【完結】逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

文字の大きさ
58 / 93

別れの選択

しおりを挟む
翌日は体を休める為、一日中部屋でゆっくり過ごした私のもとにベルラードがやってきたのは、その次の日だった。


天気の良い昼過ぎ。
ベルラードは顔を見せてくれた。

「体調はどうだ?」

「ええ、何ともないわ。大丈夫よ」

「それなら良かった。少し出掛けないか?」

愛情に満ちたその微笑みは私を魅了する。

「ええ、もちろん」



彼が連れて行ってくれたのは、あのラベンダー畑だった。
ヘイルズや護衛を遠くに待機させ、私と二人で大きな木の下に来ると、何故か上着を脱いで地面に敷いた。

「さぁ、座ってくれ」

「?駄目よ!王太子の上着に座るなんてできないわ!」

「いいから早く!」

強引なところは今も健在だ。

「‥‥もぅ‥‥」

仕方なく腰を下ろすとベルラードは嬉しそうに笑った。

「昔視察で出掛けた時に、湖の側の公園に恋人同士がいて、見てると男が上着を脱いで女性を座らせたんだ。
俺は何故地面になど座るのかと思ったが、足を伸ばして寄り添う二人は幸せそうに見えた。
やってみたいと思っても俺の場合、難しいことだからな。
まぁ‥したい相手もいなかったが」

「ふふっ、こんなことがしてみたかったの?王太子様が?」

「恋人同士らしいだろう?」

風になびく髪を梳いてくれるその手の温もりが心地良かった。
私を見つめる美しい顔が近づいて自然と唇が重なる。
恥ずかしさよりベルラードを感じられることが幸せに思えた。
ラベンダーも風に揺れ心地良い香りが広がる。
青い空の下、紫の絨毯は美しくて、まるで夢の中にいるような錯覚をおこすほどだ。

「今の私、とても幸せだわ」

「俺も。‥‥ルリアと過ごした日々は一生忘れない」

「ええ‥私も‥‥忘れないわ」

握られた手の指先に力を入れると、さらに強く握られ少しの沈黙が続いた。

先に口を開いたのはベルラードだった。

「君は王女で‥‥国を守らなければならない」

「‥‥ええ。あなたは国王にならねばならない」

また二人で黙り込む。

言われる言葉は分かっていた。
言わなければいけない事も分かっていた。
でも口に出すことが怖かった。

父と母の死の原因が解り、ライナの子が王家の血を継いでいないのなら、叔父の跡を継ぐのは今は私しかいない。
でも女性が継承者になれないままならば、私の子に男子が生まれれば王位継承者になるだろう。
どちらにしても、アルンフォルトの王家の血を絶やさない為には、私が今国に戻る必要がある。
ここでベルラードの妃になることはできない。
ベルラードはこの国の王となるべき人、国を離れるわけにはいかない。

‥‥私達には‥‥別れの選択しかないのだ。

「あの日‥‥君が両親の死の真相を知らないままなら、ずっとここに居てくれただろうか‥‥そんなことを考えていた。
でも君が王女である以上、王家を‥民達を守らねばならないだろう。あれだけの大国だ。
それがその立場で生まれた者の宿命だ」

「‥‥解っています」

「頭では俺も解っている。
それでも心はままならない。
君と離れることを受け入れることができないでいる。
同じ立場の俺が一番理解できていることなのに‥‥」

「ずっと‥‥離れてもずっと‥‥ベルラードのことは忘れない。ずっと好きなままでいるわ」

握った手を持ち上げて、私は自分の頬にベルラードの手を押し当てた。

「ルリアは‥‥伴侶が必要になるだろう。
世継ぎを生まねばならない‥‥
考えるだけで嫉妬で気が狂いそうになるが‥‥」

「あなたも‥‥国王として跡継ぎが必要になるわ」

「俺にはマリーがいる。マリーの子に俺の後の王位を譲るつもりだ。
マリーの子なら、俺よりずっとしっかりした王になるだろう‥。
だから俺は妃は娶らない。
俺の妃はルリアただ一人と心に決めている。
他の女を愛することなどできない」

「ベルラード‥‥」

熱く真剣な眼差しは、そこに嘘がないことを物語っている。
彼の愛は本物だと信じられる。
私も彼を愛しているから。
彼と同じ想いを私も持っているからだ‥‥

ベルラードが他の女性を好きになるなんて考えただけで胸が苦しいし、この美しい瞳には私だけを映してほしいと思ってしまう。

でも‥‥

「私はここへ来て、皆を‥‥苦しめただけだったわね」

「来てくれなければ会えなかった。
この先に何があろうとも、それでもルリアに会えて君を愛した事を後悔することはない。絶対だ。
もし俺が皇帝の生まれ変わりで、君が皇妃の生まれ変わりで、運命が悲劇しか待っていなかったとしても、それでも何度でも君に会えるのなら生まれ変わる。
この美しい瞳に俺を映してくれるのなら何度だって会いに来る。
それほどに‥‥愛しているんだ」

そうして再び私に口付けをした。

私が皇妃の生まれ変わりなら、何度でも彼を愛する人に恨まれ憎まれ命を狙われる。

そんな残酷な運命が繰り返されるとしても‥‥
そう、私もきっとまた生まれ変わってこの深い愛を受け入れるのだろう‥‥














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

処理中です...