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うっかり渡っちゃった編
マモン勧誘す
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「くそくそくそっ!王子様は僕のなのに!」
今回異世界に渡る任に選ばれたのに、神のうっかりで渡れなくなってしまった夕凪は密かに荒れていた。
外では猫を被り良い子を演じているので、物を投げたり暴れるのは部屋の中だけ。渡れなくて同情をえるように悲しそうな態度を取るが、心の中では悪態をついている。
神狐族の中で底辺である茶毛一尾で産まれた夕凪は、向上心がバカ高く嫉妬心も大きい。
同時期に産まれた玉藻が族長の息子として産まれただけでも羨ましいのに、神力が多い白銀九尾という珍しい毛色と尻尾の多さと誰が見ても可愛いと声を上げるほどの容姿。そして神のお気に入り。そう、平凡な夕凪にとって玉藻の全てが妬みの対象だった。
渡りは並の眷属では見る事すら叶わない神から直接任を任される誉れある役目で、指名された者は周りから羨望の目を向けられる。今回任を玉藻より自分に任された事に自尊心が満たされていた。実際は玉藻は産まれた時から神の側に置かれる事が決められていた為、渡る候補から外されていただけなのだがそれを夕凪は知らなかった。
それなのに夕凪の代わりに玉藻が渡ってしまった。
原因は神なのだが夕凪の怒りは玉藻に向いている。
神力が強い者にありがちな強気な性格ではなくぽやぽやとした性格、甘え上手で周りから愛され、夕凪が話しかけても華炎と黒曜は相手にしてくれないのに玉藻には甘い顔をする。2人は媚びるように話しかける夕凪に嫌悪感を持っていてその態度になっているのだが、夕凪は気づいていない。
(あーーー!今回王子様と運命で結ばれて権力財力を手にして愛されるはずだったのに!)
魔族襲来を退けるという本来の目的をすっかり忘れ、王子とのラブロマンスを繰り広げる妄想しか頭に無い夕凪は今怒りを枕にぶつけているのである。
「ハハッ、嫉妬と怒り・・・・・・いいねぇ」
「誰っ⁉」
自分しかいないはずの部屋に響いた声に肩を震わせる部屋を見渡すと、何もない空間に切れ目が入っていてそこから少年が面白そうに夕凪を見ていた。黒髪に赤い目の綺麗な顔は、何度か玉藻達と話しているのを遠目から見たことがあった。
「なあお前、俺と玉藻が渡った世界に行かないか」
「はあ?お前魔族だろ。何か企んでそうなんだけど目的は何?」
夕凪としては渡るはずだった世界に行くのは願ったりだが、魔族が善意で連れていくとは思っておらず警戒する。
「なあに、俺はちょっと引っ掻き回して手に入れたいものがあるだけだ。でもまあ俺の願いを聞いてくれるならお前の王子様に会わせてやるよ」
「・・・・・・願いって?」
「玉藻を俺の所に連れてくること。簡単だろ」
確かに一族の中で底辺とはいえ異世界に渡った夕凪は強者の部類になると聞いていたから簡単だろう。でも簡単すぎないか?とぐるぐると考えていると目の前の少年がただし、と付け加える。
「無傷でな」
それなら警戒心のカケラもない玉藻など夕凪の口車にのり簡単に連れて来れるはず。余裕じゃないかとほくそ笑む。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「いいよ、お前と一緒に異世界に行くよ」
「契約成立だ」
そういう夕凪にニヤリと笑みを浮かべ手を差し出す少年。その手を迷いなく取ると夕凪の手首が淡く光り契約紋が浮かび上がる。
「何これ」
「契約成立の証だ。お前が玉藻を連れて来た時点で消える」
「ふうん・・・」
あまり気にしていない夕凪だが契約紋を手首にされる前にしっかりと契約内容を聞いておけば良かったと、それ以前に知っていれば始めから契約しなかったと後悔するのは異世界に渡ってすぐだとは魔族の事に疎い夕凪はまだ知る由もない。
「よし行くぞ」
「ちょっと待って!僕何も準備してない!」
「大丈夫だ。向こうで全て用意してやる」
「わっ!」
その日から夕凪の姿は神域から消える事になる。
永遠に。
今回異世界に渡る任に選ばれたのに、神のうっかりで渡れなくなってしまった夕凪は密かに荒れていた。
外では猫を被り良い子を演じているので、物を投げたり暴れるのは部屋の中だけ。渡れなくて同情をえるように悲しそうな態度を取るが、心の中では悪態をついている。
神狐族の中で底辺である茶毛一尾で産まれた夕凪は、向上心がバカ高く嫉妬心も大きい。
同時期に産まれた玉藻が族長の息子として産まれただけでも羨ましいのに、神力が多い白銀九尾という珍しい毛色と尻尾の多さと誰が見ても可愛いと声を上げるほどの容姿。そして神のお気に入り。そう、平凡な夕凪にとって玉藻の全てが妬みの対象だった。
渡りは並の眷属では見る事すら叶わない神から直接任を任される誉れある役目で、指名された者は周りから羨望の目を向けられる。今回任を玉藻より自分に任された事に自尊心が満たされていた。実際は玉藻は産まれた時から神の側に置かれる事が決められていた為、渡る候補から外されていただけなのだがそれを夕凪は知らなかった。
それなのに夕凪の代わりに玉藻が渡ってしまった。
原因は神なのだが夕凪の怒りは玉藻に向いている。
神力が強い者にありがちな強気な性格ではなくぽやぽやとした性格、甘え上手で周りから愛され、夕凪が話しかけても華炎と黒曜は相手にしてくれないのに玉藻には甘い顔をする。2人は媚びるように話しかける夕凪に嫌悪感を持っていてその態度になっているのだが、夕凪は気づいていない。
(あーーー!今回王子様と運命で結ばれて権力財力を手にして愛されるはずだったのに!)
魔族襲来を退けるという本来の目的をすっかり忘れ、王子とのラブロマンスを繰り広げる妄想しか頭に無い夕凪は今怒りを枕にぶつけているのである。
「ハハッ、嫉妬と怒り・・・・・・いいねぇ」
「誰っ⁉」
自分しかいないはずの部屋に響いた声に肩を震わせる部屋を見渡すと、何もない空間に切れ目が入っていてそこから少年が面白そうに夕凪を見ていた。黒髪に赤い目の綺麗な顔は、何度か玉藻達と話しているのを遠目から見たことがあった。
「なあお前、俺と玉藻が渡った世界に行かないか」
「はあ?お前魔族だろ。何か企んでそうなんだけど目的は何?」
夕凪としては渡るはずだった世界に行くのは願ったりだが、魔族が善意で連れていくとは思っておらず警戒する。
「なあに、俺はちょっと引っ掻き回して手に入れたいものがあるだけだ。でもまあ俺の願いを聞いてくれるならお前の王子様に会わせてやるよ」
「・・・・・・願いって?」
「玉藻を俺の所に連れてくること。簡単だろ」
確かに一族の中で底辺とはいえ異世界に渡った夕凪は強者の部類になると聞いていたから簡単だろう。でも簡単すぎないか?とぐるぐると考えていると目の前の少年がただし、と付け加える。
「無傷でな」
それなら警戒心のカケラもない玉藻など夕凪の口車にのり簡単に連れて来れるはず。余裕じゃないかとほくそ笑む。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「いいよ、お前と一緒に異世界に行くよ」
「契約成立だ」
そういう夕凪にニヤリと笑みを浮かべ手を差し出す少年。その手を迷いなく取ると夕凪の手首が淡く光り契約紋が浮かび上がる。
「何これ」
「契約成立の証だ。お前が玉藻を連れて来た時点で消える」
「ふうん・・・」
あまり気にしていない夕凪だが契約紋を手首にされる前にしっかりと契約内容を聞いておけば良かったと、それ以前に知っていれば始めから契約しなかったと後悔するのは異世界に渡ってすぐだとは魔族の事に疎い夕凪はまだ知る由もない。
「よし行くぞ」
「ちょっと待って!僕何も準備してない!」
「大丈夫だ。向こうで全て用意してやる」
「わっ!」
その日から夕凪の姿は神域から消える事になる。
永遠に。
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