花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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赤⑦

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知り合いに探偵がいると嘘をついたのは頼むのに丁度いい相手の顔が浮かんだからだった。
後日、洋介には妻の顔がわかる写真付きの書面を用意させた。絶対に無くさないでくれと念を押されてむっとした、でもその苛立ちもすぐに和らいだ。あの女ももうすぐ妻とは呼ばれなくなる。
私は直人に連絡をして洋介から預かった封筒を渡した。洋介と面識がない直人は変に思っただろう、それでも翌週にはちゃんと写真を撮ってきた。中身を確認すると思った通りの事実が写っていた。こんなにうまくいくなんて、やっぱり洋介と私は結ばれる運命だったんだ。
洋介に電話して例の証拠写真が用意出来た事を伝えた。若い男と2人でホテルに入っていく写真、これは決定的な証拠だ。
写真を見た洋介は口を半開きにしていた。いよいよ洋介も決心する、苦しみ続けた私には大きな褒美が待っている。洋介は喉がつっかえたのか、ひとつ咳をしてから言った。
「探偵って、本当だったのか」
「まあね。洋介には離婚する権利があるのよ」
「離婚って、そんな簡単な事じゃないんだぞ」
「わかってるわよ。多少時間が掛かっても私は待ってるから。で、いつ言うの?」
「焦るなよ、タイミングを見て言うから」
「タイミング?充分な証拠があるのにまだ呑気な事言う訳?」
「色々あるんだよ」
家庭の事情とやらが気に入らない私は強く溜め息を吐いた。
「2週間。私が待てるのはそこまでだから」
「期限つけるのかよ」
洋介は嫌な顔をした。
「2週間以内に離婚するってあの女に言って。もし期限を過ぎたら私と一生会えないと思って覚悟して」
「お前さあ…」
「随分待った、これで覚悟見せてくれなかった私もう別れる」
笑ってごまかそうとするのを睨み付けると洋介は萎縮した。
「わかった、2週間以内には何とか切り出してみる。まずは言えばいいんだろ」
「もう絶対に裏切らないで」
洋介は返事をする代わりに私の手を握った。


見上げた桜の木は艶めいた葉を芽吹かせていた。春には多くの観光客で賑わうこの神社も花が散ると一気に静けさを取り戻す。子供の頃はよくここへ来て1人遊んでいた。大人になっても時々来るのは決まって気が落ち着かない時だ。ここが恋愛祈願の神社だと知ったのは高校に入ってからだった。周りの女子生徒達が“結び桜”を話題にしているのを聞いて、くだらないと思っていた。私の母は桜が見頃になると必ず私と弟を神社へ連れて来た。これが〇〇桜で、あっちが…と、毎回桜の種類について説明してくることにうんざりしていた。花屋を経営している両親は早朝から夜遅くまで仕事をし、ほとんど家の中には弟しかいなかった。
そんな過去を思い出しながら境内を歩き、風に揺らされる鈴の音を聞いて絵馬に目を止めた。親のいない家にいるのが嫌で神社に来てする事のひとつが絵馬に書かれた願いを読む事だった。ふと目にした1つの絵馬が気になった。
幸せな家庭を築けますように 幸仁・沙織 ―――
何に気を引かれたのかわからない。考えているうちにここで立ち止まっている事を馬鹿らしく思い始めた。

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