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#354話 施餓鬼会⑲
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「事件、というと…? 感染症の発生、以外に?」
「私の杞憂であってくれるといいんですが。ちょっと突拍子もない仮説なので。あ、後ろに乗ります?」
畦道にママチャリが止めてあった。
「いや、私が漕いだほうがいいでしょう。道案内してください」
菜緒は見かけ通り、小学生並みに軽かった。
「実験場は、あの山の麓です。製材所のあるあたり」
後ろから菜緒が右手の方角を指差した。
「ああ、何か農場みたいなものが見えますね」
「はい、と言っても、飼ってるのはホルスタイン10頭ばかりですけど」
到着するまで、菜緒は感染症について説明してくれた。
あの貝の中に入り込んだ寄生虫の幼体は、そこでミラジウムと呼ばれる段階にまで成長すると水中に出、人間の手足の傷口や口腔などから体内に入り、そこで繁殖し、卵を産む。卵は糞便に混じって体外に排出され、生活用水から川に流れ込む。
人にとって危険なのは、寄生虫が体内で繁殖する際に多量の栄養分を横取りされてしまうことと、寄生虫が分泌する毒素が血液に混入し、内臓や脳を損傷してしまうこと。
患者が物凄い飢餓感に襲われたり、人が変わったように粗暴な行動を取ったりするようになるのは、そのせいだという。
「綺麗な清流に見えるけど、あの川にもどこからか下水が流れ込んでいるんでしょうか」
「あるいは水浴びに来た子供たちや釣り人が、川の中で用を足したって可能性もありますね」
「それであの貝が繁殖したと?」
「ええ、まあ。でも、最初の一匹は、どこか外から持ち込まれたのだと思います」
しゃべっているうちに、農場の入口に着いた。
中から若者たちが数人出てきて、自転車から降りた菜緒に口々に声をかける。
「この人は?」
当然のことながら、私に不信の目を向けてくる青年たち。
「通りすがりの旅人、みたいな? 色々手伝ってくれるって」
「へえ、そうなんだ」
意外にあっさり通された。
「それで、被害は?」
「アオとミドリがやられた。シロとムラサキは軽傷で済んだけど」
農場の奥に平屋の牛舎があって、その前に農夫らしき老人たちが集まっている。
近づくなり、嫌な匂いがした。
「うわあ」
老人たちの間から中を覗き込んだ菜緒が、両手で口を覆ってのけぞった。
「私の杞憂であってくれるといいんですが。ちょっと突拍子もない仮説なので。あ、後ろに乗ります?」
畦道にママチャリが止めてあった。
「いや、私が漕いだほうがいいでしょう。道案内してください」
菜緒は見かけ通り、小学生並みに軽かった。
「実験場は、あの山の麓です。製材所のあるあたり」
後ろから菜緒が右手の方角を指差した。
「ああ、何か農場みたいなものが見えますね」
「はい、と言っても、飼ってるのはホルスタイン10頭ばかりですけど」
到着するまで、菜緒は感染症について説明してくれた。
あの貝の中に入り込んだ寄生虫の幼体は、そこでミラジウムと呼ばれる段階にまで成長すると水中に出、人間の手足の傷口や口腔などから体内に入り、そこで繁殖し、卵を産む。卵は糞便に混じって体外に排出され、生活用水から川に流れ込む。
人にとって危険なのは、寄生虫が体内で繁殖する際に多量の栄養分を横取りされてしまうことと、寄生虫が分泌する毒素が血液に混入し、内臓や脳を損傷してしまうこと。
患者が物凄い飢餓感に襲われたり、人が変わったように粗暴な行動を取ったりするようになるのは、そのせいだという。
「綺麗な清流に見えるけど、あの川にもどこからか下水が流れ込んでいるんでしょうか」
「あるいは水浴びに来た子供たちや釣り人が、川の中で用を足したって可能性もありますね」
「それであの貝が繁殖したと?」
「ええ、まあ。でも、最初の一匹は、どこか外から持ち込まれたのだと思います」
しゃべっているうちに、農場の入口に着いた。
中から若者たちが数人出てきて、自転車から降りた菜緒に口々に声をかける。
「この人は?」
当然のことながら、私に不信の目を向けてくる青年たち。
「通りすがりの旅人、みたいな? 色々手伝ってくれるって」
「へえ、そうなんだ」
意外にあっさり通された。
「それで、被害は?」
「アオとミドリがやられた。シロとムラサキは軽傷で済んだけど」
農場の奥に平屋の牛舎があって、その前に農夫らしき老人たちが集まっている。
近づくなり、嫌な匂いがした。
「うわあ」
老人たちの間から中を覗き込んだ菜緒が、両手で口を覆ってのけぞった。
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