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第9部 倒錯のイグニス
#20 緊急事態②
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「あ、璃子」
ふみの腕の力が緩んだ。
ふみは璃子に弱い。
なぜだかわからないが、このふたりの間には確固とした主従関係が成立しているらしいのだ。
杏里はふみの腕を振りほどいた。
巨体の下から転がり出ると、部屋の隅まで逃れてスカートとブラウスを直した。
「前から言ってるだろ? 学園祭まで我慢しろって。学祭が来れば、好きなだけそいつを抱けるんだ。今暴走して、そのチャンスをふいにしたいのか?」
璃子がハスキーヴォイスでまくし立てた。
「わかったよ…」
ふみの顔には完全に怯えの表情が浮かんでいる。
杏里はひっかかるものを感じて戸口の璃子を見た。
この子、知ってるのだろうか?
学園祭最終日に行われる、あの秘密のイベントの内容を?
でも、まだ正式な発表もないのに、なぜ?
「ということだ、笹原」
璃子が意味ありげな視線を返してくる。
「ここは大人しく引いてやるけど、これで終わったと思うなよ。いつか、おまえの化けの皮、あたしらが剥がしてやるからな」
未練たっぷりに杏里のほうを振り返りながら、璃子に連れられてふみが出ていった。
楽屋の中には、ニンニク臭いふみの口臭が色濃く漂っている。
廊下にふたりの姿がないのを確かめ、杏里も外に出た。
裏口から校舎裏を回り、遠回りして教室に戻った。
人気のない教室に、すらりとした人影。
振り向いたのは、純である。
「待っててくれたの?」
その姿を目に止め、杏里は少しうれしくなった。
あたたかいものが、胸の底からこみ上げてくる。
「うん、まあ…」
生返事をしたものの、純は様子がおかしかった。
スマホの画面を食い入るように覗き込んでいるのだ。
「どうしたの?」
そばによると、
「それがさ、なんだか、隣町の中学、今大変なことになってるみたい」
そう言って、スマホの画面を差し出してきた。
画面の映っているのは、LINEニュースである。
『異常者、女子生徒を盾に学校に籠城』
そんなぶっそうなテロップが踊っている。
「隣町の中学って…?」
隣町と言えば、杏里の住んでいる区域である。
そしてここから一番近いのは、荘内橋中学だ。
荘内橋は、本当は杏里が通うはずだった学校だった。
そして、杏里の代わりに配置されたのは…。
嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な予感。
「荘内橋中だよ。ああ、なんとかしてあげないと、この子、やばいかも」
「この子?」
「ほら、窓のところに人影が見えるでしょ? 犯人は陰に隠れてるけど、窓のところに女の子が」
「貸して」
杏里は奪い取るように純からスマホを譲り受けると、小さな画面に目を凝らした。
不鮮明な画像は、地上から見上げた校舎の窓だった。
教室の窓のひとつに、こちらを向いて窓ガラスに張りついた少女の姿が見える。
三つ編みのそのあどけない顔には見覚えがあった。
「いずなちゃん…」
杏里は呆然とつぶやいた。
籠城した異常者に人質にされている少女。
それは間違いなく、あの稲盛いずなだったのだ。
ふみの腕の力が緩んだ。
ふみは璃子に弱い。
なぜだかわからないが、このふたりの間には確固とした主従関係が成立しているらしいのだ。
杏里はふみの腕を振りほどいた。
巨体の下から転がり出ると、部屋の隅まで逃れてスカートとブラウスを直した。
「前から言ってるだろ? 学園祭まで我慢しろって。学祭が来れば、好きなだけそいつを抱けるんだ。今暴走して、そのチャンスをふいにしたいのか?」
璃子がハスキーヴォイスでまくし立てた。
「わかったよ…」
ふみの顔には完全に怯えの表情が浮かんでいる。
杏里はひっかかるものを感じて戸口の璃子を見た。
この子、知ってるのだろうか?
学園祭最終日に行われる、あの秘密のイベントの内容を?
でも、まだ正式な発表もないのに、なぜ?
「ということだ、笹原」
璃子が意味ありげな視線を返してくる。
「ここは大人しく引いてやるけど、これで終わったと思うなよ。いつか、おまえの化けの皮、あたしらが剥がしてやるからな」
未練たっぷりに杏里のほうを振り返りながら、璃子に連れられてふみが出ていった。
楽屋の中には、ニンニク臭いふみの口臭が色濃く漂っている。
廊下にふたりの姿がないのを確かめ、杏里も外に出た。
裏口から校舎裏を回り、遠回りして教室に戻った。
人気のない教室に、すらりとした人影。
振り向いたのは、純である。
「待っててくれたの?」
その姿を目に止め、杏里は少しうれしくなった。
あたたかいものが、胸の底からこみ上げてくる。
「うん、まあ…」
生返事をしたものの、純は様子がおかしかった。
スマホの画面を食い入るように覗き込んでいるのだ。
「どうしたの?」
そばによると、
「それがさ、なんだか、隣町の中学、今大変なことになってるみたい」
そう言って、スマホの画面を差し出してきた。
画面の映っているのは、LINEニュースである。
『異常者、女子生徒を盾に学校に籠城』
そんなぶっそうなテロップが踊っている。
「隣町の中学って…?」
隣町と言えば、杏里の住んでいる区域である。
そしてここから一番近いのは、荘内橋中学だ。
荘内橋は、本当は杏里が通うはずだった学校だった。
そして、杏里の代わりに配置されたのは…。
嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な予感。
「荘内橋中だよ。ああ、なんとかしてあげないと、この子、やばいかも」
「この子?」
「ほら、窓のところに人影が見えるでしょ? 犯人は陰に隠れてるけど、窓のところに女の子が」
「貸して」
杏里は奪い取るように純からスマホを譲り受けると、小さな画面に目を凝らした。
不鮮明な画像は、地上から見上げた校舎の窓だった。
教室の窓のひとつに、こちらを向いて窓ガラスに張りついた少女の姿が見える。
三つ編みのそのあどけない顔には見覚えがあった。
「いずなちゃん…」
杏里は呆然とつぶやいた。
籠城した異常者に人質にされている少女。
それは間違いなく、あの稲盛いずなだったのだ。
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