顔バレしたくなくて陰キャを装ったら速攻バレました

ネコフク

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本編

忘れたい過去

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 食堂での出来事以来、執拗に絡んでくる美樹本に俺はうんざりしていた。

 どうやら俺が会長にプリンをもらったことが気に食わないらしく、取り巻き(下僕しもべって言ってた)を引き連れ所構わず嫌味や、どこから持ってきたのか生卵を投げつけてくる。当たったことは無いが、壁に当たった生卵を掃除する取り巻きがちょっと不憫である。

 そもそも美樹本が会長からもらったプリンを持ち逃げしたくせにこっちがムカつくんだけどな。どうせハアハア言いながら食べたんだろって言ったら、顔を真っ赤にして怒ってたから図星だったんだろう。

 美樹本の襲撃に智也が守ってくれようとするが、度々分断され1人で逃げるハメになったりするけど、校内を巡回している風紀や空手部の先輩に助けられたりしているので大した被害は今のところ無い。

 つーか俺に構うくらいなら会長に構えばいいのに。え?会長の親衛隊が邪魔で近づけない?完全に危険人物扱いになってんじゃん(笑)

 今日も智也と離され生卵を持って追いかけられている俺。←イマココ
 美樹本あいつナマタマゴ美樹本に改名すればいいんじゃね?

「待てよ、逃げんな!」

 この状況で待つ人間がいるだろうか。いや、いない。毎回毎回逃げ切られてるのに根性だけはあるよな。意地になってるのかもだけど。

「無理だ……ぐぎゃっ!!」

 後ろを見ながら走っていた俺は硬いような柔らかいような何かにぶつかってしまい、反動でひっくり返りそうになってしまった。

「おっと、大丈夫か?」

 ひっくり返る寸前で腕を掴まれエロい声の主に抑え込まれる。あぶねっ、ひっくり返ったら頭を打ってたかも。

「待てー!……ひっ!風紀委員長!」

 生卵を右手に持ち走って来た美樹本が体を硬直させ止まる。

「何だぁ?お前その右手に持ってるのをどうするつもりだったんだ?」

「やっ、えっと、その……」

 美樹本は振り上げていた右手を後ろに隠し、せわしなく目をキョロキョロさせている。そりゃあ俺に投げつけるつもりでしたなんて口が裂けても言えないわな。

「んー?お前1年の美樹本だったよな?最近素行に問題があるって風紀に上がってきてるぞ。お仕置きされたいのか?あ?」

「いえ……そんな……」

 美樹本より20cmくらい違う委員長に顎クイされ顔を真っ赤にしている。これ美丈夫にエロい声で言われてキュンキュンしてんじゃね?

「お仕置きしてやってもいいけどよぉ、次の日腰立たなくなるぞ。そうなんのも面倒くせぇから今回は見逃してやる。……行け」

「ひゃい!」

 ふらふらと腰砕けになりながら去っていく美樹本。ちょっとそろそろ抱いている俺を離してくれませんかね?

「志摩大丈夫か?」

 メガネをずらし覗き込んでくる委員長に慌ててしまう。え?もう名前呼び?何で離してくれないの?ていうかメガネずらさんといてー。

「ハハッ、可愛いな志摩」

 耳まで赤くなっているであろう俺にバリトンボイスは毒だった。腰砕けになるからやめてほしい。この人分かっててやってるだろ。

「志摩……本当可愛い」

「んっ……」

 やめてー耳元で囁くのヤメテー変な声出ちゃったよ。俺の腰のダメージが凄い。あ、ヤベ、腰から力が抜ける。

「……何だ腰が抜けたのか?可愛いな」

 何度可愛いって言うんだこの人は!
 手で顔を隠し腰が抜けた俺をひょいとお姫様抱っこをした委員長は保護名目で風紀室に連れて行き、機嫌良く俺を膝の上に乗せている。←なんとイマココ

「あのう……椅子に座りたいんですが……」

「いいぞ、歩けたらな」

「ぐっ………」

 だから耳元で話すんじゃない!キッと睨んでもくつくつと喉で笑うだけで聞いちゃいない。しかもメガネを外されてしまうし。部屋には誰もいないからいいけど入って来たら一発OUTですけど?

 部屋を見渡すと風紀室は委員長の机がちょっと立派なだけで、他は至ってシンプルな感じにまとまっている。書類が並べられている棚やFAX、連絡を取り合うイヤホンマイクはすっきりと整理されている。ただ、机に警棒やメリケンサックがあるのは不穏すぎて見なかったことにしようと思う。

「緋色、グループラインの荒木を保護したってどういう事だ⁉」

 勢いよくドアを開けた音にビクッとし、メガネをかけていないから咄嗟に委員長の胸に顔を埋めてしまう。胸板が厚く、俺はいくら運動をしても筋肉がつかないのでちょっと嫉妬。

「……!何で荒木がお前の膝の上に座ってんだよ!」

「ああ、志摩は今腰を抜かしてんだよ」

「志摩って……何で名前呼んでんだよ、俺も志摩って呼ぶ!」

 詰め寄る会長にニヤニヤと余裕な委員長。そんなことで揉めないでほしい。

「とりあえず志摩を下ろせ!」

「うるせぇな童貞。志摩は俺の膝の上がいいんだとよ」

 童貞という言葉にどきりとする。

「やりまくってる奴よりマシだ!俺は好きな奴だけでいいんだよ!」

「テクニックがあった方がいいだろ。童貞より経験豊富な方がいいよな、なぁ志摩」

 童貞……経験………ダメだ、思い出しちゃダメだ。

『ふふっ、これでやっと志摩くんは私のもの』

『志摩くんのハジメテもらっちゃった♡』

『いっぱい中で出して。志摩くんの子供がほしいの♡』

『これからもずーっと一緒にいようね』

 思い出したくないのにフラッシュバックする。やだ、気持ち悪い。

「………志摩?」

 顔が真っ青を通り越し白くなり呼吸が浅く荒くなっているのに気付いた2人が慌て出す。

「シマ!……⁉過呼吸か!」

 グループラインを確認して風紀室に来た智也が俺の状態を見て、ポケットから袋を取り出し口にあてる。委員長の上にいる俺を抱き床に座る。袋携帯とはさすがオカン。

「大丈夫だ……大丈夫……俺はここにいるよ。もうあそこには戻らないから……みんなのところに帰ってきてるよ……」

 ハッハッと早く呼吸をする俺の背中を優しく擦りながら話す智也の声に涙が溢れまなじりから伝う。

「とも……こわい……きもち…わる……やだぁ……たすけて……」

「助けるの遅くなってごめん、でももう大丈夫だから……」

 泣きながら助けを乞う俺とそれを宥める智也。その異様な光景に会長と委員長は呆然と見つめている。


 ◇◇◇◇◇


「あんた達シマに何言ったんだよ」

 呼吸が落ち着き意識を失くした志摩を保健室に運び、ベッドへ寝かせ智也は怒気を孕んだ声で青藍と緋色に問う。
 この時間保険医は部屋に居ない。志摩を起こさないように声を抑えているが、その声色こわいろだけで智也が物凄く怒っているのが分かる。

「何って……」

「あんた達がトラウマになってる事を言わないとあんな風にシマはならないんだよ!」

 あまりの怒りに青藍と緋色は口をつぐむ。自分たちは特におかしなことは話してないはずだ。他愛もないいつも自分たちが戯れで話すようなことだ。
 戸惑う2人に智也はため息を吐く。

「はぁ……シマがああなる前、あんた達は何を話してた?」

「それは……童貞だとか……テクニックだとか……他愛もない話だ」

 智也は顔をしかめ唇を噛む。ちらりと寝ている志摩を見つめ、何か考えている。

「シマ……なあ、あんた達最近シマに直接的に……間接的にもちょっかいかけてるだろ。遊びで近寄ってるならやめてくれ」

 そう話す智也の目は真剣だ。

「遊びじゃない!俺は人と付き合ったことがないからどう詰めていいか思案してるだけだ。それに下手に構えば親衛隊が抑えられなくなって志摩を危険に晒すかもしれない。だから躊躇ためらってはいるが本気だ」

「俺は志摩が可愛すぎてついからかってしまうが、戯れで手を出すくらい暇ではない」

「……本気なのか?」

「ああ」

「シマの過去が酷くてもか?」

「過去は過去だ。俺たちの好きな志摩は今の志摩だ」

 そう話す2人を射るように見つめていた智也の目は伏せられ耐えるような祈るような表情を浮かべている。

「……今から話すことは誰にも……志摩にも話さないでくれ。特に志摩には知っていることも隠してほしい。……できるか?」

「言わねぇよ」

「志摩のためなら」

 頷く2人に頷き返し言い淀みながら話し出す。

「シマは……中1の時にストーカーの女に監禁されたんだ。家に帰って門で俺と別れた直後に……その女は本当に頭がイカれたヤツでベッドに縛りつけシマに媚薬を飲ませ無理矢理襲ったんだ」

 青藍と緋色は無意識に息を呑む。智也の腕には力が入り、痛いくらい拳を握り締めている。

「1週間後に助け出されたシマはボロボロだったよ……薬で意識は朦朧もうろうとして意識がはっきりしてくると震えて暴れて……女性がダメになってたよ。母親や姉もだ。時間をかけて母親と姉は触れてもよくなったけど、それ以外は今も拒絶してる」

「……その女はどうしたんだ?」

桜宮さくらみや家が内々で処分した。部屋に乗り込んだ時にも驚くこともなくシマの上にまたがって腰を振ってたらしい。引き離すと精子が溢れるから栓を寄越せって……女の腹が膨れるくらいずっと犯され続けていたらしい」

「……クソが!」

 緋色がベッドの脇にあったゴミ箱を蹴り上げる。青藍もそれを咎めず怒りに体を震わせる。

「でも何でお前がそんなに詳しく知ってる?お前だって中1だっただろ。それにそんな事件聞いた事がない」

「父さんに無理矢理聞いた。シマがさらわれたのは俺の責任だ。俺が……シマを家の中まで送ればこんな事件は起きなかったんだ。それに最初から警察は動いてない。こんなこと知れたらシマも母親の桜宮真尋にも傷が付く。だから桜宮家がにしたんだ」

 志摩の過去に重い沈黙が流れる。静かに寝息をたてる志摩を見やり、辛い過去をおくびにも出さない彼に2人は胸が締め付けられる。守りたい。過去も今もこれからもずっと……そんな気持ちが湧き上がる。

「だから俺がシマを守ってきた。これからもだ」

 智也の決意は固い。

大膳だいぜん、その役を俺たちに譲れ」

「はあ?」

「そうだ、黒主と如月の力があれば今より強固に守れる」

「ま……待て、待てって!何で黒主と如月なんだ⁉」

 志摩は1人しかいない。片方が付き合えばもう片方は守る理由がないじゃないか、と智也は慌てる。

「片方……?いや志摩は2人で落とす」

「あんたらはそれでいいのかよ」

「性格は違っても小さい頃から好きなものは一緒でな。お互い絶対讓らないんだ。だったら共有するしかねぇよなぁ」

 口角を上げ話す緋色に、仕方ないという表情の青藍。幼い頃からの信頼か互い以外のヤツに譲る気も諦めるつもりもない。

「まさか初恋も同じとはなぁ」

「俺が志摩を好きになった時点で緋色も好きになるって分かってたよ」

 苦笑いする2人に智也は少し拍子抜けする。2人が志摩に好意を見せた時に血なまぐさい争いが起きると思っていたのだ。

「う……ん…」

「シマ⁉」

 ベッドで身動みじろぐ志摩の周りに3人が寄る。長いまつ毛が震え開くと見覚えのない天井が瞳に映し出され、視界の端に泣きそうな智也が映る。

「智也……?」

「気分はどうだ?」

「んー…大丈夫。ここは?」

「保健室だよ。志摩は久しぶりに過呼吸を起こしたんだ」

「そっか」

 ぼやっとしている意識がはっきりしてくると風紀室での出来事を思い出して少し気分が悪くなる。

「目ぇ覚めたみたいだな」

「委員長……」

「緋色だ。緋色と呼べよ」

「?何で?」

「俺のことは青藍と呼んでくれ」

 委員長だけではなく会長まで名前を呼べと強要してくることに志摩は戸惑ってしまう。自分が寝ている間に何があったんだろうか。

「志摩、俺たちを選べ」

「えらぶ……?」

 訳がわからずキョトンとする志摩に会長は妖艶な笑みを浮かべる。

「選ばなくても逃がすつもりはない。存分に俺と緋色に囲われてくれ」

「そういう事だ」

「はあ?はあーーーーー?!」

 なんだ、何故そうなった?!
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