【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

102 惨劇の演劇

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 場所は裏庭、鳥小屋の前。

 こっそり屋敷を抜け出した僕たちは、緊急上演を前に円陣を組む。
 演目は悲劇なので、いるだけで癒されちゃうルーナとヒヨコたちはお留守番。

「じゃあ最後にもう一度確認するよ。最初はマリアの悲鳴から、大きな声でね」
「はい、頑張ります」
「続いてニワトリたちが大きく鳴いて」
「「「クェクェ」」」

 とくに懐いている十羽を選抜した。

「よし。兄上とクラウスがモンガー徴税官たちを引き連れてきたら、レン」
「誰も近づかせないようにする」
「うん、任せたよ」

 念のために麻紐を張った。
 嘘がバレないようにね。

「マリアは?」
「座って泣きます。涙は女の武器なのです」

 うん? 誰に教わったのかな。

「ニワトリたちは横たわって、僕が合図をするまで絶対に動かないように」
「「「クェクェ」」」
「みんなが揃ったら僕が状況を説明する。そうしたらフィーネのセリフだよ」
「はい、ぶっ殺……ぶっ殺……ぶっ殺……」
「フィーネ、緊張してる?」
「だ、大丈夫です」

 フィーネの演技が決め手だからなあ。
 ダメそうなら、なんとかフォローしよう。

「じゃあ、小声で。ユカさんとニワトリたちと村の将来を守るために頑張ろー!」
「「「おー!」」」
「「「クェー!」」」

 鳥小屋の前に十羽のニワトリ、その前に剣を手にしたフィーネ、真ん中に僕とマリア、一番前に丸盾を手にしたレンが分かれて立った。
 輸送用の鳥かごは無造作に転がしてある。

「よし。マリア、始めよう」
「はい!」

 マリアは胸一杯に息を吸い込むと、目一杯大きな声で叫んだ。それを合図にニワトリたちが雄叫びと鳴き声を上げる。

「キャーッ!」
「トーテンコーウッ!」
「「「クェーッ! クェーッ!」」」

「おー、みんないい感じ。ニワトリたちは順番に鳴き声を上げて死んでね。光壁を展開して音は聞こえなくなるから安心して。マリアは座って、フィーネは興奮した様子で肩で息をして」
「は、はい!」

 ほどなくして兄上とクラウスさんを先頭に、モンガー徴税官一行が走って来た。後ろからフィールド家の騎士や村のみんなもやって来る。
 よーし、頑張るぞー。

「ハルトー! 何事だー!」
「兄上ー! ニワトリが! ニワトリたちが突然襲ってきたんです! 僕とマリアがかごへ入れようとしたら、こいつら僕たちに襲いかかってきたんです!」
「あーん、あーん、痛いよー」

 僕とマリアの顔や服、レンの丸盾や横たわったニワトリには、べったりと赤い血が。
 まさに死屍累々の惨状。
 駆け付けたみんなの足が止まり、青ざめた顔で言葉を失う。そしてみんなの視線は自然と立ち尽くすフィーネに集まった。
 鮮血に染まったエプロンに血濡れの剣を手にした少女の姿は、視覚的に衝撃が大きい。
 しかも鬼気迫る表情、すごいよフィーネ。

「こいつら、育ててやった恩を忘れて僕とマリアに襲いかかってきたんですよ! だから僕がフィーネに命じたんです!」

 さあ、フィーネのセリフだよ。
 あれ? 入ってこない。

「だから、僕がフィーネに命じて……フィーネに命じてこいつらを!」
「ぶっ殺してやりましたーッ! 私がこの鳥ヤロウどもをぶっ殺してやりましたーッ!」

 ブンッ! と剣を振ると、地面にビシャ! と赤い血糊が飛んだ。ヤロウはアドリブだね。九割雌だけど迫力があっていいと思う。
 みんなドン引きして一歩下がったもん。

 後退るみんなとは反対に、モンガー徴税官は張った麻紐を押し切ってふらふらと前に出てきた。レンが立ちはだかると、へなへなと腰が抜けたように座り込む。

「私の金が……5,000万が、死んだ……」

 私の金?
 臣下の騎士がモンガー徴税官を抱き起こす。

「閣下、お気を確かに。裁判はいかがされますか?」
「裁判? 裁判なんぞ、もうどうでもいい……とんだ無駄骨だった……」

 魂が抜けたようになったモンガー徴税官は、やる気を無くして宿へ帰って行った。
 僕としては200万リペの支払いでもうちょっとやり合うつもりだったから、なんだか拍子抜けだけど。あちらが退いてくれるならいいか。

 結局、裁判は残った文官が引き継ぎ、棒金貨は若い騎士の一人が落としたものだと名乗り出た。なんでも大事おおごとになってしまい、すぐに言い出せなかったそうだ。
 いかにも気弱そうな若者で、玉のような汗をかきながら話す内容はしどろもどろ。
 宮仕えは大変だなあーと、場を包む共感性で不思議な一体感が生まれた。馬鹿らしくて追及する気も起きない。
 
 そして、アベル兄様の提案でユカさんが30万を丁重に叩き返して決着。すべてなかったことにするということで合意を得た。
 あちらとしても、貴重なニワトリを失った理由が自分たちのせいであると世間に吹聴されるのを恐れているのだろう。終始、責任逃れの姿勢を崩さずに、そそくさと宿へ帰って行った。

「ふぅ、なんとかなりましたね」

 僕は椅子に体を預ける。静けさを取り戻した食堂には兄上とクラウスさんの三人だけだ。

「ああ。しかし、さっきのは驚いたぞ。ハルトもマリアも怪我はしてないんだな?」
「はい。これはベニバナという花からできる赤い粉と、ハチミツを混ぜたもので血糊といいます。ニワトリは僕の部屋に避難させました」

 使ったのは食紅の赤と緑とハチミツ。
 頭に巻いた包帯も赤く滲ませてある。

「まったく、お前は頼りになる弟だよ」
「兄上やクラウスが助けてくださったからですよ。クラウスとマーサの演技には驚きました」
「それは俺も同感だな」

 兄上と二人でクラウスさんを見やる。

「恐れ入ります。若い頃に少しばかり役者をやっておりましたので」
「そうなんだ! なるほど納得したよ」

 イケオジだし、死ぬほどモテただろうな。
 後でマーサさんから昔話を聞いてみよう。

「ふふ。ところでアベル様」
「うん?」
「宿屋の方はいかがいたしましょう?」

 疲労の色が濃いユカさんは客室のベッドで休ませた。今はカインさんとミユカとレダンが付き添っているけど。無罪放免になったとはいえ、徴税官一行の顔も見たくないだろう。

「兄上、僕が行きます」
「大丈夫か?」 
「はい。なんとかします」
「それでは、わたくしもご一緒に参ります」

 そんなわけで宿屋へ向かうことになった。
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