おもいでにかわるまで

名波美奈

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第三章

第百五十六話

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そして水樹もまた、悲しみを引きずったままクラブへ行った。

「じゃ日にち決まったら連絡するね。」

地方大会が近い事もあり練習時間を超えて終了し、瞬介や仲間とグランドから途中まで一緒に歩いた。勇利は欠席で5年生になってからよく休む。勉強が大変なのだろうけれど、水樹には逐一知らされはしない。

瞬介達と試合用のシューズを買いに行く約束をしてから駐輪場に向かい、その時はずっと明人の事が頭から離れないでいた。

今朝、水樹が朝練を終えギリギリの時間に教室に入った時に明人と目が合わず、最近は穏やかな顔ばかりだったのでスンと血の気が引いた。それから席に着きもう既に朝の日課となっている事、自分の机の中を手探りで確認したのだった。

あれ・・・あ・・・あ・・・ない・・・。と水樹は大きな音も大きな動作も抑えながら何度か机の中を全部確認してみたけれど、やっぱり探している物はなかった。

明人が忘れたのか。振り向いて聞いてみようか。ただ、もし仮に朝一番で目が合って笑顔を見せてくれていたのならそれが出来たかもしれないけれど、つまりは勇気がなかった。所詮席が偶然前後になっただけの関係だった。

それでも水樹は十分意識しすぎて1日ずっと下を向いて放課後まで過ごし、それから二度目の奇跡も起こらずに席替えの結果あっけなく離れ離れとなった。水樹は帰り支度をしている明人に気付かれないようにそっと姿を確認すると、前によく見たとても無表情な冷たい顔をしていて、そして明人は誰よりも早く出ていった。

水樹は明人の冷たい顔が苦手で、もっと良くない事をあれこれと過敏に想像して萎縮した。そして事実と被害妄想の境界線を見つける為の積極的な行動も取らずに、何も語らないで消えていく背中を見送った。

それは、中途半端で曖昧な2つの気持ちを未だに共存させているのに、身勝手に悲しみだけを感じている事に対しての罪悪感のせいだ。過去3年分の勇利への大好きという思いは強過ぎて、過去を含めての自分を否定するようで簡単には切り捨てられないのに、それなのに明人との毎日の言葉の交換が楽しくてやめられなかった。

水樹には明人に理由を聞く資格ももっと近付きたいと望む資格もない。何もせずに黙って受け入れる。毎日とても楽しかった。ありがとう。と感謝の気持ちを持った。

遅くなったな・・・。

水樹が確認すると、時刻は午後7時10分だった。
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