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番外編
返り討ちにしてやんよ(大学編) 後編
しおりを挟むコツコツとローヒールと革靴の音だけが響く中、背の高い美形の男性2人の腕に自分の腕を絡ませながら歩く美少女。男性も然ることながらそれを凌駕する美貌。緩く編み上げた茶色い長い髪、二重の大きな瞳、すっと通った鼻筋、小ぶりのぷっくりとした艷やかな唇。それが絶対黄金比で配置された顔。
皆一応に息を飲みカフェの中を歩く姿を見守っている。
その3人がある集団の前で止まる。
「な……なによ」
目の前に来られた本人達は圧倒的な存在感に無意識で後ずさる。それを楽しそうに見つめている美少女がおもむろに笑う。
「ふはっ、あーっはっはっはっ、やっぱ俺の方が美人じゃん!」
「!?」
◇◇◇◇◇
遡る事3時間前
「おはよー姉さんよろしく~」
「うん、任せてよぉ」
大学近くにあるホテルの一室に入ると化粧道具を持ちやる気満々の姉・華と衣装を持った兄・水樹が出迎えてくれる。
昨日馬鹿にされた俺はその場で家族LINEで事のあらましをポチポチ。激怒した家族に根回しを頼んで姉兄を召喚ポチポチ。その画面を見たいちるが「容赦ねー」と爆笑していた。
まあ容赦する気はないよ。この顔にケチ付けたって事は桜宮真尋にケチ付けたって事だしな。おっと、マザコンじゃないぜ。家族愛だ。
「ここからはハナミズキで配信する為に撮っていくよ」
「オッケー。そういう約束だからな」
昨日頼んだら面白そうだから一部始終撮らせてと言われたので了承、カメラに向かってにっかりピースをする。今回は智也も演者側なので事務所のスタッフが撮影している。
兄さんが持ってきた数着の衣装からシフォンワンピースを選び着る。足首まで隠れるので丁度いい。やっぱ足はどうしても女性と非なるものだし。タイトなロングスカートだとどことは言わないが不自然に盛り上がるしな。
着替えてくるりとカメラにポーズをとる。顔が派手な母親と同じなのでフェミニンな格好はあまり似合わないんだよなぁ。
鏡の前に座るとさっと肩周りにタオルをかけ、ウィッグをするために頭にネットを被せられ、ペタペタぽんぽん化粧を施されていく。毎度思うけどネットだけ被った状態で化粧ってマヌケじゃね?
化粧が仕上がっていくにつれ母親そっくりの顔の作りがなりをひそめ美少女になっていく。薄化粧なのにかなりの変化な自分に「おお……」と声を漏らしてしまう。
マスカラをしなくてもいいくらい量がある長い睫毛をビューラーでくるんとするだけで目はいつもより大きく見えるし、薄くチークやリップを塗るだけで印象が変わる。
「志摩は化粧するとママのすっぴんに似ちゃうのは何でだろうねぇ」
姉さんの発言から察してもらえると思うけど桜宮真尋の化粧している顔と俺のすっぴんはそっくりなのだ。逆に俺が化粧をするとすっぴんの母親に似るという人体の不思議。
これ桜宮家の七不思議の一つだから憶えておくよーに。テストに出るからな!
「次これでハナミズキに出ちゃう?」
ふんふん鼻歌を歌いながらウィッグを被せられ調整される。鏡の中にいるのはふわっふわのワンピースを着た可憐な美少女だ。
「美少女や……ホンマモンの美少女やで!」
「何故に関西弁……」
鏡の中の美少女を褒めちぎると智也に呆れられる。自画自賛くらいさせてくれよ。ホント美少女すぎるんだもん。
「どうよ智也、可愛いだろ」
「あ……うん」
バチコーンとウインクをしてみせると顔を赤くして動揺している。よっしゃよっしゃいい感じだ。
「きゃーシーマかわゆい!」
「うん可愛いね、さすが僕たちの弟だ」
ぎゅうぎゅうと2人に抱き締められサンドイッチになっているところもカメラに納められている。これよくやられるのでリスナーからは「ハナミズキサンド」と呼ばれて好評らしい。やられる方は苦しいだけなんだけど。
「よーし、これで完璧な。いくぜ返り討ち!!」
「「おー!!」」
ノリノリの2人と智也と一緒に車に乗り青藍と緋色、いちると待ち合わせているカフェに到着する。
そこは大学から少し離れた場所にあり、季節ごとに変わるメニューが人気のカフェで、姉さんの知り合いという事もあり、店の宣伝をするという条件で急遽オープン前まで貸し切りにしてもらったらしい。
「青藍、緋色……といちる!」
意気揚々と既に到着してコーヒーを飲んでいた3人に声をかけると、ガタガタっと席を立ち驚愕し固まっている。
「どうよ?志摩美少女バージョン」
頬に人差し指を当てこてりとする。、
「あ……あぁ、可愛い……よ」
「……そうだな」
「えっ⁉マジ志摩⁉そこら辺の女より美少女じゃん!!」
口に手を当てギクシャクする2人と違い、いちるは俺の周りをぐるぐるとしてまじまじと見てくる。
「いちる見すぎ」
「うがっ」
うざったいので顔面にアイアンクローをお見舞いすると「美少女にアイアンクローされた!あざーす!」とテンション高く悶えている。
そんないちるは放っておき、行くメンバーでルートやカメラの撮る位置などを確認していく。
今回は俺の顔を貶した事に対しての「加工したって俺の方が可愛いんだぞ作戦」だ。
何?幼稚?くだらない?いーのいーの、本当に青くなるのはその後だから(笑)
大学に着くと靴をローヒールに履き替え青藍と緋色と腕を組み歩いていく。その後ろには姉さんと兄さん、少し離れて智也といちるが続いていく。もちろカメラは斜め前と後ろをキープ。
「はーい、これからぁシーマのすっぴんを馬鹿にした女子にぃ美少女になったシーマをぶつけてみたいと思いまぁす♡」
「ハナ、その言い方だと物理的にぶつけそうだよ(笑)」
「それはそれで楽しそうねぇ」
後ろからきゃぴるんトークが聞こえてくるが俺はつかんねーぞ。
撮影に気づいた学生が遠巻きに見てヒソヒソと騷ぎ出した。想定内だし目立って撮影の邪魔にならなければいいので放置だ。たまに笑顔を振り撒いたり、後ろの2人が手を振るとキャーと声が上がる。さすが有名インフルエンサーである。
構内のカフェに到着するとざわりとなった後静かになる。事前に集団がいるのは確認したいるのでそっちに向かって行く。
真鍋ゆりなと加賀野咲希は青藍と緋色を見つけると嬉しそうな顔をするが、間にいる俺を見るなり表情を強張らせる。さあ美少女の俺をとくと見やがれ♡
後ずさる2人を上から下までゆっくりと視線を這わせる。美人だけどそこそこ。うん、そこそこなんだよなぁ。
「な……なによ」
「ふはっ、あーっはっはっはっ、やっぱ俺の方が美人じゃん!」
「!?」
「あなた金魚のフン⁉」
「なぁにぃ?シーマ金魚のフンって言われてるのぉ?」
「ひっ、」
ひょっこり緋色の後ろから顔を出した姉さんにゆりなが引き攣った声を出す。そりゃ顔面偏差値バリ高な顔が出てきたら驚くよな。
「そうそう、この人達に金魚のフンって言われてるよ。あと雑誌の写真は加工してるって言われた」
「へえ……そうなんだ」
こちらも素晴らしいお顔の兄さんが冷めた目で見るから2人は蒼白になって首を振っている。
「あー、あと化粧してもオカマになるだけだって言われたー」
「ひぃぃぃ」
小さく悲鳴を上げて小刻みに震えてるけど馬鹿にしたように言ったよな?
「えーこんなに美少女なのにぃ?これくらい可愛い子そうそういないよぉ」
「いや、こんなに変わるならかなり厚化粧してるはずよ!」
口を尖らせ不満顔の姉さんに気を持ち直したらしいゆりなが反論する。が、それを見た姉さんが悪い顔を向ける。
「ふっふー、そう言うと思ってぇシーマのビフォアフターを撮ってるからぁ。みんなぁ夜にシーマの化粧してるトコハナミズキでアップするから見てねぇ」
ぶんぶんと周りに呼びかけると見守っていた学生達がわーきゃーウォーと騷ぎ出す。ちゃっかり宣伝した姉さんは満足気だ。
「ま、そーゆうワケだから美少女の俺の勝ちって事でいいよな?」
「はあ?」
「だってそうだろ?誰が見たって化粧したらあんた達より俺の方が美人だし」
「そうだな。そもそも雑誌は何の加工もしてない。それは俺たちが保証する」
「そんな……」
事実に顔を青くしてるけど俺の事しっかり見てなかったのが敗因だな。まあ最初から青藍と緋色しか見てなくて邪魔な奴としか認識してなかったんだろう。
つーか今どきネットがあるんだから調べたら分かるだろうに。小石くらい興味が無かったんだろうな。
颯爽とその場を去ってやったのをありがたいと思えよ!
「ぐふふ良い画が取れたわぁ」
「また何かあったら言うんだよ」
「おー」
ホクホクしている2人を駐車場で見送り俺はそのまま授業を受け過ごしたけど、毎回教授がギョッとするのが面白かったといちるが爆笑してた。
夜には3人でベッドへなだれ込み日が変わるまで交互に貫かれ、着たままだったワンピースがドロドロになってしまい、朝いたたまれない気持ちになった。
「ここんとこ来ないねー」
昼に食堂でうどんを啜るいちるが思い出したように言う。毎日のように突撃してきていたゆりなと咲希が仕返しした次の日から見ないのを言っているんだろう。
「まあそれどころじゃないんじゃないの?」
「あー、あっさり仕返ししたと思ったら他に何かしたんだろー」
「さあ?」
しれっと返事をするけど含みを持たせた声色にいちるが食いつく。
「俺は何もしてないよ。親が何かしたかもだけど」
「へぇ」
何かを察したのかそれ以上は聞かれなかったが、俺も詳しくは知らない。ただ2人の親の方に圧力をかけたのは確かだろう。
(口は災いのもと、無知は罪)
知ったこっちゃないけど子供の幼稚な喧嘩だから程々にと思う。
今回一番の勝者は姉さんと兄さんだろう。夜にアップした配信がかなり良かったらしく「今度また女装しようねぇ」と上機嫌で連絡がきたけど、それを聞いた青藍と緋色が「裸エプロン」や「彼シャツ」とかぶつぶつ言いながら携帯をポチポチしていたんだけど……不安だ。
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