるんじゃないだろうか?

 壺を二個体制にして焼く焼き芋も、一度に二十個が限界だから時間がかかる。だから樽のエールも壺の焼き芋も、途中からこっそり魔法で増やしてきた。
 村の財政は僕が守らなきゃ。

「こんにちは、ハルト様」
「はい、カップを貸してくださいって、あ! アルヌの双壁の皆さん、お久しぶりです」

 声をかけてきたのは、大盾と斧を背負った見上げるほど体の大きな熊獣人の戦士。赤髪短髪の男性はハンターのボルドさんだ。

「その節はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」

 その隣でご丁寧に腰を折って頭を下げてくれたのが、長い杖をついた水の魔導士。
 確かレーヌさんだったかな。
 ウェーブがかかった長い青髪をポニーテールに結んだ背の高い綺麗な人だ。

「元気そうで良かった」
「はい、お陰様で……」

 えっと、黒髪ボブショートで猫獣人の拳闘士さんの名前、名前は……あ!

「クロエさんにもまた会えて嬉しいです」
「うん、私も」

 前はもっと無表情だった気がする。
 それにしても、自分以外の黒髪の人を見ると親近感が沸くね。そう思ってクロエさんを見ていたら、彼女の後ろからひょこっと金髪ツインテールを揺らして女の子が出てきた。
 小柄で兎耳の兎獣人。
 垢抜けた感じで、髪をツインテールにしてる女の子を久しぶりに見た気がする。弓矢と短剣の装備からしてパーティーの斥候かな。

「わあー、本当に黒目黒髪なんだー」
「え? ああ、はい」

 不意に顔を覗き込まれてちょっと驚いた。
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