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第10部 姦禁のリリス
#108 漆黒の巨神②
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杏里はルナを見つめ返した。
あれを倒せるとしたら、この子しかいない。
サイキックのルナなら、あるいは…。
ずん。
足音が響き、地面が揺れた。
巨大な少女が、丘の上に全身を現し、その足で大地を踏みしめたのだ。
今、こちらを向いているのは、零の顔である。
その双眸は白濁し、黒目の部分がなくなっている。
それだけに、以前の零より更に不気味に見えた。
肌の色が真っ黒なのも、その不気味さに拍車をかけているようだ。
「ルナ、力は戻ってる?」
「うん…もう少しかな。せめて左眼が使えるようになれば」
「それなら」
杏里は背伸びをすると、ルナの閉じたままの左眼に唇を押しつけた。
瞼のすき間に舌を差し込み、眼球の表面を舐め上げる。
更に眼球の裏側にまで舌先を挿入し、視神経を傷つけぬよう全体に唾液をまぶすと、
「ああ…」
ルナが官能に打ち震えるようにわなないて、杏里の肩に覆い被さってきた。
「おい、何してんだよ。そんなとこでいちゃついてる場合かよ!」
業を煮やしたように、由羅が怒鳴った。
「今、大事なとこなの。由羅は先に車に戻ってて」
はねつけるように言うと、
「ちぇっ」
舌打ちを残して、すごすごと由羅がワゴン車の中に引っ込んだ。
「どう?」
巨神の足音を間近に聞きながら、杏里はたずねた。
押さえていた指を離し、ルナが少しずつ左眼を開けにかかる。
長い睫毛が上がり切ると、その下からルビーのように赤い瞳孔が現れた。
「ルナ…」
杏里は息を呑んだ。
「瞳の色が…」
「いいみたい」
瞬きを繰り返して、ルナが言った。
右目がアクアマリン、左目は真紅。
これは、オッドアイ…?
「気のせいか、前よりよく見える」
しなやかな髪をなびかせて、ルナが巨神に向き直る。
「どうするつもり? 勝算はあるの?」
杏里の問いが終わるか終わらぬかのうちだった。
ふいに、裂帛の気合がルナの全身から迸った。
と、次の一瞬、だしぬけにそれが起こった。
丘の向こうを平行に走る送電線。
それが突然火花を発して千切れたかと思うと、大蛇のように伸び上がり、いきなり巨神に襲いかかったのだ。
可聴域を超える悲鳴が丘にこだました。
送電線に絡みつかれた漆黒の巨体が、たいまつのごとく燃え上がった。
紅蓮の炎を噴き上げて燃えさかる巨神の躰が、火ぶくれとともに風船のように膨張する。
「あれは…?」
杏里は絶句した。
断末魔の悲鳴を上げる巨神の姿は、すでに零のものでも杏里のものでもなくなっている。
その膨れ上がった球形の肉体は、明らかにふみのものだった。
炎が作り出した上昇気流に乗って、無数の花弁が舞い上がる。
燃える花弁に包まれて、怪物と化した醜いふみの巨体がドロドロと脂を流して焼け落ちていく。
「ふう」
ルナの躰から力が抜けた。
その頭を胸に掻き抱きながら、杏里は深いため息をついた。
やった…。
痛いほど、その思いを噛みしめる。
そう。
ようやく、悪夢が終わりを告げたんだ…。
あれを倒せるとしたら、この子しかいない。
サイキックのルナなら、あるいは…。
ずん。
足音が響き、地面が揺れた。
巨大な少女が、丘の上に全身を現し、その足で大地を踏みしめたのだ。
今、こちらを向いているのは、零の顔である。
その双眸は白濁し、黒目の部分がなくなっている。
それだけに、以前の零より更に不気味に見えた。
肌の色が真っ黒なのも、その不気味さに拍車をかけているようだ。
「ルナ、力は戻ってる?」
「うん…もう少しかな。せめて左眼が使えるようになれば」
「それなら」
杏里は背伸びをすると、ルナの閉じたままの左眼に唇を押しつけた。
瞼のすき間に舌を差し込み、眼球の表面を舐め上げる。
更に眼球の裏側にまで舌先を挿入し、視神経を傷つけぬよう全体に唾液をまぶすと、
「ああ…」
ルナが官能に打ち震えるようにわなないて、杏里の肩に覆い被さってきた。
「おい、何してんだよ。そんなとこでいちゃついてる場合かよ!」
業を煮やしたように、由羅が怒鳴った。
「今、大事なとこなの。由羅は先に車に戻ってて」
はねつけるように言うと、
「ちぇっ」
舌打ちを残して、すごすごと由羅がワゴン車の中に引っ込んだ。
「どう?」
巨神の足音を間近に聞きながら、杏里はたずねた。
押さえていた指を離し、ルナが少しずつ左眼を開けにかかる。
長い睫毛が上がり切ると、その下からルビーのように赤い瞳孔が現れた。
「ルナ…」
杏里は息を呑んだ。
「瞳の色が…」
「いいみたい」
瞬きを繰り返して、ルナが言った。
右目がアクアマリン、左目は真紅。
これは、オッドアイ…?
「気のせいか、前よりよく見える」
しなやかな髪をなびかせて、ルナが巨神に向き直る。
「どうするつもり? 勝算はあるの?」
杏里の問いが終わるか終わらぬかのうちだった。
ふいに、裂帛の気合がルナの全身から迸った。
と、次の一瞬、だしぬけにそれが起こった。
丘の向こうを平行に走る送電線。
それが突然火花を発して千切れたかと思うと、大蛇のように伸び上がり、いきなり巨神に襲いかかったのだ。
可聴域を超える悲鳴が丘にこだました。
送電線に絡みつかれた漆黒の巨体が、たいまつのごとく燃え上がった。
紅蓮の炎を噴き上げて燃えさかる巨神の躰が、火ぶくれとともに風船のように膨張する。
「あれは…?」
杏里は絶句した。
断末魔の悲鳴を上げる巨神の姿は、すでに零のものでも杏里のものでもなくなっている。
その膨れ上がった球形の肉体は、明らかにふみのものだった。
炎が作り出した上昇気流に乗って、無数の花弁が舞い上がる。
燃える花弁に包まれて、怪物と化した醜いふみの巨体がドロドロと脂を流して焼け落ちていく。
「ふう」
ルナの躰から力が抜けた。
その頭を胸に掻き抱きながら、杏里は深いため息をついた。
やった…。
痛いほど、その思いを噛みしめる。
そう。
ようやく、悪夢が終わりを告げたんだ…。
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