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第10部 姦禁のリリス
#32 重人と由羅②
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門扉は固く閉じられていた。
見上げるほどの高さの、鋼鉄の柵である。
いつも開いてたのに、と重人は思う。
この警戒の厳重さは、なんだろう。
由羅なら難なく乗り越えられるかもしれないが、非力な重人には無理だった。
「いないのかな」
つぶやくと、
「下がってな」
由羅が言って、やおら腰を引き、身体を反転させた。
マイクロミニが翻り、白い下着がチラ見えしたかと思うと、凄まじい回し蹴りが炸裂して、右側の門扉が吹っ飛んだ。
「そんな、乱暴な…」
重人はあんぐりと口を開けた。
「警報装置が鳴って、警備会社の人たちが駆けつけてきたらどうすんだよ」
「そん時はそん時のことさ」
ずんずん中に入っていく由羅。
何十キロもありそうな鋼鉄の門扉を蹴り飛ばした右脚は、かけらも痛んでいないようだ。
膝まであるブーツが頑丈なのか。
それとも由羅の足自体が鉄より硬いのか。
おそらくその両方だろう、と重人は思う。
今の由羅は、歩く戦車みたいなものなのだ。
Sの字を描いた車寄せの正面に、ロココ風の洒落た洋館が建っている。
その向かって左手が幼稚園バスを収納したガレージで、バスの横にはヤチカの愛車、グリーンのオペルが止めてある。
すでに生産中止になった外車である。
ガレージの反対側、向かって右手は噴水を中心とした同心円状の花壇だった。
名も知らぬ秋の花々が咲き乱れ、よく手入れされていることをうかがわせる。
が、重人は知っていた。
あの花壇の中には、4つの墓標があるのだ。
ヤチカがかつて、両性具有の外来種だった頃に殺した、4人の女子高生たちの遺骨を埋めた墓標が…。
と、またしても突然由羅が立ち止まり、物思いにふけっていた重人は、危うくその背中に激突しそうになった。
「なんだよ」
文句を言いかけた重人の眼に、由羅が見ているものが映った。
ブルーの園児服を着て、黄色い帽子をかぶった幼児が、きょとんとした顔で由羅を見上げているのだ。
「なんだ? おまえは?」
由羅が、町角で出くわしたやくざに対してすごむみたいな口調で、幼児に向かってうさんくさそうに言った。
「おねえちゃん、抱っこして」
にんまり笑うと、園児が答えた。
由羅の腰ぐらいまでしかない、あどけない顔をした男の子である。
見ると、どこから湧いてきたのか、車寄せの周囲を覆う木々の間から、興味津々といった面持ちで何人もの園児たちがこちらの様子をじいっとうかがっている。
「はあ?」
由羅が心底呆れたような声を出す。
この武闘派少女、どうやら子どもが苦手らしい。
「僕も」
「わたしも」
「抱っこして」
「いいでしょ」
「ねえ、お姉ちゃん」
いつのまにか、囲まれた。
ただ、おかしなことに、子どもたちは由羅しか見ていない。
重人など最初からそこにいないように、完璧にガン無視している始末だった。
「しょうがねえな」
どういうつもりか、由羅が折れた。
子どものあしらい方がわからないからに違いない。
「面倒だから、4人いっぺんにいくぞ」
男の子ふたりと、女の子ふたりをそれぞれ両腕にぶらさげて、持ち上げにかかる。
その怪力に、重人が半ば感心した時だった。
「わ、なにしやがる。やめろって」
由羅がわめいた。
見ると、4人の幼児が由羅の身体に両手両足でひしとしがみついている。
「お、おい、おまえら、どこに手を突っ込んでるんだよ!」
悲鳴を上げるのも無理はない。
男子ふたりが由羅の胴着の胸元から手を差し入れ、乳房をじかに触っているようなのだ。
女児ふたりは由羅の首にまといつき、ひとりが耳の穴、もうひとりが口に吸いつこうとしていた。
「由羅、この子たち、なんか変…」
気づいた時には、もう手遅れだった。
わらわらと林から現れた幼児たちが、次々に由羅に群がっていった。
軍隊蟻に襲われたアフリカゾウよろしく、あっという間に地面に引き倒される由羅。
相手が幼児の集団だけに、手出しできないでいるに違いない。
「くそ、どうなってんだ?」
ひとりでも由羅から引きはがそうと、重人が動きかけたその瞬間だった。
「久しぶりね。ヒュプノスの坊や」
だしぬけに、幼児の群れの向こうから、大人の女の声が降ってきた。
「私のこと、覚えているかしら?」
グレーのスーツに、はちきれそうな身体を包んだ女が歩いてくる。
縁なし眼鏡をかけた、髪の長い中年女性である。
「あ、あんたは…」
相手の正体を悟って、重人は危うく腰を抜かしかけた。
「あの時、死んだんじゃなかったのか…?」
見上げるほどの高さの、鋼鉄の柵である。
いつも開いてたのに、と重人は思う。
この警戒の厳重さは、なんだろう。
由羅なら難なく乗り越えられるかもしれないが、非力な重人には無理だった。
「いないのかな」
つぶやくと、
「下がってな」
由羅が言って、やおら腰を引き、身体を反転させた。
マイクロミニが翻り、白い下着がチラ見えしたかと思うと、凄まじい回し蹴りが炸裂して、右側の門扉が吹っ飛んだ。
「そんな、乱暴な…」
重人はあんぐりと口を開けた。
「警報装置が鳴って、警備会社の人たちが駆けつけてきたらどうすんだよ」
「そん時はそん時のことさ」
ずんずん中に入っていく由羅。
何十キロもありそうな鋼鉄の門扉を蹴り飛ばした右脚は、かけらも痛んでいないようだ。
膝まであるブーツが頑丈なのか。
それとも由羅の足自体が鉄より硬いのか。
おそらくその両方だろう、と重人は思う。
今の由羅は、歩く戦車みたいなものなのだ。
Sの字を描いた車寄せの正面に、ロココ風の洒落た洋館が建っている。
その向かって左手が幼稚園バスを収納したガレージで、バスの横にはヤチカの愛車、グリーンのオペルが止めてある。
すでに生産中止になった外車である。
ガレージの反対側、向かって右手は噴水を中心とした同心円状の花壇だった。
名も知らぬ秋の花々が咲き乱れ、よく手入れされていることをうかがわせる。
が、重人は知っていた。
あの花壇の中には、4つの墓標があるのだ。
ヤチカがかつて、両性具有の外来種だった頃に殺した、4人の女子高生たちの遺骨を埋めた墓標が…。
と、またしても突然由羅が立ち止まり、物思いにふけっていた重人は、危うくその背中に激突しそうになった。
「なんだよ」
文句を言いかけた重人の眼に、由羅が見ているものが映った。
ブルーの園児服を着て、黄色い帽子をかぶった幼児が、きょとんとした顔で由羅を見上げているのだ。
「なんだ? おまえは?」
由羅が、町角で出くわしたやくざに対してすごむみたいな口調で、幼児に向かってうさんくさそうに言った。
「おねえちゃん、抱っこして」
にんまり笑うと、園児が答えた。
由羅の腰ぐらいまでしかない、あどけない顔をした男の子である。
見ると、どこから湧いてきたのか、車寄せの周囲を覆う木々の間から、興味津々といった面持ちで何人もの園児たちがこちらの様子をじいっとうかがっている。
「はあ?」
由羅が心底呆れたような声を出す。
この武闘派少女、どうやら子どもが苦手らしい。
「僕も」
「わたしも」
「抱っこして」
「いいでしょ」
「ねえ、お姉ちゃん」
いつのまにか、囲まれた。
ただ、おかしなことに、子どもたちは由羅しか見ていない。
重人など最初からそこにいないように、完璧にガン無視している始末だった。
「しょうがねえな」
どういうつもりか、由羅が折れた。
子どものあしらい方がわからないからに違いない。
「面倒だから、4人いっぺんにいくぞ」
男の子ふたりと、女の子ふたりをそれぞれ両腕にぶらさげて、持ち上げにかかる。
その怪力に、重人が半ば感心した時だった。
「わ、なにしやがる。やめろって」
由羅がわめいた。
見ると、4人の幼児が由羅の身体に両手両足でひしとしがみついている。
「お、おい、おまえら、どこに手を突っ込んでるんだよ!」
悲鳴を上げるのも無理はない。
男子ふたりが由羅の胴着の胸元から手を差し入れ、乳房をじかに触っているようなのだ。
女児ふたりは由羅の首にまといつき、ひとりが耳の穴、もうひとりが口に吸いつこうとしていた。
「由羅、この子たち、なんか変…」
気づいた時には、もう手遅れだった。
わらわらと林から現れた幼児たちが、次々に由羅に群がっていった。
軍隊蟻に襲われたアフリカゾウよろしく、あっという間に地面に引き倒される由羅。
相手が幼児の集団だけに、手出しできないでいるに違いない。
「くそ、どうなってんだ?」
ひとりでも由羅から引きはがそうと、重人が動きかけたその瞬間だった。
「久しぶりね。ヒュプノスの坊や」
だしぬけに、幼児の群れの向こうから、大人の女の声が降ってきた。
「私のこと、覚えているかしら?」
グレーのスーツに、はちきれそうな身体を包んだ女が歩いてくる。
縁なし眼鏡をかけた、髪の長い中年女性である。
「あ、あんたは…」
相手の正体を悟って、重人は危うく腰を抜かしかけた。
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