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第320話 真夏の災厄(後編)
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「君、誰?」
「誰でもいいでしょ」
返事はそっけなかった。
取り付く島もない、とはこのことだ。
俺は少女が右目に眼帯をしていることに気づいた。
今まで前髪に隠れていたのだ。
肩までの髪縁どられた、アーモンド形の顔。
黒い眼帯のせいでひどくシャープに見える。
「いったい何が起こってるんだ?」
校庭のほうから聴こえてくる喧騒に耳をそばだて、俺はたずねた。
「君が誰であるにせよ、知ってるなら教えてくれよ」
「あなたも見たでしょ」
少女が無事なほうの目で俺を見つめてきた。
感情のない、深い湖のような瞳に、俺の怯えた顔が映っている。
「あのミミズみたいなやつのことか? みんなの、耳や、鼻の穴から生えてきていた…」
「おそらく、寄生生物だと思う。一部の人にネットで騒がれてたけど、数日前、裏の里山に光る物体が落下した。ちょうど、この街の水源である、貯水池のあたり。あとは、言わなくてもわかるよね?」
「宇宙生物…? マジかよ…」
半そでシャツから出た上腕部にぞくっと鳥肌が立った。
隕石に付着していた地球外の生命体が、街の飲み水に混入し、町民の体内に寄生したというのか?
俺は急いでカバンからスマホを出し、SNSに目を通した。
少女の言う通りだった。
謎の物体の落下の記事は4日ほど前から始まっている。
そして、最近は、こんな内容のポストが増えてきていた。
ー家族や友人が、別人みたいに思えるときがあるんだけどー
ーそうそう、あたしも! なんか、彼、性格が変わっちゃったっていうかー
ーうちのパパもそうだよ。なんだか、こう、ロボットみたいに無機質って感じでー
「ヤバいな」
無意識のうちにつぶやいていた。
パラサイト生物による侵略は、着々と進行しているようだ。
これじゃまるで、昔見たSF映画そのものじゃないか。
「隠れるの隠れないの、どっち?」
茫然とスマホの画面を見つめる俺に、少女が言った。
「あなたが捕まりたいならそうしてればいい。あのミミズに身体を乗っ取られて、やつらの仲間になりたいならね」
「い、いや、それは…」
もしそうなったら、どうなるのだろう?
寄生生物たちのネットワークに組み込まれて、集合的無意識の一部として吸収されてしまうのだろうか。
そこには孤独も意見の相違も何もない、そんな穏やかな精神の海に…。
俺は焼却炉の中を覗き込んだ。
鋼鉄の窯の内部は、業務用の燃えるゴミの袋でいっぱいだ。
「やっぱ、入るよ。俺、人間でいるの、やめたくないから」
「そうだね。じゃ、お先にどうぞ」
「わかった」
匂いを我慢して、ゴミ袋の間に潜り込む。
聴こえてくる喧騒はかなり大きくなっている。
やつらが近づいている証拠だった。
「見つかるとまずいから、いっぺん閉めるよ」
「うん」
少女がフタを閉め、中が真っ暗になった。
と、ほとんど同時に、ざわめきが周りを取り囲むのがわかった。
「この辺で、男子生徒を見なかったか?」
先生の声。
少女に訊いている。
なんで彼女は無事なのだ?
疑問に思った瞬間、少女が答えた。
「不適合者なら、この中に捕らえてありますよ。あとは、点火すればおしまいです」
「そうか。よくやった」
不適合者?
な、なんだそれ?
ま、待てよ!
ゴミ袋に埋もれてもがいた時だった。
カチッと音がして、突然、周囲が紅蓮の炎に包まれた。
「誰でもいいでしょ」
返事はそっけなかった。
取り付く島もない、とはこのことだ。
俺は少女が右目に眼帯をしていることに気づいた。
今まで前髪に隠れていたのだ。
肩までの髪縁どられた、アーモンド形の顔。
黒い眼帯のせいでひどくシャープに見える。
「いったい何が起こってるんだ?」
校庭のほうから聴こえてくる喧騒に耳をそばだて、俺はたずねた。
「君が誰であるにせよ、知ってるなら教えてくれよ」
「あなたも見たでしょ」
少女が無事なほうの目で俺を見つめてきた。
感情のない、深い湖のような瞳に、俺の怯えた顔が映っている。
「あのミミズみたいなやつのことか? みんなの、耳や、鼻の穴から生えてきていた…」
「おそらく、寄生生物だと思う。一部の人にネットで騒がれてたけど、数日前、裏の里山に光る物体が落下した。ちょうど、この街の水源である、貯水池のあたり。あとは、言わなくてもわかるよね?」
「宇宙生物…? マジかよ…」
半そでシャツから出た上腕部にぞくっと鳥肌が立った。
隕石に付着していた地球外の生命体が、街の飲み水に混入し、町民の体内に寄生したというのか?
俺は急いでカバンからスマホを出し、SNSに目を通した。
少女の言う通りだった。
謎の物体の落下の記事は4日ほど前から始まっている。
そして、最近は、こんな内容のポストが増えてきていた。
ー家族や友人が、別人みたいに思えるときがあるんだけどー
ーそうそう、あたしも! なんか、彼、性格が変わっちゃったっていうかー
ーうちのパパもそうだよ。なんだか、こう、ロボットみたいに無機質って感じでー
「ヤバいな」
無意識のうちにつぶやいていた。
パラサイト生物による侵略は、着々と進行しているようだ。
これじゃまるで、昔見たSF映画そのものじゃないか。
「隠れるの隠れないの、どっち?」
茫然とスマホの画面を見つめる俺に、少女が言った。
「あなたが捕まりたいならそうしてればいい。あのミミズに身体を乗っ取られて、やつらの仲間になりたいならね」
「い、いや、それは…」
もしそうなったら、どうなるのだろう?
寄生生物たちのネットワークに組み込まれて、集合的無意識の一部として吸収されてしまうのだろうか。
そこには孤独も意見の相違も何もない、そんな穏やかな精神の海に…。
俺は焼却炉の中を覗き込んだ。
鋼鉄の窯の内部は、業務用の燃えるゴミの袋でいっぱいだ。
「やっぱ、入るよ。俺、人間でいるの、やめたくないから」
「そうだね。じゃ、お先にどうぞ」
「わかった」
匂いを我慢して、ゴミ袋の間に潜り込む。
聴こえてくる喧騒はかなり大きくなっている。
やつらが近づいている証拠だった。
「見つかるとまずいから、いっぺん閉めるよ」
「うん」
少女がフタを閉め、中が真っ暗になった。
と、ほとんど同時に、ざわめきが周りを取り囲むのがわかった。
「この辺で、男子生徒を見なかったか?」
先生の声。
少女に訊いている。
なんで彼女は無事なのだ?
疑問に思った瞬間、少女が答えた。
「不適合者なら、この中に捕らえてありますよ。あとは、点火すればおしまいです」
「そうか。よくやった」
不適合者?
な、なんだそれ?
ま、待てよ!
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カチッと音がして、突然、周囲が紅蓮の炎に包まれた。
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