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疑惑
疑惑①
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ある日帰宅するとポストに茶色い封筒が入っていた、柳瀬さんはそう言った。中には2つ折りにしたコピー用紙が一枚、「信用してはいけない」と大きな文字が印刷されていた。入っている写真を取り出すと、安西さんと知らない男がホテルに入っていく所が写っていたそうだ。それを聞いて混乱した。
「そんな・・・」
心で否定していても数パーセントの疑いが胃にきりきりと響く。
「驚くよね。俺も写真を見た時は焦った。でも違ってたんだ」
「違うって、何がですか?」
「知り合いにグラフィックの仕事をしてる人がいて、その人に写真を見てもらったんだ。完全に合成写真だって言われたよ」
「合成・・」
「うん、それも素人が出来る範囲の加工だってさ。一時でも写真を信じた自分を恥じたよ」
柳瀬さんはやっと来たアイスコーヒーにミルクを入れた。先出しで頼んでいたのにもう10分は経っている。
「その封筒が入ってたのって、先週ですか?」
茶色い封筒には見覚えがある。横山さんが取りにきていたあれだ。
「いや、2か月くらい前だったかな。その頃から沙織の態度が変だったんだ。だから沙織の様子について橋詰さんから何か聞き出せたらってずっと考えてた」
柳瀬さんはミルクをかき混ぜ続けていた手を止めて小さく溜め息をついた。
「もっと早くに行動すれば良かったのに、こんな事になっちゃったよ」
「柳瀬さん」
「ん?」
「会社で何か変わった事はなかったですか?デスクに不審な物が置いてあったりとか」
「それってどういう意味?」
あの事を言うべきか迷った。
「お待たせしました」
出されたハンバーグステーキが鉄板の上で美味しそうな音を弾いている。目の前に置かれるのを見て話を中断した。
「美味しそうですね」
「うん。ここのハンバーグステーキが好物なんだ」
「同じのを注文して良かったです」
入社したばかりの時に安西さんとよく行ったあの洋食店を思い出す、楽しかった時間を切なく感じる。柳瀬さんは安西さんとここによく来ていたのかもしれない。とびきり美味しいものはできれば好きな人と食べたい。いつかの桃のタルトが頭に浮かんだ。
しばらく黙々とハンバーグステーキを食べた。思ったより味を感じない。味覚よりも思考の方が働く。私も柳瀬さんも食べ終わる事をゴールとしているようだった。早くあの事について話したい。
食べた食器をウェイトレスが下げに来た。注いでもらったお冷を口にして一呼吸置いて話を切り出した。
「話しておきたい事があるんです」
柳瀬さんは真剣な顔で座りなおして姿勢を整えた。
「柳瀬さんが封筒を受け取ったのと同じくらいの時期に」
隣のテーブルに男女3人の客が案内された。そのうちの1人が繋がっているソファの上にリュックを置いたので柳瀬さんは自分の鞄を反対側に移動させた。
「あれ、夕夏?」
聞き覚えのある声に反応し顔を見ると智香だった。
「すっごい偶然!なんでここにいるの?」
「なんでって、智香こそ仕事帰り?」
「ううん、今日は有休取って遊びに行ってたの。友達が埼玉からこっちに来る事になって」
「そうなんだ」
一緒にいる男の子が会釈をした、そして私の後ろの方を見て誰かに手を振った。智香も後ろを向いて手招きをした。黙って待ってくれている柳瀬さんに目で謝った。
「お邪魔してすみませんでした」
智香が笑顔で柳瀬さんに言った。また話が中断になったことに気をもんでお冷やを飲んだ。
「シュウヤ、この車のキー調子悪いぞ」
智香の友達がもう1人来た。
「まじ?親がそれ言ってた気する」
ふいにその友達の顔を見上げた。水が入ったグラスは表面に水滴を纏い、力の抜けた私の手から滑り落ちた。大きな音と共に大胆にこぼれた水を見て、皆が口をあんぐりさせている。智香がテーブルに転がるグラスを立ててウェイトレスを呼んだ。
「大丈夫?」
スカートに滴り落ちる水を気にも留めず私は一点を見つめた。
「そんな・・・」
心で否定していても数パーセントの疑いが胃にきりきりと響く。
「驚くよね。俺も写真を見た時は焦った。でも違ってたんだ」
「違うって、何がですか?」
「知り合いにグラフィックの仕事をしてる人がいて、その人に写真を見てもらったんだ。完全に合成写真だって言われたよ」
「合成・・」
「うん、それも素人が出来る範囲の加工だってさ。一時でも写真を信じた自分を恥じたよ」
柳瀬さんはやっと来たアイスコーヒーにミルクを入れた。先出しで頼んでいたのにもう10分は経っている。
「その封筒が入ってたのって、先週ですか?」
茶色い封筒には見覚えがある。横山さんが取りにきていたあれだ。
「いや、2か月くらい前だったかな。その頃から沙織の態度が変だったんだ。だから沙織の様子について橋詰さんから何か聞き出せたらってずっと考えてた」
柳瀬さんはミルクをかき混ぜ続けていた手を止めて小さく溜め息をついた。
「もっと早くに行動すれば良かったのに、こんな事になっちゃったよ」
「柳瀬さん」
「ん?」
「会社で何か変わった事はなかったですか?デスクに不審な物が置いてあったりとか」
「それってどういう意味?」
あの事を言うべきか迷った。
「お待たせしました」
出されたハンバーグステーキが鉄板の上で美味しそうな音を弾いている。目の前に置かれるのを見て話を中断した。
「美味しそうですね」
「うん。ここのハンバーグステーキが好物なんだ」
「同じのを注文して良かったです」
入社したばかりの時に安西さんとよく行ったあの洋食店を思い出す、楽しかった時間を切なく感じる。柳瀬さんは安西さんとここによく来ていたのかもしれない。とびきり美味しいものはできれば好きな人と食べたい。いつかの桃のタルトが頭に浮かんだ。
しばらく黙々とハンバーグステーキを食べた。思ったより味を感じない。味覚よりも思考の方が働く。私も柳瀬さんも食べ終わる事をゴールとしているようだった。早くあの事について話したい。
食べた食器をウェイトレスが下げに来た。注いでもらったお冷を口にして一呼吸置いて話を切り出した。
「話しておきたい事があるんです」
柳瀬さんは真剣な顔で座りなおして姿勢を整えた。
「柳瀬さんが封筒を受け取ったのと同じくらいの時期に」
隣のテーブルに男女3人の客が案内された。そのうちの1人が繋がっているソファの上にリュックを置いたので柳瀬さんは自分の鞄を反対側に移動させた。
「あれ、夕夏?」
聞き覚えのある声に反応し顔を見ると智香だった。
「すっごい偶然!なんでここにいるの?」
「なんでって、智香こそ仕事帰り?」
「ううん、今日は有休取って遊びに行ってたの。友達が埼玉からこっちに来る事になって」
「そうなんだ」
一緒にいる男の子が会釈をした、そして私の後ろの方を見て誰かに手を振った。智香も後ろを向いて手招きをした。黙って待ってくれている柳瀬さんに目で謝った。
「お邪魔してすみませんでした」
智香が笑顔で柳瀬さんに言った。また話が中断になったことに気をもんでお冷やを飲んだ。
「シュウヤ、この車のキー調子悪いぞ」
智香の友達がもう1人来た。
「まじ?親がそれ言ってた気する」
ふいにその友達の顔を見上げた。水が入ったグラスは表面に水滴を纏い、力の抜けた私の手から滑り落ちた。大きな音と共に大胆にこぼれた水を見て、皆が口をあんぐりさせている。智香がテーブルに転がるグラスを立ててウェイトレスを呼んだ。
「大丈夫?」
スカートに滴り落ちる水を気にも留めず私は一点を見つめた。
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