【完結】サボり仲間は男爵家の三男坊

風子

文字の大きさ
18 / 20

流行り病?2

しおりを挟む
「イザベラさん、こっちこっち」

長い回廊を歩いていた私が、部屋の前を通ると急に呼び止められた。
扉が大きく開いたままの部屋には、立ち上がって私を呼ぶ王妃様の姿。

「⁈‥王妃様?」

王太子妃教育で、王宮を訪れた私を手招きしているのは、ハーラルの母である王妃様だった。

「イザベラさんを待っていたのよ!遅かったわね」 

「申し訳ありません‥‥」

いつもと同じ時間のはずだけど、王妃様を待たせていたのなら謝るしかない。

王妃様はとても気さくな方で、初めてお会いした時から私を娘のように可愛がってくださる優しい方だ。
金色の髪とライトブラウンの瞳の王妃様はとても美しい方で、顔立ちはハーラルによく似ている‥‥というか、ハーラルが王妃様似ということになる。

部屋には一人の若い男性が、何枚もの大きな紙を持って立っている。

「こちらはドレスの仕立て屋のリュゼルよ。彼のデザインはとても素敵なの」

「初めまして、リュゼルと申します。お会いできて光栄です。王太子妃様」

「あ、いえ。まだ婚約者ですから、イザベラとお呼びください」

「では、イザベラ様。本日はよろしくお願い致します」

彼は深く頭を下げた。

「⁈王妃様?私、今日はこれからダンスの練習があるのですが‥」

「イザベラさん!今日はダンスはいいから、新しいドレスのデザインを決めましょう!隣国を廻る時には何着も必要ですからね。さぁ座って」

「はい。王妃様‥」

言われるまま、ソファーに腰掛けるとテーブルの上にはズラリとデザイン画が並べられた。

「まぁ、とても素敵ですね」

思わず口にすると、王妃様は得意げになって、

「そうでしょう?彼は若いけれどとても才能があるのよ!私のドレスは全て彼に任せることにしたの。だからイザベラさんも彼に頼みましょう」

「身に余るお言葉を頂き光栄です」

彼は王妃様の前に跪いた。

「リュゼル、イザベラさんを見て新しいデザインを思い付くようなら、デザイン画を作り直してもいいのよ」

彼はその言葉に私を見た。

「イザベラ様のアンバーの瞳は大変珍しく、ぜひこの色で一着デザインさせて頂きたいと思います」

「そうねぇ。とても綺麗な色ですものね」

二人は頷き合っている。
と、そこへ王妃様を呼びにメイドが現れた。

「王妃様、お時間でございます」

「ああ、そう!これから公爵夫人と会う予定なの。後は二人で決めてね。リュゼル、デザイン画は後で見せてちょうだいね」

「かしこまりました」

王妃様は部屋を出て行き、私は取り残された。

「もう少し、瞳の色をよく見せていただいてもよろしいですか?」

「え?ええ、もちろん」

そう言うと彼は私に顔を近付けじっと見ている。

「深いアンバーはお美しいですね。光の加減で透き通る色も綺麗です。グラデーションにしましょうか?この黒髪との組み合わせもお美しいですから、ドレスにデザインしてみます」

「‥‥はい」

真剣に見つめられ緊張する。
‥‥とにかく近いわね。

「何をしている!!」

突然ハーラルの声がしたかと思うと、目の前に居た彼が床に突き飛ばされている。

「⁈ハーラル!!リュゼルさん大丈夫ですか⁇」

びっくりして立ち上がるとハーラルはギュッと私を抱きしめた。

「大丈夫か?イザベラ」

「ええ‥」

何が何だか‥

「貴様!俺の婚約者に何をしている!無礼だろう」

彼は痛そうに肩の辺りをさすりながら起き上がった。
突然突き飛ばされ驚いただろう。
とても痛そうで可哀想だ‥

「ちょっとハーラル!彼はリュゼルさんといってドレスのデザインをしてくださる方です!」

「ドレスのデザイン?」

「申し訳ございません。王太子殿下。リュゼルと申します。今イザベラ様のドレスのデザインを考えておりました」

ハーラルは私を抱きしめたまま離そうとしない。

「何故あんなに近付く必要がある!」

「申し訳ありません。イザベラ様の瞳の色が綺麗でしたので、もっとよく見せて頂こうかと思いまして」

彼は私達の足元に跪いたまま、まだ肩から腕の辺りをさすっている。

「リュゼルさん、大丈夫ですか?ハーラルが何か勘違いをしていたみたいで、ごめんなさい。折れたりしてないかしら?」

私はハーラルの腕の中から出ると、リュゼルさんの肩をさすった。
万が一にも折れていたら大変だわ。
彼の仕事にも影響してしまうかもしれない‥‥
王妃様の専属の仕立て屋さんだというのに、どうしたらいいのかしら‥‥

「イザベラ‥‥心配か?」

「え?ええ‥それはそうでしょう」

何故かハーラルはリュゼルさんを睨んでいるが、自分が突き飛ばしておいて、その態度はおかしい。

「ごめんなさい‥今日はもう‥‥」

彼は頷いて私を見ると、

「明日、出直して参ります。明日デザインを決めましょう。今日と同じ時間に待っております」

そう言って部屋を出て行った。

「もぅ!ハーラルったら突然あのようなことは危ないわ!」

「イザベラに近付き過ぎだろ!あんなの異常だ。テーブルを挟んだ距離で十分だろう」

「‥‥」

まぁ、確かに近かったけれど、専門家としては色にこだわっていたのだろうから、仕事の一環だと思うのだけど‥‥





翌日、同じ時間に同じ部屋を訪れたが誰も居ない。

「あれ?」

少し部屋の中を見回していると、

「イザベラ?」

その声に振り返るとハーラルが立っている。

「ハーラル!昨日のリュゼルさんがまだ来ていないみたいで‥‥」

「ああ、昨日の男か?彼は夜に熱を出したらしくて、どうも流行り病に罹ったらしい」

「え?流行り病?」

ついこの間も聞いたような話ね‥‥

「しばらくは外に出られないそうだよ」

「まぁ‥‥本当に今流行っているのね」

「ああ。だからイザベラも気を付けなければいけない」

私の手に長い口付けをしたハーラルは、

「さぁ、今日は珍しい医学書が入ったんだ!一緒に読まないか?」

と嬉しそうに手を引いた。

「医学書?とても興味があるわ!」

「そうだろう?さぁ図書室へ行こう」

‥でもドレスはどうなるのだろう‥‥。
























































































しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

阿里
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...