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決着
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「おもてをあげよ」
謁見の間に響く国王の声、呼び出されたキュリラが片膝をついたまま顔をあげた。
王座に腰掛ける国王と傍らには宰相がおり、室内には3人しか見当たらない。
「なぜ、呼ばれたのか…わかるな?」
「我が王よ、恐れながら呼ばれた理由がわかりかねます」
「話す価値もないとは、このことだな」
「どういうことでしょうか?」
怪訝な顔になるキュリラをよそに、国王は片手をあげ、誰かに合図を送った。
すると、どこからともなくマルスが姿を現し、キュリラの斜め前で片脚をついた。
「その者に見覚えがあるな?」
「知っております。でも、それだけでございます」
飄々と国王の前で嘘をつく、キュリラは堂々としたものだ。
「…私を殺そうとした事を誤魔化そうとしても無駄ですよ」
「なんのことでしょうか?私にはマルス様を殺す理由がございませんが」
「キュリラ様、もう嘘をついても意味がないのです。リオーラ様の落馬事件の真実も、この場にいる者は全てを知っているのですから」
キュリラが目を見開いた。この場所に呼び出された理由を理解したのだろう―――
「飲み物にキーワードを吹き込む。殺したい相手が飲み物を口にしたら、キーワードを言う。するとたちまち、ただの紅茶が毒へと変化…俺を言霊で殺そうとした仕組みは、わかってるんですよ」
(言霊は吹き込んだ本人には効かない。油断させるために自分から飲んだのは、そのためだ)
「俺が生き証人として残った時点で、あなたの処分は決定済みです」
キュリラの目の前に立ち、見下ろす。悔しそうに睨まれたが、怖くもない。
「お前など要らぬ。タシュリ家の名を汚す者よ」
国王が冷たく言い放ち、マルスに合図を送った。
「…くそがっ!!!」
動き出そうとしたキュリラの首元へとマルスは、瞬時に短剣を振り抜いた。ゴトンッと地面にキュリラの頭が転がり、血溜まりと共に沈黙が戻った。
「よくやりました。あとはこちらで、片付けておきます」
「はい」
宰相の声にマルスは頭を下げ、すぐさま扉の前へ行き、待ち構えていた者を謁見の間に招き入れた。
「叔父上様!」
駆け寄ってきたリオーラが、片脚をつこうとしたが国王がそれを止める。左足を心配してのことだ。
「リオーラ…お主が家を出たと聞いた時、儂がどれだけ心配したか」
「すみません」
「花街にいるのは知っていたのだが…あとは、マルスに捜してもらったのだ」
「ありがとうございます。本当に…マルスには感謝しかありません」
国王がマルスの近くまでやってきた。肩を叩き、小さく耳元に囁いてくる。
「マルス、我が望みは叶った。よくやったぞ」
「勿体ないお言葉でございます」
国王とリオーラは、今後について話すために別室へと移動することになった。
そして、宰相と二人になったタイミングで、マルスは話を切り出した。
「兄上、お願いがございます」
「マルスがお願い事なんて初めてですね、なんでしょう?」
宰相と向き合い、自分と同じ瞳と視線を合わせた。
「トルマトン家の次期当主が役目を継ぎましたら、私をトルマトン家から除名して頂きたいのです」
マルスは自分の意志が伝わるようにハッキリと答えた。
「理由を聞いてもいいでしょうか?」
「…私も人を殺したくはなかったのですよ、兄上」
その言葉に宰相が、少し顔を歪めたがマルスは構わず言葉を繋げる。
「縛られた私の人生を解放してほしいのです。そしてそれができるのは、トルマトン家の現当主である兄上だけです」
緑色の瞳から視線を外さず、マルスは胸元に手を置いた。
「私はご存知の通り、身体に生涯解けない魔法が掛けられています。トルマトン家に魂まで縛られたくないのです」
「私を…トルマトン家を恨んでいるのですか?」
「恨んではいません。大切な人が沢山できたのは、魔導師団に入ったおかげですから」
そう、恨んではいない。恨みもしない。俺には、もう全てを受け入れてくれる人がいるから―――
「わかった、トルマトン家当主として約束しよう。我が息子が、稼業を継いだらマルスを解放する」
「ありがとうございます」
「…息子が育つまでもう少し頼みますよ。今さらですが、私はマルスを本当の弟だと思っています。これからもずっと…」
兄上の悲しげな顔を初めて見た…知らないうちに、兄上は俺を本当の弟だと思ってくれていたのだ。
そして、いまさら理解した。この人が愛おしそうに撫でる手、味方だと言ったのは本気だったのだと…
「その言葉だけで十分です」
お辞儀をし、マルスは謁見の間を後にした。
過去に起こった事は、もう振り返らないし、振り向かない。
今は、ただノルファと一緒に歩む未来を目指して生きていくだけだから―――
謁見の間に響く国王の声、呼び出されたキュリラが片膝をついたまま顔をあげた。
王座に腰掛ける国王と傍らには宰相がおり、室内には3人しか見当たらない。
「なぜ、呼ばれたのか…わかるな?」
「我が王よ、恐れながら呼ばれた理由がわかりかねます」
「話す価値もないとは、このことだな」
「どういうことでしょうか?」
怪訝な顔になるキュリラをよそに、国王は片手をあげ、誰かに合図を送った。
すると、どこからともなくマルスが姿を現し、キュリラの斜め前で片脚をついた。
「その者に見覚えがあるな?」
「知っております。でも、それだけでございます」
飄々と国王の前で嘘をつく、キュリラは堂々としたものだ。
「…私を殺そうとした事を誤魔化そうとしても無駄ですよ」
「なんのことでしょうか?私にはマルス様を殺す理由がございませんが」
「キュリラ様、もう嘘をついても意味がないのです。リオーラ様の落馬事件の真実も、この場にいる者は全てを知っているのですから」
キュリラが目を見開いた。この場所に呼び出された理由を理解したのだろう―――
「飲み物にキーワードを吹き込む。殺したい相手が飲み物を口にしたら、キーワードを言う。するとたちまち、ただの紅茶が毒へと変化…俺を言霊で殺そうとした仕組みは、わかってるんですよ」
(言霊は吹き込んだ本人には効かない。油断させるために自分から飲んだのは、そのためだ)
「俺が生き証人として残った時点で、あなたの処分は決定済みです」
キュリラの目の前に立ち、見下ろす。悔しそうに睨まれたが、怖くもない。
「お前など要らぬ。タシュリ家の名を汚す者よ」
国王が冷たく言い放ち、マルスに合図を送った。
「…くそがっ!!!」
動き出そうとしたキュリラの首元へとマルスは、瞬時に短剣を振り抜いた。ゴトンッと地面にキュリラの頭が転がり、血溜まりと共に沈黙が戻った。
「よくやりました。あとはこちらで、片付けておきます」
「はい」
宰相の声にマルスは頭を下げ、すぐさま扉の前へ行き、待ち構えていた者を謁見の間に招き入れた。
「叔父上様!」
駆け寄ってきたリオーラが、片脚をつこうとしたが国王がそれを止める。左足を心配してのことだ。
「リオーラ…お主が家を出たと聞いた時、儂がどれだけ心配したか」
「すみません」
「花街にいるのは知っていたのだが…あとは、マルスに捜してもらったのだ」
「ありがとうございます。本当に…マルスには感謝しかありません」
国王がマルスの近くまでやってきた。肩を叩き、小さく耳元に囁いてくる。
「マルス、我が望みは叶った。よくやったぞ」
「勿体ないお言葉でございます」
国王とリオーラは、今後について話すために別室へと移動することになった。
そして、宰相と二人になったタイミングで、マルスは話を切り出した。
「兄上、お願いがございます」
「マルスがお願い事なんて初めてですね、なんでしょう?」
宰相と向き合い、自分と同じ瞳と視線を合わせた。
「トルマトン家の次期当主が役目を継ぎましたら、私をトルマトン家から除名して頂きたいのです」
マルスは自分の意志が伝わるようにハッキリと答えた。
「理由を聞いてもいいでしょうか?」
「…私も人を殺したくはなかったのですよ、兄上」
その言葉に宰相が、少し顔を歪めたがマルスは構わず言葉を繋げる。
「縛られた私の人生を解放してほしいのです。そしてそれができるのは、トルマトン家の現当主である兄上だけです」
緑色の瞳から視線を外さず、マルスは胸元に手を置いた。
「私はご存知の通り、身体に生涯解けない魔法が掛けられています。トルマトン家に魂まで縛られたくないのです」
「私を…トルマトン家を恨んでいるのですか?」
「恨んではいません。大切な人が沢山できたのは、魔導師団に入ったおかげですから」
そう、恨んではいない。恨みもしない。俺には、もう全てを受け入れてくれる人がいるから―――
「わかった、トルマトン家当主として約束しよう。我が息子が、稼業を継いだらマルスを解放する」
「ありがとうございます」
「…息子が育つまでもう少し頼みますよ。今さらですが、私はマルスを本当の弟だと思っています。これからもずっと…」
兄上の悲しげな顔を初めて見た…知らないうちに、兄上は俺を本当の弟だと思ってくれていたのだ。
そして、いまさら理解した。この人が愛おしそうに撫でる手、味方だと言ったのは本気だったのだと…
「その言葉だけで十分です」
お辞儀をし、マルスは謁見の間を後にした。
過去に起こった事は、もう振り返らないし、振り向かない。
今は、ただノルファと一緒に歩む未来を目指して生きていくだけだから―――
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