激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#72 基礎訓練 応用編④

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 何度かためらった後、控えめにノックの音を響かせると、
「入れ。開いている」
 厚いドア越しに、中性的な小百合の声が聞こえてきた。
「失礼します」
 後ろ手でドアを閉め、部屋の左手にある衝立の陰に回る。
 制服と下着を手早く脱ぎ、例の練習着代わりのレオタードに着替えた。
 きょうは白である。
 身体の隅々までくっきりと透けて見えてしまう、一番恥ずかしい色合いの着衣だ。
 衝立を回ってマットのあるほうへ行くと、マットの前に小百合が巨木のようにそびえ立っていた。
 きょうの小百合は、真っ赤なビキニタイプのコスチュームを身につけている。
 レスリングの衣装というより、ビーチバレーのほうが似合いそうだ。
 だが、お世辞にもセクシーとは言い難かった。
 全身を覆う鎧のような筋肉が強調されるあまり、セクシーというよりマッチョ感満載なのだ。
「遅かったな。来ないのかと思った」
 フランケンシュタインの怪物を思わせる落ちくぼんだ小さな目が、じっと杏里を見た。
 そこに熾火のように燃える何かを見つけた気がして、杏里の背筋をぞわぞわと悪寒が駆け抜ける。
「あまり遅いから、危うく自分で自分を慰めるところだったよ」
 冗談のつもりなのか、ビキニパンツの前を指で撫でまわしながら、小百合が笑いの形に厚い唇をゆがめた。
「すみません」
 杏里は反射的に頭を下げた。
 ふとめまいを覚え、壁に片手を突いて身体を支えた。
 ここへ来る前に、校庭の水飲み場で、もうひと袋分、性露丸を飲んできていた。
 だから、頭がふらふらするし、身体中が熱くてたまらない。
 レオタードがあまりにぴっちりしているために、少し動くだけで乳首や陰核が布地にこすれて快感のパルスが起こるのだ。
「どうした? 体調でも悪いのか? それとも生理でも来たのか?」
 大きな影が近づいてきたかと思うと、太い腕でやにわに抱きしめられた。
「だ、大丈夫です」
 耳を舐められそうになり、杏里はあわててその腕の輪をすりぬけた。
 媚薬のおかげで、すでに肌の露出した部分はほのかに潤ってきている。
 もう少し時間が経てば、杏里の身体はウナギなみにつかみにくい状態に変貌するに違いなかった。
「ちょっと、立ち眩みが…。あの、それより、今日の特訓って、何をするんですか?」
 上がりそうな息を整えるためにも、杏里はこちらからたずねることにした。
 勝つための技。
 それを教える。
 そのようなことを、きのう小百合は言っていた気がする。
 確かに、逃げてばかりでは試合に勝ったことにはならない。
 でも、だからといって、非力な自分にいったい何ができるのか。
 そこが杏里には疑問でしかたがない。
「レスリングの勝利条件には、色々ある」
 未練げに逃げた杏里の身体をねめ回すと、気を取り直したように、小百合が話し始めた。
「強敵相手の時は、小技をコツコツ決めて、ポイントを稼ぐというやり方もある。だが、それは素人で、その上筋力運動神経もない今のおまえには無理だろう」
「はあ」
 だったら、初めからレスリングなんてさせなければいいのに。
 そう言いたいのを辛うじて我慢する。
「ならばおまえが勝つ方法はただひとつ。相手からフォールを奪うことだ」
「フォール…ですか?」
 プロレスのフォールなら、テレビで見た覚えがある。
 レフリーがマットを叩き、カウント3を数えると、確かそれで勝負が決まったような…。
「レスリングのフォールは、プロレスに比べれば簡単だ。相手の肩を、マットに1秒間、つけるだけでいい」
「1秒間…」
 それが長いのか短いのか、杏里にはさっぱりわからない。
 でも、たとえ1秒でも、私にはとても無理。
 すぐにそう思った。
 それには相手をマットに押さえつけなければいけないのだ。
 そんな力は、とても私にはない…。
「自分には無理、と言いたげだな」
 杏里の顔色を読んで、小百合が言った。
「だが、それがそうでもないのだ。ひとつだけ、方法がある」
「方法?」
 杏里は当惑して、小首をかしげてみせた。
 体格のいい純や咲良やふみを、私がフォールする方法?
 そんなものが、本当にあるのだろうか?
「きょうは、その技をマスターするための特訓だ。だが、それには少し準備が要る」
 小百合が事務机の上から取り上げたものを見て、杏里はぎくりとなった。
 それは、大きな裁縫鋏だった。
 ステンレススチールの刃が、ゆっくりと近づいてくる。
「動くな」
 小百合が言った。
「怪我をしたくなければな」

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