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会いたかった人
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学園では相変わらず南の棟で一人で授業を受けていた。
家を出るなら、この学園も辞めなくてはならない。
私は授業を終えると教師を呼び止めた。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何?イザベラさん。何か困った事でもあるの?」
「実は、家を出るつもりでおりますので、この学園も近いうちに辞めるつもりでおります。色々ご配慮いただいたのに申し訳ありません」
「駄目よ!ちょっと待ちなさい!」
教師のサリー先生はひどく慌てた。
「詳しい話を聞かせて!相談にのるわ」
サリー先生は、私の手を握り、普段の落ち着いた雰囲気とは打って変わって焦っている。
恥ずかしい話だが、仕方なく全て正直に話した。
「そう‥‥それはとても辛かったわね。分かりました。学園側と話し合ってみます。ですから、結果が出るまで家を出るのは待ってちょうだいね」
「はい‥‥」
私は俯いて返事をすると南の棟を出た。
足は自然とあのガゼボに向いた。
誰もいないガランとしたベンチに一人座った。
向かいには誰もいない‥‥
男爵家の三男坊はどうしているだろう。
彼と会わないまま、私はここを離れることになるだろう。
あんな高価なお見舞いをくれた律儀な三男坊。
結局きちんとしたお返しもできないままで申し訳ない気がした。
「今日もサボるのか?」
顔を合わせれば、少しからかうように聞いてきたアイスブルーの瞳が懐かしい。
いつも可愛げのない返事しかできなかった。
きっと彼もアリサのように愛想が良くて、見た目も可愛らしくて、人懐っこくて、守ってあげたくなるような女性の方が好みだろう。
風が吹いて木の葉が膝の上に落ちてきた。
見るとポツポツと雨でもないのに雫が落ちてくる。
知らない間に涙を流していたことに初めて気が付いた。
「またサボってるのか?」
驚いて顔を上げる。
「⁈どうした!おい!!」
彼の方が何倍も驚いてベンチに駆け寄る。
「会えると思ってなかったわ」
三男坊は困った様に笑うと、私の隣に腰掛けた。
「俺も‥‥会えないと思ってても足が向くんだ」
久しぶりに見るアイスブルーの瞳はやっぱり綺麗だ。
透き通る様な美しい青。
彼は指で私の涙を拭った。
「会えないと思ってた人に会えたのに、泣いてるなんて反則だ。衝撃を受けすぎて心臓が破裂しそうだ」
「‥ごめんなさい。考え事が」
「悩み事か?」
「いえ。近いうちにここを辞めるつもりだから、お別れを言いたいと思っていたの。ちょうど良かったわ」
「⁈何で?何があった?」
「恥ずかしい内輪の話よ。日はまだはっきりしていないけど、先程サリー先生には伝えたの。学園側との話し合いが終われば、母の実家の領地へ行くつもりでいるわ。
あの男爵令嬢は王太子の婚約者に選ばれたみたいよ。演技上手だから、この国の王太子も騙されたのかしらね」
ふふっと笑うと三男坊はまた驚いた顔をする。
「ハーラル?」
「ああ。‥‥第一王子の婚約者なんてまだ公表されていないだろう?」
「さぁ‥‥知らないけど、アリサは王家の人が自分のところに来たと言ってたわよ。彼女の周りも皆がアリサが婚約者に選ばれたことに納得しているって言ってたわ」
「へぇ、そうなんだ。でもイザベラが家を出る必要なんかないだろ?」
「私がいると王家に失礼になるらしいの。だから追い出したいみたい。私もあんな家に居たくないし、ちょうど良いわよ」
「随分と酷い家族だな」
「頭の中身が入ってないような人達だから、元々合わないのよ」
「ははははっ、そうか。イザベラらしいな」
「だからあなたと会える機会は、もうないかもしれないわ」
「‥‥」
「あなたには高価な物をいただいたままで心苦しいわ。何か男爵家に届けさせるわね。家はどちらかしら?」
「なぁ?俺の望むお返しが欲しい」
「え?ええ。構わないけど、何がいいのかしら?」
「創立記念日は王宮で行われる。俺のパートナーとして一緒に参加してくれないか?」
「パートナー?」
夜会でもないただの創立記念日なのに必要かしら‥‥
「今回は大事な節目だから、エスコートさせてくれてもいいだろう?」
「男爵家の三男が?」
「見下すのか?」
「ふふっ、いいえ、喜んで。良い思い出になるわ」
ハーラルは、はぁーっと大きなため息を吐いた。
「令嬢を誘うのは、勇気がいるものなんだな」
夕食の時、執事のエリオットが手紙を持って入って来た。
「旦那様、今学園から手紙が届きました」
「何?学園?」
「きゃぁ!お父様!婚約者として参加しろと書いてあるの?」
「あなた、早く開けて!」
私は黙々と食事をする。
二人はテーブルをバンバン叩いている。
‥‥婚約者なら世も末ね。
「えーっと、‥今年の学園の創立記念日は、大きな節目となる為王宮で開催致します。つきましては、ボルヴァンド侯爵家の皆様全員をご招待致しますので、是非とも全員でご参加くださいますようお願い致します‥‥全員?」
三人が私を見る。
「まぁ、婚約者の私を公表する時にイザベラ様がいないのもおかしいですものね」
「そうよね。姉として祝ってる姿を皆に見せないのも変よね」
「そうだな。侯爵家の娘が参加しないのも不自然だ」
「‥‥」
サリー先生が学園と話し合った結果なのね。
創立記念日が終わるまでは家に居るようにということね。
ハーラルとの約束もあるし、出て行くのはその行事が終わってからね‥。
家を出るなら、この学園も辞めなくてはならない。
私は授業を終えると教師を呼び止めた。
「お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何?イザベラさん。何か困った事でもあるの?」
「実は、家を出るつもりでおりますので、この学園も近いうちに辞めるつもりでおります。色々ご配慮いただいたのに申し訳ありません」
「駄目よ!ちょっと待ちなさい!」
教師のサリー先生はひどく慌てた。
「詳しい話を聞かせて!相談にのるわ」
サリー先生は、私の手を握り、普段の落ち着いた雰囲気とは打って変わって焦っている。
恥ずかしい話だが、仕方なく全て正直に話した。
「そう‥‥それはとても辛かったわね。分かりました。学園側と話し合ってみます。ですから、結果が出るまで家を出るのは待ってちょうだいね」
「はい‥‥」
私は俯いて返事をすると南の棟を出た。
足は自然とあのガゼボに向いた。
誰もいないガランとしたベンチに一人座った。
向かいには誰もいない‥‥
男爵家の三男坊はどうしているだろう。
彼と会わないまま、私はここを離れることになるだろう。
あんな高価なお見舞いをくれた律儀な三男坊。
結局きちんとしたお返しもできないままで申し訳ない気がした。
「今日もサボるのか?」
顔を合わせれば、少しからかうように聞いてきたアイスブルーの瞳が懐かしい。
いつも可愛げのない返事しかできなかった。
きっと彼もアリサのように愛想が良くて、見た目も可愛らしくて、人懐っこくて、守ってあげたくなるような女性の方が好みだろう。
風が吹いて木の葉が膝の上に落ちてきた。
見るとポツポツと雨でもないのに雫が落ちてくる。
知らない間に涙を流していたことに初めて気が付いた。
「またサボってるのか?」
驚いて顔を上げる。
「⁈どうした!おい!!」
彼の方が何倍も驚いてベンチに駆け寄る。
「会えると思ってなかったわ」
三男坊は困った様に笑うと、私の隣に腰掛けた。
「俺も‥‥会えないと思ってても足が向くんだ」
久しぶりに見るアイスブルーの瞳はやっぱり綺麗だ。
透き通る様な美しい青。
彼は指で私の涙を拭った。
「会えないと思ってた人に会えたのに、泣いてるなんて反則だ。衝撃を受けすぎて心臓が破裂しそうだ」
「‥ごめんなさい。考え事が」
「悩み事か?」
「いえ。近いうちにここを辞めるつもりだから、お別れを言いたいと思っていたの。ちょうど良かったわ」
「⁈何で?何があった?」
「恥ずかしい内輪の話よ。日はまだはっきりしていないけど、先程サリー先生には伝えたの。学園側との話し合いが終われば、母の実家の領地へ行くつもりでいるわ。
あの男爵令嬢は王太子の婚約者に選ばれたみたいよ。演技上手だから、この国の王太子も騙されたのかしらね」
ふふっと笑うと三男坊はまた驚いた顔をする。
「ハーラル?」
「ああ。‥‥第一王子の婚約者なんてまだ公表されていないだろう?」
「さぁ‥‥知らないけど、アリサは王家の人が自分のところに来たと言ってたわよ。彼女の周りも皆がアリサが婚約者に選ばれたことに納得しているって言ってたわ」
「へぇ、そうなんだ。でもイザベラが家を出る必要なんかないだろ?」
「私がいると王家に失礼になるらしいの。だから追い出したいみたい。私もあんな家に居たくないし、ちょうど良いわよ」
「随分と酷い家族だな」
「頭の中身が入ってないような人達だから、元々合わないのよ」
「ははははっ、そうか。イザベラらしいな」
「だからあなたと会える機会は、もうないかもしれないわ」
「‥‥」
「あなたには高価な物をいただいたままで心苦しいわ。何か男爵家に届けさせるわね。家はどちらかしら?」
「なぁ?俺の望むお返しが欲しい」
「え?ええ。構わないけど、何がいいのかしら?」
「創立記念日は王宮で行われる。俺のパートナーとして一緒に参加してくれないか?」
「パートナー?」
夜会でもないただの創立記念日なのに必要かしら‥‥
「今回は大事な節目だから、エスコートさせてくれてもいいだろう?」
「男爵家の三男が?」
「見下すのか?」
「ふふっ、いいえ、喜んで。良い思い出になるわ」
ハーラルは、はぁーっと大きなため息を吐いた。
「令嬢を誘うのは、勇気がいるものなんだな」
夕食の時、執事のエリオットが手紙を持って入って来た。
「旦那様、今学園から手紙が届きました」
「何?学園?」
「きゃぁ!お父様!婚約者として参加しろと書いてあるの?」
「あなた、早く開けて!」
私は黙々と食事をする。
二人はテーブルをバンバン叩いている。
‥‥婚約者なら世も末ね。
「えーっと、‥今年の学園の創立記念日は、大きな節目となる為王宮で開催致します。つきましては、ボルヴァンド侯爵家の皆様全員をご招待致しますので、是非とも全員でご参加くださいますようお願い致します‥‥全員?」
三人が私を見る。
「まぁ、婚約者の私を公表する時にイザベラ様がいないのもおかしいですものね」
「そうよね。姉として祝ってる姿を皆に見せないのも変よね」
「そうだな。侯爵家の娘が参加しないのも不自然だ」
「‥‥」
サリー先生が学園と話し合った結果なのね。
創立記念日が終わるまでは家に居るようにということね。
ハーラルとの約束もあるし、出て行くのはその行事が終わってからね‥。
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