ハーレムルートと王子ルートが初めから閉じていて「まーじーかー!」と言っている神子は私と王子を見てハアハアしている

ネコフク

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転生者である神子は天国(パラダイス)を満喫する

 花の乙女であるユーリカは転生者である。

 自分が転生者でありここが前世でハマった乙女ゲーム『花の神子と七輪の華ハナシチ』の世界とそっくりだという事を神殿の儀式の時に思い出したのだ。しかも主人公という立ち位置で。

 ならばハーレムルートか推しだったルカソールルートを突き進もうと決めて学園に編入したのである。

 それなのに馬車を降りた途端、ルカソールがマルナビスを溺愛している場面に遭遇、いち早くハーレムルートとルカソールルートが消滅している事に気づいたのは前世の知識万歳と言うべきだろう。
 そしてもう一つの属性が発動し、ルカソール×マルナビスを愛でるのにシフトする事になる。

 そう、ユーリカは前世で腐女子だったのだ。


 ◇◇◇◇◇


「はあ~今朝もルカ×マル最高だったぁ」

 甘く見つめ合いながら転移していった二人の光景を心の中で反芻しながらうっとりとつぶやく。

(毎朝頬を染めながら馬車から降りてくるマルナビスに艶々なルカソール……中で絶対兜合わせしてるわね)

 馬車の中での睦事を正確に予測する……恐るべき腐女子センサーである。

「さて、私達も行きましょうか」

「はい」

 チェルトに話しかけられ現実に意識を戻したユーリカは歩きながら横目で隣を見やる。右隣にチェルトとカイト、左隣にオードリーだ。

(チェルトとカイトも攻略対象なのよね。チェルトは宰相補佐なのに体を鍛えているから意外と筋肉質(ハナシチ設定より)だしカイトは騎士団に所属していて言わずもがな。カイ×チェルもいいけど鍛え抜かれた筋肉を組み敷く……良いわ、良いわよチェル×カイ!ジュルリ)

 腐女子属性が強すぎる為に攻略など彼方へ飛んで行き、自分の欲望のまま掛け算をし始めてしまうユーリカを誰が責めようか。いたとしたらユーリカと同じ転生者でハナシチを知っている者である。


 ◇◇◇◇◇


「ホントここは天国パラダイスか⁉」

 授業の合間の休み時間、昼食時、放課後。そこで繰り広げられる光景にギュンギュンと活力がチャージされる。

 理由はもちろん周りの掛け算カップルである。

(あそこのガチムチカップルどっちがタチかしら?もしかしてリバカップル⁉きゃっ、チワワな2人がじゃれててホンワカするわ~。ほっぺにチュッチュッし合って可愛い♡はわわわわ……皆んなが見てるのにあんなに厭らしく撫で回して……って安定のルカ×マルだった!あざーす!!)

 軽く微笑みをたたえたユーリカがよもや頭の中で悶え、更にモザイクがかかりそうな妄想をしているとは誰も思うまい。

「神よ!ここに転生させてくれてありがとう!」

 ユーリカが掛け算見放題と内心よだれをたれ流しているここは前世では絶対見られない男同士でのオープンないちゃつき、周りもそれを当たり前としているのには訳がある。

 ここ『花の神子と七輪の華ハナシチ』の世界では女性が男性の1/3しかいないのだ。

 なので男同士の婚姻が許されており、必然的に男女カップルよりも多い。
 子供も男同士の場合、お互いの魔力を練り核を作り産む側に仕込み交わると妊娠出来る(ハナシチファンブックより)ので問題無いのだ。ただ、自分の魔力が混じらない他人の核を胎内に仕込んでも子は成さない。そして男女から産まれる子供と男同士から産まれる子供の能力は親以上にはならない為、数少ない女性を囲って産ませる道具にするという行いはこの世界では意味の無い事である。

 しかし例外が一つだけある。
 それが月神の加護を持つ者、マルナビスだ。

 彼は孕み腹(ふたなりではない・ハナシチファンブックより)で、月神の加護を持つ者は対である太陽神の加護を持つ者以外でも膨大な魔力を持つ子供を産める為、あらゆる為政者や地位ある者が欲している。
 但し、太陽神の加護を持つ者の精を一度でも胎内で受けてしまうとそれ以外の精液では子を成さないのでそうなる前に手に入れようと暗躍するが、ことごとく王家や公爵家、ルカソールとチェルトに潰されているし既にマルナビスはルカソールの精を胎内に取り込み済である。そう、薄い腹が膨れるほどに。
 ただこの事実はハナシチの設定やファンブックに載っていないのでユーリカは知らないが予測済だ。

(あのルカソールの手つきといちゃつき具合、絶対ハメ倒してるわ!絶倫すぎてマルナビスが気を失っても犯してそう)

 腐女子のカンは恐ろしいほど正確に捉えている。

 そんなある日、いつものように掛け算ウオッチングを堪能しているとユーリカは知らない生徒に話しかけられる。

(ピンクの髪にピンクの目……こんなキャラハナシチにいたかしら?物凄く地雷臭しかしないんだけど)

「ねえ、ユーリカって転生者だよね?」

 サーシャ=クローバーと名乗った生徒は子爵令息でユーリカの事を『転生者』と言い当てる。そこから導き出される答えは一つ。

「あなたも転生者なのね」

「……へえ、驚かないんだ」

 自身が転生していて『花の神子と七輪の華ハナシチ』の世界に似ているという事に気づいた時点で、他にも転生者がいるのではないかと予想していたのでユーリカとしては特に驚く状況ではなかった。

「じゃあここが『花の神子と七輪の華ハナシチ』の舞台だって知ってるよね?なのに何で攻略対象者を攻略しようとしてないの?」

 やはりサーシャはハナシチを知っていて主人公のユーリカがどのルートも攻略しないのに気づいている。
 ハナシチを知っている転生者がユーリカの行動を観察していれば速攻転生者だという事にも気づくだろう。本来の「健気なドジっ子」なユーリカではなく「男性カップルを見て腐った妄想をする腐女子」なのだから。

 そして何故攻略しないのかは初めにルートが二つ閉ざされていたのに気づいたのもあるが、それ以上にルートを攻略する労力を男同士の絡みを見る方へ力を入れたいという腐女子魂である。

「別に主人公に転生したからって攻略しないといけないワケじゃないわよね?」

「いや、あんな格好良いルカソールやチェルト達だぞ。フツー攻略するだろ!僕がヒロインならハーレムルート攻略してるわ!」

(まあ私も最初は意気込んだけどね。でもルートが二つ閉じてたしあんな溺愛っぷり見せられたら堪能するしかないでしょ。それに……)

 サーシャは気づいていないのだろうか。ここの世界と『花の神子と七輪の華ハナシチ』の違いに。

「ユーリカが攻略しないなら僕がルカソールを貰ってもいいよね?」

「は?」

「だってルート攻略する気ないんでしょ?だったら攻略の仕方を知ってる僕がやったって同じ展開になるだろうし。僕前世でルカソール強火単推し同担拒否だったんだよね~。ゲームでもずっと「マルナビス死ね」って思ってたし」

 うっとりと思いを馳せるサーシャにユーリカは唖然としてしまう。話しかけられた時点で嫌な予感がしていたのだが思った以上にぶっ飛んでいた。

 ユーリカも推しはルカソールだったが、推しの二番目はマルナビスなのだ。当然サーシャの言い出した事には賛成しかねる。

「何言ってんのこのDQN頭!この世界はハナシチとは違うの!マルナビス様を害したら殿下は黙っていないわよ!」

「誰がDQN頭だ!今からでも攻略通りに動けばルカソールは僕を好きになるさ!僕前世で言うヒロインカラーの見た目だしこんなに可愛いからね」

(いやハナシチのメインやサブキャラクターで出てきていない時点でモブ中のモブでしょ。しかもその色前世のゲームや小説でざまぁされるヒロイン色なの気づいてないの?)

 確かにサーシャは可愛い。が、貴族は見目の良い相手を娶る事が多いので、貴族の子息子女が通っている学園を見渡す限り立ち位置としては中の上くらいなのを本人は気づいていないようだ。

「やめなさい。痛い目見るわよ」

「やだね!ハナシチの世界に転生したんだ、ユーリカが攻略しないなら僕がルカソールを攻略してやる!」

「あっ、待ちなさい!」

 言う事だけ言って駆けて行ったサーシャに自然と皺が寄った眉間を指でぐりぐりと解す。

(厄介な事になったわね。私が攻略しようとしなかったら変なのが出てきちゃった。というか攻略にいそしんでたら大変な事になってたはず。だってここはゲームの中と違うもの)

「はあ……大事おおごとになる前に止められればいいけど無理そうだわ。チェルト様に報告しないと」

 転生者やゲームの話は省いてチェルトに話せば必然的にルカソールにも話が行くだろう。ルカソールに直接言えれば良いのだが、ルカソールはマルナビスを溺愛するのに忙しく近寄れない為、チェルトに話すのが一番近道なのだ。二人のいちゃつきを邪魔せずガン見したいというのがユーリカの本音なのだが。

(噂をすればルカソールとマルナビスが人気の無いベンチに座って口づけしてるわ!……⁉もしかしてルカソールの手がマルナビスのシャツの中に入ってない⁉頬を染めて我慢しているマルナビスの頰から首筋に唇を這わせて……)

「あっ、遮断結界魔法陣を展開した!くそう、イイところだったのに!マルナビス色っぺかったー!!」

 膝から崩れ落ちたユーリカは地面を叩き悔しがる。

(私に透視能力があったらアンアンぐちゃぐちゃしている二人を見れたのに……!)

 魂の慟哭を漏らしていたユーリカの肩がポンと叩かれる。振り返ると慈愛の表情をしたオードリーがいた。

「ユーリカ様、残念ですが殿下とマルナビス様の性的ないちゃつきは殿下の性格上絶対見せませんわ。私達は他のカップルを堪能しましょう」

「同志……!!」

「ふふっ、あちらの四阿バーコラでまぐわっている方達がいましたの。ご一緒に見学はいかがかしら?」

「お供します!!」

(ああ、やはりここは楽園だわ)
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