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しっかり者のマリー
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マリーはさっと立ち上がると侍女に合図をした。
「ねーさま。王宮の方へ参りましょう。付いて来て下さるかしら」
コクンと頷くと、再び私は王宮へ足を踏み入れた。
この国に着いてから、息つく間もなく次から次へと事態が変化していく。
自分の蒔いた種だとはいえ、私に穏やかな日などくるのだろうか‥‥
王宮には礼拝堂があり、マリーはその奥へ行くように歩いて行く。
我が王宮にも王族専用の礼拝堂があった。
規模はうちの礼拝堂よりも小さいが立派なものだ。
奥には隠し扉があり、マリーはその扉を開けると入るように促した。
二人で入るとパタンと扉を閉めた。
「ここなら誰に聞かれる心配もありませんわ。どうぞ」
椅子に腰掛けると正面に座る私を真っ直ぐに見た。
私はマリーを信用し、国王のひとり娘として育ってきたこと、18の誕生日に挙げるはずだった結婚式の二週間前に両親を事故で亡くしたこと、婚約を解消され新たに30も歳上の暴力男に嫁がされそうになったことを全て話した。
そして、船に乗りこの国へ来たこと、ラヌー語を話したことで王太子に見つかってしまったこと、自分は平民として静かな暮らしを望んでいることも隠すことなく話した。
少しの沈黙の後、マリーは口を開いた。
「ねーさまは兄と同じ18なのですね。私は一つ下の17ですわ。幼く見られがちですけどね‥」
と笑った。
「私を信じて全てをお話し下さったことに、私も応える必要があるでしょうね」
と、座る位置を少し前にした。
「では、私の考えも正直に申します。
まず、ねーさまの気持ちはよく分かりました。そして、その行動をとってしまったねーさまの気持ちも十分理解したうえで申し上げるのならば、同じ王女として国の上に立つ人間でありながら、その立場を放棄するように国を逃げ出した事は、裏切り者と呼ばれても仕方のないことです。
どの様な理由があろうとも、自分勝手な行動で国を混乱させるような事はしてはいけません。
確かに、その状況に追い込まれたねーさまは、逃げ出す道しか思いつかなかったかもしれませんが、冷静に考えれば、その男性とは一ヶ月後の結婚であったはずです。
もう少し何か国を出る前に頭を使ってもよろしかったのではないですか?」
マリーは見た目よりもずっと大人だ。
確かに焦って飛び出した私の考えは浅はかだ‥‥
「あなたの言う通りね、マリー」
「そして、平民として静かに暮らしたいなどと仰いますが、平民の生活をご存知なのですか?
アルンフォルトの大国で、王女として育ってきたねーさまが民の暮らしを続けられると思っているのかしら?」
何も言えない‥
ヨハンさんにも民を知らなさすぎると言われたばかりだ。
「ねーさまがこの国にやって来ても、こうして兄や私など王家の人間と関わってしまうのは、ねーさまにはこの生き方しかできないということですわ。
きっと何処へ逃げても、ねーさまに民の暮らしはできず、その見た目もその立ち振る舞いも何もかも、王家に引き戻されることになるでしょう」
「まともな意見ね‥」
「ええ、私現実主義者ですのよ。夢物語のような話をする前に、自分の立場で行うことが山ほどありますから」
「その通りね‥‥」
ふふっ
マリーは気落ちした私を見て笑った。
「ねーさまって素直ですのね。そのように素直でいらっしゃるから王妃につけ込まれるのですわ」
「そうね‥‥」
何だか何もかもがマリーの言う通りで、私がやってきたこと全てが愚かな事だったように思う。
「落ち込んでいても何も解決しませんわよ。自分の国を出てきたのなら、この国の民の為に動けばいいのです。そしてこの国の民を味方に付け、ねーさまの行動が決して自分勝手なものではないことを証明すればいいのですわ」
「待って!マリーの言うことは全てその通りだと思ってるわ。けれどこの国の為ということは、私に王太子妃になれということが言いたいの?」
「ええ、王太子妃というより王妃ですわ。ねーさま」
「待って!待ってちょうだいマリー」
「いえ、私も隠さずに言うと、我が国はかつて帝国で聖女と呼ばれていた女性を皇妃として迎えた歴史がありますの」
「知っているわ」
「え?まさかお兄様が話したの?」
「ええ。肖像画も見せられたわ」
「まさかもうそこまでしていたなんて‥‥。でも、話が早いわ。その皇妃は、ねーさまによく似ているでしょう?」
「ベルラード殿下も両陛下も私を皇妃の生まれ変わりだと思っているからこそ、この婚約の話が出たのだと思うわ。だから誰も反対しない。正直に言って迷惑だわ。私は生まれ変わりではないもの」
「受け入れるのは簡単なことではないと思うわ」
「受け入れるつもりはないわ。知らない女性の身代わりになるなんてごめんよ。私は私の人生を生きる為に国まで飛び出してきたの。国の繁栄になるという迷信を私に押し付けるのはやめて欲しいわ」
「ええ。同じ女性として、誰かの身代わりだと思われているのは嫌よね」
「閉じ込められるのはごめんだわ」
「ねーさまは感情が先行するタイプね。生まれ変わりだと受け入れれば、この王家にも国民に対しても権力を手にすることができるのに」
「いらないわ!そういう権力を振りかざす人が嫌いなの。王妃ライナのようにね」
「分かったわ。それで?私はねーさまが生まれ変わりだろうとなかろうと、国が帝国になる繁栄の象徴だろうと関係ないの。今のままでも十分豊かな国ですもの。だから、ねーさまはどうするつもりなの?この国を出て、行く当てがあるの?」
「‥それは‥‥どうしたらいいのか悩んでいるわ。マリーの言う通り、私に民の暮らしができないのなら‥‥どうやって生きていこうかと」
「ねぇ!ならば、民の暮らしを見てみない?市井がどんな暮らしをしているか、見て決めればいいじゃない。私友人として協力するわ」
「本当?マリー、いいの?市井の暮らしを見に連れて行ってくれる?」
「ええ。お互いに何でも話せる仲ですもの。姉妹になれなくても親友になりましょう」
「マリー‥あなたって‥良い人ね」
「ふふっ、ねーさまって、そういう素直さがつけ込まれるのよ。でも私‥‥その性格気に入ったわ!けっこう好きよ」
「褒めてるのか貶してるのか、どっちなのよ」
「あら、どっちもよ」
「‥‥」
いつの間にか、本当の親友のようだ。
まさかこんなところで親友ができるなんて、人生は‥‥わからないものだわ‥‥。
「ねーさま。王宮の方へ参りましょう。付いて来て下さるかしら」
コクンと頷くと、再び私は王宮へ足を踏み入れた。
この国に着いてから、息つく間もなく次から次へと事態が変化していく。
自分の蒔いた種だとはいえ、私に穏やかな日などくるのだろうか‥‥
王宮には礼拝堂があり、マリーはその奥へ行くように歩いて行く。
我が王宮にも王族専用の礼拝堂があった。
規模はうちの礼拝堂よりも小さいが立派なものだ。
奥には隠し扉があり、マリーはその扉を開けると入るように促した。
二人で入るとパタンと扉を閉めた。
「ここなら誰に聞かれる心配もありませんわ。どうぞ」
椅子に腰掛けると正面に座る私を真っ直ぐに見た。
私はマリーを信用し、国王のひとり娘として育ってきたこと、18の誕生日に挙げるはずだった結婚式の二週間前に両親を事故で亡くしたこと、婚約を解消され新たに30も歳上の暴力男に嫁がされそうになったことを全て話した。
そして、船に乗りこの国へ来たこと、ラヌー語を話したことで王太子に見つかってしまったこと、自分は平民として静かな暮らしを望んでいることも隠すことなく話した。
少しの沈黙の後、マリーは口を開いた。
「ねーさまは兄と同じ18なのですね。私は一つ下の17ですわ。幼く見られがちですけどね‥」
と笑った。
「私を信じて全てをお話し下さったことに、私も応える必要があるでしょうね」
と、座る位置を少し前にした。
「では、私の考えも正直に申します。
まず、ねーさまの気持ちはよく分かりました。そして、その行動をとってしまったねーさまの気持ちも十分理解したうえで申し上げるのならば、同じ王女として国の上に立つ人間でありながら、その立場を放棄するように国を逃げ出した事は、裏切り者と呼ばれても仕方のないことです。
どの様な理由があろうとも、自分勝手な行動で国を混乱させるような事はしてはいけません。
確かに、その状況に追い込まれたねーさまは、逃げ出す道しか思いつかなかったかもしれませんが、冷静に考えれば、その男性とは一ヶ月後の結婚であったはずです。
もう少し何か国を出る前に頭を使ってもよろしかったのではないですか?」
マリーは見た目よりもずっと大人だ。
確かに焦って飛び出した私の考えは浅はかだ‥‥
「あなたの言う通りね、マリー」
「そして、平民として静かに暮らしたいなどと仰いますが、平民の生活をご存知なのですか?
アルンフォルトの大国で、王女として育ってきたねーさまが民の暮らしを続けられると思っているのかしら?」
何も言えない‥
ヨハンさんにも民を知らなさすぎると言われたばかりだ。
「ねーさまがこの国にやって来ても、こうして兄や私など王家の人間と関わってしまうのは、ねーさまにはこの生き方しかできないということですわ。
きっと何処へ逃げても、ねーさまに民の暮らしはできず、その見た目もその立ち振る舞いも何もかも、王家に引き戻されることになるでしょう」
「まともな意見ね‥」
「ええ、私現実主義者ですのよ。夢物語のような話をする前に、自分の立場で行うことが山ほどありますから」
「その通りね‥‥」
ふふっ
マリーは気落ちした私を見て笑った。
「ねーさまって素直ですのね。そのように素直でいらっしゃるから王妃につけ込まれるのですわ」
「そうね‥‥」
何だか何もかもがマリーの言う通りで、私がやってきたこと全てが愚かな事だったように思う。
「落ち込んでいても何も解決しませんわよ。自分の国を出てきたのなら、この国の民の為に動けばいいのです。そしてこの国の民を味方に付け、ねーさまの行動が決して自分勝手なものではないことを証明すればいいのですわ」
「待って!マリーの言うことは全てその通りだと思ってるわ。けれどこの国の為ということは、私に王太子妃になれということが言いたいの?」
「ええ、王太子妃というより王妃ですわ。ねーさま」
「待って!待ってちょうだいマリー」
「いえ、私も隠さずに言うと、我が国はかつて帝国で聖女と呼ばれていた女性を皇妃として迎えた歴史がありますの」
「知っているわ」
「え?まさかお兄様が話したの?」
「ええ。肖像画も見せられたわ」
「まさかもうそこまでしていたなんて‥‥。でも、話が早いわ。その皇妃は、ねーさまによく似ているでしょう?」
「ベルラード殿下も両陛下も私を皇妃の生まれ変わりだと思っているからこそ、この婚約の話が出たのだと思うわ。だから誰も反対しない。正直に言って迷惑だわ。私は生まれ変わりではないもの」
「受け入れるのは簡単なことではないと思うわ」
「受け入れるつもりはないわ。知らない女性の身代わりになるなんてごめんよ。私は私の人生を生きる為に国まで飛び出してきたの。国の繁栄になるという迷信を私に押し付けるのはやめて欲しいわ」
「ええ。同じ女性として、誰かの身代わりだと思われているのは嫌よね」
「閉じ込められるのはごめんだわ」
「ねーさまは感情が先行するタイプね。生まれ変わりだと受け入れれば、この王家にも国民に対しても権力を手にすることができるのに」
「いらないわ!そういう権力を振りかざす人が嫌いなの。王妃ライナのようにね」
「分かったわ。それで?私はねーさまが生まれ変わりだろうとなかろうと、国が帝国になる繁栄の象徴だろうと関係ないの。今のままでも十分豊かな国ですもの。だから、ねーさまはどうするつもりなの?この国を出て、行く当てがあるの?」
「‥それは‥‥どうしたらいいのか悩んでいるわ。マリーの言う通り、私に民の暮らしができないのなら‥‥どうやって生きていこうかと」
「ねぇ!ならば、民の暮らしを見てみない?市井がどんな暮らしをしているか、見て決めればいいじゃない。私友人として協力するわ」
「本当?マリー、いいの?市井の暮らしを見に連れて行ってくれる?」
「ええ。お互いに何でも話せる仲ですもの。姉妹になれなくても親友になりましょう」
「マリー‥あなたって‥良い人ね」
「ふふっ、ねーさまって、そういう素直さがつけ込まれるのよ。でも私‥‥その性格気に入ったわ!けっこう好きよ」
「褒めてるのか貶してるのか、どっちなのよ」
「あら、どっちもよ」
「‥‥」
いつの間にか、本当の親友のようだ。
まさかこんなところで親友ができるなんて、人生は‥‥わからないものだわ‥‥。
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