155 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#155 ルナの涙
しおりを挟む
部室で着替えた杏里をルナが誘ったのは、学校の敷地の隣にある小さな児童公園だった。
灌木で囲まれた公園は、学校の敷地からは死角になっている。
だから杏里もこんな所に公園があるとは、今の今まで知らなかった。
並んでブランコに腰かける頃には、杏里の身体はほぼ元に戻っていた。
どこも痛くないし、骨もちゃんとつながったようだ。
乳房もいつのまにか張りを取り戻し、窮屈なほどブラウスを押し上げている。
我ながら、驚くべき回復力だった。
原始的な単細胞生物ならいざ知らず、プラナリアやトカゲでもこうはいくまいというほどの完成度である。
復元が終了して気持ちに余裕が出てきたのか、子どもみたいにブランコに座っている自分たちがおかしくなってきた。
「ルナったら、変なの。どうしてこんな所に?」
「ここなら誰も来ないだろう? 杏里、おまえに、話があるんだ」
「え? 話って?」
ルナはつま先を見つめたまま、杏里のほうを見ようともしない。
怒っているのかと心配になってそっとその横顔を窺うと、目尻に涙がたまっていた。
「勝ち進んでおめでとうと言いたいとこだけど、正直、見ていられなかった」
ルナの声が震えた。
「なあ、杏里。いくらタナトスだからって、どうしてあそこまでやる必要がある?」
杏里はかっと顔中が熱くなるのを感じた。
ルナは逐一、見ていたに違いない。
杏里が敵に責められるにつれ、激しく欲情し、己の性器を武器に相手を屈服させていくさまを。
「恥ずかしくないのか? あんなに大勢の人間の見ている前で、あんなこと、繰り返して…。わたしはいたたまれなかったぞ。悔しくて、恥ずかしくて、自分でも、叫び出さないのが不思議なくらいだった。わたしの大切な杏里が、あんなふうに見せ物になるなんて…」
最後の部分は小声だったが、それでも杏里にはしっかりと聞き取れた。
わたしの、大切な、杏里?
ルナ、今、そう言ってくれたよね?
ふいに、体温が急上昇したかのようだった。
窮屈なブラウスに押さえつけられた乳首が、またしても勃起し始めるのがわかった。
内腿にぬるりとしたお馴染みの感触を覚え、思わず強く股を閉じる。
「そう言ってくれるのはうれしいけど、仕方がなかったの」
ため息混じりに、杏里は答えた。
「ルナも見たでしょ? 今回は、相手チームの誰かに外来種が擬態してるのがわかってたから、それが誰か突き止めるまで、逃げるわけにはいかなかったのよ」
それが、まさか初戦敗退の美穂だっただなんて。
まるで推理小説のトリックを見せつけられたようなものだった。
最初に死んだはずの被害者が真犯人という、あの古典的なパターンである。
それにしても、色々とショックが大きかった。
まずは、人間の皮をかぶった外来種は、肌の接触では探知できないという事実。
あの時も、きっとそうだったのだ。
杏里は、いつかルナの家で、いずなに化けた外来種に襲われた時のことを思い出していた。
あの時、私は刻印(スティグマ)を見落としていたわけではなかったのだ。
初めから、刻印が現れなかったのである。
そして、もうひとつ気が重いのは、新種薔薇育成委員会の動向がはっきりしたこと。
これまでの状況からうすうす感づいてはいたけれど、彼らは杏里を狙っている。
この肉体が秘めた驚異の治癒能力を、何かに使いたいというわけだろう。
さらに厄介なのは、それとは別に、育成委員会に属していない外来種までもが、杏里をつけ狙っているらしいという事実である。
これでは、およそ周囲は敵ばかりということになってしまう。
どうしよう。
うなだれて、地面に目を落とした時だった。
何の前触れもなく、突然、頭の中で、声がした。
ー何を落ち込んでいる? まずは”おめでとう”だろう?ー
杏里ははっと顔を上げ、宙を睨んだ。
聞こえてきたのが、あの先天性四肢欠損症の超少女、サイコジェニーの”声”だったからである。
灌木で囲まれた公園は、学校の敷地からは死角になっている。
だから杏里もこんな所に公園があるとは、今の今まで知らなかった。
並んでブランコに腰かける頃には、杏里の身体はほぼ元に戻っていた。
どこも痛くないし、骨もちゃんとつながったようだ。
乳房もいつのまにか張りを取り戻し、窮屈なほどブラウスを押し上げている。
我ながら、驚くべき回復力だった。
原始的な単細胞生物ならいざ知らず、プラナリアやトカゲでもこうはいくまいというほどの完成度である。
復元が終了して気持ちに余裕が出てきたのか、子どもみたいにブランコに座っている自分たちがおかしくなってきた。
「ルナったら、変なの。どうしてこんな所に?」
「ここなら誰も来ないだろう? 杏里、おまえに、話があるんだ」
「え? 話って?」
ルナはつま先を見つめたまま、杏里のほうを見ようともしない。
怒っているのかと心配になってそっとその横顔を窺うと、目尻に涙がたまっていた。
「勝ち進んでおめでとうと言いたいとこだけど、正直、見ていられなかった」
ルナの声が震えた。
「なあ、杏里。いくらタナトスだからって、どうしてあそこまでやる必要がある?」
杏里はかっと顔中が熱くなるのを感じた。
ルナは逐一、見ていたに違いない。
杏里が敵に責められるにつれ、激しく欲情し、己の性器を武器に相手を屈服させていくさまを。
「恥ずかしくないのか? あんなに大勢の人間の見ている前で、あんなこと、繰り返して…。わたしはいたたまれなかったぞ。悔しくて、恥ずかしくて、自分でも、叫び出さないのが不思議なくらいだった。わたしの大切な杏里が、あんなふうに見せ物になるなんて…」
最後の部分は小声だったが、それでも杏里にはしっかりと聞き取れた。
わたしの、大切な、杏里?
ルナ、今、そう言ってくれたよね?
ふいに、体温が急上昇したかのようだった。
窮屈なブラウスに押さえつけられた乳首が、またしても勃起し始めるのがわかった。
内腿にぬるりとしたお馴染みの感触を覚え、思わず強く股を閉じる。
「そう言ってくれるのはうれしいけど、仕方がなかったの」
ため息混じりに、杏里は答えた。
「ルナも見たでしょ? 今回は、相手チームの誰かに外来種が擬態してるのがわかってたから、それが誰か突き止めるまで、逃げるわけにはいかなかったのよ」
それが、まさか初戦敗退の美穂だっただなんて。
まるで推理小説のトリックを見せつけられたようなものだった。
最初に死んだはずの被害者が真犯人という、あの古典的なパターンである。
それにしても、色々とショックが大きかった。
まずは、人間の皮をかぶった外来種は、肌の接触では探知できないという事実。
あの時も、きっとそうだったのだ。
杏里は、いつかルナの家で、いずなに化けた外来種に襲われた時のことを思い出していた。
あの時、私は刻印(スティグマ)を見落としていたわけではなかったのだ。
初めから、刻印が現れなかったのである。
そして、もうひとつ気が重いのは、新種薔薇育成委員会の動向がはっきりしたこと。
これまでの状況からうすうす感づいてはいたけれど、彼らは杏里を狙っている。
この肉体が秘めた驚異の治癒能力を、何かに使いたいというわけだろう。
さらに厄介なのは、それとは別に、育成委員会に属していない外来種までもが、杏里をつけ狙っているらしいという事実である。
これでは、およそ周囲は敵ばかりということになってしまう。
どうしよう。
うなだれて、地面に目を落とした時だった。
何の前触れもなく、突然、頭の中で、声がした。
ー何を落ち込んでいる? まずは”おめでとう”だろう?ー
杏里ははっと顔を上げ、宙を睨んだ。
聞こえてきたのが、あの先天性四肢欠損症の超少女、サイコジェニーの”声”だったからである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる