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第9部 倒錯のイグニス
#119 重大発表③
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「ねえ、どういうことなのよ? 何かの冗談? ドッキリ? なんで杏里がそんなことしなきゃなんないの?」
純は真顔だった。
クラスメイトたちの中で、杏里が唯一”浄化”に成功した者。
それが純だからだろう。
ストレスの蓄積がないため、この中でただひとり、正常な判断ができるのだ。
が、ほかの大多数の生徒たちは、むしろその逆だった。
全員が、狂気に憑かれたようなまなざしで、杏里を見つめている。
動画の最後に流れたメッセージ。
【警告】
イベント当日まで、笹原杏里に手出しすることは固く禁じます。
違反者は、イベントへの出場権を剥奪します。
それがなかったら、ひとり残らず獣と化して杏里に襲い掛かってきたに違いない。
「ねえ、杏里。説明してよ。何よ、このいやらしい動画。あんた、いつこんなの撮ったのよ?」
純の眼には涙が浮かんでいる。
悔し涙?
彼女なりに、私の身を案じてくれているのだろうか…?
「そ、それは…」
杏里は言いよどんだ。
何も答えられることがなかった。
純の問いに答えるには、まず自分がタナトスであることから話さねばならないのだ。
「なあに、同情なんていらないのさ」
と、杏里に代わって口を開いたのは、璃子だった。
「そいつは、学校公認の公衆便所なんだよ。別にびっくりすることないだろう? そいつが来る前、あたしたちはずーっとあの美里に支配されてたじゃないか。杏里は美里の後釜なんだよ。というより、美里があたしらの中に残して行ったもやもやを一気に取っ払ってくれる、そんな天使みたいな存在なのさ」
璃子の言葉は、それなりの説得力を持って、生徒たちに受け入れられたようだった。
「美里先生の、代わり…?」
純の瞳にも、徐々に理解の色が広がってきた。
「うん」
杏里は素直にうなずいた。
「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫。私、それなりの訓練、受けてきてるから」
これも、嘘ではない。
レスリングはド素人だが、こと性の世界においては、杏里は百戦錬磨のタナトスなのである。
「ひゃあー、週末まで長いよねー。みんな、むらむらしちゃうよねー。もう、今にも爆発しそうでしょう?」
突然奇声を発したのは、ふみだった。
「でもね。いいこと教えてあげる。学園祭前に、1回だけ、杏里の恥ずかしい姿、生で見られるチャンスがあるんだよ。うふ、なんだと思う?」
ふみが肉に埋もれた細い眼を更に細めて、周囲を見渡した。
固唾を呑んで、そんなふみを見守るクラスメイトたち。
「むふふふ。それはね。明日のレスリング部、紅白戦なの。授業後、体育館貸し切りで、張り切ってやっちゃうから、恥ずかしい杏里を見たくてたまんない人は、絶対見に来てねえ!」
#120 チーム分け
あのタブレット端末による発表は、時を同じくして、全校一斉に行われたもののようだった。
その証拠に、それからの数時間は、杏里にとって、ひどく居心地の悪いものとなった。
クラスの連中はもちろんのこと、教室移動やトイレなどで少し廊下を歩くだけで、すれ違う生徒たちが射るような視線を浴びせかけてくるのだ。
常に挑発的な格好をしているから、これまでもその傾向は強かった。
むしろ、杏里自身、そう仕向けているところがあったからだ。
だが、今回の視線は、それを更に上回るほどのものだった。
全校生徒が杏里を渇望している。
杏里を押し倒し、裸に剥いて、凌辱の限りを尽くしたがっている。
まさにそんな気配だったのだ。
だから、あれほど苦痛だった部活の時間がむしろ待ち遠しいほどだった。
終鈴が鳴り終わるのももどかしく、体育館に急ぐと、バレー部やバスケ部のコートの向こうに、何人かのレスリング部員がすでに集まってきていた。
「来た来た」
杏里のほうを指さしてニヤニヤ笑っているのは、オラウータンのように腕の長い朝倉麻衣である。
「よくやるよね、あいつも。可愛い顔してさ」
その隣で腕組みしているのは、元柔道部の巨漢、飯塚咲良だ。
ほかには1年生の権藤美穂と神崎トモのふたりが来ていて、体育館の床に円形のマットを並べていた。
なるべく目立たないよう、壁に沿って歩いたつもりだったのだが、体育館の中は杏里に気づいた生徒たちの間にざわめきが生まれ、やがてそれが全体に広がって大騒ぎになった。
「すごい人気じゃん」
近くまで行くと、皮肉っぽく麻衣が言った。
「この騒ぎじゃ、練習になんないね」
麻衣の言葉にも、一理あった。
ほかの部活の生徒たちが、持ち場を離れてどんどんこっちに集まってくるのだ。
誰もが、今朝の動画で痴態をさらした張本人をひと目見たいという腹なのだろう。
中には、スマホ片手に杏里を撮影しようとする者さえいるほどだ。
いたたまれなくなり、4人の陰に隠れる杏里。
咲良は横幅が広いので、こんな時、特に都合がいい。
そこに、別々の方向から、璃子とふみ、アニスと純がやってきた。
「小百合先生は、職員会議があるから少し遅れるってさ。だから明日の紅白戦の組み分けは、マネージャーのあたしから発表するよ」
全員そろったのを確認すると、メモ用紙を片手に璃子が言った。
「紅組。2年生、アニス、麻衣、ふみ。1年生、美穂。
白組。2年生、純、咲良、杏里。1年生、トモ。
これが先生の考えたチーム分けさ。いいバランスだと、あたしも思う。じゃ、今日はチームに分かれて作戦会議と練習だ。その前に、柔軟とランニング、やっとこうか」
最初会った時はただの不良少女といった雰囲気の璃子だったが、今はすっかりマネージャーの看板が板についている。
というより、キャプテンのアニスが片言の日本語しかしゃべれないため、その分まで権力が璃子に回っている感じがするほどだ。
「おまえと一緒かよ」
小柄な杏里を見下ろして、咲良が不機嫌そうな口調で言った。
「これじゃ、やる前から負けるって決まったようなもんだろ?」
杏里は答えられない。
小百合の特訓は受けている。
だから勝利の目がゼロというわけではない。
しかし、それはとうてい口には出せない卑猥な戦法なのだ。
「向こうにはアニスもふみもいる。でも、頑張ってやるしかないよ」
そんな咲良を、明るい声で純が励ましにかかった。
「杏里の分まで、うちらが頑張ればいいってことだよ。そうじゃない?」
「まあな」
咲良が不承不承、うなずいた。
「問題は、どういう順番で行くかだな。慎重に考えないと。杏里が誰に当たるかで、勝敗が決まる。そんな気がするんだ」
純は真顔だった。
クラスメイトたちの中で、杏里が唯一”浄化”に成功した者。
それが純だからだろう。
ストレスの蓄積がないため、この中でただひとり、正常な判断ができるのだ。
が、ほかの大多数の生徒たちは、むしろその逆だった。
全員が、狂気に憑かれたようなまなざしで、杏里を見つめている。
動画の最後に流れたメッセージ。
【警告】
イベント当日まで、笹原杏里に手出しすることは固く禁じます。
違反者は、イベントへの出場権を剥奪します。
それがなかったら、ひとり残らず獣と化して杏里に襲い掛かってきたに違いない。
「ねえ、杏里。説明してよ。何よ、このいやらしい動画。あんた、いつこんなの撮ったのよ?」
純の眼には涙が浮かんでいる。
悔し涙?
彼女なりに、私の身を案じてくれているのだろうか…?
「そ、それは…」
杏里は言いよどんだ。
何も答えられることがなかった。
純の問いに答えるには、まず自分がタナトスであることから話さねばならないのだ。
「なあに、同情なんていらないのさ」
と、杏里に代わって口を開いたのは、璃子だった。
「そいつは、学校公認の公衆便所なんだよ。別にびっくりすることないだろう? そいつが来る前、あたしたちはずーっとあの美里に支配されてたじゃないか。杏里は美里の後釜なんだよ。というより、美里があたしらの中に残して行ったもやもやを一気に取っ払ってくれる、そんな天使みたいな存在なのさ」
璃子の言葉は、それなりの説得力を持って、生徒たちに受け入れられたようだった。
「美里先生の、代わり…?」
純の瞳にも、徐々に理解の色が広がってきた。
「うん」
杏里は素直にうなずいた。
「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫。私、それなりの訓練、受けてきてるから」
これも、嘘ではない。
レスリングはド素人だが、こと性の世界においては、杏里は百戦錬磨のタナトスなのである。
「ひゃあー、週末まで長いよねー。みんな、むらむらしちゃうよねー。もう、今にも爆発しそうでしょう?」
突然奇声を発したのは、ふみだった。
「でもね。いいこと教えてあげる。学園祭前に、1回だけ、杏里の恥ずかしい姿、生で見られるチャンスがあるんだよ。うふ、なんだと思う?」
ふみが肉に埋もれた細い眼を更に細めて、周囲を見渡した。
固唾を呑んで、そんなふみを見守るクラスメイトたち。
「むふふふ。それはね。明日のレスリング部、紅白戦なの。授業後、体育館貸し切りで、張り切ってやっちゃうから、恥ずかしい杏里を見たくてたまんない人は、絶対見に来てねえ!」
#120 チーム分け
あのタブレット端末による発表は、時を同じくして、全校一斉に行われたもののようだった。
その証拠に、それからの数時間は、杏里にとって、ひどく居心地の悪いものとなった。
クラスの連中はもちろんのこと、教室移動やトイレなどで少し廊下を歩くだけで、すれ違う生徒たちが射るような視線を浴びせかけてくるのだ。
常に挑発的な格好をしているから、これまでもその傾向は強かった。
むしろ、杏里自身、そう仕向けているところがあったからだ。
だが、今回の視線は、それを更に上回るほどのものだった。
全校生徒が杏里を渇望している。
杏里を押し倒し、裸に剥いて、凌辱の限りを尽くしたがっている。
まさにそんな気配だったのだ。
だから、あれほど苦痛だった部活の時間がむしろ待ち遠しいほどだった。
終鈴が鳴り終わるのももどかしく、体育館に急ぐと、バレー部やバスケ部のコートの向こうに、何人かのレスリング部員がすでに集まってきていた。
「来た来た」
杏里のほうを指さしてニヤニヤ笑っているのは、オラウータンのように腕の長い朝倉麻衣である。
「よくやるよね、あいつも。可愛い顔してさ」
その隣で腕組みしているのは、元柔道部の巨漢、飯塚咲良だ。
ほかには1年生の権藤美穂と神崎トモのふたりが来ていて、体育館の床に円形のマットを並べていた。
なるべく目立たないよう、壁に沿って歩いたつもりだったのだが、体育館の中は杏里に気づいた生徒たちの間にざわめきが生まれ、やがてそれが全体に広がって大騒ぎになった。
「すごい人気じゃん」
近くまで行くと、皮肉っぽく麻衣が言った。
「この騒ぎじゃ、練習になんないね」
麻衣の言葉にも、一理あった。
ほかの部活の生徒たちが、持ち場を離れてどんどんこっちに集まってくるのだ。
誰もが、今朝の動画で痴態をさらした張本人をひと目見たいという腹なのだろう。
中には、スマホ片手に杏里を撮影しようとする者さえいるほどだ。
いたたまれなくなり、4人の陰に隠れる杏里。
咲良は横幅が広いので、こんな時、特に都合がいい。
そこに、別々の方向から、璃子とふみ、アニスと純がやってきた。
「小百合先生は、職員会議があるから少し遅れるってさ。だから明日の紅白戦の組み分けは、マネージャーのあたしから発表するよ」
全員そろったのを確認すると、メモ用紙を片手に璃子が言った。
「紅組。2年生、アニス、麻衣、ふみ。1年生、美穂。
白組。2年生、純、咲良、杏里。1年生、トモ。
これが先生の考えたチーム分けさ。いいバランスだと、あたしも思う。じゃ、今日はチームに分かれて作戦会議と練習だ。その前に、柔軟とランニング、やっとこうか」
最初会った時はただの不良少女といった雰囲気の璃子だったが、今はすっかりマネージャーの看板が板についている。
というより、キャプテンのアニスが片言の日本語しかしゃべれないため、その分まで権力が璃子に回っている感じがするほどだ。
「おまえと一緒かよ」
小柄な杏里を見下ろして、咲良が不機嫌そうな口調で言った。
「これじゃ、やる前から負けるって決まったようなもんだろ?」
杏里は答えられない。
小百合の特訓は受けている。
だから勝利の目がゼロというわけではない。
しかし、それはとうてい口には出せない卑猥な戦法なのだ。
「向こうにはアニスもふみもいる。でも、頑張ってやるしかないよ」
そんな咲良を、明るい声で純が励ましにかかった。
「杏里の分まで、うちらが頑張ればいいってことだよ。そうじゃない?」
「まあな」
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