ハーレムルートと王子ルートが初めから閉じていて「まーじーかー!」と言っている神子は私と王子を見てハアハアしている

ネコフク

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王子の溺愛ぶりに神子天を仰ぐ

 私はマルナビス=ローズ、オーガスタ王国ローズ公爵家の次男で王太子であるルカソール=フォン=オーガスタ殿下の婚約者だ。

 この国では太陽神ソールに愛された太陽のような金髪に月のような銀眼の王子又は姫が誕生し、その対となる月神ルナに愛された銀髪金眼の者が三大公爵家ローズ、リリー、オーキッドから誕生する。

 その二人が王位を継ぎ伴侶となる。これは建国から続くものであり、次代の継ぎ手として産まれたのが太陽神ソールと月神ルナから名を賜った王太子ルカソール殿下と私マルナビスである。




「ルナおはよう。今日も君は言葉に出来ないほど美しいね」

 今日もわざわざ王宮から迎えに来たルカソール様はうやうやしく私の手を取り指先に口づけをする。流れるような優雅な動きは美貌と相まって周りをも魅了する。

「おはようございますルカソール様」

 微笑みながら挨拶するとルカソール様はうつむき肩を震わせたかと思うと私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「あールナ可愛い可愛い可愛い!美しいのに可愛いってどーゆう事⁉毎日ルナへの愛しいという気持ちが更新されてくんだけど、ルナは私をどうしたいの⁉やばーい、朝からたぎる!」

 顔や頭に口づけをしながら私の尻を揉む様は先ほどの殿下はどこいったと聞きたくなるくらい落差が激しい。

「ソール様、残念な感じになっていますよ」

「いーのいーの、こうなるのはルナにだけなんだから。私好み過ぎるかんばせなのがいけないんだよ!」

 ルカソール様が好きなこの顔は傾国と言われるほどの美しさを誇っている……らしい。
 らしいというのは周りが言うだけで自分にはよく分からないからなのだ。

 そもそも私は人の顔というものを名前と同じで他人を認識する手段としてしかみていない。あの顔は伯爵子息、あれは男爵令嬢というように顔を識別の意味でしか持たせていない私はどこかおかしいのだろう。

 ただ私にも好みはある。それがルカソール様だ。なのでこの決められている婚約は私にとって僥倖だ。それはルカソール様もそうらしく、初めてお会いした時から残念なこんな感じである。

「本日は花の神子様が学園に編入して来られる日ですよ。お出迎えに遅れてしまいます」

「んー分かってる。じゃあ馬車の中でルナを堪能させて」

 もうこの王太子殿下はどれだけ私を堪能するつもりなんでしょうね。毎日堪能されている躰は、堪能と言われただけではしたなく疼くようになってしまい、つい顔を赤くし潤んだ瞳でルカソール様を見つめてしまう。

「ああ……その顔を私がさせているかと思うと堪らないね」

 うっとりとするルカソール様の手に引かれ馬車に乗ると学園に着くまでの20分、淫らな殿下の手によって感度を高められ2人で欲望を吐き出し浄化魔法と清浄魔法をかける。それが毎朝のルーティンだ。

 学園に着き馬車を降りいつもなら校舎へ向かうのだが、今日は花の神子様が我が校へ編入されてくる日。生徒会長であられるルカソール様と他の生徒会メンバーと共にお迎えする為に馬車降り場で待機する。
 生徒会のメンバーには高位貴族である副会長のリリー公爵令息のチェルト様と文化部総括のオーキッド公爵令嬢のオードリー嬢、運動部総括兼王太子殿下護衛のロータス侯爵令息のカイト様、そして会計の私マルナビス=ローズが所属している。

「おはようございます殿下、マルナビス様」

「おはよう」

「チェルト様、オードリー嬢、カイト様おはようございます」

「今日もお二人共麗しいですわね」

「ええ、でもルカソール殿下、マルナビス様の色気が凄いので朝からあまり可愛がられませんようお願いします」

「目の毒すぎる」

「ああすまない、ルナがあまりにも可愛すぎて自制が利かなくてね。ほら、こうすれば見えないだろう?」

 そう言ってルカソール様が私を抱き込んで周りから見えなくするのだが、私もルカソール様の胸元しか見えないのはいかがなものか。とりあえず匂いでも堪能しておくか。

「ルナ、なーに可愛いことしてるの」

 すんすんと匂いを嗅いでいると、私を抱き締めている腕に力が入り髪に口づけを落とし続けるルカソール様に、皆んなが呆れているのが手に取るように分かる。「溺愛しすぎ」と声が聞こえてきたけど私もそう思う。

 そうしているうちに教会の馬車が停まり、神官様の手を取り花の神子様が降りてきた気配がする。

 気配がするとは私がいまだルカソール様に抱き込まれているからである。

「ルカソール王太子殿下、生徒会の皆様おはようございます。こちらが花の神子のユーリカ様です」

 神官様が花の神子様であるユーリカ様を紹介しているけれど私からは見えていない。というかルカソール様も見てないと思われる。
 だって頭の口づけが止まってないからな!

「王太子殿下……?」

 神官様の戸惑いの声にさすがに不味いと思い、ぺちぺちとルカソール様の胸を叩くと、ぐうっ、という唸り声と共に口づけが止み腕の力が緩む。これ幸いと体を反転させ神官様と花の神子様の方へ向き直る。そこには金髪茶目の見目が良い少女が困惑した表情で佇んでいた。

 うん、何か申し訳ない。でもこれがルカソール王太子殿下の通常運転なので気にしないでほしい。

 このオーガスタ王国は花の王国とうたわれていて王都は「花の都」と言われるくらい年中花が咲き乱れている。国が一年を通して温暖な気候なこともあり花の生産が半分以上を占めており、切り花や鉢植え以外にも香水や化粧品から食用まで多岐に渡り輸出している国である。そういう事もあり貴族家名や家紋も花の名前からきている。

 そんなオーガスタ王国には『花の神子』と呼ばれる乙女が五人存在している。数ある魔法のうち花魔法を得意とする者が選ばれ、各地を回り花魔法でより良い花を生産出来るように畑に魔法をかけていくのが主な仕事だ。花の乙女の年齢もバラバラで下は10にも満たない子から上は壮年の方までいらっしゃる。
 因みに男女共になれる神職である。
 今回は新しく神子になられた方のたっての希望でこの学園に入学して学んで知識を吸収し、お務めをしたいとの事だった。

「お初にお目にかかります。こちらはルカソール王太子殿下、右からオーキッド様、リリー様、ロータス様、私がローズでございます」

 ルカソール様に抱き込まれ礼を取れない私はぺこりと頭と目線だけ下げる。

「えっと……はい、ユーリカです」

「はい終わりー」

「えっ」

 急に私の視界が暗転したと思った目をルカソール様の手で塞がれてしまったようだ。

「これ以上は他の人を見ないで私だけを見ておくれ」

 どうやらルカソール様は私が花の神子様を見ているのに嫉妬したらしい。これではルカソール様も見れないんだが。

「殿下嫉妬しすぎです」

「そうですわよ、マルナビス様がお困りですわ」

「いつも通りでわら

「やだ、何あの神々しさ。キラキラ王子が二人いるんですけど⁉神に愛されし金髪銀眼の超絶美形のルカソールと女神を超えると言われる傾国のマルナビス!あれはホント国を揺るがすわ。やっべ、しかもルカソールがマルナビスを溺愛してて最高じゃん。いやいや、ここは『花の神子と七輪の華ハナシチ』の世界で私が主人公だしマルナビスは悪役令息で、これから何かと虐めてくるはず。なのに馬車を降りたら転びそうになった私をルカソールが助けてマルナビスが嫌味を言うイベントがまさかの溺愛で起こらないってどういう事⁉ルカ×マル最高……じゃない、もしかしてハーレムルートとルカソールルートが始まる前に閉じられてる⁉まーじーかー!」

 もの凄い早口で誰かが喋っているけど小声すぎて何を言ってるのか理解出来無いがまあ私が目隠しされて歩きづらい以外何の問題も無いだろう。

「いえ、問題大ありですわ。殿下そろそろマルナビス様から手を離してくださいませ」

「えー」

「オードリー嬢エスパー?」

「エスパーも何も毎日のように似たような事してるし。護衛している俺としては何かあった時対処しづらいんだけど」

 ごもっとも。目隠しされたままルカソール様を見上げると、チュッというリップ音させ軽く口づけされる。そして手を離されると目の前にはルカソール様の御顔が。

「このまま私を見てて」

 微笑みながらぐっと腰を引き寄せられるとルカソール様と私の足元に円形の魔法陣が浮かび上がりふわっと浮遊感を感じる。

「あっ、このクソ殿下!」

「また転移してイチャコラする気ですわ!」

 ユーリカが急に居なくなった二人に呆然としているとチェルトが「殿下はマルナビス様を独占したくて毎朝転移するのですよ」と苦笑いするのを見てユーリカは「まーじーかー」と額に手をあて天を仰ぐしかできなかった。


 ◇◇◇◇◇


 花の神子様が入学されてから三ヶ月、時たまニヤつくような、嫉妬するような視線を感じつつも平穏な日々が過ぎて……はいなかった。

「ルカ様ぁ今日こそ一緒にランチを食べましょ~」

 やけに甘ったるい高めの声がすると思ったら最近よく聞く耳元でパチンと弾ける音がする。辺りを見回しても何も無く、首を傾げる。音に気を取られていたが、気がつくとその場の空気が張りつめていることに気づく。

 原因は両手を広げルカソール様に突進してくるのを毎回カイト様に頭を掴まれて阻止されているサーシャ=クローバー子爵令息、淡いピンク髪ピンク目の可愛らしいと評判の生徒だ。

 どうやら彼はルカソール様をものにしたい(ユーリカ様調べ)ようで学年も違うのに行く所行く所に出没している。
 これにはルカソール様だけではなく周りもピリついている。

「ちょっと何でいつも邪魔するのさ!」

 今日は顔面を抑えられバタつくクローバー令息は甲高い声で騒いでいる。

「ルナあんなのより私を見て」

「ソール様……」

 そう言って私を見つめるルカソール様の綺麗な銀眼には私だけを写している。その瞳がとろりと甘く蕩けている。

「ああ……ルナの綺麗な金眼には私だけしか写していない。クローバー子息汚いものを見てからだと余計に君の瞳が美しく見えるよ」

 恍惚としたかんばせに周りから息を飲む音とため息が聞こえる。私の婚約者は罪作りな方だ。

「こらー!!何そこで…」

「シャーラップ!!」

 驚いて鋭い声が発せられた方を見るとクローバー令息を睨みながら仁王立ちしているユーリカ様がいた。

「ちょっとアンタ毎回毎回毎回、何殿下とマルナビス様の逢瀬を邪魔してんのよ!こっちはルカ×マルを間近で見てハアハア……いや、活力をチャージしようとしてんのにとことん邪魔してくれるわねこのモブ中のモブ!」

「はあ⁉テメーこそ主人公の役割り放棄してんだろうが!だったら僕がルカ様を落としたっていいだろうがよこの腐女子!」

「アンタバカなの?あれだけ溺愛してたらハーレムルートや殿下ルートは初めから閉じてんのよ!それにこれはゲームじゃなくて現実!きちんとその腐った目ぇ開けて見なよ!」

 ルカ×マル……ハーレムルート……シュジンコウ……フジョシ……二人からよく分からない単語がぽんぽん出てきて首を傾げてしまう。

「こら、ルナが考えなくてはいけないのは私の事だけだよ」

 二人に向けていた顔を戻されると拗ねて口を尖らせるルカソール様が。

「ふふっソール様可愛い」

 つい尖らせている唇に口づけるとふにゃっとした笑みを見せる。ああ、本当に私の婚約者は格好良いのに可愛らしい。

「ああ、その花がほころび皆を魅了する様な笑みは私だけに見せておくれ」

「はい、ソール様……」

「やだルカ×マル最高……ハアハアジュルリ」

「まてまてまてーーーーこっち無視すんな!」

 ついいつも通り二人だけの世界に入っていたらクローバー令息が発した声に紛れてまた耳元でパチンと音が鳴る。

「………どうやら此処はうるさいようだからサロンに食事を運ばせよう。チェルト」

「はっ、侍従に話してからそちらへ向かいます」

 コクリと頷くとルカソール様の足元に魔法陣が浮かび上がりふわりとサロンへ転移する。急に現れた私達に周りは驚いたようだが、出現した者が誰か分かると一礼をし何事も無かったように戻っていく。

 少しするとチェルト様達がサロンへ到着し円卓で昼食を取る。その後いつも通りに授業を受け屋敷を帰って来る。





「ルナ離れたくないよ」

「私もです」

「……いい加減にしてください」

 玄関口で見つめ合い別れを惜しんでいるとチェルト様に注意をされてしまった。平日はルカソール様の政務を手伝っているチェルト様も一緒に馬車に乗っているのでこれでも惜しむ時間は短い方である。

「仕方ない、明日の朝まで我慢しよう。ルナ、私の夢を見ておくれよ」

「はい、ルカソール様も」

 ちゅっと触れるだけの口づけをしたルカソール様はため息をつくチェルト様と一緒に王宮へと帰って行ってしまわれる。

 ああ……早く明日にならないだろうか。


 ◇◇◇◇◇


 side ルカソール

「ルナに会いたい……」

「まだ別れてから一刻も経ってませんが」

 そんなことを言われても会いたいものは会いたいのだ。

「仕方ないだろう。絹糸のような銀髪に光り輝く金の瞳、愛らしい赤い唇、月の女神を彷彿とさせるあの美貌、聞きざわりの良い声、花が綻ぶような微笑み。それなのに乱れる姿は妖艶で恥じらいながらも口にする睦言むつごとは私をたぎらせ続ける。あーもうぐっちょんぐっちょんにハメ倒したい」

「いや、いつもハメ倒してるでしょうが」

 呆れたように言うチェルトに反論する。

「足りぬ!ずっと私のモノをルナの身に納めておきたいくらいなのだ!ああ、あの愛らしいルナが産まれた時から私のものなんて僥倖すぎる。父上母上俺をこの姿で産んでくれてありがとう!じゃなかったら国を滅ぼしてたぜ!」

「最後素が出てますよ王子」

「大丈夫、侍従は下がらせてるし防音の魔道具を作動させてるから」

 きょろきょろと人がいないか辺りを見回すチェルトにひらひらと手を振る。私の素を知る者は家族以外マルナビスとこの幼馴染しかいない。

「しかしうぜぇなあのクローバー令息。息の根を止めてやろうか」

 ここのところマルナビスとのイチャコラタイムを邪魔されて私はご立腹だ。初めは花の神子が不穏な動きをしているから警戒していたが、どうやら私とマルナビスを見てハアハアしているだけなので放置している。それと代わってクローバー令息がやたらと私に言い寄ろうとしてくるようになった。しかも魅了を使って。私とマルナビスは神の加護で状態異常は効かないが、クローバー令息より魔力が低い者達はかかっているようだ。

「虫の息ぐらいで我慢してください。後始末が面倒なんですから」

 ため息をつかれてしまった。チェルトの言い分も分かるのでそうしておこう。マルナビスに懸想して手を出そうとしたり誘拐しようとしてきた馬鹿者達を闇に葬ったのを手伝ってもらったからな。

 さて、次騒ぎを起こしたらどうしてくれよう。
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