340 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#340 ラストステージ⑮
しおりを挟む
悪い予感が的中してしまった。
瀕死の重傷を負い、やっとの思いでここまでたどり着いたというのに…。
道中のことは、よく覚えていない。
大通りに出て、タクシーを拾った気がする。
異物を詰め込んだみたいに、下腹が重くてならなかった。
出血が止まらず、貧血で頭がくらくらしっ放しだった、
それにしても、と思う。
悔やんでも悔やみきれなかった。
-まだ何も終わっちゃいないー
思わず口をついて出たその言葉は、あながち間違いではなかったのだ。
もっと疑ってかかるべきだった。
全身の感覚を失い、薄れゆく意識の中で、ルナは悔やんだ。
ヤチカの屋敷を抜け出す際、なぜあの女は追ってこなかったのか。
傷だらけのルナが、屋敷をあれほどやすやすと脱出できたのは、なぜなのか。
体内に潜り込んだあの触手の役割は、いったい何だったのか…。
そういったことを、もっとよく考えてみるべきだったのだ。
身体をねじるようにして昏倒したルナの低い視界に、おぞましい光景が映っていた。
太腿と太腿の間から、どぼどぼと血潮があふれ出している。
その血の海の中を泳ぐように、美里の触手が這い進んでいく。
棘だらけの2本の蔦がよじれて絡まり合ったような、不気味なフォルムの生き物だ。
それはあの女の身体の一部であると同時に、独立した一個の生命体でもあるのだろう。
その動きには、目標物に向かって突き進む確固たる意志すら感じられる。
「杏里…逃げて」
届かぬとはわかっていながら、右手をせいいっぱい伸ばして、ルナは叫んだ。
いや、叫んだつもりだったが、ろくに声が出なかった。
触手が抜け出すのと同時に、身体の中が空っぽになってしまったような気がした。
私は、とんでもないものを運んできてしまったのだ…。
後悔の念が、気を失う寸前のルナを責め苛んでいた。
あの女は、”あれ”を杏里に届けるために、この私を利用したというわけだ…。
だが、今更気づいても、遅すぎる。
力は、さっきの一撃で使い果たしてしまっている。
その証拠に、今のルナのアクアマリンの瞳に輝きはない。
ただうつろなガラス玉のように、白っぽく濁ってしまっているだけだ。
多量の血液と一緒に、力の源まで流れ出してしまったに違いない。
ある意味、予感は当たっていた。
杏里に危険が迫っているという、身を切るようなあの直感。
何本もの触手で杏里を凌辱しているように見えた”あれ”もまた、彼女を狙う変異外来種だったのだろう。
そのあまりにグロテスクな姿を目の当たりにして、半ばパニックに襲われながら、無我夢中で力を発動させてしまっていた。
人間の少女と昆虫と蛇が融合したような”それ”を倒すのは、遠隔攻撃のできるサイキッカーのルナにとっては、実にた易いことだった。
だが、せっかくその魔手から杏里を解放できたというのに、今度はルナ自身が新たな脅威を解き放ってしまったのだ…。
逃げて…杏里。
今はそう祈るしかなかった。
冷たい床に押しつけた頬が、涙で濡れた。
ぼろ布のように打ち捨てられたまま、意識が途切れるまで、ルナは懸命に友の無事を祈り続けた…。
瀕死の重傷を負い、やっとの思いでここまでたどり着いたというのに…。
道中のことは、よく覚えていない。
大通りに出て、タクシーを拾った気がする。
異物を詰め込んだみたいに、下腹が重くてならなかった。
出血が止まらず、貧血で頭がくらくらしっ放しだった、
それにしても、と思う。
悔やんでも悔やみきれなかった。
-まだ何も終わっちゃいないー
思わず口をついて出たその言葉は、あながち間違いではなかったのだ。
もっと疑ってかかるべきだった。
全身の感覚を失い、薄れゆく意識の中で、ルナは悔やんだ。
ヤチカの屋敷を抜け出す際、なぜあの女は追ってこなかったのか。
傷だらけのルナが、屋敷をあれほどやすやすと脱出できたのは、なぜなのか。
体内に潜り込んだあの触手の役割は、いったい何だったのか…。
そういったことを、もっとよく考えてみるべきだったのだ。
身体をねじるようにして昏倒したルナの低い視界に、おぞましい光景が映っていた。
太腿と太腿の間から、どぼどぼと血潮があふれ出している。
その血の海の中を泳ぐように、美里の触手が這い進んでいく。
棘だらけの2本の蔦がよじれて絡まり合ったような、不気味なフォルムの生き物だ。
それはあの女の身体の一部であると同時に、独立した一個の生命体でもあるのだろう。
その動きには、目標物に向かって突き進む確固たる意志すら感じられる。
「杏里…逃げて」
届かぬとはわかっていながら、右手をせいいっぱい伸ばして、ルナは叫んだ。
いや、叫んだつもりだったが、ろくに声が出なかった。
触手が抜け出すのと同時に、身体の中が空っぽになってしまったような気がした。
私は、とんでもないものを運んできてしまったのだ…。
後悔の念が、気を失う寸前のルナを責め苛んでいた。
あの女は、”あれ”を杏里に届けるために、この私を利用したというわけだ…。
だが、今更気づいても、遅すぎる。
力は、さっきの一撃で使い果たしてしまっている。
その証拠に、今のルナのアクアマリンの瞳に輝きはない。
ただうつろなガラス玉のように、白っぽく濁ってしまっているだけだ。
多量の血液と一緒に、力の源まで流れ出してしまったに違いない。
ある意味、予感は当たっていた。
杏里に危険が迫っているという、身を切るようなあの直感。
何本もの触手で杏里を凌辱しているように見えた”あれ”もまた、彼女を狙う変異外来種だったのだろう。
そのあまりにグロテスクな姿を目の当たりにして、半ばパニックに襲われながら、無我夢中で力を発動させてしまっていた。
人間の少女と昆虫と蛇が融合したような”それ”を倒すのは、遠隔攻撃のできるサイキッカーのルナにとっては、実にた易いことだった。
だが、せっかくその魔手から杏里を解放できたというのに、今度はルナ自身が新たな脅威を解き放ってしまったのだ…。
逃げて…杏里。
今はそう祈るしかなかった。
冷たい床に押しつけた頬が、涙で濡れた。
ぼろ布のように打ち捨てられたまま、意識が途切れるまで、ルナは懸命に友の無事を祈り続けた…。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる