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疑惑
疑惑⑰
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「ねえ、頼みたい事があるんだけど」
店に入って席に座るなり彼女は言った。
「頼み?」
「あなたカメラ持ってたわよね」
車の後部座席に置いてあるのを見ていたようだ。
「持ってるけど。景色でも撮りたいの?」
「違う、撮ってきてほしいの」
店員がおしぼりを差し出したのであゆみさんはそれを受け取り飲み物を注文した。俺はメニューを広げて適当に料理を注文した。店員が去っていくとあゆみさんは溜息をついてから話し始めた。
「これに詳細が書いてあるから、指定の通りに撮ってきて」
封筒を鞄から出して渡された。ハトメ紐で丁寧に閉じてある。
「帰ってから開けて」
「・・わかった」
封筒を隣の椅子に置いた。
「置き忘れないでよ」
「わかってる。そうだ、あゆみさんが前に作ってくれた肉じゃがのタッパーが家に置いたままだから、今度持ってくよ」
「それくらい返してもらわなくたっていいわよ。しょっちゅう作る訳じゃないんだし」
「俺は作ってほしいけど」
「彼女じゃあるまいし」
そうあってほしいと思う。
料理が運ばれてくるまでの間、俺は会社での出来事を話した、あゆみさんはいつものように聞いているのかわからない様子で時々目を合わせるだけだった。
「飯も食ったし、出ようか」
会計を済まして車に乗った。
「どこに連れてってくれるの?」
「着いてからのお楽しみ」
最近ハマっている洋楽のアルバムを再生して運転を始めた。前にこのアルバムを流していた時にあゆみさんが言ったひとことで俺はずっとこれをかけている。
この曲、好き―――
アコースティックギターの音色に乗せて叶わない想いを歌った曲だ。あゆみさんは和訳の内容を知らないと思う。明るい曲調のバラードで始まり、時々哀愁を帯びた和音が胸をつく。その瞬間に垣間見えるあゆみさんの何とも言えない横顔を俺は忘れる事ができない。
国道を30分ほど走り、暗い山道のカーブを繰り返し登っていった。敷地に車を停めるとあゆみさんは先にドアを開けて外に出た。
「どっちに行くの?」
「そこをまっすぐだよ」
土の地面に高いヒールは歩きにくいだろうと思いながら見守るように後ろを歩いた。
空気が澄んでいる。木がざわめく度あゆみさんのカールした髪が風になびいている。
少し歩くと点々と散りばめられた街の灯りが見え始めた。一望できるところまで出てあゆみさんは立ち止まった。
「星が見える」
「そうだね」
夜景を眺めながら、あゆみさんと出逢った日の事を思い浮かべた。
その日俺は帰宅してからテレビのサッカー中継に夢中で、放送が終わってからビールを買い足しにコンビニへ歩いた。途中、橋の手擦りに寄りかかっている女性を見つけた。酒に酔っている様子だとわかり放っておこうと通りすぎた。少し気になって振り返ると手擦りの向こうに顔を突き出して吐きそうになっていた。よく見ると足首にべっとりと血がついている。いくら酔っぱらいでも怪我をしてふらついているのを放っておくのはなんとなく気が良くなかった。夜遅いのもあって心配になり声を掛ける事にした。
店に入って席に座るなり彼女は言った。
「頼み?」
「あなたカメラ持ってたわよね」
車の後部座席に置いてあるのを見ていたようだ。
「持ってるけど。景色でも撮りたいの?」
「違う、撮ってきてほしいの」
店員がおしぼりを差し出したのであゆみさんはそれを受け取り飲み物を注文した。俺はメニューを広げて適当に料理を注文した。店員が去っていくとあゆみさんは溜息をついてから話し始めた。
「これに詳細が書いてあるから、指定の通りに撮ってきて」
封筒を鞄から出して渡された。ハトメ紐で丁寧に閉じてある。
「帰ってから開けて」
「・・わかった」
封筒を隣の椅子に置いた。
「置き忘れないでよ」
「わかってる。そうだ、あゆみさんが前に作ってくれた肉じゃがのタッパーが家に置いたままだから、今度持ってくよ」
「それくらい返してもらわなくたっていいわよ。しょっちゅう作る訳じゃないんだし」
「俺は作ってほしいけど」
「彼女じゃあるまいし」
そうあってほしいと思う。
料理が運ばれてくるまでの間、俺は会社での出来事を話した、あゆみさんはいつものように聞いているのかわからない様子で時々目を合わせるだけだった。
「飯も食ったし、出ようか」
会計を済まして車に乗った。
「どこに連れてってくれるの?」
「着いてからのお楽しみ」
最近ハマっている洋楽のアルバムを再生して運転を始めた。前にこのアルバムを流していた時にあゆみさんが言ったひとことで俺はずっとこれをかけている。
この曲、好き―――
アコースティックギターの音色に乗せて叶わない想いを歌った曲だ。あゆみさんは和訳の内容を知らないと思う。明るい曲調のバラードで始まり、時々哀愁を帯びた和音が胸をつく。その瞬間に垣間見えるあゆみさんの何とも言えない横顔を俺は忘れる事ができない。
国道を30分ほど走り、暗い山道のカーブを繰り返し登っていった。敷地に車を停めるとあゆみさんは先にドアを開けて外に出た。
「どっちに行くの?」
「そこをまっすぐだよ」
土の地面に高いヒールは歩きにくいだろうと思いながら見守るように後ろを歩いた。
空気が澄んでいる。木がざわめく度あゆみさんのカールした髪が風になびいている。
少し歩くと点々と散りばめられた街の灯りが見え始めた。一望できるところまで出てあゆみさんは立ち止まった。
「星が見える」
「そうだね」
夜景を眺めながら、あゆみさんと出逢った日の事を思い浮かべた。
その日俺は帰宅してからテレビのサッカー中継に夢中で、放送が終わってからビールを買い足しにコンビニへ歩いた。途中、橋の手擦りに寄りかかっている女性を見つけた。酒に酔っている様子だとわかり放っておこうと通りすぎた。少し気になって振り返ると手擦りの向こうに顔を突き出して吐きそうになっていた。よく見ると足首にべっとりと血がついている。いくら酔っぱらいでも怪我をしてふらついているのを放っておくのはなんとなく気が良くなかった。夜遅いのもあって心配になり声を掛ける事にした。
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