激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
341 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#341 ラストステージ⑯

しおりを挟む
「ルナ、どうしたの? それは…何?」
 問いかけても、ルナは応えない。
 開いた両足を杏里のほうに向け、上半身を不自然にねじった状態で倒れ伏している。
 そのスカートの間から血の川が生まれ、そしてその中を這い進んでくるのは、これまで見たことのない異形の生物だ。
 ロープ状の身体の長さは50センチほど。
 杏里の手首ほどの太さである。
 緑色の蔦にも似たそれは、先に行くほど太くなり、次第に肌色に代わって赤児のような丸い頭部に続いている。
 頭部には目も鼻もなく、ただ丸い口だけが開いていた。
「ルナ、大丈夫? ルナ! なんとか言ってよ!」
 駆け寄りたくても、奇怪な生き物が行く手を阻んでいるため、身動きが取れない。
 少しでも動けばそれに飛びかかられそうで、恐怖で足がすくんでしまっているのだ。
 しかし、本当にこれは何なのだろう?
 ルナの体内から現れたこの生き物は?
 ルナを拉致したのが美里であるのなら、この生き物は美里が仕掛けた罠である可能性が高い。
 あるいはこれは、彼女の肉体の一部なのかもしれない。
 美里の触手の進化形とか、おそらくそういった類いのものであるのに違いない。
 逃げ道を探して周囲に視線を走らせる。
 体育館の中は、唯佳の怪物に惨殺された生徒たちの死体で、足の踏み場もないありさまだ。
 そしてその怪物も今は物言わぬむくろと化して、死体の山の上に巨大な蛇の抜け殻のようにうずくまっている。
 怪生物が、全裸で震える杏里まで、あと10メートルほどの距離に迫った時だった。
 突然、生物の胴の両側から、蜘蛛の脚のような針金状の器官が伸び出した。
 シャーッ!
 3対の脚が床を踏みしめると、威嚇の声を上げて怪生物の上半身が持ち上がる。
 丸く開いた口の中にびっしりと並ぶやすりのような歯に、杏里は背筋を悪寒が駆け抜けるのを感じないではいられなかった。
 バンっと床を叩く音がして、だしぬけに”それ”が跳躍した。
 来た!
 腕で顔をかばって杏里はその場にしゃがみこんだ。
 血の糸を引いて、赤ん坊の顔に似た頭部が迫ってきた。
 衝撃と激痛に備えて全身の筋肉を強張らせた、その瞬間だった。
「そうはいかないよ」
 甲高い声がして、太い腕が怪生物の尾をつかんだ。
「あたいの杏里に触らないでって、言ってるでしょ!」
 この声は…ふみ!
 杏里はおそるおそる目を開けた。
 生徒たちの死体の間から手を伸ばしたふみが、怪生物の尾を握りしめ、自分のほうへとたぐり寄せようとしている。
 ふみ…まだ、生きてたの?
 ふみの肉襦袢のような醜い裸体は、すでにズタズタだ。
 顔も目鼻の位置さえわからぬほど破壊されてしまっている。
 杏里は茫然となった。
 恐るべき執念だと思った。
 ふみは別に、杏里を助けようとしているわけではない。
 自分の楽しみを横取りされないよう、邪魔者を排除しようとしているだけなのだ。
 だから、都合2度助けられたかたちになっても、感謝する気にはなれなかった。
 シャーッ!
 長い胴を曲げ、怪生物がふみに向き直る。
 蜘蛛の脚が、血にまみれたふみの顔に突き刺さる。
 針金状の脚に口をこじ開けられ、ふみがうめいた。
 と、次の瞬間、予想外のことが起こった。
 その赤いふみの口の中に、突如として怪生物の丸い頭部が飛び込んだのだ。
 
 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...