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女神に頼まれて村作りをしてみた
終わりと始まり 涙の人生(完)
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「ご機嫌麗しゅう、女神様?」
無言の女神は虫を見るかのような目で黒いそれを見るとああ、貴方ですか。とぶっきらぼうに言った。
「おお、怖い怖い…。ところで、今日ですね?今日、日が堕ちきった時、その瞬間、貴方の魂は即座に私の所有物となる。そうしたらこの世界はどうなるんですかねぇ?太陽神は行方不明、海神はもういない!そんな中ッ実質唯一神となった貴方が消えれば!果たしてこの世界はどうなりますかねぇ!!??」
「くっ……黙れ!まだ負けた訳ではない!」
「まだ何を言ってるのですか?今日、この日の日が沈むまでに、貴方の存在を忘れたこの世界の者達が貴方を思い出すことができれば貴方の勝利。その為には女神の像を修復さえできればなんとかなるんでしたっけ?頼みの綱の彼もあの様子では無理でしょうね?」
この悪魔と女神はゲームをしている。遊びなんかではない。女神にとっては魂を賭けたゲームだ。魂をそのまま芸術品のように飾られる、その意識は永遠に残りしかし何をすることもできない。そんな危険な賭けをしているには訳がある。
「いや、しかし。まさかこんな賭けに貴方様が乗るなんてねぇ?」
「………。なんの用も無いなら帰って頂いても?」
悪魔はある日、この世界に突如として現れた。そしてこの世界を制服しようとした。そこに現れたのはこの世界の危機を救う女神であった。しかし、この悪魔は別格だった。既に幾つかの世界を滅ぼしたそれは最高神という位置に立つ女神すら抑え込むものだった。女神とアマノ力が拮抗する中、悪魔からこんな提案があった。
「ゲームをしよう、ルールは簡単。この世界の住民には貴方の存在を忘れてもらう。それを約束の日までに思い出させれば貴方の勝ち。逆にできなければ貴方の負け。その魂は私が貰いましょう」
「そんな話………誰が信じると?」
「悪魔は契約書に弱いのですよ?契約内容は貴方が確認したら良い」
「………契約書に細工をするのは貴方達悪魔の常套手段でしょう?」
「それも見抜けぬ馬鹿な女神ではあるまい?」
「…………………わかりました。その提案、乗りましょう」
実際女神も疲弊しきっていたのでこうするしかなかった。しかし女神は一つ大切な事を忘れていた。
「ちょっと待った。忘れた住民に思い出してもらう、なんてことができるとでも?一人一人に私は女神ですよなんて言って記憶が戻る程単純なものではないでしょう。そもそも悪魔の力で最高神の存在を記憶から消すなどと…」
「ええ、ですので泉を破壊しました。全ての信仰を集めそして高めるあれを」
「どうりで……おかしいと思った」
ぼそっとそう言うとキッと悪魔を睨み付ける。しかしただ黒く暗い悪魔の表情は動いているようには見えなかった。
「一つだけ私が有利なルールを追加しても?」
「ふむ…まぁ良いでしょう。悪魔にも規律があります。上位の者と契約を結ぶとき、それは平等なものでなくてはならない。というものがあります。つまり、私が提示したルールだけというのはこれに欠けますので。それで、どのようなルールで?」
少し悩むそぶりを見せ、悪魔はそう言った。心なしか少し笑っているようにも見えるがその表情は細かくは読み取れない。
「外界から、一人協力者を連れてきたいのですが」
「外界ですか……。まぁ神の貴方が言うのなら良いでしょう。しかし彼にも答えを教えることは許されませんよ。遠回しに誘導する程度なら許しますがそれ以上は貴方の負けです」
「わかりました。それで飲呑みましょう」
重々しい唇を動かし女神はそれを了解した。正式に契約を結んでからは今までの通りだ。
「まぁ、とにかく日が沈むのを楽しみにしていますよ」
「ええ、楽しみにしていてください。悪魔には目に毒になる程感動的なものを見せてあげますから」
「……では失礼して」
ばつが悪そうに悪魔はその場から消え去った。
「………ふぅ、あれの相手は疲れますね。力も……もうほぼ出ませんか」
自嘲気味に笑うとミーアはその場に座り込んだ。というよりは重力に身を任せて落ちたという方が正しいか。何しろ彼女にはもう力はほぼ残っていないのだから当然だ。
「恋は叶わなくても…愛は届くと、奇跡はあるともう一度信じても……良いですよね?」
一翔が倒れてから何時間が経った頃、時間としては大体昼時だろうか。一翔の身を案じリカが付きっきりで看病をしている。
「リカ、昼飯だ」
バンがそっと部屋に入ってきた。それを見てリカの表情が少し和らぐ。
「バンさん…。すみません、今日はご遠慮させていただきます。今は…何かを食べる気分では無いので」
「……そうか。飯食いたくなったらいつでも言ってくれ。大体のものはつくってやるよ」
「ありがとうございます」
ガチャンと扉が閉まった音が空しく虚空に響く。外は明るいはずなのにこんなにも暗く感じるのは何故だろう。考えても考えてもリカは答えを見付けられずにいた。正確には気付かないふりをしていた。それに気付いてしまえばこの悲しみに耐えられなくなってしまうから。この世界の重圧に耐えられなくなってしまうから。
「はぁっはぁ、はぁ………」
発作が起きたように急に息苦しくなる。神官と呼ばれたリカは神々と直接関わりそして祀る巫女である。最初に宝玉なんて知らないと言っていたのは女神そのものの存在を忘れていたからであり今ではそれが何なのかどこにあるのはまではっきりとわかっていた。
「あれは……あれは絶対に誰にも……。この身に変えてでも守らなくちゃいけない…でも怖い。怖いよぉ…一翔さぁん…」
子犬のように泣きじゃくるリカは今までの溜め込んだものを吐き出すかのようだった。宝玉とは、神がこの地に与えたものの一つでありこの世界の均衡を守り続ける代物だ。代々巫女の体に宿し守られてきた。長い時代の中では宝玉を守るために命を落とした巫女もいたそうだ。
「悪魔が襲ってきたのは宝玉があるから……女神様ももう多分限界が近い…もうお力を感じられない……そしたら、今度は私だ。その次はこの世界だ……そしたら一翔さんは…あああ、うああ、やだ やだあああ……」
もしここに悪魔が居たのなら手を叩いて喜んだだろう。絶望、恐怖、恐れ。これらは全て悪魔にはデザートだ。感じるだけでこれほど喜ばしい事はない。
「ここは………?」
目が覚めると一翔は見知らぬ所にいた。しかしどこか安心感のある所だ。しかしそこには何もない。
「歩く………しかないか」
当ても無いが無限に続くそこを歩きだす。不思議と足音は聞こえない。そして、不思議と何処へ向かって歩くべきかも理解ができる。何故なのかはわからないがとにかくこっちに進めば良い。ということだけはわかった。
「本当にここは何処なんだ……?それになんでこんな所に…」
そう言いながらただひたすらに歩を進めていく。
どれだけ歩いたか、見えもしない、あるかもわからない目的地に向かってただ進んで行く。どうしても、どうしてもこの先へ行かねばならない気がしたのだ。そしてどれ程歩いたか忘れた頃、ついにそれは一翔の目に写った。
「ミーア!?なんでここに!」
そこには女神が居た。しかしその事に女神は気付いていない。それもそのはずだ。ここに一翔はいないのだから。つまりこの場にいる一翔は彼にとっての虚像である。
「おい、なんでこんな所に…というか、ここは何処なんだ?なぁおい…おい…?ミーア?」
ようやくその声が聞こえていないことに気付く。同時に彼女の声も自分には聞こえていない事を知る。その様子は手を合わせ小刻みに震えながら何かを繰り返し言っている。一翔から見た彼女は今まで以上に弱々しく不安そうに見えた。何か聞こえないかと耳をすませてみるが何も聞こえない。ならばと、頭をぴとっとつけてやる。すると、濁っているが何かが聞こえてきた。
「…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん」
何を言っているのか一翔にはうまく聞き取れなかった。こめかみの辺りを彼女の口元に押し付ける。
「怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん」
まるで呪われたかのようにひたすらにこれを繰り返していた。体を震わせながらただずっと、その言葉を繰り返していた。そこではっと思い出す。何かを忘れていた。女神を、女神の存在を思い出させるんだ。しかし女神から直接的に言われた事はない。じゃあ何故自分はこの事を知っているのか?始めて異変を感じたのはいつか?そう考えるうちに頭が白くなりそして……。
目が覚めたようだ。それと同時に涙目のリカが一翔に抱き付く。
「一翔さん!良かった……良かった……もう、会えないかと……うああああああん」
泣きながらもリカは自分の仕事を全うする。それは神の異変を感じとり解決することだ。
「うぐ、ぐすっ。一翔さん、……女神様が、女神様が!もうお力を全然感じないでず!何かあったに違いません!」
それを聞いて一翔は女神が震えていた理由を察する。口よりも先に体が動いていた。
「わかった。すぐに向かう」
「向かうって何処に?」
「わからない。わからないけど外に出ないと本当にわからないままだ」
慌てて外に出た一翔を最初に迎えたのはバンだ。
「お、もう体調は良いのか?」
「ああ、それより女神について縁のあるものとかは知らないか?」
「はぁ…だから、女神って何の話だ?頭が起きて無いんじゃないか?ほら、まだ休んでろっ」
バンの大きな手を振りほどき一翔は外に向かう。彼ほどの大男の手を振りほどく事など常人では恐ろしくて、とてもじゃないができないだろう。しかし今の彼には関係ない話だった。外に出てまず目に止まったのは時計塔だ。
「導の塔…なにかあるならここか?」
塔へ入ろうとした刹那、それは光を発した。時間だ。道導を示す時間である。その光を見た時、一翔は全てを思い出した。
「導の塔……導……。女神像…。そうだ、始めて異変を感じたのはあのときだ!何かあるならこの光の先しかない……」
光が途切れると同時に一翔の足はそこへ向かっていた。
(思い出した。思い出したんだ!あの川沿いを歩いた時に感じた違和感、あのとき足を止めたくなったのは、俺の役目だからだ!)
息を切らしながら川へ向かう。途中何度も転びそうになるがそんなことは構ってる余裕はなく、一翔は足を止めることはなかった。数分であの違和感を感じた場所へ戻ってきた。一度足を止め、辺りを確認する。道になりそうな場所を見つけ川を渡り向こう岸を目指す。橋はなく一翔はまだやや冷たい川の中をその足で突き進んで行く。木々をわけ、弦を引きちぎり葉をどかし確かにその足を前に進めていく。獣道とも言えるその場所にはかつては鋪装されていたであろう面影を感じることができた。しかしそれを気にする余裕は既にない。持てる限りの全力で前へ前へと進んで行く。
「はぁ、はぁ、はあ」
あと数分で日が沈む。なぜか日が沈んではいけないという焦りが彼に芽生える。その焦りがよりいっそう一翔の動きを雑にする。弦に足をやられ転倒する。その時に回りの木々は刺さり、肌を引っ掻き、足元の葉のトゲは身体中に痛みを与えた。
「ぐあっ…はぁ……あああ!」
痛みを払いのけ無理矢理体を起こす。日が沈み切るまであと一分もない。しかし一翔は進み続けた。そしてついに泉であったものを見付けた。
(そういえば、ミーアが教えてくれた魔法に修復魔法なんてあったな…)
「リ・パインド オブジア エクシアケース」
泉が瞬く間にそのかつての姿を取り戻した。それは神の力が、信仰が戻る瞬間である。その瞬間人々は女神を思い出した。そして何故忘れていたのか理解に苦しんだ。その刹那、日は落ちた。ゲームは、女神が勝利したのだ。
「あら、本当にやってくれるなんて……流石は私の見込んだ人です」
後ろから明るい彼女の声が聞こえる。振り向きながらこんな事を言ってみる。
「とか言いながらさっきまで震えてただろ。なんなら泣いてたな」
にやっと笑いながら前半本気、後半冗談で言ってみる。しかしミーアの赤面しながらあたふたする様を見て後半も事実なのだとか確信した。
「べべべべ別に?私は神ですしぃ?あいあむ女神ですよ!?」
「その慌てようでばれてるばれてる」
「だ、だから違うって言ってるじゃないですかーー!」
大慌てで訂正するミーアを笑って見る一翔。それを見てさらに赤面するミーア。しかしいつまでもふざけてる場合ではない。
「と、とりあえず!その傷を回復しますよ!」
「あ、あぁ ありがとう」
「リカヴァー スコラーチ トリーメンテ」
「さて、これで大丈夫ですよ。行きましょうか」
「行くってどこに?」
「決まってるでしょう?村ですよ。はやく逝かないと危ないです」
「危ないってどういう」
「説明は後!手遅れになりますから!」
「一翔さん!と……め、女神様!?」
「一翔が帰ってきたって?……女神様!?せ、先刻の無礼、大変申し訳ありません。この村を任された者として女神様を忘れるなど…なんと言えば良いのか。神罰ならいくらでも受ける所存です」
「良い、気にするな。むしろ神官でもないのに最後の一人としてよく持ってくれたものだ。バン、貴方の信仰は間違いなくこの世界一であると断言しよう。外からの客人を任せても貴方は完璧に全てを行ってきた。それだけは間違いない。本当に、ご苦労、大義でありますよ」
女神モードともなれば人は…いや、信仰が、神はここまで変われるものだろうか?ふと自分の世界の神がどのような性格なのか気になってきた一翔はその光景をただ見ていた。しかしそんな時間はすぐに消え去る。
「お楽しみの中悪いんですがねぇ?忘れてませんか?私の事を」
あのときの黒い何かがギリギリ目に映る。辺りは暗いがあれは更に暗い。関わってはいけない何かがそこにいた。
「せっかく大国の国王洗脳してまで潰しに掛かったのに生き残りは出るわ!よりによって巫女が生き残るわ!ゲームには負けるわで散々なんだよ…」
「来ると思いましたよ。悪魔、貴方はゲームに敗北した。ならば即刻この世界から出ていくべきです………と、言いたい所ですがその権利を奪っているのは私でしたね」
「はっ!出てけと言いながらそれをさせないとは頭でもおかしくなったか?それとも、元々そんな小娘に神などできないか!ハハハハ!」
「てめぇ、女神様を侮辱するなら…」
「やめなさい。いくら貴方でも今のあれには勝てません。数多くの世界を滅ぼし取り込んだとは言え、この私と渡り合ったものです」
「世界を取り込んだ!?女神様、それは本当ですか!」
あまりの驚きにバンは声を荒げる。リカは口を抑え目の前のそれに恐怖する。
「なので、ええ。貴方には引導を渡しましょうか。神話の再演、神話を読みときその暗号を解いた時始めて開かれるもう一つの物語。我が誕生から死までの全てを記したそれの一文、女神ミーアの伝承、誰にも読み取れなかった称呼をここに叫びましょう」
「良いだろう、それならばこちらも称呼を解放しようか!我が名はラヴェア!人々に悪魔を与えそして君臨させた者なり!滅びろ、女神風情が!笑わせてくれるわ!」
二つの覇気に周りは気圧されてばかりであった。今まさしく女神ミーアの本気が解放されている。それと渡り合う力を持つ悪魔が今ぶつかるのだ。
「誕生の時、我が身は天の為に 苦悶の時、我が身は悶える為に 沈黙の時、我が身は天へ向かう為に 昇華の時、我が身は全てを納める為に テア・ ラーフ」
女神から悲しくも暖かい光が溢れだす。それをラヴェアを包む。その昔、女神は人であったそうだ。取り柄のない平凡な少女であった彼女は突如として無情なる者の被害にあった。それは非常に長期的なもので彼女は泣き、悲しみ、そして死んだ。その魂は産まれた時から神となる定めであり、彼女はそれを受け入れた。それが女神ミーアの誕生である。悲劇とも言えるその人生は誰にも知られることなくこの世界に刻まれ続けている。そんな悲しき過去を許し受け入れ全てを納めた彼女は少女であって少女ではない。ラヴェアの身体は光に耐えきれず消滅した、かのように思われた。しかし余多の世界を飲み込んだそれに限界などは無かった。いつまでもいつまでも肥大し続けるその魔力、それを全て包む光。まさに最初と同じく拮抗した戦いであった。しかしラヴェアには策がある。肥大し続ける魔力の一部を別の場所へ飛ばし住民を取り込めば女神の力は弱まり自身の力は強まる。それを実行しようとした矢先であった。
「いけませんねぇ、背中ががら空きですよ?」
「アール!どこ行ってたんだ!?」
釣り人 アールがそこには立っていた。アールは触れられぬ程の熱い覇気を纏いラヴェアの背中側にポツンと立っていたのだ。
「…アルドエン、こんな所にいたのですか」
アルドエン、太陽神アルドエンがここに立っていた。かつて海神ナーガスと渡り合い世界の半分を所持していたという太陽神だ。
「ええ、ここにいますよ?あなた様の右腕アルドエンは」
「二対一とは神も随分と落ちたなぁ!?」
「住民を取り込もうとしてるやつに言われたくはないな?」
「くそっ、覚えていろ!必ず、必ずこの屈辱は……晴らすからなぁ!!」
その言葉と共にラヴェアは消えた。辺りに広まっていたよどんだ空気は消え去っていた。
「ま、まさかあの太陽神が…この村に射たとは…」
「最高神と違って随分とあっさりとしてますね?」
「いえ、まぁあの問題児太陽神ですし」
「私がお仕えするのはあくまでミーア様のみです。問題児の貴方には向けるべき敬意も最小で良いかと」
(どんだけ問題児なんだよこいつは……)
思わず突っ込みをいれたくなる所を我慢して一翔は聞いていた。しばらくの沈黙が訪れた後女神ミーアが再び口を動かした。
「では、外来者である貴方を元の世界へ帰します。では、こちらへ」
そう言えば、というのが最初に思ったことだ。これで元の世界へ帰れる……帰れる?帰ることになる?一翔の頭の中はとても混乱していた。
「そう…ですよね。一翔さん、帰るんですもんね」
悲しそうなリカを見て何て声を掛けたらいいのかを見失う。一翔が何を言うか困っているとリカが急に抱きついて来たのだ。
「一翔さん!一翔さんは元の世界へ帰るとき記憶を残さないよう処理されるはずですが、私は…私はいつまでも貴方を愛してます!」
では、と女神ミーアは魔法で一翔を最初の場所へ転送した。
「……帰るのか」
「ええ、本当にありがとうございました。そして、ご迷惑をお掛けしました。なんと言えば良いのか本当に…」
「そんな、気にすること無いって。楽しかったしな」
「ふふ、貴方らしいですね。知らないと思いますが私の初恋は貴方です。人の頃にすらしなかった恋を私は元の世界で活動する貴方を見てしたんです。でも最後はこうして別れなきゃならない。だから貴方を遠ざけた。その結果あんな事になるとは思ってませんでしたが」
笑いながら、しかし悲しそうにミーアは言った。
「じゃあ、お別れですね」
「ああ、楽しかったぜ、女神に頼まれて村作りするってのも」
「ふふ、ありがとうございます。あ、そうだ。これ持っていてください。記憶は消去するので…意味のわからないものになると思いますけど」
小さな紙を渡して女神ミーアはにこっと笑い一翔と別れた。
長い、長い夢を見てた気がする。そっと体を起こす。
「ああ、寝ちゃってたか」
時計を見てまだ二分しか経っていない事に驚きを隠せずにいた。一翔は明日ある学校の舞台の音声や光源の設定などをしていた。
「急に頼まれても困るってもんだ…。ん?なんだこれ」
そこにはなぜ手に持っているのかわからない紙切れのような物があった。中を見ると暗号らしきなにかが書いてあった。
「んー、わかんね。とりあえずシャワー浴びてくるか」
まだ寒い外気を封じるかのように閉まる窓、まだまだ元気そうなコンピューター、そして謎の暗号の書かれた紙切れ。それらを残し彼は部屋を後にした。
無言の女神は虫を見るかのような目で黒いそれを見るとああ、貴方ですか。とぶっきらぼうに言った。
「おお、怖い怖い…。ところで、今日ですね?今日、日が堕ちきった時、その瞬間、貴方の魂は即座に私の所有物となる。そうしたらこの世界はどうなるんですかねぇ?太陽神は行方不明、海神はもういない!そんな中ッ実質唯一神となった貴方が消えれば!果たしてこの世界はどうなりますかねぇ!!??」
「くっ……黙れ!まだ負けた訳ではない!」
「まだ何を言ってるのですか?今日、この日の日が沈むまでに、貴方の存在を忘れたこの世界の者達が貴方を思い出すことができれば貴方の勝利。その為には女神の像を修復さえできればなんとかなるんでしたっけ?頼みの綱の彼もあの様子では無理でしょうね?」
この悪魔と女神はゲームをしている。遊びなんかではない。女神にとっては魂を賭けたゲームだ。魂をそのまま芸術品のように飾られる、その意識は永遠に残りしかし何をすることもできない。そんな危険な賭けをしているには訳がある。
「いや、しかし。まさかこんな賭けに貴方様が乗るなんてねぇ?」
「………。なんの用も無いなら帰って頂いても?」
悪魔はある日、この世界に突如として現れた。そしてこの世界を制服しようとした。そこに現れたのはこの世界の危機を救う女神であった。しかし、この悪魔は別格だった。既に幾つかの世界を滅ぼしたそれは最高神という位置に立つ女神すら抑え込むものだった。女神とアマノ力が拮抗する中、悪魔からこんな提案があった。
「ゲームをしよう、ルールは簡単。この世界の住民には貴方の存在を忘れてもらう。それを約束の日までに思い出させれば貴方の勝ち。逆にできなければ貴方の負け。その魂は私が貰いましょう」
「そんな話………誰が信じると?」
「悪魔は契約書に弱いのですよ?契約内容は貴方が確認したら良い」
「………契約書に細工をするのは貴方達悪魔の常套手段でしょう?」
「それも見抜けぬ馬鹿な女神ではあるまい?」
「…………………わかりました。その提案、乗りましょう」
実際女神も疲弊しきっていたのでこうするしかなかった。しかし女神は一つ大切な事を忘れていた。
「ちょっと待った。忘れた住民に思い出してもらう、なんてことができるとでも?一人一人に私は女神ですよなんて言って記憶が戻る程単純なものではないでしょう。そもそも悪魔の力で最高神の存在を記憶から消すなどと…」
「ええ、ですので泉を破壊しました。全ての信仰を集めそして高めるあれを」
「どうりで……おかしいと思った」
ぼそっとそう言うとキッと悪魔を睨み付ける。しかしただ黒く暗い悪魔の表情は動いているようには見えなかった。
「一つだけ私が有利なルールを追加しても?」
「ふむ…まぁ良いでしょう。悪魔にも規律があります。上位の者と契約を結ぶとき、それは平等なものでなくてはならない。というものがあります。つまり、私が提示したルールだけというのはこれに欠けますので。それで、どのようなルールで?」
少し悩むそぶりを見せ、悪魔はそう言った。心なしか少し笑っているようにも見えるがその表情は細かくは読み取れない。
「外界から、一人協力者を連れてきたいのですが」
「外界ですか……。まぁ神の貴方が言うのなら良いでしょう。しかし彼にも答えを教えることは許されませんよ。遠回しに誘導する程度なら許しますがそれ以上は貴方の負けです」
「わかりました。それで飲呑みましょう」
重々しい唇を動かし女神はそれを了解した。正式に契約を結んでからは今までの通りだ。
「まぁ、とにかく日が沈むのを楽しみにしていますよ」
「ええ、楽しみにしていてください。悪魔には目に毒になる程感動的なものを見せてあげますから」
「……では失礼して」
ばつが悪そうに悪魔はその場から消え去った。
「………ふぅ、あれの相手は疲れますね。力も……もうほぼ出ませんか」
自嘲気味に笑うとミーアはその場に座り込んだ。というよりは重力に身を任せて落ちたという方が正しいか。何しろ彼女にはもう力はほぼ残っていないのだから当然だ。
「恋は叶わなくても…愛は届くと、奇跡はあるともう一度信じても……良いですよね?」
一翔が倒れてから何時間が経った頃、時間としては大体昼時だろうか。一翔の身を案じリカが付きっきりで看病をしている。
「リカ、昼飯だ」
バンがそっと部屋に入ってきた。それを見てリカの表情が少し和らぐ。
「バンさん…。すみません、今日はご遠慮させていただきます。今は…何かを食べる気分では無いので」
「……そうか。飯食いたくなったらいつでも言ってくれ。大体のものはつくってやるよ」
「ありがとうございます」
ガチャンと扉が閉まった音が空しく虚空に響く。外は明るいはずなのにこんなにも暗く感じるのは何故だろう。考えても考えてもリカは答えを見付けられずにいた。正確には気付かないふりをしていた。それに気付いてしまえばこの悲しみに耐えられなくなってしまうから。この世界の重圧に耐えられなくなってしまうから。
「はぁっはぁ、はぁ………」
発作が起きたように急に息苦しくなる。神官と呼ばれたリカは神々と直接関わりそして祀る巫女である。最初に宝玉なんて知らないと言っていたのは女神そのものの存在を忘れていたからであり今ではそれが何なのかどこにあるのはまではっきりとわかっていた。
「あれは……あれは絶対に誰にも……。この身に変えてでも守らなくちゃいけない…でも怖い。怖いよぉ…一翔さぁん…」
子犬のように泣きじゃくるリカは今までの溜め込んだものを吐き出すかのようだった。宝玉とは、神がこの地に与えたものの一つでありこの世界の均衡を守り続ける代物だ。代々巫女の体に宿し守られてきた。長い時代の中では宝玉を守るために命を落とした巫女もいたそうだ。
「悪魔が襲ってきたのは宝玉があるから……女神様ももう多分限界が近い…もうお力を感じられない……そしたら、今度は私だ。その次はこの世界だ……そしたら一翔さんは…あああ、うああ、やだ やだあああ……」
もしここに悪魔が居たのなら手を叩いて喜んだだろう。絶望、恐怖、恐れ。これらは全て悪魔にはデザートだ。感じるだけでこれほど喜ばしい事はない。
「ここは………?」
目が覚めると一翔は見知らぬ所にいた。しかしどこか安心感のある所だ。しかしそこには何もない。
「歩く………しかないか」
当ても無いが無限に続くそこを歩きだす。不思議と足音は聞こえない。そして、不思議と何処へ向かって歩くべきかも理解ができる。何故なのかはわからないがとにかくこっちに進めば良い。ということだけはわかった。
「本当にここは何処なんだ……?それになんでこんな所に…」
そう言いながらただひたすらに歩を進めていく。
どれだけ歩いたか、見えもしない、あるかもわからない目的地に向かってただ進んで行く。どうしても、どうしてもこの先へ行かねばならない気がしたのだ。そしてどれ程歩いたか忘れた頃、ついにそれは一翔の目に写った。
「ミーア!?なんでここに!」
そこには女神が居た。しかしその事に女神は気付いていない。それもそのはずだ。ここに一翔はいないのだから。つまりこの場にいる一翔は彼にとっての虚像である。
「おい、なんでこんな所に…というか、ここは何処なんだ?なぁおい…おい…?ミーア?」
ようやくその声が聞こえていないことに気付く。同時に彼女の声も自分には聞こえていない事を知る。その様子は手を合わせ小刻みに震えながら何かを繰り返し言っている。一翔から見た彼女は今まで以上に弱々しく不安そうに見えた。何か聞こえないかと耳をすませてみるが何も聞こえない。ならばと、頭をぴとっとつけてやる。すると、濁っているが何かが聞こえてきた。
「…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん…い…い…い…けて……い……いて……と…ん」
何を言っているのか一翔にはうまく聞き取れなかった。こめかみの辺りを彼女の口元に押し付ける。
「怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん怖い怖い怖い助けてお願い気付いて一翔さん」
まるで呪われたかのようにひたすらにこれを繰り返していた。体を震わせながらただずっと、その言葉を繰り返していた。そこではっと思い出す。何かを忘れていた。女神を、女神の存在を思い出させるんだ。しかし女神から直接的に言われた事はない。じゃあ何故自分はこの事を知っているのか?始めて異変を感じたのはいつか?そう考えるうちに頭が白くなりそして……。
目が覚めたようだ。それと同時に涙目のリカが一翔に抱き付く。
「一翔さん!良かった……良かった……もう、会えないかと……うああああああん」
泣きながらもリカは自分の仕事を全うする。それは神の異変を感じとり解決することだ。
「うぐ、ぐすっ。一翔さん、……女神様が、女神様が!もうお力を全然感じないでず!何かあったに違いません!」
それを聞いて一翔は女神が震えていた理由を察する。口よりも先に体が動いていた。
「わかった。すぐに向かう」
「向かうって何処に?」
「わからない。わからないけど外に出ないと本当にわからないままだ」
慌てて外に出た一翔を最初に迎えたのはバンだ。
「お、もう体調は良いのか?」
「ああ、それより女神について縁のあるものとかは知らないか?」
「はぁ…だから、女神って何の話だ?頭が起きて無いんじゃないか?ほら、まだ休んでろっ」
バンの大きな手を振りほどき一翔は外に向かう。彼ほどの大男の手を振りほどく事など常人では恐ろしくて、とてもじゃないができないだろう。しかし今の彼には関係ない話だった。外に出てまず目に止まったのは時計塔だ。
「導の塔…なにかあるならここか?」
塔へ入ろうとした刹那、それは光を発した。時間だ。道導を示す時間である。その光を見た時、一翔は全てを思い出した。
「導の塔……導……。女神像…。そうだ、始めて異変を感じたのはあのときだ!何かあるならこの光の先しかない……」
光が途切れると同時に一翔の足はそこへ向かっていた。
(思い出した。思い出したんだ!あの川沿いを歩いた時に感じた違和感、あのとき足を止めたくなったのは、俺の役目だからだ!)
息を切らしながら川へ向かう。途中何度も転びそうになるがそんなことは構ってる余裕はなく、一翔は足を止めることはなかった。数分であの違和感を感じた場所へ戻ってきた。一度足を止め、辺りを確認する。道になりそうな場所を見つけ川を渡り向こう岸を目指す。橋はなく一翔はまだやや冷たい川の中をその足で突き進んで行く。木々をわけ、弦を引きちぎり葉をどかし確かにその足を前に進めていく。獣道とも言えるその場所にはかつては鋪装されていたであろう面影を感じることができた。しかしそれを気にする余裕は既にない。持てる限りの全力で前へ前へと進んで行く。
「はぁ、はぁ、はあ」
あと数分で日が沈む。なぜか日が沈んではいけないという焦りが彼に芽生える。その焦りがよりいっそう一翔の動きを雑にする。弦に足をやられ転倒する。その時に回りの木々は刺さり、肌を引っ掻き、足元の葉のトゲは身体中に痛みを与えた。
「ぐあっ…はぁ……あああ!」
痛みを払いのけ無理矢理体を起こす。日が沈み切るまであと一分もない。しかし一翔は進み続けた。そしてついに泉であったものを見付けた。
(そういえば、ミーアが教えてくれた魔法に修復魔法なんてあったな…)
「リ・パインド オブジア エクシアケース」
泉が瞬く間にそのかつての姿を取り戻した。それは神の力が、信仰が戻る瞬間である。その瞬間人々は女神を思い出した。そして何故忘れていたのか理解に苦しんだ。その刹那、日は落ちた。ゲームは、女神が勝利したのだ。
「あら、本当にやってくれるなんて……流石は私の見込んだ人です」
後ろから明るい彼女の声が聞こえる。振り向きながらこんな事を言ってみる。
「とか言いながらさっきまで震えてただろ。なんなら泣いてたな」
にやっと笑いながら前半本気、後半冗談で言ってみる。しかしミーアの赤面しながらあたふたする様を見て後半も事実なのだとか確信した。
「べべべべ別に?私は神ですしぃ?あいあむ女神ですよ!?」
「その慌てようでばれてるばれてる」
「だ、だから違うって言ってるじゃないですかーー!」
大慌てで訂正するミーアを笑って見る一翔。それを見てさらに赤面するミーア。しかしいつまでもふざけてる場合ではない。
「と、とりあえず!その傷を回復しますよ!」
「あ、あぁ ありがとう」
「リカヴァー スコラーチ トリーメンテ」
「さて、これで大丈夫ですよ。行きましょうか」
「行くってどこに?」
「決まってるでしょう?村ですよ。はやく逝かないと危ないです」
「危ないってどういう」
「説明は後!手遅れになりますから!」
「一翔さん!と……め、女神様!?」
「一翔が帰ってきたって?……女神様!?せ、先刻の無礼、大変申し訳ありません。この村を任された者として女神様を忘れるなど…なんと言えば良いのか。神罰ならいくらでも受ける所存です」
「良い、気にするな。むしろ神官でもないのに最後の一人としてよく持ってくれたものだ。バン、貴方の信仰は間違いなくこの世界一であると断言しよう。外からの客人を任せても貴方は完璧に全てを行ってきた。それだけは間違いない。本当に、ご苦労、大義でありますよ」
女神モードともなれば人は…いや、信仰が、神はここまで変われるものだろうか?ふと自分の世界の神がどのような性格なのか気になってきた一翔はその光景をただ見ていた。しかしそんな時間はすぐに消え去る。
「お楽しみの中悪いんですがねぇ?忘れてませんか?私の事を」
あのときの黒い何かがギリギリ目に映る。辺りは暗いがあれは更に暗い。関わってはいけない何かがそこにいた。
「せっかく大国の国王洗脳してまで潰しに掛かったのに生き残りは出るわ!よりによって巫女が生き残るわ!ゲームには負けるわで散々なんだよ…」
「来ると思いましたよ。悪魔、貴方はゲームに敗北した。ならば即刻この世界から出ていくべきです………と、言いたい所ですがその権利を奪っているのは私でしたね」
「はっ!出てけと言いながらそれをさせないとは頭でもおかしくなったか?それとも、元々そんな小娘に神などできないか!ハハハハ!」
「てめぇ、女神様を侮辱するなら…」
「やめなさい。いくら貴方でも今のあれには勝てません。数多くの世界を滅ぼし取り込んだとは言え、この私と渡り合ったものです」
「世界を取り込んだ!?女神様、それは本当ですか!」
あまりの驚きにバンは声を荒げる。リカは口を抑え目の前のそれに恐怖する。
「なので、ええ。貴方には引導を渡しましょうか。神話の再演、神話を読みときその暗号を解いた時始めて開かれるもう一つの物語。我が誕生から死までの全てを記したそれの一文、女神ミーアの伝承、誰にも読み取れなかった称呼をここに叫びましょう」
「良いだろう、それならばこちらも称呼を解放しようか!我が名はラヴェア!人々に悪魔を与えそして君臨させた者なり!滅びろ、女神風情が!笑わせてくれるわ!」
二つの覇気に周りは気圧されてばかりであった。今まさしく女神ミーアの本気が解放されている。それと渡り合う力を持つ悪魔が今ぶつかるのだ。
「誕生の時、我が身は天の為に 苦悶の時、我が身は悶える為に 沈黙の時、我が身は天へ向かう為に 昇華の時、我が身は全てを納める為に テア・ ラーフ」
女神から悲しくも暖かい光が溢れだす。それをラヴェアを包む。その昔、女神は人であったそうだ。取り柄のない平凡な少女であった彼女は突如として無情なる者の被害にあった。それは非常に長期的なもので彼女は泣き、悲しみ、そして死んだ。その魂は産まれた時から神となる定めであり、彼女はそれを受け入れた。それが女神ミーアの誕生である。悲劇とも言えるその人生は誰にも知られることなくこの世界に刻まれ続けている。そんな悲しき過去を許し受け入れ全てを納めた彼女は少女であって少女ではない。ラヴェアの身体は光に耐えきれず消滅した、かのように思われた。しかし余多の世界を飲み込んだそれに限界などは無かった。いつまでもいつまでも肥大し続けるその魔力、それを全て包む光。まさに最初と同じく拮抗した戦いであった。しかしラヴェアには策がある。肥大し続ける魔力の一部を別の場所へ飛ばし住民を取り込めば女神の力は弱まり自身の力は強まる。それを実行しようとした矢先であった。
「いけませんねぇ、背中ががら空きですよ?」
「アール!どこ行ってたんだ!?」
釣り人 アールがそこには立っていた。アールは触れられぬ程の熱い覇気を纏いラヴェアの背中側にポツンと立っていたのだ。
「…アルドエン、こんな所にいたのですか」
アルドエン、太陽神アルドエンがここに立っていた。かつて海神ナーガスと渡り合い世界の半分を所持していたという太陽神だ。
「ええ、ここにいますよ?あなた様の右腕アルドエンは」
「二対一とは神も随分と落ちたなぁ!?」
「住民を取り込もうとしてるやつに言われたくはないな?」
「くそっ、覚えていろ!必ず、必ずこの屈辱は……晴らすからなぁ!!」
その言葉と共にラヴェアは消えた。辺りに広まっていたよどんだ空気は消え去っていた。
「ま、まさかあの太陽神が…この村に射たとは…」
「最高神と違って随分とあっさりとしてますね?」
「いえ、まぁあの問題児太陽神ですし」
「私がお仕えするのはあくまでミーア様のみです。問題児の貴方には向けるべき敬意も最小で良いかと」
(どんだけ問題児なんだよこいつは……)
思わず突っ込みをいれたくなる所を我慢して一翔は聞いていた。しばらくの沈黙が訪れた後女神ミーアが再び口を動かした。
「では、外来者である貴方を元の世界へ帰します。では、こちらへ」
そう言えば、というのが最初に思ったことだ。これで元の世界へ帰れる……帰れる?帰ることになる?一翔の頭の中はとても混乱していた。
「そう…ですよね。一翔さん、帰るんですもんね」
悲しそうなリカを見て何て声を掛けたらいいのかを見失う。一翔が何を言うか困っているとリカが急に抱きついて来たのだ。
「一翔さん!一翔さんは元の世界へ帰るとき記憶を残さないよう処理されるはずですが、私は…私はいつまでも貴方を愛してます!」
では、と女神ミーアは魔法で一翔を最初の場所へ転送した。
「……帰るのか」
「ええ、本当にありがとうございました。そして、ご迷惑をお掛けしました。なんと言えば良いのか本当に…」
「そんな、気にすること無いって。楽しかったしな」
「ふふ、貴方らしいですね。知らないと思いますが私の初恋は貴方です。人の頃にすらしなかった恋を私は元の世界で活動する貴方を見てしたんです。でも最後はこうして別れなきゃならない。だから貴方を遠ざけた。その結果あんな事になるとは思ってませんでしたが」
笑いながら、しかし悲しそうにミーアは言った。
「じゃあ、お別れですね」
「ああ、楽しかったぜ、女神に頼まれて村作りするってのも」
「ふふ、ありがとうございます。あ、そうだ。これ持っていてください。記憶は消去するので…意味のわからないものになると思いますけど」
小さな紙を渡して女神ミーアはにこっと笑い一翔と別れた。
長い、長い夢を見てた気がする。そっと体を起こす。
「ああ、寝ちゃってたか」
時計を見てまだ二分しか経っていない事に驚きを隠せずにいた。一翔は明日ある学校の舞台の音声や光源の設定などをしていた。
「急に頼まれても困るってもんだ…。ん?なんだこれ」
そこにはなぜ手に持っているのかわからない紙切れのような物があった。中を見ると暗号らしきなにかが書いてあった。
「んー、わかんね。とりあえずシャワー浴びてくるか」
まだ寒い外気を封じるかのように閉まる窓、まだまだ元気そうなコンピューター、そして謎の暗号の書かれた紙切れ。それらを残し彼は部屋を後にした。
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