【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

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優しいサリー伯母様

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次の日から何度か公爵家の馬車が停まると、父も兄も私の具合が悪いなどと理由をつけて丁重に訪問をお断りしていた。

私は部屋に閉じ籠ったまま心が痛んだ。
いつまでもこんな事が続けられるはずがない。
国に戻られたばかりのライド様が、この様に通うことは令嬢達からの反感を買ってしまうのも無理ないこと。
いくら恋愛感情がないこととはいえ、他の令嬢達は面白くないのだろう。
私とて自分の立場はきちんと理解している。
それくらいの常識は持ち合わせている。
淡い恋心など到底叶わない望みだって知っている。

もしかしたら美しい私の王子様は、愛人として‥側に置いてくれるつもりかもしれないが、それは受け入れられない。
好きだからこそ、その話だけは絶対に受けたくない。
愛人‥浮気相手‥妹‥幼馴染‥
どれをとってももうごめんだ。
妻として隣にいれないのなら、もう側に居たくない‥‥
私だってもう十九、昔とは違う感情も生まれている‥‥



「お嬢様、サリー・コロイディア様がお見えになられております」

「え?サリー伯母様?」

父には三人の姉がいる。
一番上の姉であるサリー伯母様は、伯爵家に嫁がれて最近は息子夫婦に爵位を譲り、田舎の別邸で悠々自適な生活を楽しまれている。
弟である父をとても可愛がっていて、毎回会う度に聞かされるのは父の話。
三人の娘の後に男の子が生まれたことを両親も親族も大喜びしたという昔話。
それが長いのよね‥。
でも私と兄をとても可愛がってくれる大好きな伯母様だ。
今日はどうされたのかしら‥‥?


「久しぶりねミリディ!また一段と美人になったわね!」

「サリー伯母様、ご無沙汰しております」

「ええ、会いたかったわ!
少し見ない間に本当に素敵な女性に成長したわね」

「いえ、‥‥世間では悪評のかたまりですわ」

「何言ってるの!あなたが悪いことなどひとつもないわ。
他人の言うことなど気にしてはダメよ。
私の可愛い姪ですもの」

サリー伯母様は相変わらず屈託のない素敵な笑顔を見せてくれる。
伯母様の笑顔には人を癒す力があると思う。
思わずつられてしまうもの。

「ミリディ、姉さんに来てもらったのには訳がある。
こちらに座りなさい」

伯母様の笑顔とは対照的な父の厳しい表情。

「何かあったのですか?」

「お前には姉さんの所に暫く行ってもらおうと思う」

「え?」

驚いたが、

「理由は分かるだろう?」

そう言われて‥‥納得した。

王都の貴族の間では、今はライド様と三度の破談の話題で持ち切りだった。
噂好きがあることないこと好き勝手に言いふらし、いつの間にか悪女のレッテルが貼られているようだ。
父や兄、そして家名にも私の存在は迷惑となっているだろう。
そんな私の気持ちを察したのか、父は首を振った。

「私がお前を邪魔だと思って言っていると思うなら誤解だ。
私は何よりも娘のお前を愛している。
誰が何と言おうとお前に悪いところなどない。
だが、お前が今この場所で生活するには随分と居心地が悪いだろう。
お前が笑顔を失い肩身の狭い思いで生活する姿は父として見ていられない。
暫く皆の関心がお前から薄れるまで、姉さんのところで暮らした方がいいのではないかと思ってな」

「ミリディ?私も昔は伯爵家に嫁いだことで、随分と嫌がらせをされたわ。
親しかった友人さえも冷たくなって‥。
女の嫉妬は陰湿だから、家から出られない程精神を病んだこともあるわ。
でも夫が支えてくれ、事業が成功し、息子が生まれたら世間の評価などガラリと変わった。
周りの女性達の態度が一変よ!
そんなものよ、何かをきっかけにガラリと変わるし、次の話題があれば前の噂など消えてしまうもの。
今は辛いでしょうけど、少し王都を離れて自然の中に身を置くのもいい機会よ。
私とのんびり暮らしてみない?」

「サリー伯母様‥‥」

私の親族は皆優しい、こんな私にいつも優しい‥‥
それが私にはとても心苦しかった。
そしてこの提案に頭を下げるしかない。

「よろしくお願いします」

「さぁ!では準備を急ぎましょう!
すぐに出発するわよ」

「え⁈」

「そうと決まれば早い方がいいのよ、さぁ早く早く」

パンパンと手を叩きメイド達にも指示を出す。

「必要最低限でいいわ。
我が家に何でも揃っていますから」

瞬く間に進み、私は伯母様と馬車に乗せられた。

「ゆっくり姉さんとの時間を楽しんでおいで」

父はホッとしたように笑った。

「娘と過ごせるみたいで夢のように嬉しいわ!
ミリディを返せなくなるかもしれないわよ!」

「姉さん!それは困ります、私の娘ですからね」

「はいはい、ではね」

馬車がゆっくりと走り出す。
ライド様に何も言えずに出ることになってしまった。
でも‥‥この方が良かったのかもしれない。
ライド様も婚約者と向き合う時間が増えて、私への関心も消えるだろう。

きっと彼にとっては気を許せる存在として私といると気楽だったのだろう。
公爵家という常に気の張り詰めた環境の中で、幼い頃から気心の知れた私が楽だったのだと思う。
決して愛情というわけではない。勘違いをしてはいけない。
自分にもう一度言い聞かせる。
私は相応しい人間ではない。

「ミリディ?そんなに思い詰めた顔をしないで。
あなたの笑顔は皆を幸せにしてくれるわ。
だから前向きな気持ちで笑顔を忘れないでほしいの」

「ええ伯母様。心配をかけてごめんなさい」

サリー伯母様は私の手をギュッと握り、

「謝らないで、私はミリディと過ごせると思うと嬉しくてたまらないわ」

その笑顔はやっぱりとても素敵で、伯母様のような強くて優しい人にいつかはなりたいと思いながら、またつられて私も笑った。

「家に着いたら一緒にイチゴジャムを作りましょう、たくさん採れるのよ!
ケーキも焼いて、そうそう、あなたの好きなミートパイを作ってあげるわね」

伯母様はとても楽しそうに話してくれ、王都から離れていくほど私の心も少しずつ軽くなるような気がした。



















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