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幸せと絶望
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「ルリア、無事で良かった」
ベルラードにギュッと抱きしめられて、やっと体の力が抜けた。
「ありがとう、来てくれて」
腕の中でそう呟けば、余計に強く抱きしめられた。
私に頭を擦り付けて、無事を確認するように何度も良かったと繰り返している。
また心配をかけてしまった。
けれど改めて感じるのは、この腕の中がどれだけ安心できる場所で一番幸せな場所かということだ。
優しい温もりに目を閉じる。
一番会いたいと思った人にこうして抱きしめてもらえることが、どんなに贅沢なことか私は知ってしまったのだ。
「さぁ、一緒に帰ろう」
ベルラードに抱えられ馬車に乗る。
カリンはスタンリーが連れて別の馬車に向かう。
「カリンは‥‥どうなるの?」
「心配しなくても話を聞くだけだ」
「カリンも被害者なの。アロンと同じ様に脅されていたのよ」
「そうか‥でもルリアを危険な目に遭わせたことに変わりはない」
「でもベルラードが来てくれると信じていたからなのよ」
「だとしても、一歩遅ければルリアを失うかもしれなかったのだ。
ずっと生きた心地がしなかった。
君が部屋から消えたと聞いた時、目の前が真っ暗になった。こんな思いは二度としたくない」
私の手を握りしめる彼の手は少し震えていた。
それだけで、どれだけ心配してくれていたのかわかる。
私にとってベルラードが、かけがえのない存在になってしまったように、彼にとっての私もきっと同じなのだろう。
だからこの先に待っている現実を受け入れるのは辛い。
私が思っていることを、きっと彼も気付いているだろう。
彼を好きになってしまったのに、私達の未来は明るいものではない。
馬車に揺られながら、ベルラードの肩にもたれ掛かる。
こんなに安心できる場所をみつけてしまったのに‥‥
ベルラードに抱えられたまま王太子宮に戻ると、いつかと同じ光景があった。
玄関ホールには帰りを待っていてくれた皆が集まっている。
あの時は自分からここを飛び出したのに、今は帰って来れたことに心から安堵している。
エマとフィナにカリンの事を話せば、何の力にもなれなかったと嘆いている。
その姿は、アロンを失ったヘイルズと重なった。
マリーとヨハンさんは手に沢山の紙を抱えて並んで立っていた。
「また心配をかけてごめんなさい‥‥」
そう言うと、
「まったくあなたという人は波瀾万丈ですわね。周りの人間はたまったものではないわ!」
ポロッと涙を流し、
「早くその黒く汚れた顔を洗ってらっしゃいよ!まったく」
そう言って後ろを向いて立ち去ってしまった。
「マリー‥‥怒ったわよね‥‥迷惑ばかりかけて」
「ルリアちゃんのこと、ずっと心配していたんだよ。無事に戻って来てくれて喜んでいるんだ。良かったよ、本当に」
「ヨハンさん、いつも迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい」
「無事で何よりだよ」
いつもの優しい笑顔だけれど、服も髪もいつもより乱れていて、きっと支度をする時間もなく飛び出して来てくれたことがわかる。
結局私といえば‥‥この国に来て皆を引っ掻き回した挙げ句‥‥ここを去らねばならないのだ‥‥
私はどうやって詫びたらいいのだろう‥‥
「いつでも湯浴みができるようにして待っておりました。さぁ、ルリア様!」
涙を拭ったエマとフィナは、
「私達に仕事をさせてください」
と言ってくれたのだ。
涙を堪えられるわけがなかった‥‥。
私はこんな優しい人達に囲まれて、たくさんの幸せをもらったのに、この幸せな場所をまた離れなければいけない。
私の人生は呪われている。
幸せと絶望がどうしていつも隣り合わせなのだろうか‥‥
私が幸せになることを神は許してくれないのだろうか‥‥
ベルラードにギュッと抱きしめられて、やっと体の力が抜けた。
「ありがとう、来てくれて」
腕の中でそう呟けば、余計に強く抱きしめられた。
私に頭を擦り付けて、無事を確認するように何度も良かったと繰り返している。
また心配をかけてしまった。
けれど改めて感じるのは、この腕の中がどれだけ安心できる場所で一番幸せな場所かということだ。
優しい温もりに目を閉じる。
一番会いたいと思った人にこうして抱きしめてもらえることが、どんなに贅沢なことか私は知ってしまったのだ。
「さぁ、一緒に帰ろう」
ベルラードに抱えられ馬車に乗る。
カリンはスタンリーが連れて別の馬車に向かう。
「カリンは‥‥どうなるの?」
「心配しなくても話を聞くだけだ」
「カリンも被害者なの。アロンと同じ様に脅されていたのよ」
「そうか‥でもルリアを危険な目に遭わせたことに変わりはない」
「でもベルラードが来てくれると信じていたからなのよ」
「だとしても、一歩遅ければルリアを失うかもしれなかったのだ。
ずっと生きた心地がしなかった。
君が部屋から消えたと聞いた時、目の前が真っ暗になった。こんな思いは二度としたくない」
私の手を握りしめる彼の手は少し震えていた。
それだけで、どれだけ心配してくれていたのかわかる。
私にとってベルラードが、かけがえのない存在になってしまったように、彼にとっての私もきっと同じなのだろう。
だからこの先に待っている現実を受け入れるのは辛い。
私が思っていることを、きっと彼も気付いているだろう。
彼を好きになってしまったのに、私達の未来は明るいものではない。
馬車に揺られながら、ベルラードの肩にもたれ掛かる。
こんなに安心できる場所をみつけてしまったのに‥‥
ベルラードに抱えられたまま王太子宮に戻ると、いつかと同じ光景があった。
玄関ホールには帰りを待っていてくれた皆が集まっている。
あの時は自分からここを飛び出したのに、今は帰って来れたことに心から安堵している。
エマとフィナにカリンの事を話せば、何の力にもなれなかったと嘆いている。
その姿は、アロンを失ったヘイルズと重なった。
マリーとヨハンさんは手に沢山の紙を抱えて並んで立っていた。
「また心配をかけてごめんなさい‥‥」
そう言うと、
「まったくあなたという人は波瀾万丈ですわね。周りの人間はたまったものではないわ!」
ポロッと涙を流し、
「早くその黒く汚れた顔を洗ってらっしゃいよ!まったく」
そう言って後ろを向いて立ち去ってしまった。
「マリー‥‥怒ったわよね‥‥迷惑ばかりかけて」
「ルリアちゃんのこと、ずっと心配していたんだよ。無事に戻って来てくれて喜んでいるんだ。良かったよ、本当に」
「ヨハンさん、いつも迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい」
「無事で何よりだよ」
いつもの優しい笑顔だけれど、服も髪もいつもより乱れていて、きっと支度をする時間もなく飛び出して来てくれたことがわかる。
結局私といえば‥‥この国に来て皆を引っ掻き回した挙げ句‥‥ここを去らねばならないのだ‥‥
私はどうやって詫びたらいいのだろう‥‥
「いつでも湯浴みができるようにして待っておりました。さぁ、ルリア様!」
涙を拭ったエマとフィナは、
「私達に仕事をさせてください」
と言ってくれたのだ。
涙を堪えられるわけがなかった‥‥。
私はこんな優しい人達に囲まれて、たくさんの幸せをもらったのに、この幸せな場所をまた離れなければいけない。
私の人生は呪われている。
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私が幸せになることを神は許してくれないのだろうか‥‥
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