花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

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マルス=トルマトン

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 俺は昔、花街に住んでいた。
 8歳まで宿屋の下働きとして生活していたのだが、急にトルマトン家が引き取ったのだ。

 物心ついた時に両親がいないのは理解していたし、死んだと思っていた。なので、実の父親が生きていて、俺を引き取りに来たのは驚いた。

 トルマトン家に来て一番に知ったのは、俺は不義の子だということ。初めて見る父親は、俺よりも暗い赤茶色の髪をしていた。
 顔は母親に似てしまったのか、父親には似ていなかった。

 それなのになんで俺が血縁だと、分かったのかと言うと「緑色の瞳」がトルマトン家の証で、血を継ぐ者は必ず緑色らしい。
 そして花街に緑色の瞳を持つ子がいると知り、俺を引き取ったのだと言う。

 母親は父親に知らせぬまま、俺を産んでしまった。それ以上、母親の事は詳しく聞かされなかったが、この家に俺がということは分かる。

 義理の母親が俺を見る度、汚いモノを見るように顔を歪めるからだ。話した事は一度もない。

 そのまま捨て置いてくれた方がよかったのだが…俺を急に引き取った理由はすぐ分かった。トルマトン家の長男が影の稼業を拒否したからだ。

 兄上と初めて会った時の言葉は、今でも覚えている。



「お前が私の弟?」
「…はい、そうです」
「私には影の稼業は向いていない。父上からお前の事を聞き、すぐに呼び寄せるように進言したのは私だ。お前が影の稼業を継ぐんだ」
「……」
「王命を受けるのは名誉な事だが、やはり人をあやめるのは嫌だ。他人の血で汚れたくない」
「……」
「私の代わりがいて、よかった」



 自分の手で、人を殺すのが嫌だったらしい。

 ならば、人にらせるのはいいのか、と今でも笑顔を振りまく兄上あのひとに聞いてみたい。

 トルマトン家に来てから俺は、下男の仕事をしつつ、父親から影の稼業を教わった。血縁だからと言って、家族として扱われた事は一度もない。

 毎日、慣れるまで生傷が絶えなかった。魔法が使えるようになってからは、教わる内容の過酷さが増したが動きはよくなった。

 14歳になる頃には、父親から注意される事もほとんどなくなっていた。
 その間に兄上は前宰相の娘と結婚し、他家へ婿養子に入った。2人の間に産まれてきた子が、次期トルマトン家の当主となる。

 俺はやりたくもない裏の稼業を次に継がせるための繋ぎにすぎない。

 緑色の瞳じゃなければ、俺の人生はもっと変わっていただろう…
 花街から出て、お金を貯めながら自由気ままに旅をし、気に入った場所に住みつき、そこで恋人を作り―――と夢をいだいた時もあったが、今ではもう無理な話だ。

 それといまだお世話になっていた宿屋へは行けていない。トルマトン家から近づくのを禁止されているからだ。
 身元も不明な子供を拾い、育ててくれた宿屋の主人には、死ぬまでに一度くらい会いたい。

 裏の稼業をやりこなせるまでの技術が身についたのが分かると、父親は俺を王国魔導師団に入団させた。王命を受け出したのは、15歳の時だ。

 そして、俺はその時に生涯解けない魔法をかけられた。王命の内容を他人に話すと心臓が止まる、そんな呪いのような魔法だ。裏切らせないためだろう…

 国王、トルマトン家当主、以外に内容を漏らすと俺はすぐに絶命する。
 他家に婿入りしたが、トルマトン家の現在当主は兄上だ。宰相に着任した2年前に俺の監視も兼ねるためか、父親を退けて当主の座についた。

 王命は王の不始末を片付けたり、王では裁けない貴族を秘密裏に消したり―――
 表では出来ない事ばかりだが、相手は素人なので仕事は比較的簡単だ。

 緑色の瞳じゃなかったら、違う未来があったのに…俺の人生は縛られてしまった。

 でもトルマトン家に引き取られて、良かった事が一つだけある。王国魔導師団へ入団できた事だ。



「俺、トゥルーカっていうんだ~。仲良くしようね、よろしく~」

 抱きついてこようとしたので容赦なく、正面から襟元を掴み、腕を交差して締め上げる。

「ぐわわわわ」
「抱きついてくるな。俺はマルスだ」

 締め上げた腕を離し、地面に放り投げてやる。

「マルス、初対面に対して印象強烈すぎ~」
「お前もな、トゥルーカ」

 見上げながら握手を求められ、マルスはそのままガッシリと握手を交わした。

「マルスか、今日からここがお前の家になるのだ。みんなワシの家族じゃからの」



 ホッホッホッと笑いながらも、俺を家族だと言って頭を撫でてくれたベル様の手の感触は忘れない。

 緑色の瞳など関係なく、みんなが俺をただのマルスと扱ってくれ、歓迎してくれる。どんなに辛い事があっても笑顔で迎え入れてくれる。

 俺の仲間であり、本当の家族は、魔導師団みんなだけだ。
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