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疑惑
疑惑⑮
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「お邪魔しま~す」
2人の後ろについて部屋に戻るとタケルは笑みを増した。
「ハッピーバースデー夕夏さん!」
莉奈ちゃんはどこからともなくクラッカーを出して鳴らした。遥人君が隠し持っていたのはケーキの箱だった。
「私に?」
「はい!タケルさんが教えてくれたんです」
莉奈ちゃんは楽しそうに言った。
「前に免許証がテーブルにあったから、それを見て」
タケルがそんな細かなところを覚えている事が意外だった。身分証明書のコピーが必要になり引き出しから出したものの、忘れて家を出たことがあった。
「ありがとう・・」
「タケルさん、サプライズ成功っすね!」
受け取ったケーキ箱を冷蔵庫に入れ、タケルが作ってくれた夕飯を皆で食べた。以前の失敗作と比べるとまるで別人の料理だ。紙コップで飲むジュースは美味しく感じた。
タケルが、用意した料理は閉店後に遥人君のお父さんから習ったと言った。始めは遥人君に料理の練習を付き合ってもらうはずだったけど、話を聞いた遥人君のお父さんが一緒になって教えてくれたらしい。帰りが遅かったもうひとつの理由は、教えてもらったお礼に翌日の仕込みを手伝っていたからだった。
学生カップルはケーキを食べ終わると来週テストだからと言って帰っていった。タケルと後片付けをしながら店での事を色々と聞いた、ゆっくり話をしたのは久しぶりだ。
「この洗い物終わったら外行かない?」
「うん。今度こそ何か思い出せるかもしれない」
「・・・違うの。ただ散歩したいだけだから近くでいいよ。ごめんね、昨日は」
「夕夏は悪くないよ。言われても仕方ない」
「ううん、正直あれは八つ当たりだったから」
タケルは俯く私を覗き込んだ。
「元気になった?」
「うん」
「よかった。勝手に2人を呼んで気を悪くしてないかって、ちょっと心配してたんだ」
「そんな事ないよ。嬉しかったし、元気出た。ありがとう」
実は、私の誕生日は来月だ。
夜の電車に揺られて穏やかな気持ちでいる。朝はあんなに辛かったのに、同じ1日だという事が不思議に感じる。会社では嫌な事ばかり立て続けだったし、タケルが家にいない事に対して気付かないうちにストレスを感じていたように思う。散歩するのは近くでいいと言ったけど、タケルは神社の周辺を歩きたいと言った。心の奥で何かが細やかに刺さる、記憶を思い出せないのはタケルのせいではないのに。
いつまでここにいるつもり?―――――
そう言ってしまったけれど、もし全ての記憶が蘇りタケルが居るべき場所に帰っていく時、私はどんな気持ちで見送るんだろう?
そんな事を考えながら電車が白枝駅に着くのを待った
改札を出て以前と同じルートで民家の並ぶ路地を歩いて回った。肌寒さといい、虫の音色といい、真夏に来た時とは違っている。甘い匂いがする道にはキンモクセイが咲いていて、外灯に照らされるその小さな花を立ち止まって眺めたりした。もうすっかり秋だ。
さっきから後ろの人が気になる。ジーンズにパーカー、キャップ帽を深めに被った男が携帯を弄りながら時々立ち止まる。
「ねえ、タケル」
細いタケルの腕に自分の腕を絡めた。進行方向を示すように腕を引き寄せ、次の角で曲がることを目でこっそり伝えた。角を曲がる時に男が携帯電話のカメラをこっちに向ける仕草をした、間違いない。
角を曲がってすぐ電柱の陰に隠れた。予想通り男は同じ道に入ってきて足を止めた。辺りを見渡し私達の姿を見つけると慌てて踵を返した、私は前に出て男の腕を掴んだ。
「さっき写真撮りましたよね?」
深く帽子を被ったその顔を覗き込んで私は目を疑った。
「ナオ、さん?」
腕を話した、男は逃げださない。目には苦渋の色が窺える。何か言おうとしたのか、僅かに口を開いたと思えば言葉を飲み込み顔を背けた。そして唖然としたまま立ち尽くす私の前から去っていってしまった。
何も知らないタケルは遠ざかる男の後ろ姿を見ている。
「どういう事・・・?」
力が抜けて体が重くなっていく。
2人の後ろについて部屋に戻るとタケルは笑みを増した。
「ハッピーバースデー夕夏さん!」
莉奈ちゃんはどこからともなくクラッカーを出して鳴らした。遥人君が隠し持っていたのはケーキの箱だった。
「私に?」
「はい!タケルさんが教えてくれたんです」
莉奈ちゃんは楽しそうに言った。
「前に免許証がテーブルにあったから、それを見て」
タケルがそんな細かなところを覚えている事が意外だった。身分証明書のコピーが必要になり引き出しから出したものの、忘れて家を出たことがあった。
「ありがとう・・」
「タケルさん、サプライズ成功っすね!」
受け取ったケーキ箱を冷蔵庫に入れ、タケルが作ってくれた夕飯を皆で食べた。以前の失敗作と比べるとまるで別人の料理だ。紙コップで飲むジュースは美味しく感じた。
タケルが、用意した料理は閉店後に遥人君のお父さんから習ったと言った。始めは遥人君に料理の練習を付き合ってもらうはずだったけど、話を聞いた遥人君のお父さんが一緒になって教えてくれたらしい。帰りが遅かったもうひとつの理由は、教えてもらったお礼に翌日の仕込みを手伝っていたからだった。
学生カップルはケーキを食べ終わると来週テストだからと言って帰っていった。タケルと後片付けをしながら店での事を色々と聞いた、ゆっくり話をしたのは久しぶりだ。
「この洗い物終わったら外行かない?」
「うん。今度こそ何か思い出せるかもしれない」
「・・・違うの。ただ散歩したいだけだから近くでいいよ。ごめんね、昨日は」
「夕夏は悪くないよ。言われても仕方ない」
「ううん、正直あれは八つ当たりだったから」
タケルは俯く私を覗き込んだ。
「元気になった?」
「うん」
「よかった。勝手に2人を呼んで気を悪くしてないかって、ちょっと心配してたんだ」
「そんな事ないよ。嬉しかったし、元気出た。ありがとう」
実は、私の誕生日は来月だ。
夜の電車に揺られて穏やかな気持ちでいる。朝はあんなに辛かったのに、同じ1日だという事が不思議に感じる。会社では嫌な事ばかり立て続けだったし、タケルが家にいない事に対して気付かないうちにストレスを感じていたように思う。散歩するのは近くでいいと言ったけど、タケルは神社の周辺を歩きたいと言った。心の奥で何かが細やかに刺さる、記憶を思い出せないのはタケルのせいではないのに。
いつまでここにいるつもり?―――――
そう言ってしまったけれど、もし全ての記憶が蘇りタケルが居るべき場所に帰っていく時、私はどんな気持ちで見送るんだろう?
そんな事を考えながら電車が白枝駅に着くのを待った
改札を出て以前と同じルートで民家の並ぶ路地を歩いて回った。肌寒さといい、虫の音色といい、真夏に来た時とは違っている。甘い匂いがする道にはキンモクセイが咲いていて、外灯に照らされるその小さな花を立ち止まって眺めたりした。もうすっかり秋だ。
さっきから後ろの人が気になる。ジーンズにパーカー、キャップ帽を深めに被った男が携帯を弄りながら時々立ち止まる。
「ねえ、タケル」
細いタケルの腕に自分の腕を絡めた。進行方向を示すように腕を引き寄せ、次の角で曲がることを目でこっそり伝えた。角を曲がる時に男が携帯電話のカメラをこっちに向ける仕草をした、間違いない。
角を曲がってすぐ電柱の陰に隠れた。予想通り男は同じ道に入ってきて足を止めた。辺りを見渡し私達の姿を見つけると慌てて踵を返した、私は前に出て男の腕を掴んだ。
「さっき写真撮りましたよね?」
深く帽子を被ったその顔を覗き込んで私は目を疑った。
「ナオ、さん?」
腕を話した、男は逃げださない。目には苦渋の色が窺える。何か言おうとしたのか、僅かに口を開いたと思えば言葉を飲み込み顔を背けた。そして唖然としたまま立ち尽くす私の前から去っていってしまった。
何も知らないタケルは遠ざかる男の後ろ姿を見ている。
「どういう事・・・?」
力が抜けて体が重くなっていく。
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