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第254話 その後の黄金仮面(中編)
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「…という、わけなんです」
そうしめくくって、女はうつむいた。
怪しい雑居ビルの中に位置する、漫画喫茶の個室。
待ち合わせにこんな場末の店を選んだのも、僕が黄金仮面であることを周囲に勘づかれないためである。
女は、朝倉アキと名乗った。
ミニボトムのスーツがよく似合う、少しきつい感じの顔つきをした、モデル体型の美女である。
しかし、彼女が語ったその体験談は、僕の黒歴史に負けず劣らぬ凄絶なものだった。
部下と得意先から帰る途中、トイレに間に合わず、営業車の中で脱糞してしまったというのだ。
しかも運の悪いことに、居合わせたその部下というのが最低な輩だった。
後片付けを手伝ってくれたはいいが、そのさまをスマホで隠し撮りし、彼女を脅迫してきたというのである。
この不始末を世間にばらされたくなかったら、俺の性奴隷になれ、と^。
こんな美女が、脱糞を…。
僕はまじまじと、目の前で縮こまるスーツ姿のマキを見た。
よく手入れされた髪、染みひとつない肌、メイクもネイルも最先端を行っている。
さぞかし見ものだったろう…。
良からぬ想像に股間を膨らませかけ、はっと我に返った。
いかんいかん、これではそのマキオとかいう名の極悪な部下と変わらないではないか。
「さぞお辛かったでしょうね」
神妙な表情で僕はうなずいた。
「そこまで悲惨だと、もう共感しかありません」
「いえ、黄金仮面さんに比べたら」
上目遣いに僕を見つめ返し、悲し気に微笑むマキ。
「少なくとも私は、SNSで炎上するところまでは行っていないので…。テレビのニュースにもなってませんし」
「は、はあ…」
ズキューン。
胸を弾丸に撃ち抜かれた気分だった。
確かにそうだ。
僕の場合、正体のバレたアメコミのスーパーヒーローより、ある意味、始末が悪い。
「それで、僕に、どうしろと?」
気を取り直して、たずねることにした。
アキが面会を求めてきたことには、何か裏があるはずである。
単なる傷の舐め合いなら、SNS上だけで済むはずだ。
「今度の一件で満身創痍の黄金仮面さんに、こんなことお頼みするの、本当に心苦しいんですけど…」
アキがまた目を伏せた。
「あんな体験をされた、黄金仮面さんならわかってくれそうで…」
スーツの前が開いているせいで、はだけたブラウスの胸元から深い胸の谷間が覗いている。
どうやら彼女のブラジャーは、下から胸乳を押し上げる、面積の狭いのハーフカップタイプらしい。
「いいから要件を。これも何かの縁。話を聞く限り、とても他人事とは思えません」
「マキオを成敗してほしいんです」
キッっと顔を上げ、低い声でアキが言い放った。
「こてんぱんに痛めつけて、こんなこと、やめさせてほしいんです」
「こ、こんなこと、というと…?」
「出社直後の、おはよう代わりのおフェラ、昼休憩の、トイレでの生挿入、営業車の中での乳揉み、性器弄り、退社後にラブホへ寄って、3時間みっちりのご奉仕、休日は休日で、私の部屋に一日中入り浸っての、SM調教…。そんな生活が、もう1年も…」
改めて言わせてみて、正解だった。
鼻血が出そうになるほどのいやらしさだ。
僕はマキオに対し、心底から憎しみを抱かざるを得なかった。
あの一件以来、ほとんど消えかかっていたヒーローとしての正義の炎が、胸の底でめらめらと燃え上がる。
「これが、浜田マキオ、23歳です。御覧の通りのブサメンですから、なんなら殺しちゃってもかまいません」
差し出されたスマホの画面に、ネズミみたいな顔の男が映っている。
河童みたいな髪型。
ひどいニキビ面で、しかも気色悪いことに、そのニキビのひとつひとつから、なぜか一本一本毛が生えている。
「わかりました。やりましょう」
すがるようなまなざしで見つめてくる美女に向かって、僕はヒーローらしく、重々しくうなずき返した。
「この狂気の珍獣から僕があなたを解放し、この一件を、黄金仮面復帰への足掛かりにしようと思います」
そうしめくくって、女はうつむいた。
怪しい雑居ビルの中に位置する、漫画喫茶の個室。
待ち合わせにこんな場末の店を選んだのも、僕が黄金仮面であることを周囲に勘づかれないためである。
女は、朝倉アキと名乗った。
ミニボトムのスーツがよく似合う、少しきつい感じの顔つきをした、モデル体型の美女である。
しかし、彼女が語ったその体験談は、僕の黒歴史に負けず劣らぬ凄絶なものだった。
部下と得意先から帰る途中、トイレに間に合わず、営業車の中で脱糞してしまったというのだ。
しかも運の悪いことに、居合わせたその部下というのが最低な輩だった。
後片付けを手伝ってくれたはいいが、そのさまをスマホで隠し撮りし、彼女を脅迫してきたというのである。
この不始末を世間にばらされたくなかったら、俺の性奴隷になれ、と^。
こんな美女が、脱糞を…。
僕はまじまじと、目の前で縮こまるスーツ姿のマキを見た。
よく手入れされた髪、染みひとつない肌、メイクもネイルも最先端を行っている。
さぞかし見ものだったろう…。
良からぬ想像に股間を膨らませかけ、はっと我に返った。
いかんいかん、これではそのマキオとかいう名の極悪な部下と変わらないではないか。
「さぞお辛かったでしょうね」
神妙な表情で僕はうなずいた。
「そこまで悲惨だと、もう共感しかありません」
「いえ、黄金仮面さんに比べたら」
上目遣いに僕を見つめ返し、悲し気に微笑むマキ。
「少なくとも私は、SNSで炎上するところまでは行っていないので…。テレビのニュースにもなってませんし」
「は、はあ…」
ズキューン。
胸を弾丸に撃ち抜かれた気分だった。
確かにそうだ。
僕の場合、正体のバレたアメコミのスーパーヒーローより、ある意味、始末が悪い。
「それで、僕に、どうしろと?」
気を取り直して、たずねることにした。
アキが面会を求めてきたことには、何か裏があるはずである。
単なる傷の舐め合いなら、SNS上だけで済むはずだ。
「今度の一件で満身創痍の黄金仮面さんに、こんなことお頼みするの、本当に心苦しいんですけど…」
アキがまた目を伏せた。
「あんな体験をされた、黄金仮面さんならわかってくれそうで…」
スーツの前が開いているせいで、はだけたブラウスの胸元から深い胸の谷間が覗いている。
どうやら彼女のブラジャーは、下から胸乳を押し上げる、面積の狭いのハーフカップタイプらしい。
「いいから要件を。これも何かの縁。話を聞く限り、とても他人事とは思えません」
「マキオを成敗してほしいんです」
キッっと顔を上げ、低い声でアキが言い放った。
「こてんぱんに痛めつけて、こんなこと、やめさせてほしいんです」
「こ、こんなこと、というと…?」
「出社直後の、おはよう代わりのおフェラ、昼休憩の、トイレでの生挿入、営業車の中での乳揉み、性器弄り、退社後にラブホへ寄って、3時間みっちりのご奉仕、休日は休日で、私の部屋に一日中入り浸っての、SM調教…。そんな生活が、もう1年も…」
改めて言わせてみて、正解だった。
鼻血が出そうになるほどのいやらしさだ。
僕はマキオに対し、心底から憎しみを抱かざるを得なかった。
あの一件以来、ほとんど消えかかっていたヒーローとしての正義の炎が、胸の底でめらめらと燃え上がる。
「これが、浜田マキオ、23歳です。御覧の通りのブサメンですから、なんなら殺しちゃってもかまいません」
差し出されたスマホの画面に、ネズミみたいな顔の男が映っている。
河童みたいな髪型。
ひどいニキビ面で、しかも気色悪いことに、そのニキビのひとつひとつから、なぜか一本一本毛が生えている。
「わかりました。やりましょう」
すがるようなまなざしで見つめてくる美女に向かって、僕はヒーローらしく、重々しくうなずき返した。
「この狂気の珍獣から僕があなたを解放し、この一件を、黄金仮面復帰への足掛かりにしようと思います」
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