激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
88 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#87 悪夢のチーム練習⑤

しおりを挟む
 その後はアニスの指示でペアの入れ替えが行われ、杏里はようやくふみから離れることができた。
 次の相手は副キャプテンの純、そして最後はキャプテンのアニスだった。
 純はすでに”浄化”が済んでいるし、いつも公平に接してくれるアニスにも含むところはない。
 そんなわけで、そのあとの練習では、杏里はあえてタナトスの能力を封印して、ふたりから技の指導を受けることに専念した。
 練習が終了したのは、夕方の5時きっかりだった。
 シャワーを浴び、制服に着替えて帰る準備をしていると、先に着換えを済ませた純が寄ってきて、杏里の肩を叩いた。
「一緒に帰らない? あたしは歩きだけど、バス停まで一緒に行くよ」
 ひとりで居ると、また璃子とふみに絡まれかねない。
 そう思ってびくびくしていた時だけに、純からの申し出は渡りに船だった。
「それにしてもさあ、杏里って、身体やわらかいんだね」
 正面玄関へと続く渡り廊下を肩を並べて歩きながら、純が言った。
「どんな技をかけられても、けっこう長時間耐えてるじゃん。あたし、ちょっと見直しちゃったよ」
「まあ…我慢強いのだけが、取り柄だから…」
 苦笑するしかない。
 実際、杏里はレスリングの技のかけ方をまるで知らないのだ。
 なにしろ、小百合との特訓では、ひたすら受け身専門だったのである。
 小百合からは、逃げ方とフォールの仕方を教えてもらっただけなのだ。
 しかも、そのどちらもタナトスの体質あってこその方法だった。
「先生の個人レッスンで、いったい何を教わってたの?」
 初めてペアを組んだ時、杏里のあまりの素人ぶりに純は呆れてそうたずねてきたものだった。
 だが、そんなわけで、杏里にはそもそも答えられるはずがなかったのである。
「受け身はあれでいいとして、何かひとつ得意技を見つけるといいよね。紅白戦までにさ。そうすれば、なんとかサマになるかもよ」
 杏里を慰めるつもりなのか、純は親身な口調でそんなことを言う。
 およそ格闘技に不向きな友を、レスリング部に誘ってしまった負い目も手伝ってのことかもしれなかった。
 得意技は、あるよ。
 そう言いたいのは山々だったが、口にできる内容ではなく、杏里は曖昧にうなずいてみせるしかなかった。
 それに、璃子の言葉がずっと気にかかっていて、不安が芽生えていたせいもある。
 ふみのように業の深い人間は、1回の浄化では救えない。
 璃子は確かにそう言ったのである。
 なるほど、考えてみれば、その通りかもしれなかった。
 クラブハウスでの一件をはじめ、ふみにはこれまで何度も性的な攻撃を受けている。
 杏里とてやられっ放しではなく、そのたびにカウンター気味にある程度の快感をふみには与えてきているのだ。
 常人なら、とっくに浄化されているところではないのか。
 そんな気がした。
 なのに、いつまでたってもふみは、杏里の尻を追うのをやめようとしない。
 すなわち、浄化されていないからである。
 璃子は璃子で、彼女なりに対タナトスの防御策を考えついている。
 やっかいなコンビ…。
 今更のように、そう思わずにはいられない。
 純の言葉に上の空で相槌を打ちながら、正門に差し掛かった時のことだった。
「杏里」
 よく通る声が、名前を呼んだ。
 驚いて顔を上げると、門柱にもたれて、腕組みをしたルナがこっちを見つめていた。
 隣に自信なさげに佇んでいる小柄な少年は、重人である。
「誰? 外人留学生に、知り合いがいるの?」
 歩みを止めて、純が訊いてきた。
 ルナのブロンドのポ二ーテ-ㇽに度肝を抜かれているらしい。
 純などいないかのように、ルナは射るようなまなざしで杏里を注視している。
「どうしたの? ルナ。それに、重人まで」
 純に返事をする前に、仕方なく杏里は訊き返した。
 答えたのは、ルナではなく、重人のほうだった。
「杏里、大変だ。行方不明はいずなだけじゃない。あのヤチカさんまで、いなくなってるらしいんだ」

 




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...