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伊月さんの経歴もエグかったけど母親の実家も相当でした

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「邪魔が入ったけどこれからの話をしよう」

 ダイニングテーブルに向かい合わせに座り、ファイルを手元に置いた伊月さんが不満気に話し始める。不満そうなのは大事な話なのに隣に座って太ももを擦りながら話そうとしたので向かいに座らせたから。大事な話なのに不埒な手が気になって頭に入って来ないに決まってる。




 話の結果だけ言えば俺はどうやら逃げられないらしい。

「まずはファイルを見てほしい」

 そう言われファイルを開くと、花ノ宮家の歴史から家族構成、伊月さんの経歴がつらつらとまとめてあった。

 さすが花ノ宮家、個人の経歴に家の歴史まで載せるとはハイソサエティ!と関心してしまったが、経歴の後のページがヤバかった。なんと、伊月さんの個人資産が何枚にも渡り記載されていたのだ!

 株、不動産から飲食店やアパレル関係など多岐に渡り経営、花ノ宮家が行っている事業の取締役や理事etc.etc……

 これ、どこぞのおっさんの経歴が差し込まれてない?と聞きたくなるような肩書きばかり。22の男の経歴じゃねぇし。俺の常識の範囲を軽く飛び越えていたので遠い目になったのは仕方ないと思う。俺は一般市民なのだ。

 しかも事細かく記載されていて、このマンションはΩに優しいラグジュアリーで富裕層向けのマンションとなっているが、やはり俺の為に建てたらしい。
 19階までは低~中層階と呼ばれ、一般人でも頑張れば手が届くような価格設定になっており、高層階の20~28階は富裕層向けの広さや内装が格段に変わり、29階に至っては4邸のみでここ以外伊月さんの友人に貸しているとのこと。
 さらに最上階の30階はペントハウスになっていて、専用のエレベーターじゃないと行けないらしい。そこは俺と番ったら住む予定……って書類に書いてあるんだけど⁉どゆこと⁉

「あ……あの……これは……?」

 震える手でファイルを閉じると、結構な厚みがあることに気づく。そりゃあんだけ細かく書かれてたら厚みだって出るハズだ。

「そのファイルは僕の履歴書だよ。瀬名は僕の事知らないよね?見返せるし言うよりいいかな、と思って。大丈夫、瀬名の事は色々調べて知ってるから」

 やべぇ。今さらりとヤバい事言ったよこの人。俺の事色々調べたって言ったよな?多分父親経由で色々聞いてそうだ。父親あの人嬉々としてあんな事こんな事言ってそうだな。

「で、どうかな?僕かなり優良物件だと思うけど?」

 テーブルに肘を付き顎を乗せ探るように見つめてくる伊月さんは、見た目だけでも超優良物件だ。経歴だって凄い。

 ―――――ただ凄すぎるのだ。

 α家系とはいえ代々町医者のうちは良く言って中の上だ。旧華族の花ノ宮家のような上の上、雲の上の存在に相応しくないだろう。
 神楽や良規さんのように家格が同等なら問題は無いが、家格の違いというものは何かと軋轢あつれきを生むのだ。

 それに名家になればなるほど優秀なαや名家のΩと婚姻を結ぶのを知ってる。だから一般家庭のうちではいくら伊月さんが願っても反対しか出ないのは必然だ。

 ぐるぐるもごもごしていると、一枚の紙をすっと目の前に置かれる。そこには母親の写真と文字が書かれている。

「それは君の母親である美夜みやさんの調査書だ」

 何故急に母親の調査書を見せられるんだ?ただの一般人なのに。やっぱり花ノ宮家としては両親も調べるという事か。

「三波美夜、旧姓鷹司たかつかさ美夜。Ωの名家である鷹司家の末っ子で宇佐先生と結婚を反対され縁を切られている」

「鷹司……」

 あるぇ?鷹司って俺が小さい頃からよく行ってた駄菓子屋のじいちゃんがそんな名字だった気が……

「彼女は元々婚約者がいてね、宇佐先生との馴れ初めは割愛するけど反対を押し切って番い、結婚してしまったんだよ。それを知った婚約者の家が怒ってね、三波家、鷹司家双方が相手側に賠償金を払って鷹司家は縁を切ったわけだ。ただ、あそこは末っ子を溺愛していたからね、まあ立場上の縁切りはしたけど見守ってるって感じかな」

「じゃあ、あの駄菓子屋は……」

「ああ、瀬名の家の近くにある駄菓子屋?あれは鷹司氏が瀬名と関わる為に出した店だね。よく親に連れて行かれただろ?」

 確かに駄菓子屋には父親や母親とよく行っていた。コンビニやスーパーでもお菓子は買えるのに連れて行かれ、駄菓子屋なのに妙に品揃えが良かった記憶がある。というか今気づいたが、俺の好きなお菓子は全て揃っていた。もしかして俺が好きだから置いていたのか……それにあそこのじいちゃんは俺が幼い頃からじいちゃんだった。ということは年齢からいってひいじいちゃんなんだろうな。

「母さんからは両親や親戚はいないって聞いてたのに……事実がエグい」

 両手で顔を覆う。もう今日の情報過多から目を逸らしたい。俺は研究職の父親と専業主婦の母親を持つただの学生だ。子供の頃から母親の実家に見守られ中学から名家の伊月さんに目を付けられてたなんて事実を素直に受け止められない。もし今混乱しているのにぐいぐい来られたら借用書でも婚姻届でも訳が分からないうちにサインしてしまいそうだ。

「これは僕が瀬名と婚約したいと話した時にはもう知ってた話だからね。一応鷹司家にも話は通しているし花ノ宮うちとしては何の問題も無いんだよ」

 ナルホド?縁を切られているとはいえ鷹司の血を引いているのには変わりないから花ノ宮家としては問題無いと?
外堀ガッツリ埋められてますやん!後は俺の返事待ち状態になってない⁉

「と……とりあえず家の事は置いておいて……俺好きな人が出来た事がなくてですね…」

「中学の時、付き合ってる人いたよね?」

 伊月さんの声が少し低くなって空気がピリついたのが分かる。

「いましたね。いたけど告白されて何となく付き合った的な?」

「そう、良かった。もし瀬名が相手を好きだった事があるなら消すところだったよ。ああ、だから彼に寝取られても平気そうだったんだね」

 怖ぇぇ!!この人時たま黒い事言うよな!そしてよく俺の事見てるな!しっかし見られてたのに7年気づかなかった俺って相当鈍いのか?

「マアソウデスネ」

 うん、伊月さんに見られていたのも俺が気づかなかったのもこの際無視だ無視。

「そこも置いといてですね、ファイルに一つ、気になる文章があったんですけど……」

「ん?どれだい?」

 身を乗り出した伊月さんに開いたファイルの気になる箇所を見せる。そこに書いてあるのは


 高校の時に『運命の番』と遭遇、運命の名前は『飯坂理久』


 伊月さん『運命』に会ってるじゃないか。
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