超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第129話 フレッシュ

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 近所に肉料理の専門店がオープンした。
 その名も『フレッシュミート』。
 焼き肉、ステーキ、しゃぶしゃぶと、肉料理ならなんでもござれの、僕みたいな肉好きにはこたえられない店だ。
 売りは新鮮な食材と適正な価格。
 特に食材の肉は、自社で運営する近くの農場から毎朝直で届けているのだという。
 さっそく友人と行ってみることにした。
 店内には、焼き肉やらしゃぶしゃぶやら、さまざまな陸料理の匂いが立ち込めている。
 手始めにステーキを頼むと、ほどなくして、鉄板に乗った分厚い肉の塊が登場した。
 ナイフで切ろうとした時である。
「ちょっと、これ、変じゃない?」
 僕同様、ステーキにナイフを突き立てようとしていた友人が、顔を上げて僕を見た。
「変って、何が? うまそうじゃないか」
「いや、気のせいかな、今、動いたみたい…」
 彼が言い終わるか終わらぬかのうちだった。
 熱した鉄板から逃げ出すように、彼のステーキ肉が、ふいに身をよじってテーブルに這い出したのだ。
「うわっ」
 見ると、僕の鉄板にも、同じ現象が起きていた。
 巨大なナメクジみたいに、身体をくねらせながら、肉塊が逃げていく。
「な、なんだ…?」
 ふたりして茫然としていると、遠くのほうから突然、甲高い女性の悲鳴が上がった。
 目をやると、しゃぶしゃぶのコーナーでも異変が生じていた。
 湯気を上げる鍋を起点にして、ひらひらと蝶のようなものが何匹も舞い飛んでいる。
「ありえない…」
 僕はあんぐりと口を開けた。
 店内を飛び回り始めたのは、スライスされた牛肉たちだったのだ。
 と、そのときー。
 憮然とした表情で、友人がつぶやいた。
「食材が新鮮過ぎるのも、考えものだな」
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