おもいでにかわるまで

名波美奈

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第三章

第百六十六話

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「ああ、あ、あ、すごーい。」

「やばいこれ楽しいっ。」

「今日一番の盛り上がりですねっ。」

ふわりひらりと舞い落ちる10個のパラシュートをはしゃぎながら追い掛けた。

「遠くまで飛んでないかな?ゴミになるから全部拾わないと。」

「わかりました。」

周辺を歩き、飛んでいったパラシュートを回収した。

「1、2、3・・・。あれ?9しかないですね。」

「ほんとだね。もう一回探しに行こう。」

そして二人で残りの一つを回収する為に、同じ場所も含めて歩いて回った。

「あ、あった。」

水樹が10個目のパラシュートを見つけ、それをそのまましゃがんで拾い上げた。

「えっ?」

「えっ?」

立ち上がった水樹の手のひらに載せられたパラシュートには、たった今祭りで売られていたおもちゃの指輪がぶら下がっていた。

「これ、さっきの夜店の・・・。どうして・・・。」

それは、パラシュートを拾うふりをして、明人がぶら下げておいたものだった。

「今日の俺から、あの頃の意地っ張りの水樹少年に届きますように。」

「えっ・・・。」

また見つめ合った。

「貸して。」

そしてなんとなくその指輪を水樹の薬指にはめようとした。

「あ、入らない。」

「あっ、すみません私骨太で。でもおもちゃだから先が開くと思います。」

十分細長いのに、そんな事気にする所は女の子なんだなっと明人は面白く、それから指輪を広げて水樹にはめて再び外した。

「これはあの頃の水樹君へのプレゼントだから俺が預かる。」

当然意味がわからずに水樹は不思議顔をし、そして残しておいた線香花火に火をつけた。

パチパチパチ・・・。小さなこの音はこの状況に陥った明人を意味深に追い詰め、そして最後の1本になる頃には、二人共何も話せなくなっていた。

苦しい・・・。愛しいのも苦しいのも面倒臭くて全部してこなかったから、明人はこの続きの事を知らない。

ごめんね立花さん・・・。と募ればもう明人は切なくてたまらなかった。

消えかけの線香花火の音なんて聞こえるわけがない。明人の心臓の音の方が大きくて・・・。

ポトッ。

花火の先の玉が落ち、世界がもう少しだけ闇になり・・・。

それから明人は、水樹に吸い寄せられるままにキスをした。
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