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切ない想い
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私達はいつまでも手を繋いだまま、なかなか手を放すことができないでいた。
それは馬車に乗ってからも繋がれたままで、向かいに座るヘイルズが何度もチラチラと見ていたが、ベルラードは気にせずに私の手を握ったままだった。
「今朝、スタンリーはアルンフォルトに発った。君が戻った時の準備の為と残してきた影の者達のこともあるから」
「え?」
突然動き出した現実に、思わず驚いて横のベルラードを見上げる。
「君が戻った時に、王妃や公爵、騎士団長を含めて貴族達に先王の真相を話す場が必要だろう。
スタンリーは一足先にリベール国王と話し合う為アルンフォルトに向かった」
「そんな、私の為に何度もスタンリーに‥‥」
「彼はウェルズス家の人間だ。君の力になれることなら喜んでやるさ」
「そんな‥‥」
「ルリアも準備が整い次第‥‥アルンフォルトへ向かおう」
「ええ‥‥そうね。私には私の仕事が‥‥あるわね」
本来なら私一人でやるべきことを皆が協力してくれている。
だからこそ、私は王女としてしっかり自分の役目を全うするしかない。
自分の感情に流されている場合じゃない。
一刻も早く戻って、叔父を守り、ライナの思惑を阻止する必要がある。
鉱山の領民も脅されたまま、不自由な生活をしている。
何とかするのは私の役目だ。
そして、アルンフォルトの王女に戻ったら、このダルトタナードの為になるよう、国同士の貿易を盛んにし税を引き下げ、この国とは末長く良い関係を築いていきたい。
お互いの民がより一層暮らしやすい国にするのがせめてもの私の償いだ。
「ルリア、君が帰る時、俺も一緒にアルンフォルトへ行くつもりだ」
「⁈駄目よ!ベルラードが国を出るなんて大変な事になってしまうわ。陛下が許してくださらないでしょう?」
「話はしておく。大丈夫だ。
送り届けるくらい‥‥最後の我儘を聞いてくれてもいいだろう?」
「ありがとう‥アルンフォルトも良い国だからぜひ見てほしいわ」
「ああ。君をリベール国王に無事に送り届けるよ」
「‥‥ありがとう」
その時が別れの時になるのね。
私達の立場では別れる選択肢しかない。
お互いに理解しているからこそ、この一秒一秒がとても愛おしく感じられる。
初めて会ったあの衝撃の出会いから、まだ一ヶ月を過ぎていないのに、人の気持ちとはこんなにも変化するものなのね‥‥
そしてこんなに別れが辛くなるとは思わなかった。
横を見れば美しい黒い瞳が私を見つめてくれるけど、この瞳にはいつか誰か私の知らない人が映って、この大きな手を握るだろう。
それでも今は私を映して私を愛して握りしめてくれる手があったことを‥‥一生心の支えにして生きていっても許してくれるだろうか‥‥
私が愛して私が愛された事実だけは、心に持ち続けても、許してほしい‥‥
~~~~~~~~
「そう、やっぱり二人は別れることを選んだのね。
スタンリーが心配していた通りになったわね。
本当に野心のかけらもない人達だこと。
呆れるわね」
「‥‥」
「今すぐ手紙を届けてもらいたいわ。
返事はアルンフォルトへ届けてもらってちょうだい。
私もアルンフォルトへ向かうから。
それと、すぐに父と話をしたいから時間を作ってもらってちょうだい」
「御意」
相変わらずのお人好しね。
自分が我慢すればいいという悲劇の主人公は、時には尊敬すべき美徳となるかもしれないけれど、それでは何度繰り返しても運命は変わらないわよ。
生まれ変わったのなら、運命を変える努力をしなければいけないわ。
もっと考えれば他の選択肢もあるでしょうにね‥‥
そんなことに気付きもしないのね‥‥
それは馬車に乗ってからも繋がれたままで、向かいに座るヘイルズが何度もチラチラと見ていたが、ベルラードは気にせずに私の手を握ったままだった。
「今朝、スタンリーはアルンフォルトに発った。君が戻った時の準備の為と残してきた影の者達のこともあるから」
「え?」
突然動き出した現実に、思わず驚いて横のベルラードを見上げる。
「君が戻った時に、王妃や公爵、騎士団長を含めて貴族達に先王の真相を話す場が必要だろう。
スタンリーは一足先にリベール国王と話し合う為アルンフォルトに向かった」
「そんな、私の為に何度もスタンリーに‥‥」
「彼はウェルズス家の人間だ。君の力になれることなら喜んでやるさ」
「そんな‥‥」
「ルリアも準備が整い次第‥‥アルンフォルトへ向かおう」
「ええ‥‥そうね。私には私の仕事が‥‥あるわね」
本来なら私一人でやるべきことを皆が協力してくれている。
だからこそ、私は王女としてしっかり自分の役目を全うするしかない。
自分の感情に流されている場合じゃない。
一刻も早く戻って、叔父を守り、ライナの思惑を阻止する必要がある。
鉱山の領民も脅されたまま、不自由な生活をしている。
何とかするのは私の役目だ。
そして、アルンフォルトの王女に戻ったら、このダルトタナードの為になるよう、国同士の貿易を盛んにし税を引き下げ、この国とは末長く良い関係を築いていきたい。
お互いの民がより一層暮らしやすい国にするのがせめてもの私の償いだ。
「ルリア、君が帰る時、俺も一緒にアルンフォルトへ行くつもりだ」
「⁈駄目よ!ベルラードが国を出るなんて大変な事になってしまうわ。陛下が許してくださらないでしょう?」
「話はしておく。大丈夫だ。
送り届けるくらい‥‥最後の我儘を聞いてくれてもいいだろう?」
「ありがとう‥アルンフォルトも良い国だからぜひ見てほしいわ」
「ああ。君をリベール国王に無事に送り届けるよ」
「‥‥ありがとう」
その時が別れの時になるのね。
私達の立場では別れる選択肢しかない。
お互いに理解しているからこそ、この一秒一秒がとても愛おしく感じられる。
初めて会ったあの衝撃の出会いから、まだ一ヶ月を過ぎていないのに、人の気持ちとはこんなにも変化するものなのね‥‥
そしてこんなに別れが辛くなるとは思わなかった。
横を見れば美しい黒い瞳が私を見つめてくれるけど、この瞳にはいつか誰か私の知らない人が映って、この大きな手を握るだろう。
それでも今は私を映して私を愛して握りしめてくれる手があったことを‥‥一生心の支えにして生きていっても許してくれるだろうか‥‥
私が愛して私が愛された事実だけは、心に持ち続けても、許してほしい‥‥
~~~~~~~~
「そう、やっぱり二人は別れることを選んだのね。
スタンリーが心配していた通りになったわね。
本当に野心のかけらもない人達だこと。
呆れるわね」
「‥‥」
「今すぐ手紙を届けてもらいたいわ。
返事はアルンフォルトへ届けてもらってちょうだい。
私もアルンフォルトへ向かうから。
それと、すぐに父と話をしたいから時間を作ってもらってちょうだい」
「御意」
相変わらずのお人好しね。
自分が我慢すればいいという悲劇の主人公は、時には尊敬すべき美徳となるかもしれないけれど、それでは何度繰り返しても運命は変わらないわよ。
生まれ変わったのなら、運命を変える努力をしなければいけないわ。
もっと考えれば他の選択肢もあるでしょうにね‥‥
そんなことに気付きもしないのね‥‥
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