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#341話 施餓鬼会⑥
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湿度が高く、寝苦しい夜だった。
都会の喧騒に慣れた耳には、周囲の田んぼから聴こえてくる、蛙や虫たちの声も耳障りでならなかった。
興安寺の秘仏公開に立ち会ったこと。
秘仏”蛇舌観音像”には、肝心の舌がなかったこと。
裏の河原で遊んでいた小中学生たちが一斉に体調不良を訴え、病院に運ばれたこと。
少し遅れて甥の勇樹と姪の亜季も同様の症状を訴え、妹が病院に連れて行ったこと…。
きょう一日に起きたことを思い出しながら、薄い夏蒲団の中で、どれだけ寝返りを繰り返したのかー。
ふと、台所のほうから、何か、物音のようなものが聴こえた気がした。
私は、母屋の空き部屋に寝ていた。
かつて私と妹の部屋だった離れは、今は妹一家の住居となっている。
したがって、この母屋には、私のほかには、年老いた両親しかいないはずである。
母は10時過ぎに寝床に引き上げていた。
父はもとより認知症に加えて寝たきりで、独力で台所まで行くことは不可能だ。
誰だろう?
一度目が覚めると、もう眠れなくなった。
空き巣だろうか。
しかし、都会の真ん中ならともかく、空き巣がこんな田んぼの中の一軒家を狙うとは思えない。
裸の上に浴衣だけ羽織って、月明かりに照らされた廊下に出た。
足音を立てぬよう、玄関脇にある台所に向かう。
入り口まで来た時、中で薄明かりが灯っているのが見えた。
すぐにピンときた。
冷蔵庫だ。
誰かが冷蔵庫の扉を開け、中を漁っているのだ。
柱の蔭からそっと覗いてみた。
冷蔵庫の中から溢れる黄色い光輝に照らし出されたのは、全裸の少年の姿だった。
勇樹である。
勇樹は両手に生肉を掴み、それに夢中で齧りついているところだった。
狭い台所の中には、少年の立てるクチャクチャという咀嚼音が不気味に鳴り響いている。
離れには台所がない。
したがって、妹一家のうちの誰かが、夜中に腹が減って夜食を所望した場合、母屋まで来るしかない。
勇樹がここにいるのは、そのせいに違いない。
しかし、なぜ、こんな時間に?
しかも、よりによって、肉をナマで…。
全裸の少年の足元には、さまざまな食べ物の食いカスが散乱していた。
勇樹は突然飢餓に襲われたように、ありとあらゆる食物を貪り食っているのだ。
ガツガツと生肉に齧りつくさまは、あまりにも異様だった。
ーどうしたんだ?
声をかけようとした私は、その瞬間、もうひとつの人の気配に気づいて、慌てて言葉を飲み込んだ。
その時ふいに、棚と流し台の間の闇から、白い人影が光の輪の中に歩み出たのだ。
ドキン、と胸郭の中で心臓が飛び跳ねた。
光に照らし出されたのは、レースのような薄物を身にまとっただけの少女だった。
逆光で顔までは見えないが、薄物が透け、小さなショーツ一枚しかつけていない身体のラインが丸見えである。
亜季・・・。
股間のこわばりがあり得ないほど固く、そして熱くなるのがわかった。
私は昏く背徳的な興奮と名状し難い悪寒に襲われ、無意識のうちに両腕で肩を抱きしめていた。
ケダモノのように生肉を頬張る双子の弟を眺める少女の口元には、うっすらと得体のしれぬ笑みが浮かんでいたのである。
都会の喧騒に慣れた耳には、周囲の田んぼから聴こえてくる、蛙や虫たちの声も耳障りでならなかった。
興安寺の秘仏公開に立ち会ったこと。
秘仏”蛇舌観音像”には、肝心の舌がなかったこと。
裏の河原で遊んでいた小中学生たちが一斉に体調不良を訴え、病院に運ばれたこと。
少し遅れて甥の勇樹と姪の亜季も同様の症状を訴え、妹が病院に連れて行ったこと…。
きょう一日に起きたことを思い出しながら、薄い夏蒲団の中で、どれだけ寝返りを繰り返したのかー。
ふと、台所のほうから、何か、物音のようなものが聴こえた気がした。
私は、母屋の空き部屋に寝ていた。
かつて私と妹の部屋だった離れは、今は妹一家の住居となっている。
したがって、この母屋には、私のほかには、年老いた両親しかいないはずである。
母は10時過ぎに寝床に引き上げていた。
父はもとより認知症に加えて寝たきりで、独力で台所まで行くことは不可能だ。
誰だろう?
一度目が覚めると、もう眠れなくなった。
空き巣だろうか。
しかし、都会の真ん中ならともかく、空き巣がこんな田んぼの中の一軒家を狙うとは思えない。
裸の上に浴衣だけ羽織って、月明かりに照らされた廊下に出た。
足音を立てぬよう、玄関脇にある台所に向かう。
入り口まで来た時、中で薄明かりが灯っているのが見えた。
すぐにピンときた。
冷蔵庫だ。
誰かが冷蔵庫の扉を開け、中を漁っているのだ。
柱の蔭からそっと覗いてみた。
冷蔵庫の中から溢れる黄色い光輝に照らし出されたのは、全裸の少年の姿だった。
勇樹である。
勇樹は両手に生肉を掴み、それに夢中で齧りついているところだった。
狭い台所の中には、少年の立てるクチャクチャという咀嚼音が不気味に鳴り響いている。
離れには台所がない。
したがって、妹一家のうちの誰かが、夜中に腹が減って夜食を所望した場合、母屋まで来るしかない。
勇樹がここにいるのは、そのせいに違いない。
しかし、なぜ、こんな時間に?
しかも、よりによって、肉をナマで…。
全裸の少年の足元には、さまざまな食べ物の食いカスが散乱していた。
勇樹は突然飢餓に襲われたように、ありとあらゆる食物を貪り食っているのだ。
ガツガツと生肉に齧りつくさまは、あまりにも異様だった。
ーどうしたんだ?
声をかけようとした私は、その瞬間、もうひとつの人の気配に気づいて、慌てて言葉を飲み込んだ。
その時ふいに、棚と流し台の間の闇から、白い人影が光の輪の中に歩み出たのだ。
ドキン、と胸郭の中で心臓が飛び跳ねた。
光に照らし出されたのは、レースのような薄物を身にまとっただけの少女だった。
逆光で顔までは見えないが、薄物が透け、小さなショーツ一枚しかつけていない身体のラインが丸見えである。
亜季・・・。
股間のこわばりがあり得ないほど固く、そして熱くなるのがわかった。
私は昏く背徳的な興奮と名状し難い悪寒に襲われ、無意識のうちに両腕で肩を抱きしめていた。
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