【完結】逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

文字の大きさ
39 / 93

お出掛け

しおりを挟む
髪色が目立つからと茶色の髪を被せられた。
顔と瞳が目立たないように丸い眼鏡をかけさせられた。
これだけで鏡に映った自分は別人のように見える。

「かわいいな‥」

ベルラードは私を見るとそう言うので戸惑ってしまった。

「あっ、いや、いつもは綺麗だが今日はいつもと違って可愛らしいと‥思ったのだ」

戸惑った私を気遣うように言ったベルラードだが、私はその一言がとても嬉しかった。

「ありがとうございます」

私にとって幼い頃から言われ続けていたのは、

「お母様によく似ていらっしゃいますわね」
「王妃様に生き写しのようですわね」
「日ごとに似てらっしゃいますわね」‥‥

どれも私を見ていない挨拶の一言から始まった。
誰も私を見ていないのではないか‥‥

母を知る人は、ルリアではなく母の子としての私であり、国王の父が最も愛する妃の娘。
私の評価ではない。
私はいつも母に似てる人だった。

けれどベルラードは母を知らない。
ただ目の前にいる今の私を見てくれている。
変装しているが、「かわいい」と言ってくれたのだ。
おかしな話だが、それがなんだか不思議と嬉しく感じた。

「ルリア様、騎士が怪我をした時に使う杖ですが、お役に立つかと思って持って参りました。いかがでしょうか?」

「ヘイルズ、どうもありがとう。助かるわ」

杖があれば負担なく歩ける。

「ヘイルズ!余計な物を持ってきたな」

「殿下、抱えられている方も楽ではありません。自分のことばかりお考えにならないで下さい」

ヘイルズは細かいところまでよく気が利く。
ベルラードにはヘイルズが必要だわ。
アロンは苦笑いしている。

ベルラードは黒髪を隠す為、赤茶色のかつらを被っている。
万が一騒ぎにでもなったら大変だものね‥

でもこの赤茶色の髪はメアリー様と同じ色ね。
この国では多いのかしら‥

「変装の準備がいいのね」

「ああ、こういうことはアロンが得意だから全て用意してくれた」

「まぁ、アロン、ありがとう」

少し照れたように首を振りながら、

「いいえ、カモフラージュは私の得意分野ですから」

にっこりと笑うアロンはいつも穏やかで優しい性格をしている。

ベルラードが信頼するこの二人が側に付いていれば両陛下も安心でしょうね。

馬車に乗り市井へ向かう。

市井ではあまり目立たないように護衛は離れてもらい、ヘイルズだけがすぐ後ろを歩く。
基本ベルラードに抱えられて移動し、商店街の気になった店の前で下ろしてもらう。

「果物も野菜もこの国は本当にカラフルですね」

「ああ、育てる者の腕が良いのだろう」

見ているだけでも楽しい。
民がいきいきと仕事をし楽しそうだわ。

「お嬢さん、このさくらんぼ粒が大きくて甘いよ!食べてごらん」

声を掛けられ、ベルラードをチラッと見ると頷いた。

「ありがとう、いただくわ」

パクリと口に入れれば甘くてみずみずしい。
こんな大粒は贅沢ね。
でも知らない人からの手渡しで食べるなんて、まだ少し慣れない。
毒味役もいないのにすぐ口に入れるなど緊張してしまう。

「美味いか?」

コクっと頷くとベルラードは嬉しそうに、

「店主、そのさくらんぼ、箱ごと全部くれ!」

「全部ですか?これは今日入ってきたばかりの高級品で値が張りますよ!」

「よい、全部買う」

店主は驚きながらも良い客を見つけたとばかりに、

「こっちの西瓜はどうですか?小玉だけど甘いよ!少し高いが味は保証するよ」

「ルリア、食べるか?」

「西瓜ですか?この時期にはまだ早いかと思いましたが」

「お客さん、素人だね!小玉は今甘くて美味いのが出てるよ!」

「そうなのですか?食べたいです」

思わず言えば、ベルラードはまた

「その西瓜も買う!」

と、張り切っている。
余計なことを言うと全部買い占めそうなので店を出ることにした‥‥
ヘイルズが護衛を呼び荷物を運ばせている。
ごめんなさい‥。

杖をついて隣の店を覗くと、手作りのアクセサリーが売られている。

「まぁ、可愛らしい」

「見ていくか?」

頷くとベルラードはまた嬉しそうに笑った。

「まぁ、黒バラがモチーフのアクセサリーがあるのですね?」

「私の手作りですよ!赤やピンクが人気だけど、私は黒バラも素敵だと思うんだけどね」

「ええ、とても綺麗だわ」

「旦那さんの目の色と同じだね」

店主の女性は笑いながら、「旦那さん良い男だねぇ」とまじまじと見ている。
「ここら辺では見かけない良い男だよ」

旦那さんではないが‥他人から見ると並んでいる私達はそう見えるのだろうか。

「奥さんも美人だわ!これは美男美女だね!素敵な夫婦だわ」

夫婦だと思われている‥‥

「妻が気に入ったなら、そのアクセサリーをもらおう」

「まぁ、優しい旦那さんだこと!
黒バラは縁起が悪いという人もいるけど、黒バラの花言葉は永遠の愛という意味があるんだよ。二人にはぴったりだと思うけど」

「‥‥」

なんと言ったらいいか‥‥

「そうか、それは良い花言葉だな」

ベルラードは黒バラのイヤリングとネックレスを買うと、他には黒バラはないかと尋ねた。

「出来上がったばかりの髪飾りがあるけど、大きめで真珠も付けたから高いよ。
店に箔がつくように豪華に仕上げてしまったから」

「ちょうど良い!それをくれ」

「え?本当かい?まぁ、こんな素敵な旦那さんがいて羨ましいよ。奥さん愛されてるねぇ。」


まぁまぁと驚きながら奥に髪飾りを取りに行った。

「ベルラード‥そんなに買わなくてもいいですよ」

「いや、今日の記念だ。俺にも買い物の楽しさを味わわせてくれ。黒バラは夜会に着けたらいいだろう?」

私の欲しい物ばかり買わせてしまって、これではただの買い物になっている。
これでいいのかしら‥‥
私‥ただ楽しんでしまっているわ‥‥










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...