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第9部 倒錯のイグニス
#87 悪夢のチーム練習⑤
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その後はアニスの指示でペアの入れ替えが行われ、杏里はようやくふみから離れることができた。
次の相手は副キャプテンの純、そして最後はキャプテンのアニスだった。
純はすでに”浄化”が済んでいるし、いつも公平に接してくれるアニスにも含むところはない。
そんなわけで、そのあとの練習では、杏里はあえてタナトスの能力を封印して、ふたりから技の指導を受けることに専念した。
練習が終了したのは、夕方の5時きっかりだった。
シャワーを浴び、制服に着替えて帰る準備をしていると、先に着換えを済ませた純が寄ってきて、杏里の肩を叩いた。
「一緒に帰らない? あたしは歩きだけど、バス停まで一緒に行くよ」
ひとりで居ると、また璃子とふみに絡まれかねない。
そう思ってびくびくしていた時だけに、純からの申し出は渡りに船だった。
「それにしてもさあ、杏里って、身体やわらかいんだね」
正面玄関へと続く渡り廊下を肩を並べて歩きながら、純が言った。
「どんな技をかけられても、けっこう長時間耐えてるじゃん。あたし、ちょっと見直しちゃったよ」
「まあ…我慢強いのだけが、取り柄だから…」
苦笑するしかない。
実際、杏里はレスリングの技のかけ方をまるで知らないのだ。
なにしろ、小百合との特訓では、ひたすら受け身専門だったのである。
小百合からは、逃げ方とフォールの仕方を教えてもらっただけなのだ。
しかも、そのどちらもタナトスの体質あってこその方法だった。
「先生の個人レッスンで、いったい何を教わってたの?」
初めてペアを組んだ時、杏里のあまりの素人ぶりに純は呆れてそうたずねてきたものだった。
だが、そんなわけで、杏里にはそもそも答えられるはずがなかったのである。
「受け身はあれでいいとして、何かひとつ得意技を見つけるといいよね。紅白戦までにさ。そうすれば、なんとかサマになるかもよ」
杏里を慰めるつもりなのか、純は親身な口調でそんなことを言う。
およそ格闘技に不向きな友を、レスリング部に誘ってしまった負い目も手伝ってのことかもしれなかった。
得意技は、あるよ。
そう言いたいのは山々だったが、口にできる内容ではなく、杏里は曖昧にうなずいてみせるしかなかった。
それに、璃子の言葉がずっと気にかかっていて、不安が芽生えていたせいもある。
ふみのように業の深い人間は、1回の浄化では救えない。
璃子は確かにそう言ったのである。
なるほど、考えてみれば、その通りかもしれなかった。
クラブハウスでの一件をはじめ、ふみにはこれまで何度も性的な攻撃を受けている。
杏里とてやられっ放しではなく、そのたびにカウンター気味にある程度の快感をふみには与えてきているのだ。
常人なら、とっくに浄化されているところではないのか。
そんな気がした。
なのに、いつまでたってもふみは、杏里の尻を追うのをやめようとしない。
すなわち、浄化されていないからである。
璃子は璃子で、彼女なりに対タナトスの防御策を考えついている。
やっかいなコンビ…。
今更のように、そう思わずにはいられない。
純の言葉に上の空で相槌を打ちながら、正門に差し掛かった時のことだった。
「杏里」
よく通る声が、名前を呼んだ。
驚いて顔を上げると、門柱にもたれて、腕組みをしたルナがこっちを見つめていた。
隣に自信なさげに佇んでいる小柄な少年は、重人である。
「誰? 外人留学生に、知り合いがいるの?」
歩みを止めて、純が訊いてきた。
ルナのブロンドのポ二ーテ-ㇽに度肝を抜かれているらしい。
純などいないかのように、ルナは射るようなまなざしで杏里を注視している。
「どうしたの? ルナ。それに、重人まで」
純に返事をする前に、仕方なく杏里は訊き返した。
答えたのは、ルナではなく、重人のほうだった。
「杏里、大変だ。行方不明はいずなだけじゃない。あのヤチカさんまで、いなくなってるらしいんだ」
次の相手は副キャプテンの純、そして最後はキャプテンのアニスだった。
純はすでに”浄化”が済んでいるし、いつも公平に接してくれるアニスにも含むところはない。
そんなわけで、そのあとの練習では、杏里はあえてタナトスの能力を封印して、ふたりから技の指導を受けることに専念した。
練習が終了したのは、夕方の5時きっかりだった。
シャワーを浴び、制服に着替えて帰る準備をしていると、先に着換えを済ませた純が寄ってきて、杏里の肩を叩いた。
「一緒に帰らない? あたしは歩きだけど、バス停まで一緒に行くよ」
ひとりで居ると、また璃子とふみに絡まれかねない。
そう思ってびくびくしていた時だけに、純からの申し出は渡りに船だった。
「それにしてもさあ、杏里って、身体やわらかいんだね」
正面玄関へと続く渡り廊下を肩を並べて歩きながら、純が言った。
「どんな技をかけられても、けっこう長時間耐えてるじゃん。あたし、ちょっと見直しちゃったよ」
「まあ…我慢強いのだけが、取り柄だから…」
苦笑するしかない。
実際、杏里はレスリングの技のかけ方をまるで知らないのだ。
なにしろ、小百合との特訓では、ひたすら受け身専門だったのである。
小百合からは、逃げ方とフォールの仕方を教えてもらっただけなのだ。
しかも、そのどちらもタナトスの体質あってこその方法だった。
「先生の個人レッスンで、いったい何を教わってたの?」
初めてペアを組んだ時、杏里のあまりの素人ぶりに純は呆れてそうたずねてきたものだった。
だが、そんなわけで、杏里にはそもそも答えられるはずがなかったのである。
「受け身はあれでいいとして、何かひとつ得意技を見つけるといいよね。紅白戦までにさ。そうすれば、なんとかサマになるかもよ」
杏里を慰めるつもりなのか、純は親身な口調でそんなことを言う。
およそ格闘技に不向きな友を、レスリング部に誘ってしまった負い目も手伝ってのことかもしれなかった。
得意技は、あるよ。
そう言いたいのは山々だったが、口にできる内容ではなく、杏里は曖昧にうなずいてみせるしかなかった。
それに、璃子の言葉がずっと気にかかっていて、不安が芽生えていたせいもある。
ふみのように業の深い人間は、1回の浄化では救えない。
璃子は確かにそう言ったのである。
なるほど、考えてみれば、その通りかもしれなかった。
クラブハウスでの一件をはじめ、ふみにはこれまで何度も性的な攻撃を受けている。
杏里とてやられっ放しではなく、そのたびにカウンター気味にある程度の快感をふみには与えてきているのだ。
常人なら、とっくに浄化されているところではないのか。
そんな気がした。
なのに、いつまでたってもふみは、杏里の尻を追うのをやめようとしない。
すなわち、浄化されていないからである。
璃子は璃子で、彼女なりに対タナトスの防御策を考えついている。
やっかいなコンビ…。
今更のように、そう思わずにはいられない。
純の言葉に上の空で相槌を打ちながら、正門に差し掛かった時のことだった。
「杏里」
よく通る声が、名前を呼んだ。
驚いて顔を上げると、門柱にもたれて、腕組みをしたルナがこっちを見つめていた。
隣に自信なさげに佇んでいる小柄な少年は、重人である。
「誰? 外人留学生に、知り合いがいるの?」
歩みを止めて、純が訊いてきた。
ルナのブロンドのポ二ーテ-ㇽに度肝を抜かれているらしい。
純などいないかのように、ルナは射るようなまなざしで杏里を注視している。
「どうしたの? ルナ。それに、重人まで」
純に返事をする前に、仕方なく杏里は訊き返した。
答えたのは、ルナではなく、重人のほうだった。
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