激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#159 偵察①

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 杏里が選んだのは、シースルーの紐パンティ、乳首と局部に穴の開いたビキニセット、ほとんど紐だけでできている水着ふうの下着等、そんなセクシーなものばかりだった。
「あのさ、杏里」
 それでもまだ足りないとばかりに熱心に下着を物色している杏里に、苛ついた口調でルナが言う。
「一応さ、きのうの事件で、ふたり死人が出てるわけだろう? ひとりはおまえのクラスメイトで、もうひとりは紅白戦で戦った仲間じゃないか。喪に服せとまでは言わないけど、こんなとこでエロ下着選びしてるなんて、いくらなんでも不謹慎すぎるって気がしないか? おおかた委員会の情報統制で、ふたりとも転校したとか長期入院したとか、そんなことになるんだろうけどさ、少なくともおまえは真相を知ってるわけだし」
 やっぱり、私にはオーソドックスな白が一番似合うかな。
 真剣に悩んでいる時に突然シリアスな話題を振られて、杏里はマネキンの列からルナのほうへと、きょとんとした顔を向けた。
「それはそうだけど…。でも、死んだふたりにできることなんて、私には何もないんだよ」
 言いにくいけど、ただそれだけを口にした。
 ルナの指摘はもっともだ。
 美穂は同じレスリング部の下級生だし、唯佳は同じクラスの隣の席の生徒である。
 特に唯佳とは、若干ではあるが、性的行為を交わしたこともある。
 もっと悲しんでしかるべきと言われてしまえば、まさにその通りなのだろう。
 だが、由羅を失って以来、杏里の中でそうした情動の一部が麻痺してしまったかのようだった。
 ふたりとも、可哀相だと思うし、もともとの原因が自分にあるということもわかっている。
 あの外来種変異体は、杏里に近づくために美穂を殺し、その現場を目撃した唯佳をも殺したのだ。
 当然ながら、自責の念は感じている。
 私がいなかったら、ふたりとも死ぬことはなかった。
 それは確かなのだから。
 にもかかわらず杏里は、でも、と思わずにはいられない。
 それをいうなら、外来種の存在自体を問題にすべきではないだろうか。
 もっと言えば、私がジェニーの理想とする最強のタナトスとなって、単身外来種を狩れるまでに進化すればよいのではなかろうか。
 それが、一般の14歳の少女の思考と大幅にかけ離れているだろうことは、自分でもよくわかっている。
 だが、そもそも杏里は人間ではないのだ。
 タナトスが、人間と同じ思考を持たなくてはならないという決まりはないはずだった。
「まあ、そうなんだけどさ。けど、心情的にこういうのって、自粛しようって気にならないか?」
 ルナはまだ、納得できないようだ。
 杏里を見る目には、それとなく非難するような光が宿っている。
「私にはきょうしか時間がないの」
 にべもない調子で、杏里は答えた。
「これは全部、今度のイベントを成功させるための下準備なんだよ。別に、遊んでるつもりはないんだけどな」
 ルナの純情主義にはかまっていられない、と思った。
 最近分かってきたのは、見かけによらずルナが情緒的でウェットな性格だという事実である。
 それに比べると、修羅場をくぐり過ぎたのか、現在の杏里のほうがよほどドライだった。
「さ、そんなことより、この中のどれがいい? 今度の晴れ舞台の下着、ルナに選ばせてあげるよ」
 最後の一枚、木綿の薄いビキニパンティを手に取って中に混ぜると、杏里は下着の山をルナに押しつけた。
 そこに、タイミングよく、カウンターのほうからもっくんが声をかけてきた。
「杏里ちゃん、あったわよぉ、おたずねの催淫剤。これ、成分はほとんど麻薬に近いんだけどさあ、あんたがそこまで言うなら、特別に出してあげるわ。名前はね、うふ、聞いて驚かないでよ。なんと、その名も、性露丸マグナム。どうお? ムチャクチャ効きそうでしょう?」


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