138 / 625
第138話 呪われた掛け軸
しおりを挟む
修学旅行でY県に行った。
最終日の夜泊まった旅館は妙に古びた和風建築で、お化けが出そうな雰囲気にみんな大いに盛り上がった。
深夜、布団に潜り込んで恋バナやら怖い話やら他人の悪口に花を咲かせていると、突然サキが言った。
「ねえあれ、何の絵だと思う?」
サキの布団は壁際に敷かれていて、すぐ横が少し引っ込んだ床の間だ。
サキが指さしているのは、そこにかかっている掛け軸だった。
水墨画、というやつなのだろうか。
白い背景に、なんだかもわっとした煙みたいなものが描かれている。
「うわあ、なんかキモい。人間、じゃないよね。幽霊かな」
自分の布団からサキのほうに身を乗り出して葵がコメントすると、
「うちにはでっかい蚊か蜂に見えるんだけど」
頬杖をついて、サキが答えた。
言われてみれば確かにそうである。
掛け軸の左側から右側にかけて、何もない空間に覆いかぶさるようにして背中を丸めた黒い影は、お尻の針を獲物に突き刺そうとしているスズメバチに見えないこともない。
「でもこれ、江戸時代とか室町時代とか、けっこう古い絵なんでしょ。虫なんか題材にするかなあ」
「鳥獣戯画なんてのもあるし、蚊や蜂の絵くらい、そりゃアリでしょ」
「掛け軸に封じ込められた魔物とかだったりして」
「ちょっと、やめてよ」
JKというのは現金な生き物で、ひとしきり笑い合うと、その数分後には私たち全員すやすや寝息を立てていた。
どれほど時間がたったのか。
何かの気配にふと目が覚めた。
ん?
床の間のほうに、何かいる。
音がしないように布団の中で身体を反転させると、異様な光景が視界に飛び込んできた。
サキの布団の上に、何か大きなものがかがみこんでいる。
あれは…?
正体に気づいて、背筋を悪寒が駆け抜けた。
掛け軸の絵だ。
その証拠に、床の間の掛け軸は、絵が抜け出たあとみたいに、一面真っ白だった。
やばいっ!
私は布団の中に潜り込んだ。
見つかったら、私も殺される!
その恐怖で、気配がなくなるまで、布団の中でガタガタ震えていた…。
翌朝。
何の別条もなく、サキは生きていた。
あれは何だったの?
訊きたくても訊けないまま、旅行は終わった。
そのうち、サキは学校に来なくなった。
そのサキについて、不穏なうわさが流れ始めたのは、修学旅行から3か月ほど経った頃からだ。
町はずれの産院の玄関口で、母親に連れられたサキを見かけた、というのである。
私の脳裏に、あの時の光景がフラッシュバックした。
そしてもうひとつー。
子宮の中で眠る、胎児ならぬ大きな白いウジ虫の映像が…。
最終日の夜泊まった旅館は妙に古びた和風建築で、お化けが出そうな雰囲気にみんな大いに盛り上がった。
深夜、布団に潜り込んで恋バナやら怖い話やら他人の悪口に花を咲かせていると、突然サキが言った。
「ねえあれ、何の絵だと思う?」
サキの布団は壁際に敷かれていて、すぐ横が少し引っ込んだ床の間だ。
サキが指さしているのは、そこにかかっている掛け軸だった。
水墨画、というやつなのだろうか。
白い背景に、なんだかもわっとした煙みたいなものが描かれている。
「うわあ、なんかキモい。人間、じゃないよね。幽霊かな」
自分の布団からサキのほうに身を乗り出して葵がコメントすると、
「うちにはでっかい蚊か蜂に見えるんだけど」
頬杖をついて、サキが答えた。
言われてみれば確かにそうである。
掛け軸の左側から右側にかけて、何もない空間に覆いかぶさるようにして背中を丸めた黒い影は、お尻の針を獲物に突き刺そうとしているスズメバチに見えないこともない。
「でもこれ、江戸時代とか室町時代とか、けっこう古い絵なんでしょ。虫なんか題材にするかなあ」
「鳥獣戯画なんてのもあるし、蚊や蜂の絵くらい、そりゃアリでしょ」
「掛け軸に封じ込められた魔物とかだったりして」
「ちょっと、やめてよ」
JKというのは現金な生き物で、ひとしきり笑い合うと、その数分後には私たち全員すやすや寝息を立てていた。
どれほど時間がたったのか。
何かの気配にふと目が覚めた。
ん?
床の間のほうに、何かいる。
音がしないように布団の中で身体を反転させると、異様な光景が視界に飛び込んできた。
サキの布団の上に、何か大きなものがかがみこんでいる。
あれは…?
正体に気づいて、背筋を悪寒が駆け抜けた。
掛け軸の絵だ。
その証拠に、床の間の掛け軸は、絵が抜け出たあとみたいに、一面真っ白だった。
やばいっ!
私は布団の中に潜り込んだ。
見つかったら、私も殺される!
その恐怖で、気配がなくなるまで、布団の中でガタガタ震えていた…。
翌朝。
何の別条もなく、サキは生きていた。
あれは何だったの?
訊きたくても訊けないまま、旅行は終わった。
そのうち、サキは学校に来なくなった。
そのサキについて、不穏なうわさが流れ始めたのは、修学旅行から3か月ほど経った頃からだ。
町はずれの産院の玄関口で、母親に連れられたサキを見かけた、というのである。
私の脳裏に、あの時の光景がフラッシュバックした。
そしてもうひとつー。
子宮の中で眠る、胎児ならぬ大きな白いウジ虫の映像が…。
0
あなたにおすすめの小説
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる